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指圧とフェルディ式リンパドレナージによる結節性紅斑へのアプローチ:中盛祐貴子

中盛祐貴子
祐泉指圧治療院 院長

An approach to erythema nodosum through Földi method complex physical therapy and Shiatsu therapy: a case report

Yukiko Nakamori

Abstract : A patient with inflammation, joint swelling and edema caused by erythema nodosum, which was triggered by osteoarthritis of lumbar spine, was treated with “Földi method complex physical therapy”, “Shiatsu therapy”, compression therapy and decongestive exercises. The course of treatment was evaluated by circumferences and volumes of four reference points of the left lower extremity. As a result, circumferences and volumes of the two points were decreased. Therefore, medical manual lymphdrainage and Shiatsu therapy combined with compression therapy and decongestive exercises may have a potential to ease edema and accessory symptoms.


I.目的

 「結節性紅斑」とは、皮下の脂肪細胞の炎症 (脂肪織炎)を表す。結節性紅斑は、種々の疾病の免疫反応であり、細菌、ウイルス、真菌などの感染アレルギーが原因と考えられる。このほかに、薬剤によるもの、内臓の悪性腫瘍や、ベーチェット病、結核、サルコイドーシス、クローン病などによるものがある。

 症状としては、両下肢、特に下腿伸筋群に発症しやすい傾向がある。また、大小さまざまの紅斑が発現する。紅斑は皮膚表面から、軽く隆起し、境界は不鮮明である。触れると、熱感があり、深いところにしこりがある。圧迫すると痛みがあり、関節の腫れや紅斑周辺の浮腫が発症する。

 これらの特徴的症状の、疼痛の緩和および浮腫症状の軽減、歩行制限を伴ったADLの改善を目的とする。治療のためのアプローチとして、「フェルディ式複合的理学的療法」と「指圧治療」の両者を採用した。

Ⅱ.対象および方法

【症例】

日時:2012年6月12日〜2013年3月28日
施術対象:73歳男性

 2011年3月に、変形性腰椎症と診断され、腰椎〜仙骨を中心に左右10本のボルトによる固定を目的とした手術を受けた。同年6月に、ボルトによる脊柱起立筋などの周辺組織の炎症反応が悪化したため、ボルトを摘出。再度新しいボルトを固定し直す手術を受けた。

 手術後1年を経過した頃から、左下腿(肝経・脾経に相当)の伸筋群を中心に結節性紅斑が出現。後に、右下腿(肝経・脾経に相当)の伸筋群にも面積は小さいが結節性紅斑が出現した。

 今後、両下肢に、この結節性紅斑が、広がっていかないか不安になり、また日常の歩行が不可能になることを危惧されて、当院を受診する。

【現病歴】

 左右の下腿伸筋群(特に左下腿)に結節性紅斑に伴う、炎症反応、圧痛、むくみを感じ、歩行時など下肢に重だるさや、関節の動きに少し違和感がある。術後の後遺症として、全身の易疲労、下痢、腰痛がある。

 他に糖尿病を既往歴として抱えている。

【初診時の所見】1)

  • シュテンマーサイン …左右第2足趾(+)
  • 圧痕性テスト…左右下腿部(+)
  • 皮膚肥厚チェック …左右足背部(+)
  • 関節可動性 …左右股・膝・足関節ともに可動域制限あり。
  • 皮膚の状態 …左右の下腿伸筋群に浮腫、炎症反応がある。手術の瘢痕は硬い。
  • その他の所見 …下腿に靴下のくい込み痕。

【評価】1)

 左右下腿4点の計測基準点の周囲径計測値および下肢容積の変化を治療前後にて評価

①足背…第2趾爪甲根部より10cm 
②外果…腓骨末端よりはじめ、外果より上点7cm 
③下腿最大…下腿最大点(膝関節を基点に下方に向けて13cm)
④膝点…膝窩の関節裂隙外側

【治療】

 仰臥位にて、左右の下肢浮腫症状を目的とした医療徒手リンパドレナージを20分施療。

 随伴症状に対しては、腰背部、臀部、下肢、肩甲骨および上肢、腋窩部、腹部に重点を置き、浪越式基本指圧を20分施療。同時に患者自身によるスキンケア、弾性包帯による圧迫療法及び圧迫下での運動療法も併せて行う。

ⅰ.結節性紅斑に伴う両下肢の浮腫へのアプローチ1)

※前処置と後処置は施術時間の都合上省略した

《仰臥位にて》

①軽擦
②鼠径リンパ節の処置
③大腿部(前面、外側、後面)
④膝部(膝蓋骨上、内膝、膝窩リンパ節、鵞足)
⑤下腿部(前面、後面)
⑥足関節部(内・外果、足関節上)
⑦足部(足背、足趾、足底)
⑧症状に応じて再度処置
⑨軽擦

ⅱ.指圧療法

《仰臥位》

 リンパドレナージにて誘導されたリンパ液を、乳縻槽に誘導するため、腹部指圧を行う2)。炎症反応や関節拘縮が強い場合は、両下肢の基本指圧を施術し、末梢部に貯留したリンパ液を鼠径部に戻すことを意識して、運動療法も行う。

《横臥位》

 術後の筋緊張を鑑みながら、腰背部、臀部などは入念に行う2)。浮腫症状が強い場合は、腋窩リンパ節への誘導を意識しながら、腋窩、肩甲骨(特に下角)、上肢への施術も行う。時には、鎖骨下リンパ節への誘導として、頚部も施術する。

III.経過

 2012年6月12日〜2013年3月28日までの計92回(1週間に3回)の施術により、両下肢の周囲径および容積の減少、結節性紅斑の炎症反応が軽減、随伴症状(易疲労感、腰痛、下痢など)の改善もみられた。

1.左下腿部の最大減少周囲径と容積の比較

 計92回の施術前後に記録した、左下腿部4点の計測基準点の周囲径計測値を初回計測日から直近の計測日まで各々比較したところ、同日内での治療前後においては、最大減少値が2013年3月2日で下腿最大の部位で-0.5cm、2013年1月12日〜同年3月2日まで時系列の比較では、治療前が足背で-1.2cm、治療後が下腿最大で-0.7cmの改善がみられた。(表1)

 また、左下腿部容積においては、時系列的には480ml以上の容積の減少が常に確認され、2013年1月12日の治療前と、同年3月2日の治療後の容積では580ml以上の減少が確認された。(表2)

 これは、左下腿部で、足部(特に足背部)〜膝部〜鼠径部へのリンパ液の還流、および鼠径〜乳縻槽、鼠径〜腋窩リンパ連絡路への還流が促進され、足部末梢に貯留していたリンパ液の排液が促進されたことをうかがわせる。

2.周囲径計測値の経時的変化

 計92回の施術前後に記録した、左下腿の計測基準点4点の周囲径計測値を、初回測定日から直近の測定日まで、部位ごとの経時的変化に基づき、折れ線グラフで比較した。

2-1.足背部の変化

 初回計測日では、治療後に減少はしたものの、以降の計測日では増加を示した。

2-2.外果部の変化

 初回計測日から直近の計測日まで、治療後に減少があり、特に直近の計測日で顕著に認められた。

2-3.下腿最大部の変化

 初回計測日から直近の計測日まで、治療後にほぼ同じ減少値が認められた。

2-4.膝点部の変化

 初回計測日から治療後に、順次減少がみとめられたものの、直近の計測日で増加を示した。

3.下肢容積値の経時的変化

 周囲径計測値をもとに、左下腿の容積値を表3にて計算し、その結果を経時的に比較してみた。治療後では必ず容積値の減少が認められ、特に初回計測日において最大減少値を示した。

4.初回計測日と直近計測日との両下肢の比較

 初回計測日と直近計測日に撮影した写真の比較では、直近計測日の方が、下腿全体の膨らみが縮小されて、特に伸筋群や腓腹筋、足関節の浮腫が顕著に改善されている様子が分かる。特に左下腿の比較では、結節性紅斑による発赤などの炎症反応を起こしている皮膚の面積が、減少し、下腿全体の色味が本来の皮膚の色に回復してきている様子が分かる。また結節性紅斑の赤味を帯びた色から、黒味を帯びた色への色調の変化も観察された。(図6〜図9)

IV.考察

 結節性紅斑という、臨床的には大変珍しい症例であったが、当症例の場合、原因が不明で発症したこともあり、患者本人が抱える不安は相当なものであったと推察される。

 結節性紅斑の症状緩和のためには、下肢を動かさずに安静にすること。術後の変形性腰椎症に対しては、歩行訓練を推奨され、この矛盾した現状を抱えて、日常の歩行が困難になることを最も患者はじめ家族は危惧した。

 今回の浮腫症状の改善に最も力を発揮したのは、弾性包帯(チューブ包帯)3)による圧迫療法※1である(図10、図11)。同時に、医療徒手リンパドレナージと指圧治療による複合的な施療は、炎症反応の改善や膝・足関節の可動域の拡大に大きく効果をもたらした。

 浮腫症状の軽減は、弾性包帯による圧迫療法および圧迫下での運動療法※2を開始した2012年12月以降に、劇的な変化および改善を示した。現在もその効果は維持されている。

 このように、医療徒手リンパドレナージと指圧治療に加えて、圧迫療法および圧迫下での運動療法を日々の生活に取り入れることで、浮腫症状のみならず、患者自身のADLも高めていける可能性を示唆した。

※1圧迫療法1)

【弾性包帯】日々の状況に応じて巻き直すことができるため、「治療」を目的に行う。
【弾性着衣】治療により改善された状態の「現状維持」または「症状の進行予防」のため着用する。
【段階的な圧バランス】組織間液を中枢方向へ誘導しやすい状態をつくるため、患肢末梢から中枢端に向かい、圧を徐々に緩めていくように調整する。 

※2圧迫下での運動療法

 まずは、簡単な関節の屈伸運動から始めて、徐々に全身を動かしていく。疲れすぎない程度に楽しみながら、継続していける内容が望ましい1)。今回の患者さんには、自宅内での下肢ストレッチや歩行訓練、デイサービス利用時の機能訓練実施時に、弾性包帯の着用を薦めた3)

V.結論

 医療徒手リンパドレナージと指圧治療を複合的に施療しながら、同時に圧迫療法および圧迫下での運動療法を併用することにより、結節性紅斑に伴う浮腫の症状および随伴症状を軽減できる可能性がある。

VI.参考文献

1) 特定非営利活動法人 日本医療リンパドレナージ協会:【臨床総論】「臨床の記録 予診表、所見、周囲径計測表」4〜6、【医療リンパドレナージの実際(基礎編)】「基礎マッサージ・鼠径リンパ節および下肢」16〜17、【臨床各論】「続発性下肢リンパ浮腫の処置」17〜18、「その他の浮腫」28〜30、【圧迫療法】「圧迫療法」1、「弾性包帯」2〜3、【運動療法】1〜3医療リンパドレナージセラピスト初級・中級講習会配布資料、2010 
2) 石塚 寛:指圧療法学,p.150-166, 182, 国際医学出版, 東京, 2008
3) 小川佳宏、佐藤佳代子 共著:浮腫疾患に対する圧迫療法 複合的理学療法による治療とケア, p.54-55, 65-70, 77-80, 150-153, 156-163, 文光堂, 東京, 2008
4)T.Yamamoto.et al:Lymphology,41; p.80-86, 2008
5) Casley-Smith JR:Lymphology,27;p.56-70, 1994


【要旨】

指圧とフェルディ式リンパドレナージによる結節性紅斑へのアプローチ
中盛祐貴子

 変形性腰椎症が引き金となり発症した、結節性紅斑により引き起こされる炎症反応や関節の腫脹、浮腫症状をもつ患者に対し、「フェルディ式複合的理学療法」と「指圧治療」の両者を併用して施療を行ない、加えて圧迫療法と圧迫下での運動療法を行なった。これらを左下肢4点の計測基準点の周囲径計測値および下肢容積の変化で評価した。その結果、2点の周囲径計測値と容積が減少した。よって、医療徒手リンパドレナージと指圧治療を複合的に施療した上で、圧迫療法と圧迫下での運動療法を加えることにより、結節性紅斑による浮腫症状および随伴症状を軽減できる可能性がある。

キーワード:結節性紅斑、浮腫、リンパドレナージ、指圧、圧迫療法