富山県南砺市指圧ボランティアアンケート報告 第2報:本多 剛,大木 慎平

本多 剛,大木 慎平
日本指圧専門学校専任教員

Volunteer Shiatsu in Nanto City, Toyama Prefecture (2nd Report): Survey Report

Takeshi Honda, Shinpei Oki

 

Abstract : During the period from December 20, 2017 to December 21, 2017, volunteer shiatsu therapists treated residents of Nanto City, Toyama Prefecture at Taira Gyosei Center. Participants completed a survey in which they described the areas where they felt fatigue or pain and where they were suffering the most, and how their level of general fatigue and regional pain and suffering changed following shiatsu treatment. Of the 43 participants, 27 valid responses were obtained. The most common areas where people complained of fatigue or pain were, in descending order, the lower back, the neck, and the shoulders. Twenty-six out of 27 people reported a decrease in general fatigue, and all of the 27 people reported a decrease in regional pain and suffering.

Keywords:shiatsu, volunteer, survey, Toyama, winter


I.はじめに

 平成29年12月20日(水)、21日(木)の2日間で、富山県南砺市にあるロッジ峰と平行政センターの二施設内の一室をお借りして指圧ボランティアを行った。
 本活動は平成29 年8 月に同市で行われたボランティア指圧を受けた南砺市一般市民の方々からの、冬季も開催して欲しいという声を受けて長期休暇を利用して行われた。平成29年8月の活動は日本指圧学会誌第6号にて報告している1)。今回も指圧ボランティアの活動に合わせ、日本指圧学会が作成したアンケート用紙の運用試験として施術前後にアンケートを行った。その結果を集計したのでここに報告する。

Ⅱ.対象及び方法

日時:

 平成29年12月20日(水)、21日(木)

場所:

 ロッジ峰(富山県南砺市梨谷313-6)
 南砺市平行政センター(富山県南砺市梨下2240)

施術者:

 日本指圧専門学校3年生
(すべての施術者は浪越式基本指圧の全身操作2)を習得している)

対象:

 南砺市在住の一般市民で今回の指圧施術を受け、かつアンケートに回答した者(43名)

評価方法:

 使用したアンケート用紙は、指圧学会誌第6号で大木3)により報告されたものから、ボランティア活動時に煩雑にならないよう質問項目を削減した改訂版を用いた(図1)。

方法:

 指圧施術前に施術者より対象へアンケートの記入方法を説明しアンケートの設問1~4までを回答してもらった。その後、対象が不調を訴える部位に応じた浪越式基本指圧を1時間程度行い、その直後にアンケートの設問5~6を回答してもらった。施術前後の問2〜問5と問4〜問6の結果の比較は対応のあるt検定を行い、危険率は5%に設定した。

図1. 今回使用したアンケート用紙
図1. 今回使用したアンケート用紙

Ⅲ.結果

 アンケートに回答した43名のうち、有効回答数は27名だった。

問1…疲労や痛みを感じる部位や症状

 疲労及び痛む部位・症状で最も多い回答は、第1位が腰(21.4%)、第2位が肩(18.0%)、第3位が首(10.7%)となった。また、問1は複数回答を可能としたため合計回答数は84箇所となった(表1)。

問2、問5…全身の疲労度合い

 全身の疲労度合いのNRS(Numerical Rating Scale)は、減少が26名、変化なしが1名だった(図2)。平均は施術前が5.89±1.93、施術後は2.41±1.97(mean±SD)で(図3)、施術前後で優位な低下が認められた(p<0.01)。

問3…現在最も苦痛を感じる部位

 最も苦痛を感じる部位として回答されたのは、第1位が腰(18.5%)、第2位が首(14.8%)、第3位が肩(11.1%) となった(表2)。

問4、問6…最も苦痛を感じる部位の苦痛度

 最も苦痛を感じる部位の苦痛度では、27名全員のNRS が減少を示した(図4)。平均は施術前7.00±1.89、施術後が2.67±1.81(mean±SD)で(図5)、施術前後で有意な低下が認められた(P<0.01)。

表1.疲労・痛みを自覚する部位別件数
表1.疲労・痛みを自覚する部位別件数

図2.全身の疲労度合いー施術前後のNRSの変化
図2.全身の疲労度合いー施術前後のNRSの変化

図3.全身の疲労度合い―施術前後のNRSの平均
図3.全身の疲労度合い―施術前後のNRSの平均

表2.最も苦痛を感じる部位別件数
表2.最も苦痛を感じる部位別件数

図4.最も苦痛を感じる部位の苦痛度-施術前後のNRSの変化
図4.最も苦痛を感じる部位の苦痛度-施術前後のNRSの変化

図5.最も苦痛を感じる部位の苦痛度-施術前後のNRSの平均
図5.最も苦痛を感じる部位の苦痛度-施術前後のNRSの平均

Ⅳ.考察

 疲労及び痛む部位の回答の多くは腰と肩であった。この結果は大木らの報告1)と同様に、厚生労働省が行う国民生活基礎調査の有訴者率4)で上位を占めるものと一致しており、一般市民の腰背部の有訴率の高さが伺える。

 最も苦痛を感じる部位としては前回と同様に腰が最多であった。前回の報告1)では被験者の加齢に伴う不良姿勢により腰痛が助長されていると考察したが、今回は季節性に生じる疲労が加わっているとも考えられる。というのも、今回ボランティアを行った時期は冬季であり、豪雪地帯である南砺市の住民にとっては日常的な雪掻き作業が必須であるため、それに伴う腰背部の疲労が生じているのは想像に難くない。須田の報告5)でも雪掻き作業時の脊柱起立筋の筋活動と、それに伴う腰部への負荷が指摘されている。また、今回は疲労・痛みを自覚する部位と最も苦痛を感じる部位において首の回答が目立った。これは雪かきの作業特性によるもの、冬季で外出頻度が減ったことによる身体活動の低下によるもの、はたまたアンケートの様式により誘導されたものなどさまざまな要因が想像されるものの、いずれも憶測の域を超えないため今回は考察を見送りたい。

 施術前後の変化については全身の疲労度、最も苦痛を感じる部位の苦痛度ともに改善がみられた。今回の施術は苦痛を感じる部位に応じた施術であったが、いずれの被験者においても指圧が筋の緊張やアライメント不整を是正することにより、症状の改善につながったものと考えられる。また、自覚症状として目の疲れが回答件数全体の約6%あり、前回の調査1)でも全体の約4%が報告されており、こちらの改善は前述の機序とは多少異なることが予想される。難波ら6)は眼周囲部の温熱刺激により調節機能の回復が早まることを報告しているほか、大木7)は顔面部への指圧刺激により調節近点距離の短縮が生じたことを報告している。これらのことは副交感神経系の働きが優位になったことにより生じたものと推察されるが、瞳孔計を用いた調査8)9)10)で前頸部、下腿部、仙骨部、頭部への指圧刺激で縮瞳が生じたと報告されていることからも、指圧による副交感神経系への働きかけがあり、眼の調節機能の改善に効果がみられたと考える。

 次にアンケートの運用について述べる。前回の報告1)では全回答数43名のうち有効回答数が39名であったのに対し、アンケートの様式を変更した今回の調査では全回答数43名のうち有効回答数は27名である。単純に3割ほど有効回答が減少してしまう結果となったが、これは問3の回答方法により生じたものであると考える。本アンケートの問1、問3に関してはイラストにマーキングをするという回答方法であるがゆえに、回答者によっては複数の関節を跨いだ丸をつけたり、背中全体を大きく丸で囲うといった回答になることも多い。そうであっても問1であれば複数回答可なため、丸で囲まれた箇所を全てカウントすれば済む話だが、問3に関しては問題である。問3は「1つだけ」マーキングをするという択一の設問であるため、複数箇所をまたぐマーキングは必然的に集計から除外せざるを得ない。今回の調査の無効回答はこの問3の回答ミスが大半を占めるため、事前の記入方法の説明が十分に理解されなかった可能性は高い。今回の結果が「ブレ」によるものかは定かではないが、回答様式の変更や説明書の作成など検討課題とすべきであろう。

Ⅴ.結語

 富山県南砺市在住の一般市民に対して、指圧施術とアンケートを行い43名中27名から有効回答が得られた。27名中26名に施術前後の全身の疲労度合いのNRSに改善がみられ、27名全員に苦痛を感じる部位のNRSに改善がみられた。疲労及び痛みを感じる部位では腰が、最も苦痛を感じる部位で腰に次いで首という回答が多くみられた。

Ⅵ.謝意

 本調査に協力していただいたあんま同好会の学生の皆様、集計にあたり多大な尽力をしてくださった藤堂はるか氏に心より感謝します。

参考文献

1)本多剛,大木慎平:富山県南砺市指圧ボランティアアンケート報告,日本指圧学会誌6;p.19-22,2017
2)石塚寛:指圧療法学改訂第1版②,国際医学出版,東京,p.78-126,2016
3)大木慎平,本多剛:礫川マラソン指圧ボランティアアンケート報告(第2 報),日本指圧学会誌6;p.9-14,2017
4)厚生労働省HP:平成28 年度国民生活基礎調査の概況,2016
5)須田力:除雪作業と体力,北海道大学教育学部紀要57;p.141-183,1992
6)難波哲子 他:Visual Display Terminal(VDT)作業による自然視調節機能の低下と眼周囲温熱療法による回復効果,川崎医療福祉学会誌17(2);p.363-371,2008
7)大木慎平:顔面部への指圧刺激による調節筋点距離の変化,日本指圧学会誌3;p.20-22,2014
8)横田真弥 他:前頸部および下腿外側部の指圧刺激が瞳孔直径に及ぼす効果,東洋療法学校協会学会誌(35);p.77-80,2011
9)渡辺貴之 他:仙骨部への指圧刺激が瞳孔直径・脈拍数• 血圧に及ぼす効果,東洋療法学校協会学会誌(36);p.15-19,2012
10)田高隼 他:頭部への指圧刺激が瞳孔直径・脈拍数• 血圧に及ぼす効果,東洋療法学校協会学会誌(37);p.154-158,2013


【要旨】

富山県南砺市指圧ボランティアアンケート報告 第2報
本多 剛,大木 慎平

 平成29年12月20日~21日に富山県南砺市のロッジ峰、南砺市平行政センターにて指圧ボランティアを行い、南砺市在住の一般市民に対し、疲労や痛みを感じる部位と全身の疲労度合い、最も苦痛を感じる部位とその苦痛度といった内容のアンケート調査を指圧施術前後に実施した。アンケートに回答した43名のうち、有効回答は27 名だった。疲労や痛みを感じる部位では腰、肩、首の順に多く、最も苦痛を感じる部位では腰、首、肩の順に多かった。全身の疲労度合いでは27名中26名に、苦痛を感じる部位の苦痛度では27名全員に施術前後で改善が見られた。

キーワード:指圧、ボランティア、アンケート、富山、冬季