作田 早苗
りんでんマニピ指圧治療院
Effects of Shiatsu Therapy on the Cobb Angle of a Female Patient in Her Twenties with Scoliosis
Sanae Sakuta
Abstract : This report examines the case of a female patient in her twenties diagnosed with lumbar idiopathic levoscoliosis who received 93 shiatsu treatments between 2013 and 2016. Following treatment, the Cobb angle was improved from 69.6. to 62.3.Relief of subjective symptoms such as back pain and severe menstrual cramps was also observed. We concluded that reducing muscle tension with shiatsu treatment resulted in improved spinal mobility leading to correction of leg length difference, asymmetric pelvis, tilted ribs, and unaligned spine.
Keywords: shiatsu, scoliosis, Cobb angle, spine
Ⅰ.はじめに
側弯症とは、脊柱がねじれを伴って左右に曲がってしまう症状であり、それに伴い胸郭の変形、肩甲骨の出っ張りに加え、前屈時の高さ、肩の高さ、骨盤の高さの左右差などが生じる。また、肺などの臓器の圧迫や位置のズレに伴う背腰部痛、生理痛、胃腸障害が生じたり、好きな服が着られない、水着になれないなどの外見上の問題による精神的ストレスを受けるなど、心身ともに影響が及ぼされるといわれる1)。
側弯症の分類はおおまかに機能性側弯症と構築性側弯症があり、構築性側弯症に分類される特発性側弯症が側弯症全体の 70~ 80%を占める2)。特発性側弯症の原因はわかっておらず、思春期側弯症が最も多く、症例の 85%が女性と言われている3)。予防法は未だ確立されていないが、早期発見が手術適用のリスクを軽減するため、現在は学校での検診が行われている1)。
側弯の程度を表すための方法としては、立位でのレントゲン写真から測定する Cobb法 (脊柱の前後から見て、最も傾いた椎体間の角度を計測する方法 )が用いられている2)(図1)。
日本側弯症学会によると、側弯症に対する手技療法では、痛みの緩和はあっても症状の改善には効果がないとされてきた1)。しかし、今回、指圧施術により患者の Cobb角に改善がみられた症例が得られたので、ここに報告する。
図1.Cobb角の計測法
X線において、脊柱カーブの上下端で水平面に対して最も傾いている頭側終椎の上縁と、尾側終椎の下縁を結ぶ線のなす角度を Cobb角とする。
Ⅱ.対象および方法
日時及び回数:
2013年2月 28日~ 2016年3月 24日 全93回(表1)
対象:20歳 女性 身長 162.8cm
現病歴:11歳の時に歯ぎしりがひどく、顎関節を治すために行った整体院で脊柱の側弯を指摘された。その時点では自覚症状はなかったが、その後 13歳のときから背腰部痛が発生するようになり、15歳で側弯症専門の整形外科を受診し腰部左凸の特発性側弯症と診断される。手術を勧められたが、なるべく手術はしたくないという考えもあり体操や装具などで改善を図りつつ、現在に至る。装具は着けているのが辛く、ほとんど使用していない。
自覚所見:
- 背腰部痛…痛みのため、椅子に座っていることができず、在宅時は寝転びながら勉強をする
- 生理痛…重症時は痛み止めを服用する。痛みのため学校を休むことも多い
- 軟便傾向である
- 開口時、顎関節がズレる
他覚所見:
- 視診
静止時の姿勢では、反り腰、体幹の右回旋、腰部の左回旋がみられる。右肋骨は張り出し、左肩が上がった状態である。右の肩甲骨は挙上し、内縁は胸郭から浮いている。下肢長は右のほうが長い。 - 触診
右肩甲骨周り、右鼠径部、左背腰部に顕著な硬結がみられる。右腸腰筋の短縮が認められる。両下肢外側に張りがある。右腰部は筋量が少ない。
施術方法:
石塚4)、田之倉5)を参考に、以下のような施術を行った。
- 2013年~ 2014年
顔面部・頭部・背部・腰部・殿部・腹部・下肢への指圧 - 2015年~
顔面部・頭部・頸部・背部・腹部・殿部・腹部・下肢への指圧・棘突起調整・座骨掌圧・背部調整・下肢長の調整・肋間筋への指圧
Ⅲ.結果
・Cobb角について
整形外科で撮影されたレントゲン写真からTh10~ L3の Cobb角を計測した。2012年Cobb角は 69.6°だったが、2016年には 62.3°まで改善された(表2)。
・自覚症状について
2013.3.7 腰の痛みが緩和した。
4.24 座っていても、背腰部が痛くなくなってきた。
6.23 生理痛はあったが、寝込むほどではなくなった。
10.13 開口時の顎関節のズレが改善した。
12.16 生理痛があり、薬を飲むほど痛かった。
2015.5 生理痛が緩和した。これ以降、本人の自覚症状の訴えは出ていない。
Ⅳ.考察
本患者の診察所見では、右腰部の筋量低下がみられたため、立位において左腰部筋力とのアンバランスが生じ、側弯が増強されていたと考えられる。藤川6)は手技療法による Cobb角の改善を成人で4例報告しており、脊椎アライメントの調整と筋硬直の解消の重要性を示唆している。田附ら7)、宮地ら8)は指圧により脊柱可動性が向上することを報告しており、本症例において Cobb角の改善がみられたのは、指圧により筋硬直が改善し脊柱の可動性が高まり、それに伴い下肢長、骨盤、肋骨の高さ、脊柱のアライメントが矯正されたことによるものと推察する。今後は今の可動性を保ちながら、筋肉を増強させることが更なる改善に重要であると考える。また、2013~ 2014年にかけて Cobb角の変化に停滞がみられたが、これは患者の受験期間などと重なることで、施術頻度がやや減少したことに起因すると推察される。また、受験等のストレスにより筋の柔軟性が低下し、脊柱のアライメントの不整につながった可能性も考えられる。大木9)は定期的な指圧施術で患者の精神的ストレスが改善された症例を報告しており、なるべく間隔をあけず定期的に施術を行うことが治療において重要であると考える。
日本側弯症学会1)によると、手技療法は側弯に伴う痛みなどの緩和には効果が期待されても、改善、進行を防ぐ効果はないとされ、経過観察、運動療法、装具着用、手術が推奨されており、16歳以降の側弯の改善は難しいとされてきた。しかし、本症例により、成人における指圧療法による改善の可能性が示唆されたと考える。また、医療関係者と連携し、装具療法や運動療法を併用して治療を始め、早期から姿勢、筋バランスを整えることがより良い治療効果を得るために重要であると考える。
Ⅴ.結語
側弯症患者に対する全 93回の指圧治療により、Cobb角の改善がみられた。
参考文献
1)日本側弯症学会:知っておきたい脊柱側弯症,p.1-63,インテルナ出版,東京,2003
2)奈良信雄 他:臨床医学各論 第 2版,p.151-154,医歯薬出版株式会社,東京,2004
3)国分正一,鳥巣岳彦:標準整形外科学 第 10版,医学書院,東京,2008
4)石塚寛:指圧療法学 改訂第1版,国際医学出版,東京,2008
5)田野倉快泉:無薬医術指圧療法復刻,p.50,八幡書店,東京 ,2002
6)藤川勝正:脊柱側弯症の保存療法,整形外科と災害外科39(1);p.349-358,1990
7)田附正光 他:指圧刺激による脊柱の可動性及び筋の硬さに対する効果,東洋療法学校協会学会誌(28);p.29-32,2005
8)宮地愛美 他:腹部指圧刺激による脊柱の可動性に対する効果,東洋療法学校協会学会誌(29);p.60-64,2006
9)大木慎平:全身指圧による心理的影響を測定した一例,日本指圧学会誌(4);p.7-10,2015
【要旨】
20代女性の側弯症に対する指圧治療によるCobb角の変化
作田 早苗
今回、専門医により腰部左凸の特発性側弯症と診断された 20代女性に対し、2013年~ 2016年まで計 93回の指圧治療を行った。その結果、初診時点では69.6°であった Cobb角が、62.3°まで改善した。また、背腰部痛や重い生理痛などの自覚症状にも改善がみられた。本症例の改善は、指圧により筋硬直が解消して脊柱可動性が向上し、下肢長、骨盤、肋骨の高さ、脊柱のアライメントが矯正されたことにより生じたと推察する。
キーワード:指圧、側弯症、Cobb角、脊柱