本多 剛,大木 慎平
日本指圧専門学校専任教員
Volunteer Shiatsu in Nanto City, Toyama Prefecture: Survey Report
Tsuyoshi Honda, Shinpei Oki
Abstract : On Saturday, August 5th, 2017, volunteer shiatsu therapists treated 43 residents of Nanto City, Toyama Prefecture at Gassho Zukuri Cottage, located in the Historic Village of Gokayama. Participants completed a survey in which they described the areas where they felt fatigue or pain and how their level of general fatigue changed following shiatsu treatment. Of the 43 participants, 39 valid responses were obtained. The most common areas that people complained of fatigue or pain were, in descending order, the lower back, the shoulders and the knees. Thirty-eight out of 39 people reported a decrease in general fatigue.
Keywords: shiatsu, volunteer, survey, middle-aged and elderly, National Livelihood Survey
I.はじめに
平成29年8月5日(土)、富山県南砺市にある五箇山合掌の里「合掌造りコテージ」で指圧ボランティアを行った。本活動は、同市で訪問マッサージ業を営む55期卒業生の計らいで実現した。これまで、衞藤ら1)2)や小松ら3)は対象をマラソン大会出場者に限定した指圧施術効果のアンケート調査結果を報告しているが、今回は日常生活において活発な運動習慣のない一般市民を対象としたアンケート調査である。
Ⅱ.方法
日時 :平成29年8月5日(土)
場所 :五箇山合掌の里 「合掌造りコテージ」 羽馬家
施術者:日本指圧専門学校2~3年生
(すべての施術者は浪越式基本指圧の全身操作4)を習得している)
対象 :富山県南砺市在住の一般市民で指圧施術を受け、かつアンケートに回答した者(43名)
使用したアンケート用紙は平成28年度日本指圧学会冬季学術講習会の「日本指圧学会作成の評価表に関する報告(日本指圧専門学校教員大木慎平)」で発表されたものを用いた。
指圧施術前に施術者より対象へアンケートの記入方法を説明し、アンケートの設問1~5までを回答してもらった。その後、対象が不調を訴える部位に応じた浪越式基本指圧を1時間程度行い、その直後にアンケートの設問6~7を回答してもらった。施術前後のVASの結果の比較は対応のあるt検定を行い、危険率は5%に設定した。
Ⅲ.結果
アンケートに回答した43名のうち、有効回答数は39名だった。
・設問1…疲労や痛みで気になっている身体の部位、気になっている症状
疲労及び痛む部位で最も多い回答は第1位が腰(20.4%)、第2位が肩(16.7%)、第3位が膝(7.7%)、第4位が背中(6.3%)、第5位が疲れ(5.0%)となった(表1、図1)。また、設問1は複数回答可のため、合計回答数は221箇所だった。
・設問2…設問1で回答したうち、最も気になっている部位
最も気になっている部位の回答は腰が15名(38.5%)、肩が13名(33.3%)と大半を占め、次いで多かったのは膝の5名(12.8%)だった(図2)。
・設問3、6…全身の疲労度合い
全身の疲労度合いのVAS(Visual Analog Scale)は、減少が38名、変化なしが1名だった(図3)。平均は、施術前が49.05±23.23(mean±SD)、施術後が12.95±12.06で、施術前後で有意な低下が認められた(p<0.01)(図4)。
・設問4、7…最も気になる部位の不満度
最も気になる部位の不満度のVASは、減少が38名、増加が1名だった(図5)。平均は、施術前が56.49±25.86、施術後が11.95±13.10で、施術前後で有意な低下が認められた(p<0.01)(図6)。
・設問5…最も気になる部位による日常動作の不自由度
最も気になる部位による日常動作の不自由度の平均は、51.36±27.34だった。
Ⅳ.考察
疲労及び痛む部位の回答で多かったのは腰と肩だった。この結果は、厚生労働省が行う国民生活基礎調査5)の有訴者率が高いものと一致しており、一般市民の大半が腰や肩に何らかの症状を有していることがうかがえる。今回の対象は中高年者が多く、加齢に伴う脊椎間の弾力性低下、運動不足による筋力低下等が不良姿勢を招き、腰痛や肩こりを助長していると考えられる。全身の疲労度合と最も気になる部位のVASは、対象の97%で改善が見られた。このことから、浪越式基本指圧の全身操作が不良姿勢による筋の緊張を緩和し、症状の改善につなげたものと推察される。白木原らは高齢者の腰背部痛は年齢、膝痛、骨塩量、圧迫骨折椎体数、腰椎前弯角、腰仙角、ADL、QOLと関連があることを報告しており6)、指圧治療での腰痛症状の改善により、高齢者のQOLの向上に寄与できる可能性を示唆するものと考えられる。
しかしながら、最も気になる部位のVASは、対象のうちで1名改善が見られなかった。これを単に有害事象として判断できるかは疑問だが、考えられる理由として、南砺市では指圧施術を受けられる場が少なく、日常生活において指圧を受ける機会がないことから刺激過多となってしまったことがあげられる。今回の施術時間は1時間ということもあり、初めて指圧を受ける者には長めであった。今後は対象の受療経験の有無を踏まえ、施術時間を随時変更することも必要であると考えられる。
尚、今回は単回施術の報告であり、経過を追跡することが難しい。そのため、設問5についての考察は見送ることにする。
Ⅴ.結語
富山県南砺市在住の一般市民に対して指圧施術とアンケートを行い、43名中39名で有効回答が得られた。39名中、38名で施術前後の疲労及び痛みのVASに改善が見られた。また、疲労及び痛みを感じる部位で最も多い回答は腰だった。
参考文献
1)衞藤友親,宮下雅俊,石塚洋之 他:東京夢舞マラソン指圧ボランティアアンケート報告,日本指圧学会誌1;p.31-34,2012
2)衞藤友親,永井努,石塚洋之:東京夢舞マラソン指圧ボランティアアンケート報告(第2報),日本指圧学会誌2;p.37-40,2013
3)小松京介,本多剛,大木慎平 他:礫川マラソン指圧ボランティアアンケート報告,日本指圧学会誌5;p.24-27,2016
4)石塚寛:指圧療法学改訂第1版②,国際医学出版,東京,p.78-126,2016
5)厚生労働省HP:平成25年国民生活基礎調査の概況,2013
6)白木原憲明,岩谷力,飛松好子 他:高齢者の腰背部痛と身体,生活および生活の質との関連,日本腰痛学会雑誌;p.65-72,2001
【要旨】
富山県南砺市指圧ボランティアアンケート報告
本多 剛,大木 慎平
平成29年8月5日(土)、富山県南砺市の五箇山合掌の里「合掌造りコテージ」にて指圧ボランティアを行い、南砺市在住の一般市民に対し、痛みや疲労を感じる部位と、全身の疲労度合いの指圧施術前後の変化をアンケート用紙を用いて調査した。指圧を受けた43名のうち、アンケートの有効回答数は39名だった。その結果、痛みや疲労を感じる部位で最も多かったのは腰、肩、膝の順となった。また、全身の疲労度合いは39名中38名で改善がみられた。
キーワード:指指圧、ボランティア、アンケート、中高年、国民生活基礎調査