月経前症候群(PMS)と月経痛に対する指圧の効果について 第1報:PMS と月経痛に対するアンケート調査:硴田 雅子

硴田 雅子
千指圧治療院 院長

Effects of Shiatsu Therapy on Premenstrual Syndrome (PMS) and Menstrual Pain
1st Report: Survey by questionnaire on premenstrual syndrome (PMS) and menstrual pain

Masako Kakita

 

Abstract :  A survey was conducted in the form of a questionnaire on premenstrual syndrome (PMS) and menstrual pain, a general malaise specific to women, then shiatsu was performed on female subjects complaining of PMS and menstrual pain to examine the effects. This first report examines the results of the survey on PMS and menstrual pain conducted at a Japanese Shiatsu College and a medical and welfare school prior to the shiatsu treatments.

Keywords:Premenstrual Syndrome(PMS), Anma, Massage, Shiatsu, Questionnaire


I.はじめに

 近年、社会進出している女性の数が増えている中で、女性特有の不定愁訴を訴える数も増加傾向にあり、医療分野では女性外来の増設も数多くみられる。月経前症候群(Premenstrual Syndrome、以下PMS)も女性特有の症状であるが、PMSとは「月経前3~10日の間に続く身体的あるいは精神的症状で、月経が始まるとともに減退または消失するものをいう」と定義されている1)。PMSの身体的症状は、乳房痛、下腹部痛、過剰な睡眠欲、にきび、頭痛などがあり、精神的症状は、怒りやすい(イライラする)、憂うつ、疲れやすい、集中力低下、判断力の低下など広範囲にわたっている2)
 月経痛は激しい痛みと月経時随伴症状を引き起こし、重度な場合、寝込むなど日常生活に支障をきたすことがある。本研究では第1報としてアンケート調査の結果、第2報では指圧施術の効果について検討した。

Ⅱ.方法

1.対象

 日本指圧専門学校指圧科(以下、指圧学校)の女子学生91 名と、某医療福祉系学校(以下、福祉系学校)の女子学生81名に対し、PMSと月経痛についてアンケート調査を行った。なお、福祉系学校では鍼灸あん摩マッサージ指圧科(以下、本科)と介護福祉科の学生を対象とした。

 

2.アンケート期間

 令和元年6月6日~7月1日

3.アンケート内容

  PMSのアンケートは身体的症状と精神的症状について、月経痛および随伴症状のアンケートは鎮痛剤服用の有無や月経時の内容についてを表1、2の用紙を用いて聴取した。

4.集計方法

 PMSのアンケートは症状に3項目以上および5項目以上該当する人数の割合、月経痛および随伴症状のアンケートは自覚症状のある人数の割合を集計した。

表1.PMSアンケート

表1.PMSアンケート

表2.月経痛および随伴症状アンケート

表2.月経痛および随伴症状アンケート

Ⅲ.結果(経過)

1.アンケート回答率

 指圧学校は66 名(回答率72.5%)、福祉系学校は本科23 名、介護福祉科39 名の計62名(回答率76.5%)から回答を得られた。

2.年齢分布

 指圧学校では40歳以上は49%、24 歳以下は17%、35歳~39歳は15%であった。福祉系学校では24歳以下は82%、40歳以上は13%であった(図1)。

図1.年齢分布

図1.年齢分布

3.PMSアンケートについて

 PMSの身体的症状について3項目以上該当するのは指圧学校70%、福祉系学校71%であった。5項目以上該当するのは指圧学校39%、福祉系学校で44%であった。PMSの精神的症状について3項目以上該当するのは指圧学校36%、福祉系学校53%であった。5項目以上該当するのは指圧学校17%、福祉系学校で38%であった(図2、図3)。
 回答数の多い身体的症状の上位5項目は、指圧学校では、乳房痛51.5%、食欲亢進43.9%、過剰な睡眠欲39.3%、頭痛36.3%、下痢あるいは便秘34.8%であった。福祉系学校では、腰痛56.1%、乳房痛51.6%、下痢あるいは便秘40.9%、むくみ38.7%、頭痛33.8%であった(表3)。
 精神的症状の5項目以上の該当率については、指圧学校と福祉系学校で倍以上の差があったため、福祉系学校をさらに本科と介護福祉科に分類して結果を分析することにした。その結果、精神的症状の5項目以上に該当するのは本科30%、介護福祉科46%であった(図4)。
 回答数の多い精神的症状の上位5項目は、指圧学校では憂うつ46.9%、怒りやすい42.4%、疲れやすい42.4%、集中力低下31.8%、無気力24.2%であった。福祉系学校本科では怒りやすい47.8%、憂うつ34.7%、疲れやすい30.1%、無気力26.1%、涙もろくなる26.0%であった。福祉系学校介護福祉科では疲れやすい58.9%、怒りやすい53.8%、無気力53.8%、憂うつ51.2%、集中力低下33.3%であった(表4)。

図2.PMSの症状に3項目以上該当する人の割合

図2.PMSの症状に3項目以上該当する人の割合

図3.PMSの症状に5項目以上該当する人の割合

図3.PMSの症状に5項目以上該当する人の割合

表3.PMSの身体的症状 上位5項目

図4.PMS の症状に5項目以上該当する人の割合(本科と介護福祉科を分類)

図4.PMS の症状に5項目以上該当する人の割合(本科と介護福祉科を分類)

表4.PMSの精神的症状 上位5項目

表4.PMSの精神的症状 上位5項目

4.月経痛および随伴症状アンケートについて

 月経痛ありと回答したのは指圧学校68%、福祉系学校77%であった。月経痛があると回答した者のうち、鎮痛剤の服薬ありと回答したのは指圧学校58%、福祉系学校53%であった(図5)。

図5.月経痛の有無と服薬状況の回答結果

図5.月経痛の有無と服薬状況の回答結果

5.月経時随伴症状について

 月経時随伴症状については、問診票15項目中、特に多く該当した症状は下肢や全身のだるさ、眠気、イライラ、冷えであった(表5)。

表5.月経時随伴症状のうち該当率の高かった項目

表5.月経時随伴症状のうち該当率の高かった項目

Ⅳ.考察

 年齢分布については、指圧学校では40 歳以上が49%と約半数を占めており、24歳以下は17%だったのに対し、福祉系学校では40歳以上が13%、24歳以下は82%という、年齢分布に異なる特徴がみられた。

 PMSの身体的症状について指圧学校、福祉系学校とも約7割が症状を感じていることが分かった。症状の項目については指圧学校、福祉系学校では腰痛以外あまり差はみられなかった。

 PMSの精神的症状については憂うつ、怒りやすい、疲れやすい、無気力、集中力低下などが高い回答率を得ていることが分かった。5項目以上該当する率では、指圧学校、福祉系学校本科、福祉系学校介護福祉科で17%、30%、46%の順に多くなるという結果がみられた。これは、授業内で学生相互が手技の施術を行っているかどうかが影響を及ぼしていると推測される。指圧学校ではあん摩マッサージ指圧師の資格取得に向け、授業のカリキュラムの中で相互のあん摩マッサージ指圧施術を行っている。また、福祉系学校本科ではそれに鍼灸施術も加わる。それに対し、福祉系学校介護福祉科は、介護福祉士の資格取得を目指したカリキュラムのため、手技に類する施術は行われていない。つまり、指圧学校、福祉系学校本科では、日常的に授業の中で学生同士の施術が行われており、それが精神的ケアにつながり、精神的症状の該当率に差があらわれた可能性がある。しかし、身体的症状では両校で大きな差はなかった点や、学生相互の年齢分布に大きな差がある点などはこの考察ではカバーしきれていないため、今後の研究に繋げていく必要があると考える。

 月経痛については、指圧学校の68%、福祉系学校の77%で月経痛があるとの回答があった。また、月経痛がある者の半数以上が鎮痛剤を服用していると回答していた。月経時随伴症状については約7割に下肢や全身など、身体のいずれかの部位にだるさがあり、約6割に眠気、イライラ等の症状があるとの回答があった。

 今回のアンケート調査の対象では、半数以上に女性特有の不定愁訴であるPMSおよび月経痛、月経時随伴症状が現れていることがわかった。

 女性は思春期から閉経までに約400個排卵し3)、ほぼ毎月、月経を迎える。この期間は女性が社会と関わり、活躍を担う時期であることから、毎月起きる体調の変調は社会生活上、負担になっていると考えられる。月経に伴う体調の変化に対する治療法は様々であるが、PMSでは低用量ピル4)、月経痛では鎮痛剤が一般的な対処法とされている。しかしながら、瞬発力を要するアスリートや繊細な集中力を要する職業等、女性の活躍する場面は多岐にわたり、必ずしもすべての場面で薬剤処方がベストな選択になるとは限らない。そこで、薬剤以外の処方として、患者(重篤な基礎疾患のない)に対して手技である指圧施術を行い、その経過を観察した症例を得たため、第2報にて報告する予定である。

Ⅴ.結語

 今回のアンケート調査の結果において下記の知見を得た。

 1. PMSの身体的症状について、指圧学校、福祉系学校ともに3つ以上の症状に該当する回答者、5つ以上の症状に該当する回答者に大きな差はみられなかった

 2. PMSの精神的症状について、3つ以上の症状に該当する回答者の割合は福祉系学校より指圧学校の方が低かった。特に、指圧学校では5つ以上の症状に該当する回答者の割合は低かった

 3. 指圧学校の約7割、福祉系学校の約8割に月経痛の症状があり、月経痛のある者の約半数は服薬していることが分かった

Ⅵ.謝意

 本研究に協力いただいた教務の先生方とアンケートに協力いただいた皆様に心より感謝いたします。

参考文献

1)日本産科婦人科学会編:産科婦人科用語集第2版,p.34 金原出版,東京,1997
2)鈴木由紀子 他:PMS・PMDD と鍼灸治療,医道の日本66(7);27-51,2007
3)佐藤優子 他:生理学第二版,医歯薬出版,東京,150-152,2003
4)楠原浩二:低用量ピルの応用・子宮内膜症・PMS,臨床と薬物療法21;764-768,2002

その他 参考資料

1)武谷雄二:月経異常,日本医師会雑誌130(5);733-737,2003
2)光田大輔:別冊「ノーナプキンへの道」月経痛・PMS・PMDD 編—至福の月経を目指して—,木の香治療院,横浜,5-16,2009
3)石渡尚子 他:月経前症候群におよぼす大豆イソフラボンの影響(第2報),大豆たんぱく質研究7:157-160,2004


【要旨】

月経前症候群(PMS)と月経痛に対する指圧の効果について
第1報:PMS と月経痛に対するアンケート調査
硴田 雅子

 今回の研究では女性特有の不定愁訴である月経前症候群(PMS)と月経痛についてアンケート調査を行い、さらにPMSと月経痛を訴えている女性被験者に指圧施術を行い、その効果について検討した。本報告は第1報として、施術に先立ち日本指圧専門学校および某医療福祉系学校の女子学生を対象に、PMSと月経痛に関するアンケート調査を行った結果を報告する。

キーワード:月経前症候群(PMS)、あん摩マッサージ指圧、アンケート