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指圧とフェルディ式リンパドレナージによる結節性紅斑へのアプローチ:中盛祐貴子

中盛祐貴子
祐泉指圧治療院 院長

An approach to erythema nodosum through Földi method complex physical therapy and Shiatsu therapy: a case report

Yukiko Nakamori

Abstract : A patient with inflammation, joint swelling and edema caused by erythema nodosum, which was triggered by osteoarthritis of lumbar spine, was treated with “Földi method complex physical therapy”, “Shiatsu therapy”, compression therapy and decongestive exercises. The course of treatment was evaluated by circumferences and volumes of four reference points of the left lower extremity. As a result, circumferences and volumes of the two points were decreased. Therefore, medical manual lymphdrainage and Shiatsu therapy combined with compression therapy and decongestive exercises may have a potential to ease edema and accessory symptoms.


I.目的

 「結節性紅斑」とは、皮下の脂肪細胞の炎症 (脂肪織炎)を表す。結節性紅斑は、種々の疾病の免疫反応であり、細菌、ウイルス、真菌などの感染アレルギーが原因と考えられる。このほかに、薬剤によるもの、内臓の悪性腫瘍や、ベーチェット病、結核、サルコイドーシス、クローン病などによるものがある。

 症状としては、両下肢、特に下腿伸筋群に発症しやすい傾向がある。また、大小さまざまの紅斑が発現する。紅斑は皮膚表面から、軽く隆起し、境界は不鮮明である。触れると、熱感があり、深いところにしこりがある。圧迫すると痛みがあり、関節の腫れや紅斑周辺の浮腫が発症する。

 これらの特徴的症状の、疼痛の緩和および浮腫症状の軽減、歩行制限を伴ったADLの改善を目的とする。治療のためのアプローチとして、「フェルディ式複合的理学的療法」と「指圧治療」の両者を採用した。

Ⅱ.対象および方法

【症例】

日時:2012年6月12日〜2013年3月28日
施術対象:73歳男性

 2011年3月に、変形性腰椎症と診断され、腰椎〜仙骨を中心に左右10本のボルトによる固定を目的とした手術を受けた。同年6月に、ボルトによる脊柱起立筋などの周辺組織の炎症反応が悪化したため、ボルトを摘出。再度新しいボルトを固定し直す手術を受けた。

 手術後1年を経過した頃から、左下腿(肝経・脾経に相当)の伸筋群を中心に結節性紅斑が出現。後に、右下腿(肝経・脾経に相当)の伸筋群にも面積は小さいが結節性紅斑が出現した。

 今後、両下肢に、この結節性紅斑が、広がっていかないか不安になり、また日常の歩行が不可能になることを危惧されて、当院を受診する。

【現病歴】

 左右の下腿伸筋群(特に左下腿)に結節性紅斑に伴う、炎症反応、圧痛、むくみを感じ、歩行時など下肢に重だるさや、関節の動きに少し違和感がある。術後の後遺症として、全身の易疲労、下痢、腰痛がある。

 他に糖尿病を既往歴として抱えている。

【初診時の所見】1)

  • シュテンマーサイン …左右第2足趾(+)
  • 圧痕性テスト…左右下腿部(+)
  • 皮膚肥厚チェック …左右足背部(+)
  • 関節可動性 …左右股・膝・足関節ともに可動域制限あり。
  • 皮膚の状態 …左右の下腿伸筋群に浮腫、炎症反応がある。手術の瘢痕は硬い。
  • その他の所見 …下腿に靴下のくい込み痕。

【評価】1)

 左右下腿4点の計測基準点の周囲径計測値および下肢容積の変化を治療前後にて評価

①足背…第2趾爪甲根部より10cm 
②外果…腓骨末端よりはじめ、外果より上点7cm 
③下腿最大…下腿最大点(膝関節を基点に下方に向けて13cm)
④膝点…膝窩の関節裂隙外側

【治療】

 仰臥位にて、左右の下肢浮腫症状を目的とした医療徒手リンパドレナージを20分施療。

 随伴症状に対しては、腰背部、臀部、下肢、肩甲骨および上肢、腋窩部、腹部に重点を置き、浪越式基本指圧を20分施療。同時に患者自身によるスキンケア、弾性包帯による圧迫療法及び圧迫下での運動療法も併せて行う。

ⅰ.結節性紅斑に伴う両下肢の浮腫へのアプローチ1)

※前処置と後処置は施術時間の都合上省略した

《仰臥位にて》

①軽擦
②鼠径リンパ節の処置
③大腿部(前面、外側、後面)
④膝部(膝蓋骨上、内膝、膝窩リンパ節、鵞足)
⑤下腿部(前面、後面)
⑥足関節部(内・外果、足関節上)
⑦足部(足背、足趾、足底)
⑧症状に応じて再度処置
⑨軽擦

ⅱ.指圧療法

《仰臥位》

 リンパドレナージにて誘導されたリンパ液を、乳縻槽に誘導するため、腹部指圧を行う2)。炎症反応や関節拘縮が強い場合は、両下肢の基本指圧を施術し、末梢部に貯留したリンパ液を鼠径部に戻すことを意識して、運動療法も行う。

《横臥位》

 術後の筋緊張を鑑みながら、腰背部、臀部などは入念に行う2)。浮腫症状が強い場合は、腋窩リンパ節への誘導を意識しながら、腋窩、肩甲骨(特に下角)、上肢への施術も行う。時には、鎖骨下リンパ節への誘導として、頚部も施術する。

III.経過

 2012年6月12日〜2013年3月28日までの計92回(1週間に3回)の施術により、両下肢の周囲径および容積の減少、結節性紅斑の炎症反応が軽減、随伴症状(易疲労感、腰痛、下痢など)の改善もみられた。

1.左下腿部の最大減少周囲径と容積の比較

 計92回の施術前後に記録した、左下腿部4点の計測基準点の周囲径計測値を初回計測日から直近の計測日まで各々比較したところ、同日内での治療前後においては、最大減少値が2013年3月2日で下腿最大の部位で-0.5cm、2013年1月12日〜同年3月2日まで時系列の比較では、治療前が足背で-1.2cm、治療後が下腿最大で-0.7cmの改善がみられた。(表1)

 また、左下腿部容積においては、時系列的には480ml以上の容積の減少が常に確認され、2013年1月12日の治療前と、同年3月2日の治療後の容積では580ml以上の減少が確認された。(表2)

 これは、左下腿部で、足部(特に足背部)〜膝部〜鼠径部へのリンパ液の還流、および鼠径〜乳縻槽、鼠径〜腋窩リンパ連絡路への還流が促進され、足部末梢に貯留していたリンパ液の排液が促進されたことをうかがわせる。

2.周囲径計測値の経時的変化

 計92回の施術前後に記録した、左下腿の計測基準点4点の周囲径計測値を、初回測定日から直近の測定日まで、部位ごとの経時的変化に基づき、折れ線グラフで比較した。

2-1.足背部の変化

 初回計測日では、治療後に減少はしたものの、以降の計測日では増加を示した。

2-2.外果部の変化

 初回計測日から直近の計測日まで、治療後に減少があり、特に直近の計測日で顕著に認められた。

2-3.下腿最大部の変化

 初回計測日から直近の計測日まで、治療後にほぼ同じ減少値が認められた。

2-4.膝点部の変化

 初回計測日から治療後に、順次減少がみとめられたものの、直近の計測日で増加を示した。

3.下肢容積値の経時的変化

 周囲径計測値をもとに、左下腿の容積値を表3にて計算し、その結果を経時的に比較してみた。治療後では必ず容積値の減少が認められ、特に初回計測日において最大減少値を示した。

4.初回計測日と直近計測日との両下肢の比較

 初回計測日と直近計測日に撮影した写真の比較では、直近計測日の方が、下腿全体の膨らみが縮小されて、特に伸筋群や腓腹筋、足関節の浮腫が顕著に改善されている様子が分かる。特に左下腿の比較では、結節性紅斑による発赤などの炎症反応を起こしている皮膚の面積が、減少し、下腿全体の色味が本来の皮膚の色に回復してきている様子が分かる。また結節性紅斑の赤味を帯びた色から、黒味を帯びた色への色調の変化も観察された。(図6〜図9)

IV.考察

 結節性紅斑という、臨床的には大変珍しい症例であったが、当症例の場合、原因が不明で発症したこともあり、患者本人が抱える不安は相当なものであったと推察される。

 結節性紅斑の症状緩和のためには、下肢を動かさずに安静にすること。術後の変形性腰椎症に対しては、歩行訓練を推奨され、この矛盾した現状を抱えて、日常の歩行が困難になることを最も患者はじめ家族は危惧した。

 今回の浮腫症状の改善に最も力を発揮したのは、弾性包帯(チューブ包帯)3)による圧迫療法※1である(図10、図11)。同時に、医療徒手リンパドレナージと指圧治療による複合的な施療は、炎症反応の改善や膝・足関節の可動域の拡大に大きく効果をもたらした。

 浮腫症状の軽減は、弾性包帯による圧迫療法および圧迫下での運動療法※2を開始した2012年12月以降に、劇的な変化および改善を示した。現在もその効果は維持されている。

 このように、医療徒手リンパドレナージと指圧治療に加えて、圧迫療法および圧迫下での運動療法を日々の生活に取り入れることで、浮腫症状のみならず、患者自身のADLも高めていける可能性を示唆した。

※1圧迫療法1)

【弾性包帯】日々の状況に応じて巻き直すことができるため、「治療」を目的に行う。
【弾性着衣】治療により改善された状態の「現状維持」または「症状の進行予防」のため着用する。
【段階的な圧バランス】組織間液を中枢方向へ誘導しやすい状態をつくるため、患肢末梢から中枢端に向かい、圧を徐々に緩めていくように調整する。 

※2圧迫下での運動療法

 まずは、簡単な関節の屈伸運動から始めて、徐々に全身を動かしていく。疲れすぎない程度に楽しみながら、継続していける内容が望ましい1)。今回の患者さんには、自宅内での下肢ストレッチや歩行訓練、デイサービス利用時の機能訓練実施時に、弾性包帯の着用を薦めた3)

V.結論

 医療徒手リンパドレナージと指圧治療を複合的に施療しながら、同時に圧迫療法および圧迫下での運動療法を併用することにより、結節性紅斑に伴う浮腫の症状および随伴症状を軽減できる可能性がある。

VI.参考文献

1) 特定非営利活動法人 日本医療リンパドレナージ協会:【臨床総論】「臨床の記録 予診表、所見、周囲径計測表」4〜6、【医療リンパドレナージの実際(基礎編)】「基礎マッサージ・鼠径リンパ節および下肢」16〜17、【臨床各論】「続発性下肢リンパ浮腫の処置」17〜18、「その他の浮腫」28〜30、【圧迫療法】「圧迫療法」1、「弾性包帯」2〜3、【運動療法】1〜3医療リンパドレナージセラピスト初級・中級講習会配布資料、2010 
2) 石塚 寛:指圧療法学,p.150-166, 182, 国際医学出版, 東京, 2008
3) 小川佳宏、佐藤佳代子 共著:浮腫疾患に対する圧迫療法 複合的理学療法による治療とケア, p.54-55, 65-70, 77-80, 150-153, 156-163, 文光堂, 東京, 2008
4)T.Yamamoto.et al:Lymphology,41; p.80-86, 2008
5) Casley-Smith JR:Lymphology,27;p.56-70, 1994


【要旨】

指圧とフェルディ式リンパドレナージによる結節性紅斑へのアプローチ
中盛祐貴子

 変形性腰椎症が引き金となり発症した、結節性紅斑により引き起こされる炎症反応や関節の腫脹、浮腫症状をもつ患者に対し、「フェルディ式複合的理学療法」と「指圧治療」の両者を併用して施療を行ない、加えて圧迫療法と圧迫下での運動療法を行なった。これらを左下肢4点の計測基準点の周囲径計測値および下肢容積の変化で評価した。その結果、2点の周囲径計測値と容積が減少した。よって、医療徒手リンパドレナージと指圧治療を複合的に施療した上で、圧迫療法と圧迫下での運動療法を加えることにより、結節性紅斑による浮腫症状および随伴症状を軽減できる可能性がある。

キーワード:結節性紅斑、浮腫、リンパドレナージ、指圧、圧迫療法



下肢のリンパ浮腫に対するアプローチ :中盛祐貴子

中盛祐貴子
祐泉指圧治療院 院長

Approach to lower-extremity lymphedema with Shiatsu and Földi method complex physical therapy: a case report

Yukiko Nakamori

Abstract : A patient of lower-extremity lymphedema, caused by extensive hysterectomy for treatment of uterine cervical cancer, was treated with combined application of Shiatsu therapy and Földi method complex physical therapy. Assessment of changes in circumference and volume of both lower-extremities based on seven reference points indicated decreases in all values. The result suggested the potential of treatments combined medical manual lymphatic drainage and Shiatsu therapy to alleviate the symptoms of secondary lymphedema and its concomitant symptoms.


I.目的

 リンパ浮腫は、主に原発性リンパ浮腫(原因不明、先天的)と続発性リンパ浮腫(原因明瞭、後天的)の2種類に大きく分類される。1)

 近年、日本においても乳がんや子宮がん、前立腺がんの発症率の増加2)と(図1)共に、後者の続発性リンパ浮腫患者の増加が杞憂されている。

図1. 部位別がん罹患数の推移[全年齢 複数年]

図1. 部位別がん罹患数の推移[全年齢 複数年]

 このリンパ浮腫に対するアプローチとして、「フェルディ式複合的理学的療法」と「指圧治療」の両者を採用することにより、手術や薬物投与に頼らないで保存療法を軸とするより多くの患者のQOLの向上に寄与できないかと考え、今回の臨床報告を行う。

Ⅱ.対象および方法

【症例】

日時:

 2010年9月11日〜2012年7月29日

施術対象:

 52歳女性
 ある日、不正出血があり、気がかりになり医療機関を受診。子宮頸がんの診断を受ける。  2010年3月9日に、同病の手術を受けた。病期分類はⅠ期。広範子宮全摘出術を採用。左右の鼠径リンパ節を郭清している。放射線療法や化学療法はしていない。術後は、リンパ浮腫予防のため、両下肢のセルフマッサージや、高位保持、ドクターショール製造のハイソックスやストッキングなどを着用し、セルフケアに努めていた。術後2ヶ月を経過した2010年5月頃から、右足関節の外果周辺に限局したリンパ浮腫を自覚。今後、右下肢大腿部や左下肢にも、このリンパ浮腫が広がっていかないか不安になり、当院を受診する。

【現病歴】

 右足関節の外果周辺にむくみを感じ、歩行時など下肢の重だるさや少し違和感がある。週末になると症状が重くなる。術後の後遺症として、全身の易疲労、便秘、腰痛などがある。

 術後から、エブランチル(排尿障害の改善薬)を服用。排尿は8回/日以上。

【初診時の所見】1)

  • シュテンマーサイン※1 …右第1足趾(+)
  • 圧痕性テスト …(−)
  • 皮膚肥厚チェック …右足背部(+)
  • 線維化・硬化 …(−)
  • 皮膚の状態 …右外果周辺に浮腫があり、手術の瘢痕は硬い。
  • 瘢痕の状態 …臍を囲んで縦型
  • 炎症徴候 ……なし
  • 反対側の浮腫 …感じたことはない
  • その他の所見 …下腿に靴下のくい込み痕

※1 シュテンマーサイン:浮腫が疑われる部分を親指と人差し指で薄くつまんだ場合、健康な皮膚は皮下組織より表面の部分が薄くつまめるが、浮腫がある場合には皮下組織の厚みを触知する。

【評価】1)

 左右下肢7点の計測基準点の周囲径計測値(図2)および下肢容積の変化(図3)を評価(治療開始時に計測)
 ①足背…第2趾爪甲根部より10cm
 ②外果…腓骨末端よりはじめ、外果より上点7cm
 ③下腿最大…下腿最大点(膝関節を基点に下方に向けて13cm)
 ④膝点…膝窩の関節裂隙外側 
 ⑤大腿部12cm…膝関節を基点に上方12cm 
 ⑥大腿部20cm…膝関節を基点に上方20cm 
 ⑦鼠径点…膝関節を基点に上方26cm、鼠径部付近の大腿最上点

図2. 下肢周囲径 計測表

図2. 下肢周囲径 計測表

図 3.下肢容積 計測表

図 3.下肢容積 計測表

 【治療】

 仰臥位にて、子宮がん術後右下肢リンパ浮腫を目的とした医療徒手リンパドレナージを60分施療。随伴症状に対しては、腰背部、臀部、下肢、肩甲骨および腋窩部、腹部に重点を置き、浪越式基本指圧を30分施療。同時に患者自身によるスキンケア及びマッサージ、弾性着衣による圧迫療法及び運動療法も併せて行う。

ⅰ.医療徒手リンパドレナージの基本手技1)3)

①静止クライス…指若しくは手掌全体で皮膚に密着し、皮膚と皮下部分に円運動を加える。

 (身体のあらゆる部位に用いることができる)

②ポンプ手技…母指と示指の間の部分を排液方向に向けて置き、手掌全体で圧を加える。

 (四肢や体幹、乳房の処置の際に用いられる)

③シェップ手技…四肢後面を手掌全体で交互にすくうように行う。

 (主に四肢末梢側に用いる、前腕や下腿)

④ドレー手技…手掌全体を体表に密着させ、適度に圧をかけながら前方へ柔らかく皮膚を動かす。

 (主に身体の面積の広い領域に対して用いる)

ⅱ.子宮がん術後右下肢リンパ浮腫へのアプローチ1)

※浮腫予防目的のため、両下肢を対象

①前処置

《臥位にて》

  • 頚部コンタクトと腹部深部のマッサージ、腹式呼吸を行う
  • 右腋窩〜右鼠径リンパ連絡路をドレナージ
  • 左腋窩〜左鼠径リンパ連絡路をドレナージ

《腹臥位にて》

  • 右腋窩〜右鼠径リンパ連絡路をドレナージ
  • 左腋窩〜左鼠径リンパ連絡路をドレナージ

②患肢及び健肢の処置

《腹臥位にて》

  • 右腰臀部外側〜大腿、膝、下腿、足部、足趾、右腋窩〜右鼠径リンパ連絡路
  • 左腰臀部外側〜大腿、膝、下腿、足部、足趾、左腋窩〜左鼠径リンパ連絡路

《臥位にて》

  • 腹臥位と同様の手順を下肢前面に行う

③後処置

《臥位にて》

  • 右腋窩〜右鼠径リンパ連絡路
  • 左腋窩〜左鼠径リンパ連絡路

ⅲ.指圧療法

《横臥位》

 腰背部(特にL4〜L5)に重点を置き、肩甲下部を施術する。臀部は、上前腸骨棘と仙骨下部に手掌を当て仙骨を下方に引き下げたり、鼠径靭帯と仙骨上部に手掌を当て上方に引き上げたりしながら、仙腸関節を意識しながら施術する。4)

 また浪越圧点や八髎穴は入念に施術する。下肢は大腿筋膜張筋や腸脛靭帯を中心に施術。最後に肩甲骨及び周囲筋を含めて、肩甲上部の施術をする。

《仰臥位》

 下肢は鼠径部と膝・足関節部に拍動を確認しながらポイント施術。次いで腹部、腋窩部、上肢、頚部の順番で、やはり同様に拍動を確認しながら施術する。4)

※場合によっては、《横臥位》を《伏臥位》に置き換えて施術することもある。

III.経過

 2010年9月11日〜2012年7月29日までの計45回(2週間に1度)の施術により、両下肢の周囲径および容積の減少、および随伴症状(易疲労感、腰痛、便秘など)の改善がみられた。

1.両下肢の最大減少周囲径および容積の比較

 計45回の施術前に記録した、左右下肢7点の計測基準点の周囲径計測値を初診から直近の再診時まで各々比較したところ、最大減少値が患肢では大腿20cm部位で-5.3cm、健肢では鼠径点で-4.8cmの改善がみられた。また、下肢容積においては、患肢では1,000ml以上、健肢では700ml以上の容積の減少が確認され、両下肢で鼠径〜腋窩リンパ連絡路への還流が促進され、貯留していたリンパ液の排液が促されたことをうかがわせる。

図4. 両下肢の最大減少周囲径および容積の比較

図4. 両下肢の最大減少周囲径および容積の比較

2.周囲径計測値の経時的変化

 計45回の施術前に記録した、計測基準点7点の周囲径計測値を、初診から直近の再診時まで、部位ごとの経時的変化に基づき、折れ線グラフで比較した。

2-1.足関節部(足背〜外果)の比較

 健肢と患肢の両者で、足背と外果の両部位にて比例した、なだらかな減少曲線を示した。

図5 健肢・左下肢・足関節部

図5 健肢 / 左下肢・足関節部

図 6. 患肢/右下肢・足関節部

図 6. 患肢 / 右下肢・足関節部

2-2.下腿部(下腿最大〜膝点)の比較

 健肢に比較して、患肢では2012年6月を最大減少値として、下腿最大と膝点で最良の成績を得られた。また、より患肢の方が、減少曲線が顕著である。

図 7. 健肢/左下肢・下腿部

図 7. 健肢 / 左下肢・下腿部

図 8. 患肢/右下肢・下腿部

図 8. 患肢 / 右下肢・下腿部

2-3.大腿部(大腿12cm〜大腿20cm〜鼠径点)の比較

 患肢の大腿12cmの部位にて、2012年6月に最大減少値を記録。健肢に比較して、減少傾向がより強いことを伺わせた。

図9. 健肢・左下肢・大腿部

図9. 健肢 / 左下肢・大腿部

図 10. 患肢/右下肢・大腿部

図 10. 患肢 / 右下肢・大腿部

3.下肢容積値の経時的変化

 周囲径計測値をもとに、両下肢の容積値を図3の表にて計算し、その結果を経時的に比較してみた。健肢に比較して、患肢でより顕著な減少曲線が見られた。特に、2012年6月において最大減少値を示した。

図 11. 健肢 / 左下肢・容積

図 11. 健肢 / 左下肢・容積

図 12. 患肢 / 右下肢・容積

図 12. 患肢 / 右下肢・容積

4.初診時と再診時との両下肢の比較

 初診時と再診時に撮影した写真の比較では、再診時の方が、足関節の周囲付着筋や靭帯、足根骨や足指骨の様子がくっきりと撮影されていた。特に足背部の比較では、足指間のそれぞれの開き具合が、再診時ではっきりと改善されていることがよくわかる。

図 13. 初診時(2010/9/11撮影)

図 13. 初診時(2010/9/11撮影)

図 14. 再診時(2012/7/29撮影)

図 14. 再診時(2012/7/29撮影)

図 15. 初診時(2010/9/11撮影)

図 15. 初診時(2010/9/11撮影)

図 16. 再診時(2012/7/29撮影)

図 16. 再診時(2012/7/29撮影)

 IV.考察

 続発性リンパ浮腫は、リンパ節の郭清を起因に発症することが多く、蜂窩織炎※2をはじめとする二次感染症の問題をはらんでいる。

 実際に乳がんや子宮がんなどを罹患した患者さんにとっては、術後のセルフケアを含め、そうした免疫力の低下に伴う様々なリスクをいかに回避し、感染症から身を守るかは大変に切実な問題である。途中経過で、患者が右下肢にざわざわした感覚が皮膚に走ると言った訴え(最初の訴えは2011年1月初旬〜)には、リンパ管輸送の際に必要な側副路※3が形成されていることを伺わせた。本症例は、こうしたリンパ浮腫に大変有意義な医療徒手リンパドレナージと、自然治癒力を高めてくれる指圧治療を掛け合わせることで、複合的な相乗効果を生み出せる可能性を示唆した。

※2蜂窩織炎…皮下組織に起きる広範囲の急性炎症のこと。発赤、38度を超える発熱、痛みを伴い、浮腫症状が増悪する場合がある1)。リンパ浮腫の合併症としては、最も避けなければならない疾患である。

※3側副路…迂回路、バイパス。手術や外傷などで深部リンパ管が損傷されて、一部の表在リンパ管が障害を起こしても、身体機能は何とかしてリンパ液を心臓へ戻そうとして、脇道を使って戻そうとする。その際に、この側副路の形成の有無が、大変重要な役割を果たす。

V.結語

 医療徒手リンパドレナージと指圧治療を複合的に施療することにより、続発性リンパ浮腫の症状および随伴症状を軽減できる可能性がある。

VI.参考文献

1)特定非営利活動法人 日本医療リンパドレナージ協会:【浮腫総論】「代表的なリンパ浮腫の分類」11〜12, 「合併症について」14, 【臨床総論】「主治医との連携 加療経過報告書」3, 「臨床の記録 予診表、所見、周囲径計測表」4〜6, 【医療リンパドレナージの実際(基礎編)】「基本手技」3, 【臨床各論】「続発性下肢リンパ浮腫の処置」13〜14, 17〜18, 医療リンパドレナージセラピスト初級・中級講習会配布資料, 2010
2)独立行政法人国立がん研究センター がん対策情報センター:部位別がん死亡数の推移 男性・女性  ホームページより引用
3)土屋勇夫:触れるを学ぶ, p.6, 第34回鍼灸マッサージ学会「手技療法講習会」配布資料, 2011
4)石塚 寛:指圧療法学, pp.160-166, 178, 182, 国際医学出版株式会社, 東京, 2008


【要旨】

下肢のリンパ浮腫に対するアプローチ
中盛祐貴子

 子宮頸がんのため、広範子宮全摘出術を行った患者に対し、「フェルディ式複合的理学的療法」と「指圧治療」の両者を併用し施療を行い、左右下肢7点の計測基準点の周囲径計測値および下肢容積の変化を評価した。その結果、全ての計測値が減少した。よって医療徒手リンパドレナージと指圧治療を複合的に施療することにより、続発性リンパ浮腫の症状および随伴症状を軽減できる可能性がある。

キーワード:リンパ浮腫、子宮がん、下肢、リンパドレナージ、指圧、むくみ