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花粉症(季節性アレルギー鼻炎) に対する指圧療法:長谷川有基

長谷川有基
MTA指圧治療院

Shiatsu therapy for hay fever (seasonal allergic rhinitis)

Yuuki Hasegawa

Abstract : Building on the recent reports indicating that shiatsu therapy has the potential to ease symptoms of atopic dermatitis, a research was conducted to determine the effects of shiatsu therapy on hay fever, which is classified into type I allergy. Through observation of three patients regularly treated by shiatsu, it was found that ratings of Visual Analog Scale were generally lowered, and eye itchiness and nasal congestion were especially relieved after the treatments. Also, there was a case where a patient succeeded in reducing the dose of prescription medication with controlling symptoms. Regarding these three cases, there was a tendency that the more recent they developed hay fever and the milder symptoms they have, the more effective shiatsu therapy was. These results indicated that regular shiatsu therapy may relieve symptoms of hay fever.


I.はじめに

 金子によるアトピー性皮膚炎に対しての指圧治療が改善の可能性をうかがわせた1) ことから、同じⅠ型アレルギーの他疾患には指圧施術がどう影響するのか関心があった。そこで、より一般的であろう花粉症を標的に週1回の定期的な施術でどう変化するか見ることを目的に施術を行った。

 花粉症(季節性アレルギー鼻炎)の中等症・重症例では適切な薬物療法に関わらず鼻炎のコントロールが難しい例がある。またなるべく薬を使いたくないと思う患者も一定数はいると考える。指圧療法も選択肢の一つとして利用できるならば、そういった方々への対応の幅も広がると考える。

II.対象、方法

[対象者]

  • 症例1. 34歳男性
  • 症例2. 25歳女性
  • 症例3. 40歳女性

[方法]

 仰臥位での頚部および仰臥・腹臥位での上下肢・腹部・背部に指圧施術を行った。記載がなければ1回1時間を目安に施術を行った。

 施術の時間帯は概ね同一になるように実施した(およそ19:45〜21:30)。

[期間]

 2013年3月上旬〜5月上旬まで(個別の期間は各々を参照)。

 各被験者にどれ位で症状が自然に消退するかを尋ねたところ、ゴールデンウィークを過ぎた頃から落ち着くとの事であった。時期が過ぎて症状が落ち着いたものと、施術によって症状が落ち着いたものとを分けるため、長くとも上旬までとした。

[評価項目]

  • 自覚する症状の変化
  • VAS…今迄で一番辛かったときを10、無症状を0として自己申告の値を記録した。

 客観性に欠けるが、前述のように目的はどう変化するか経過を見ることであり、それには患者本人の主観も大切であること、血液検査などの手段を持たないことから、簡易ではあるがこの2つとした。

III.結果

 術前は前回の施術からの経過や気付いたこと、術後は施術直後の変化や感想を記載した。

●症例1 34歳男性

[期間]

 3月8日〜4月19日 全6回

[現病歴]

 大学時代より。鼻閉、目のかゆみ、充血がある。目の周囲が腫れぼったく顔が熱い。今年はひと月ほど前より自覚している。鼻閉で眠れないときや仕事に支障のある増悪時のみ市販薬(目薬、吸入薬)を使用している。酷いと熱が出て、頭がぼうっとする。

[家族歴]

 兄:花粉症

[自覚症状]

  • 目のかゆみ、充血、周囲の腫れ
  • 鼻漏、鼻閉
  • 顔の熱感

[経過]

初回(2013.3.8)VAS3→3

術後:身体が楽になり、症状が気にならなくなった。鼻の通りがよくなった。顔が弛む感じがある。

2回目(2013.3.15)VAS8→6

術前:天候と施術、どちらによるものかは不明だが、若干調子はいい。
熱っぽい、ボーっとする。睡眠不足。通常6時間だが、このところ4.5〜5時間位。夜間鼻づまりで目が覚める。
術後:片側の鼻づまりが取れた。目のゴロゴロ感が取れ、かゆみもない。

3回目(2013.3.22)VAS8→5

術前:3日前より腰痛がある。ここ何日か鼻が詰まる。
術後:鼻の通りがいい。いつも施術あとで鼻が通る。腰痛は改善した。

4回目(2013.3.30、45分)VAS6→4

術前:一昨日より、寝過ぎで腰が痛い。一昨日夜より熱、38度。風邪だと思う。目のかゆみはない。施術翌朝非常に楽。その状態が2日位持つ。
術後:鼻の通りがすごくよい。うつ伏せで多少鼻が詰まる感じがある。顔が弛む感じがする。

5回目(2013.4.6)VAS5→3〜4

術前:前回後、2〜3日楽だった。鼻づまりが少しずつなくなってきている。以前より深く眠れるようになった。最近鼻より目のかゆみが気になる。定期的にくしゃみが出る。
術後:今迄で一番楽な感覚。すっきりしている。

6回目(2013.4.19)VAS6→4〜5

術前:くしゃみ、鼻水が出るが、3月より症状が落ち着いている
術後:鼻どおりがいい

●症例2 25歳女性

[期間]

 3月11日〜4月12日 全4回

[現病歴]

 初発は一昨年で、1日だけ花粉症と思われる症状があった。去年は睡眠時のくしゃみなどが酷かったが、その原因は降りてきた埃だと推測している。去年迄は目のかゆみ、異物感の程度は軽かった。今年は目のかゆみが強い。鼻水、鼻づまりは朝に強いが、ないときもある。かゆみのピークが2日前にあり、横から見ると白目が黒目より突出していると友人に指摘された。

[自覚症状]

  • 目のかゆみ、特に内側が強い
  • くしゃみ、鼻漏、鼻閉

[経過]

初回(2013.3.11、90分)VAS3→1

術前:かなり疲れている。
術後:目のかゆみ消失した。首の施術後、鼻漏・鼻閉は消失したが、他部位施術中に再び出現した。

2回目(2013.3.18、75分)VAS2〜1→0

術前:前回翌朝、目のかゆみあったが、2〜3日後消失。周囲の人には花粉症状が出ているが、自分は出ていない。身体が温かい。鼻水、痰が出る(業務上使用する塩素が原因の可能性もある)。2日前より首が痛い。疲労を感じる。
術後:頭が重く、ふらふらする。施術中鼻水が出たが、終了後は鼻が通った。

3回目(2013.3.25)VAS0→0

術前:周囲の花粉症の人は鼻水が凄いが、全く平気。金曜〜土曜頃になると多少症状が出る。術後:(特筆すべき変化なし)

4回目(2013.4.12)VAS0→0

術前:施術の日は寝つきが良い。前回10日後位にくしゃみが出たが、程度が軽く、以後は出ていない。他の人は花粉が辛い様子が伺える。
術後:施術中の鼻づまり全くなかった

●症例3 40才女性

[期間]

 4月1日〜5月9日 全5回

[現病歴]

 2年前発症。それまでアレルギーなかった。病院にて血液検査の結果、杉のみ陽性であった。日中は点眼(フルメトロン点眼液0.1%、パタノール点眼液0.1%)、夜は錠剤(ポララミン錠2mg、セレスタミン配合錠)各2錠を使用。コンタクトが辛く、めがねを使うときもある。耳が痛むことがあり、耳鼻科にて鼻のかみすぎと診断された。症状が強くなくとも、悪化への恐怖から予防的に薬を使用してしまう。

[自覚症状]

  • くしゃみ、鼻漏
  • 目のかゆみ、腫れ、流涙、目ヤニ

[経過]

初回(2013.4.1)VAS6→6

術後:身体が非常に軽い。目のかゆみが消失した。腹臥時、鼻水出てきて鼻が詰まった(施術前は通っていた)。

2回目(2013.4.8)VAS5→0〜1

術前:目頭がかゆい。コンタクトが乾く。前回後、金曜まで症状が気にならなかった。よく眠れ、身体が温かかった。首筋〜肩にかけてコリをよく感じる。土日仕事でずっとPCを使用していた。
術後:目のかゆみが消失した。脱力感がある。全身内側から暖かい感じがする。腹臥時、鼻が詰まった。

3回目(2013.4.15)VAS5→3〜4

術前:洗顔時、手触りがツルツルしている。肌が綺麗になっている感じがある。前回後、調子がとても良かったので薬を月曜夜と火曜朝使わなかったら、くしゃみが止まらず、目もかゆい。薬を飲むとくしゃみは抑えられたが、かゆみは取れない。
術後:目のかゆみ消失。四肢末端が温かい。以前より圧が奥まで入る感覚がある。

4回目(2013.4.22)VAS2→0

術前:夜の薬を各一錠に減らしてみたが、調子がいい状態を保てている。かゆみが軽減している。目の腫れ・流涙・くしゃみ・鼻漏は消失している。
術後:身体が軽く、首周りが若干柔らかくなった感がある。施術中、両手が温かくなる。

5回目(2013.5.9)VAS4→2〜3

術前:前回施術10日後位の風が強い日、くしゃみ、目ヤニが酷かった。同時期、肌荒れが再び気になりだした。薬は各一錠のまま。
術後:両手が温かくなる。かゆみが消失した。

[施術日とVAS]

症例1

  • 初回 (3月8日 金) 3→3
  • 2回目 (3月15日 金) 8→6
  • 3回目 (3月22日 金) 8→5
  • 4回目 (3月30日 土) 6→4( 45分)
  • 5回目 (4月6日 土) 5→3〜4
  • 6回目 (4月19日 金) 6→4〜5

症例2

  • 初回 (3月11日 月) 3→1(90分)
  • 2回目 (3月18日 月) 2〜1→0(75分)
  • 3回目 (3月25日 月) 0→0
  • 4回目 (4月19日 金) 0→0

症例3

  • 初回 (4月1日 月) 6→6
  • 2回目 (4月8日 月) 5→0〜1
  • 3回目 (4月15日 月) 5→3〜4
  • 4回目 (4月22日 月) 2→0
  • 5回目 (5月9日 木) 4→2〜3

IV.考察

 今回、3名の協力のもと、数回の施術を実施した。歴が浅く症状が軽めの方、歴が浅く症状が強めの方、歴が長く症状が強い方の3名である。症例数・施術回数ともに少ないのでこれだけで判断はできないが、少なくともこの3例では、個人差はあるものの、施術直後の改善だけでなく施術前の問診でも、回を重ねる毎に自覚する症状は少しずつ改善する傾向にあると考えられる。

 施術後の変化では目のかゆみと鼻通りがよく挙げられた。施術の時間帯が夜であり、アレルゲン曝露6〜10時間経過していることを考えると施術前の鼻閉は遅発相の可能性も考えられる。

 3例を比較すると、歴が浅く症状が軽いほど良好な反応が得られた。1例目では改善の度合いが思わしくないものの、10年以上の罹患期間を考慮すると、妥当とも健闘しているとも考えられる。2例目では以後症状が殆どなくなったと報告を受けた。それぞれ最後の施術に注目すると、症状が落ち着く前に間が空いてしまうと少しずつ症状が盛り返しているようにも見える。症状出現以前から始めていたり、もう少し長い期間や回数を施術していたら違った結果になるとも考えられる。

 施術者の感覚や技術、圧の強さや方法、被験者の心理状態など一定にできない要素もあり、それらによっても結果は変わってくる可能性は十分ある。特に心理的要素は花粉症だけでなくアレルギー全般に大きく関与していることが指摘されている2)

 アレルギー性鼻炎で見られる3主徴は、くしゃみ発作、水様性鼻漏、鼻閉だが、大量の抗原に曝される花粉症では他にも、眼症状(季節性アレルギー性結膜炎[杉ではほぼ必発]:掻痒感・流涙・異物感・眼痛)、口腔症状(口腔乾燥、味覚障害、口腔アレルギー症候群[OAS])、

咽頭症状(異常感、掻痒感、咳など)、皮膚症状(浮腫性紅斑、アトピー性皮膚炎の増悪)、全身症状(頭重感、倦怠感、うつ状態、発熱、頭痛など)の出現もある。これらの症状は抗原そのものが障害を起こす以外に、鼻呼吸障害の結果として誘導されるもの、治療薬による副作用もあるようだが3)、いずれにせよ非常に煩わしくQOLを低下させると考える。これらの症状に伴う睡眠障害はQOLをさらに低下させる上、疲労の蓄積から花粉症状の更なる悪化へと連鎖する。日常生活以外に労働生産性への影響の指摘もある4)。また「小児スギ花粉への感作は、早い児では生後2シーズンで成立」5)との記載もあり、たかが花粉症と侮れない面もある。

 季節性アレルギー鼻炎の治療は、減感作療法、薬物療法、手術療法がある。主となる薬物療法の目標は治癒ではなく、重度を中等度に、中等度を軽度にと、症状を軽減していくことにある。

 症例3では、薬の量を半減させても症状が気にならなかったと報告された。薬の血中濃度などは判らないが、元々2錠飲んでいても症状が辛かったことを考慮すると、指圧療法を併用することで、薬物療法の効果を高められたり、症状の軽減に寄与できる可能性がある。

 なお事後報告であったので行えなかったが、薬の減量については本来、耳鼻科担当医とも相談しながら徐々に行ったほうがよいだろうと付記しておく。

V.結論

 花粉症に対して今回の3例においては、VAS値変化や感想から、病歴が浅く症状が軽いほど自覚の症状がより軽減された。

 また、ある程度の間隔で施術を続けたほうがより症状を抑えられる可能性がある。

VI.参考文献、引用文献

1) 金子泰隆:アトピー性皮膚炎に対する指圧治療, 日本指圧学会(1), p.2-5, 2012
2) 一般社団法人日本アレルギー学会編 臨床医のためのアレルギー診療ガイドブック, p.514, 診断と治療社, 東京, 2012
3) 内科学 第9版, p.1126-1127, 朝倉書店, 東京, 2007
4) 南由優、塩崎由梨ほか:スギ花粉症患者の労働生産性と症状・QOLの関連−2008年と2009年の比較−, 日本鼻科学学会誌, p.481-489, 2010
5) 一般社団法人日本アレルギー学会編 臨床医のためのアレルギー診療ガイドブック, p.207, 診断と治療社, 東京, 2012


【要旨】

花粉症(季節性アレルギー鼻炎)に対する指圧療法
長谷川有基

 指圧治療がアトピー性皮膚炎改善の可能性を伺わせた報告を踏まえ、指圧治療がⅠ型アレルギーに分類される花粉症に与える影響を観察、検討した。3名に対して定期的に指圧治療を行った結果、全体的にVAS値は軽減する傾向にあり、施術前後の変化では目のかゆみと鼻詰まりの改善がとくに大きかった。また、症状を抑えつつ処方薬の減量ができた例もあった。今回の3例においては、罹患歴が短いほど効果が現れやすく、症状が軽いほど効果が現れやすい傾向にあり、定期的な施術で症状が改善していく可能性が示唆された。

キーワード:アレルギー、花粉症、季節性アレルギー鼻炎、指圧



随筆:花粉症施術の周辺事項:長谷川有基

長谷川有基
MTA指圧治療院

 一つテーマを決めて施術をして纏めるのはこんなにも大変かと思ったが、その分普段考えないようなことを考えることも色々とあった。個人的な考えが多く含まれるので、本文とは別に書いておきたい。

 施術にあたり、頚部と腹部を特に意識した。鼻閉は鼻粘膜の浮腫により鼻腔内が狭まった状態にある。主に血管透過性の亢進によるのだろうが、頚動脈鞘周りを弛めてやれば静脈還流が滞りなく行えて、浮腫は軽減するのではないか。また、腹部施術により細動脈を中心とした内臓の血管が広がって隅々まで血液が行き渡れば、結果的に頭頚部へ分布する血液は減り、さらに軽減するかもしれないと思ったからだ。しかしそう考えて、結果鼻閉が改善したからといって本当にその通りになったのかはわからない。上手くいったと思いたい。

 施術中や後の鼻閉については、首の角度と姿位による頚部の圧迫などの影響が考えられる。あるいは腹臥位での出現が多いことから、施術枕とフェイスタオルで顔の周りが塞がれて呼吸する空気の温湿度が変化したため、ということもありえる。なんにせよ、他の体位で施術すれば回避できるかもしれない。仰臥位での施術時に改善が多いから腹臥位から始めるのもいいかもしれない。今回は手順を統一するため、体位や順序を変えることはしなかった。

 気になったのは、症状の強いときほど首が硬く弛みにくく、仕事が多忙であったり疲労が強いほど症状も強くなるような印象を受けた。人間は全体で一つとして機能している。ある症状に対して、どこここを施術する、というよりも、いかに基礎的な全身状態の改善ができるかがポイントになるのかもしれない。そういった意味で、頚部の施術が自律神経系へ及ぼす影響だとか、首のとくに後ろ側が弛むと全身の抗重力筋などが弛むことは、全身の調整に役立っているのかもしれない。

  花粉症はⅠ型アレルギーに分類される。以前、Ⅰ型アレルギーは衛生仮説とTH1/TH2のバランスで説明されていた。大まかにいうと、乳幼児期の環境が清潔すぎるとエンドトキシンに触れる機会が減り、TH2が多くなりやすい。TH1とTH2のサイトカインはお互い拮抗して働き、TH2サイトカインはIgE産生を誘導するため、TH2優位だとアレルギーになりやすい、というもの。近年ではTH1/TH2に加え、TH17や制御性T細胞などのバランスやその他サイトカインが関連してくることがわかっている。

  指圧施術がこれらのどこかに影響を与えたのか、それとも前述の基礎的な全身状態が影響したのかわからない。もしアレルギー機序に影響したのならこれはなかなか面白くなってくる。

 今回の論文では症例数が少ないことを考えると、施術と全く関係ない理由で改善した、ということもないとはいえない。そういうことがあるためにできれば症例数は多いほうがいいが、現実にはなかなか難しい。仮に五十症例は欲しいとすると、1回1時間として1日8人ペースでも週6日はかかる。累積効果を見るためにある程度継続して全8〜12回、日常生活の個人差・変動に影響されにくいように受けるペースを週1回とすると、それだけで2〜3ヶ月はほぼ付きっ切りになってしまう。その間の生活や体調管理、被験者のスケジュール調整など考えると、個人ではかなり難しく大きな負担となる。論文を切っ掛けに実際に追試として施術を行っていただけるとありがたい。

 ある程度の集団で施術を行い、その結果を共有できる場を作れないかと思う。個人的にはできれば三桁くらいの症例は最低限欲しいし、追試の結果をフィードバックする場は必要だと思っている。しかし、薬の臨床試験とちがい、施術の方法や技量や刺激量の定量化などが難しい(○○kg重の圧で、などと強さを一定にする試みも見たことがあるが、これには少なくとも二つの問題がある。ひとつは刺激を受ける被験者の身体は同じではないので圧力を一定にするとむしろ強さが異なること、もうひとつはそもそも手技療法とはそういうものではないという根源的なものである。もしそういうものであったならば、マッサージ機器や医療用器具は今よりもっと違った形になっていただろう)。対照群を設定するとしても、偽薬のような物を使うわけにもいかないため、同じ時間ただ横になってもらう、という方法への理解も得にくいだろう。

 折角施術をして論文を書いたのだから多くの人に利用して欲しいし、より改善して良い物ものを作りたい気持ちもある。

 多忙や疲労は広い意味でストレスだが、ストレスとアレルギーの関連で言えば、TH1/TH2のアンバランスな状況をもたらす機序のひとつとして、ストレス刺激が挙げられている1)。 またストレスとの関連疾患では、潰瘍性大腸炎、リウマチ性関節炎(RA)などの自己免疫疾患が挙げられているのは興味深い2)。自己免疫疾患はTH17が自己抗原に反応して異常発達・増殖し、免疫システム全体のバランスが取れなくなった状態とも言われており、ストレスはTH17にも影響しているのかも知れない。

  神経系、内分泌系、免疫系は関連して機能している。ストレスはそれらに対しても影響を与える(ハンス=セリエ、ストレス反応)。人体をひとつのシステムと捉えれば、指圧施術が自律神経系に影響を与えたことで、他のサブシステムである内分泌系や免疫系へも影響を及ぼし、システム全体の機能が調整された、と考えることができる。しかし、起きた出来事はひとつだが説明のしかたは無数にあり、その説明が妥当かどうかはまた別の問題だ。裏付けがないという意味では、指圧で宇宙のパワーを注入しただとか、先祖の祟りが、などというのと変わらない(断っておくが、別に呪術を否定しているわけではない。呪術と医療が同一の時代もあったし、呪や念だとかはそれを扱うのが人間の心だということを考慮するとバカにはできない。ただ現代の医療というカテゴリーには適さないというだけである)。気が云々という説明の仕方もあるが、日本人は“気”というと内容が支離滅裂でも何となく判った気になってしまって納得してしまうところがあるので、使用する場面には話し手・聞き手の双方が注意を払う必要がある。

  指圧の研究やその方法が発展し、体内の変化を上手くモニタリングできれば、より事実に寄り添った説明ができる。煎じ詰めれば五十歩百歩だが、怪しげな理屈をこねなくて済むのは精神衛生上大変よろしい。

引用文献

 1)STEP内科1 神経・遺伝・免疫, 第3版, p.303, 海馬書房, 東京, 2010
 2)トートラ 人体の構造と機能 第2版, p.666, 丸善, 東京, 2008

参考文献

アレルギーは何故起こるか ヒトを傷つける過剰な免疫反応の仕組み 斉藤博久 講談社