指圧治療の患者立脚型評価法について:大木慎平

大木 慎平
日本指圧専門学校専任教員

Patient-based Assessment for Shiatsu Treatment

Shinpei Oki

 

Abstract : Patient-based assessment, which evaluates subjective complaints in daily life, is useful for evaluating the effects of shiatsu treatment. Various organizations and associations are offering such evaluation tools, an d this report examines practical evaluation tools for clinical practice among the free resources available.

Keywords: shiatsu, subjective evaluation, patient-based assessment


I.はじめに

 日々の臨床で行われる治療効果の評価法としては、画像による姿勢などの評価や、関節可動域の測定1)など様々であるが、患者の自覚症状を評価する方法として患者立脚型評価法が挙げられる。患者の自覚症状の評価法としてはVisual Analog Scale(以下 VAS)がよく知られている。これは左端を「全くなし」、右端を「想像できる最高の程度」と設定した長さ 10cmの線上に、患者がどの程度の痛みや不快度を抱えているかを示してもらうという評価法である。また、VASに類似したものとして Numerical Rating Scale(NRS)というものもあり、こちらは症状の程度を0~ 10の 11段階で回答してもらう手法をとる2)。患者立脚型評価法はこれらの評価法を応用したもので、患者の自覚症状について回答してもらうという点で共通であるが、主に日常生活に関する質問項目で構成されているのが特徴である。  今回、実際の臨床で遭遇するケースが多いと思われる症例について適用可能な評価票を、簡略な解説・ダウンロード方法と併せて紹介していく。今回取り上げる評価票については、運用の利便性を考え無料で使用できるものに限った。これにより、本学会への症例報告のきっかけが生じれば幸いである。  なお、監修団体により「評価表」「評価法」などの表記の異同があるが、各団体 HPの表記に従った。

Ⅱ.方法

Ⅰ.運動器系評価尺度

A.患者立脚上肢障害評価表

DL:日本手外科学会HP(http://www.jssh.or.jp/)⇒医療関係者の皆様⇒出版物・お知らせ⇒患者立脚型機能評価質問表

 日本手外科学会監修の、上肢(腕、肩、手)の ADLにおける不自由度と疼痛の評価票である。「ビンのフタを開ける」「背中を洗う」などの ADLや、「腕・肩・手に痛みがある」「腕・肩・手にこわばり感がある」などの疼痛・機能に関する質問の 30項目からなり、追加項目にスポーツ・演奏など芸術活動に関する質問もある。短縮版に Quick-DASHもあり、そちらは11項目の質問で構成される。

B.患者立脚手関節評価表(PRWE-J)

DL:日本手外科学会 HP⇒医療関係者の皆様⇒出版物・お知らせ⇒患者立脚型機能評価質問表

 日本手外科学会監修の、手関節の痛み、機能、ADLなどに関する評価票である。「休んでいる時の痛み」「重いものを持ち上げる時の痛み」などの痛みに関する質問や、「ワイシャツのボタンをかける」などの機能・「ドアの取手を回す」動作に関する質問の全 15項目からなる。

C.患者立脚肘関節評価法(PREE-J)

DL:日本肘関節学会HP(http://www.elbow-jp.org/)⇒機能評価⇒患者立脚肘関節評価法のご案内

 MacDermid JCが開発した Patient-Rated Elbow Evaluation(PREE)3)を基に、日本肘関節学会・機能評価委員会が日本語版として作成した、肘の 痛み、機能、ADLに関する評価表である。質問項目は 20項目で PRWE-Jと共通のものも多いが、機能の項目に「重いものを引っ張る」「テニスボールのような小さなものを投げる」などが追加されている。

D.患者立脚肩関節評価法(Shoulder 36)

DL:日本肩関節学会 HP(http://www.j-shoulder-s.jp/)⇒各種機能評価法ダウンロード

日本整形外科学会及び日本肩関節学会監修の、肩関節の評価票である。「エプロンのひもを後ろで結ぶ」「患側の手でバスや電車のつり革につかまる」などの ADLを主とした 36項目の質問で構成され、肩関節の疼痛、可動域、筋力、健康感、ADL、スポーツ能力という6因子を評価できる。

E.日本整形外科学会股関節疾患質問票(JHEQ)

DL:日本股関節学会HP(http://hip-society.jp/)⇒ JHEQ日本整形外科学会股関節疾患評価質問票

 日本整形外科学会監修4)の股関節の評価表である。股関節機能の不満度、痛みに関するVASに加え、「椅子に座っている時に股関節に痛みがある」「動き出すときに股関節に痛みがある」などの疼痛誘発動作や、「浴槽の出入りが困難である」「靴下をはくことが困難である」などの ADLの困難度、さらに「股関節の病気のために、イライラしたり、神経質になることがある」「自分の健康状態に股関節は深く関与していると感じる」などの精神面に関する質問の全 20項目で構成される。

F.変形性膝関節症患者機能評価尺度(JKOM)

DL:日本運動器科学会HP(http://www.jsmr.org/)⇒関連情報⇒ JKOM質問紙

 日本整形外科学会、日本運動器リハビリテーション学会、日本臨床整形外科学会が開発した膝関節の評価票である5)。変形性膝関節症患者の膝の痛みに関する VASに加え、「朝起きて動き出すとき膝がこわばりますか」「日用品の買い物はどの程度困難ですか」などの ADLに関する質問や、「膝の痛みのため、普段のお稽古ごとや友達付き合いを控えましたか」「ご自分の健康状態は人並に良いと思いますか」といった社会参加への不安感、精神面に関する質問の全 25項目で構成される。

G.患者立脚型慢性腰痛症患者機能評価尺度(JLEQ)

DL:日本運動器科学会 HP ⇒関連情報⇒ JLEQ質問紙

 日本運動器科学会、日本整形外科学会、日本臨床整形外科学会が開発した評価票である6)。腰痛症患者の腰の痛みに関する VASに加え、「あお向けで寝ているとき腰が痛みますか」「前かがみになるとき腰が痛みますか」などの増悪動作や、「寝返りはどの程度困難ですか」「椅子や洋式トイレからの立ち上がりはどの程度困難ですか」などの ADLの障害度に加え、「この数日間、腰痛のため横になって休みたいと思いましたか」「腰痛はあなたの精神状態に悪く影響していると思いますか」などの精神面に関する質問の全 30項目で構成される。

H.ロコモ25、ロコモ5

DL:日本運動器科学会 HP⇒関連情報⇒ロコモ判定ツール「ロコモ25」「ロコモ5」長寿科学総合研究事業により策定された、ロコモティブシンドローム診断ツールである。

 「背中・腰・おしりのどこかに痛みがありますか」「下肢のどこかに痛みがありますか」といった身体の疼痛や、「家の中を歩くのはどの程度困難ですか」「シャツを着たり脱いだりするのはどの程度困難ですか」などの ADLの困難度、「親しい人や友人とのおつき合いを控えていますか」「先行き歩けなくなるのではないかと不安ですか」などの社会参加への精神的な不安に関する質問の全 25項目の質問で構成される。

 患者立脚型評価法は患者自身による回答が原則だが、ロコモ 25は質問表の特性上、対象が高齢者に限られるため、25問の回答が完遂できないケースも考えられる。そのため、質問項目を5問まで絞った簡易版としてロコモ5が用意されている。

Ⅱ.不定愁訴系評価尺度

A.自覚症しらべ

DL:産業疲労研究会HP(http://square.umin.ac.jp/of/)⇒調査票ダウンロード⇒自覚症しらべ

 産業疲労研究会監修の疲労状況の測定指標である7)。質問内容は非常に簡素で、「ねむい」「あくびが出る」などのねむけ感、「不安な感じがする」といった不安定感、「考えがまとまらない」「頭がおもい」「気分が悪い」などの不快感、「腕がだるい」「足がだるい」などのだるさ感、「目がしょぼつく」「目がかわく」などのぼやけ感の計5因子が測定できる全 25項目で構成される。

B.起床時睡眠感調査票(OSA-MA)

DL:日本睡眠改善協議会HP(http://www.jobs.gr.jp/)⇒インフォメーション⇒ OSA睡眠調査票 MA版

 睡眠改善協議会監修の起床時の睡眠内省を評価する心理尺度である8)。「集中力がある」「頭がはっきりしている」などの起床時眠気、「寝付きがよかった」「睡眠中に目が覚めなかった」などの入眠と睡眠維持、「悪夢が多かった」「しょっちゅう夢を見た」などの夢み、「疲れが残っている」「身体がだるい」などの疲労回復に加え、睡眠時間の5因子が測定できる全 16項目の質問で構成される。スコアの算出には付属の睡眠内省特典変換用 MS-Excelシートを使用する。

C.ドライアイ QOL問診票(DEQS)

DL:ドライアイ研究会HP(http://www.dryeye.ne.jp/)⇒医師・医療従事者の方⇒研究⇒ドライアイ QOL問診票

 ドライアイ研究会と参天製薬株式会社により共同開発された質問票である9)。「目がゴロゴロする(異物感)」「目を開けているのがつらい」「目の症状のため気分が晴れない」など全 15項目の質問で構成され、ドライアイの症状、日常生活への影響、精神面を含めた QOLが評価可能である。

D.日本語版便秘評価尺度(CAS)

 様式はダウンロード出来る形式にないので、引用文献を参考にしていただきたい。

 これは、McMillanらが開発した便秘評価尺度10)をもとに、日本語版として深井らが作成した便秘評価尺度である11)。腹部膨満感、排ガス量、排便痛、便の量など8つの質問に0~2点の3段階で回答する形式になっており、16点満点で、点数が高いほど便秘傾向が強いことを示す。

Ⅲ.結語

 今回は入手が容易なものに限定して紹介したため、対象疾患によっては上述の評価票以外のものも無数に存在する。また、今回紹介した評価票は学術目的の使用は基本的に無料だが、制作者の許諾や引用文献の記載が必要となる場合もあるので、使用に際しては必ず手引や説明書を参照されたい。

 理学療法診療ガイドライン12)によると、運動器系の疾患では患者立脚型評価は高い推奨グレードが示されており、疼痛評価や健康関連QOLの指標として有効であることが示されている。日々の臨床では他覚的評価と自覚的評価の変動は必ずしも相関するとは限らず、角度計を用いた機能検査や、画像を用いたアライメント検査などの他覚的評価では拾いきれない、疼痛性状や ADLなど患者の自覚的評価の改善を認知できる患者立脚型評価法は、非常に有用であると考える。

 また、治療データを数値化して残しておくことができ、症状の変化が視覚的にわかりやすくなるのも大きな利点である。私見ではあるが、臨床で蓄積したデータを元に、一人でも多くの指圧師が症例報告を発表していけるようになればと願うばかりである。

参考文献

1)黒澤一弘:フリーウェアを用いた姿勢分析並びに関節可動域測定 ,日本指圧学会誌(1);14-20,2012
2)日本ペインクリニック学会HP:痛みの評価法 http://www.jspc.gr.jp/gakusei/gakusei_rank.html
3) MacDermid JC:Outcome evaluation in patients with elbow pathology: Issues in instrument development and evaluation, J Hand Ther(14), p.105-114, 2001
4) Tadami Matsumoto, Ayumi Kaneuji, Yoshimitsu Hiejima, etal:Japanese Orthopaedic Association Hip -Disease Evaluation Questionnaire(JHEQ): a patient-based evaluation tool for hip-joint disease. The Subcommittee on Hip Disease Evaluation of the Clinical Outcome Committee of the Japanese Orthopaedic Association, J Orthop Sci 17(1), p.25-38, 2012
5)赤居正美、岩谷力、黒澤尚 他:疾患特異的・患者立脚型変形性膝関節症患者機能評価尺度:JKOM(Japanese Knee Osteoarthritis Measure),日本整形外科学会誌(80),p.307-315,2006
6)白土修,土肥徳秀,赤居正美 他:疾患特異的・患者立脚型慢性腰痛症患者機能評価尺度;JLEQ(Japan Low back pain Evaluation Questionnaire),日本腰痛会13,p.225-235, 2007
7)酒井一博:日本産業衛生学会産業疲労研究会撰「自覚症しらべ」の改訂作業2002,労働の科学(57),p.295-298,2002
8)山本由華吏, 田中秀樹 , 高瀬美紀 他 :中高年・高齢者を対象とした OSA睡眠感調査票(MA版)の開発と標準化 ,脳と精神の医学(10),p.401-409, 1999
9) Yuri Sakane, Masahiko Yamaguchi, Norihiko Yokoi, et al:JAMA Ophthalmol,131(10), p.1331-1338, 2013
10)McMillan, et al:Validity and reliability of the constipation assessment scale, Cancer Nursing, 12(3),p.183-188, 1989
11)深井喜代子 他:日本語版便秘評価尺度の検討 ,看護研究28(3),p.209-216,199512)日本理学療法士協会:理学療法診療ガイドライン第1版(2011),p.38-45,p.296-298  http://jspt.japanpt.or.jp/upload/jspt/obj/files/ guideline/00_ver_all.pdf


【要旨】

指圧治療の患者立脚型評価法について
大木 慎平

 治療効果の評価法として、日常生活上での自覚症状を評価する患者立脚型評価法がある。評価に用いる尺度は様々な団体から提供されているが、ここでは無料で使用できるものに限定し、日々の臨床に応用可能と思われるものを紹介する。

キーワード:指圧、自覚的評価、患者立脚型評価法