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ロコモティブシンドローム予防のために〜 運動実践へ向けたトランスセオレティカルモデル(TTM)の活用 〜:黒澤一弘

黒澤一弘
日本指圧専門学校専任教員

Prevention of Locomotive Syndrome
– Trance Theoretical Model (TTM) for Physical Activity in Practice –

Kazuhiro Kurosawa

Abstract : Regular exercise is the most effective way to prevent locomotive syndrome. Here we discuss basic knowledge about locomotive syndrome and a psychological approach which encourages patients to exercise regularly.


I.健康寿命をのばすには

-関節・運動器疾患の予防の重要性-

 2012年の日本人の平均寿命は男女ともに前年より延び、女性は0.51歳延びて86.41歳、男性は0.50歳延びて79.94歳となった(図1)1)。女性は2年ぶりに世界1位の座に返り咲き、男性も過去最高を記録した。

図1.日本人の平均寿命の推移図1.日本人の平均寿命の推移1)

 しかし、日常生活を健康的に制限なく生活できる健康寿命は女性で73.62歳、男性で70.42歳2)であり、平均寿命と健康寿命の差は女性では約12年、男性では約9年以上となっている(図2)。この期間は日常生活に制限のある「不健康な期間」であり、要支援や要介護を必要とする期間が含まれる。

図2.平均寿命と健康寿命の差(2010年)図2.平均寿命と健康寿命の差(2010年)

 また、要支援・要介護となる原因をみた場合、 要介護ではに脳卒中の割合が24.1%と最も多いが、要支援では関節疾患と骨折・転倒を合わせた運動器疾患が32.1%と最も多くなっている。(図3)3)。従って、要支援状態となることを防ぐには運動器疾患の予防が重要となる。

図3.要支援・要介護の原因における 運動器疾患の割合(2010年)図3. 要支援・要介護の原因における運動器疾患の割合(2010年)

Ⅱ.ロコモティブシンドロームの基礎知識

II-1.ロコモティブシンドロームとは

 ロコモティブシンドローム(ロコモ)は運動器症候群とも言われ、加齢に伴う筋力の低下や関節疾患、骨粗鬆症などにより、運動器の機能が低下して、要介護や寝たきりとなるリスクが高い状態を示している4)。予防医学を促進する観点から、2007年に日本整形外科学会が提唱した症候群で、厚生労働省の施策のもと予防啓発が行われている。

II-2.ロコチェックとロコトレ

 ロコモティブシンドロームが提唱された主要コンセプトは、高齢者自らによるセルフチェックとセルフトレーニングである。一般の方々が簡便に日常生活の状況から運動機能を自己評価し、予防・改善の対策をたてるという目的で7つの質問からなる「ロコモーションチェック(ロコチェック)」が設定された5)。ロコチェックの7つの項目すべてが運動器の機能低下を示しており、少なくともひとつ当てはまる項目があった場合に「ロコモ」である可能性がある5)。

図 4. ロコチェック図 4. ロコチェック

 運動機能の低下が認められる高齢者では、下肢筋力が弱く、片足立ち時間が短いという特徴がある。よってロコチェックで陽性となった対象者が行うセルフトレーニングとして片足起立訓練とスクワットを中心とした「ロコモーショントレーニング(ロコトレ)」が推奨されている5)。ロコモパンフレットでは、「ロコトレはたった2つの運動です。毎日続けましょう!」と記載されている。安全性の高い簡便な方法で、高齢者が毎日続けられることを目的としたトレーニングである。

図5.ロコトレ図5.ロコトレ

II-3.ロコモ度テスト

 「(7つの)ロコチェック」は、ロコモの危険性に気付く簡便な自己チェックのツールとして広く活用されてきたが、一方で国民全体の運動器の健康を目指すために、より幅広い年齢層に対して、現在または将来のロコモの危険性を判定するための指針が必要とされ、日本整形外科学会は2013年に新たに20代から70代までの世代ごとのロコモの危険性を判定する方法として、「ロコモ度テスト」5)を策定した。

 ロコモ度テストは、①立ち上がりテスト(下肢筋力)、②2ステップテスト(歩幅)、③ロコモ25(身体状態・生活状況の評価)の3つのテストを行い、その結果を年齢平均値と比較することにより、年齢相応の移動能力を維持しているかを判定する。もし年齢相応の移動能力に達していない場合、将来ロコモになる危険性が高いと考えられる。

①立ち上がりテスト

 片脚または両脚で立ち上がる脚力を測定。

■立ち上がりテストの測定方法

図6.立ち上がりテスト図6.立ち上がりテスト

  1. 10、20、30、40cmの台を用意する。まず40cmの台に両腕を組んで腰かける。このとき両脚は肩幅くらいに広げ、床に対して脛(すね)がおよそ70度(40cmの台の場合)になるようにして、反動をつけずに立ち上がり、そのまま3秒保持する。
  2. 40cmの台から両脚で立ち上がれたら、片脚でテストをする。(1)の姿勢に戻り、左右どちらかの脚を上げる。このとき上げたほうの脚の膝は軽く曲げる。反動をつけずに立ち上がり、そのまま3秒保持する。
  3. (2)で左右ともに片脚で立ち上がることができれば、成功とみなす。
  4. (2)で左右どちらかの脚で立ち上がることができない場合、失敗とみなす。10cmずつ低い台に移り、両脚で立ち上がれるかを測る。

※無理をしないように気をつける。
※膝に痛みが起きそうな場合は中止する。
※反動をつけると、後方に転倒する恐れがある。

■立ち上がりテストの判定方法 

 測定結果を各年代での立ち上がれる台の高さの目安(表1)と比較し、同等もしくはそれより良い場合は年代相応の脚力を維持していると判定する。また立ち上がり能力によるスポーツレベルを図8に示した6)。

表1.各年代での立ち上がれる台の高さの目安表1.各年代での立ち上がれる台の高さの目安

図7.各年代での立ち上がれた台の高さの割合図7.各年代での立ち上がれた台の高さの割合

図8.立ち上がり能力によるスポーツレベル図8.立ち上がり能力によるスポーツレベル

②2ステップテスト 

 歩幅を測定することで、歩行能力を判定する。歩幅は歩行速度に密接に関係しているため、歩幅の現象は歩行速度の低下を意味する。

■2ステップテストの測定方法 

  1. スタートラインを決め、両足のつま先を合わせる。
  2. できる限り大股で2歩歩き、両脚を揃える。(バランスをくずした場合は失敗とする。)
  3. 2歩分の歩幅(最初に立ったラインから、着地点のつま先まで)を測る。
  4. 2回行って、良いほうの記録を採用する。
  5. 以下の計算値で2ステップ値を算出する。2歩幅(cm)÷身長(cm)=2ステップ値

※介助者のもとで行う。
※滑りにくい床で行う。
※準備運動をしてから行う。
※バランスを崩さない範囲で行う。
※ジャンプしてはならない。

図9. 2ステップテスト図9. 2ステップテスト

■2ステップテストの判定方法 

 2ステップ値が世代別平均値(表2)の範囲内かそれより良い場合は年代相応の歩幅を維持しているが、平均値より低下している場合は年齢相応の歩行能力が保たれていない可能性が高い。

表2.2ステップテスト値の世代別平均値表2.2ステップテスト値の世代別平均値

■2ステップテストと日常生活自立度の関係 

 障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準(表3)を以下に示す7)。

表3.障害高齢者の日常生活自立度判定基準表3.障害高齢者の日常生活自立度判定基準

 村永ら8)によれば、2ステップ値と日常生活自立度の関係で、公共交通機関を自立して利用できるJ-1群では2ステップ値は1.26±0.20(n=166)、隣近所の歩行自立のJ-2群では0.76±0.23(n=21)、さらに外出に介助を要するA-1群では0.52±0.20(n=16)となり、2ステップ値の低下が日常生活自立度の低下と有意に結びついていることが示されている。

図10.2ステップ値と日常生活自立度の関係図10.2ステップ値と日常生活自立度の関係

 また2ステップテストの値は10m歩行速度や6分間歩行距離とも有意な正の相関が示されており8)、診療室や在宅といった狭い空間でも歩行能力を簡便に推定できることが確認されている。この評価を用いることで、自立した生活を維持するための指導に役立てることができる。

③ロコモ25 

 ロコモ25は1ヶ月間の間の身体の痛みや日常生活で困難なことを聞く25問よりなる自記式質問表で、原則として本人が記入する。また、普段行っていない事項については、仮に行うとすればどうであるかで回答してもらう。たとえば、電車やバスを全く使用していない場合には、使用した場合を想定した回答を記入してもらうことで、回答の欠損がないように留意する。

図11.ロコモ25図11.ロコモ25

■ロコモ25の判定方法 

 各回答の左端から0点、1点、2点、3点、4点とし、25問の回答結果を単純加算する。障害なし0点−最重症100点となる。ロコモ25の合計点が各年代の平均値(図12)の値に入っている場合、及びそれより良い場合、年代相応の身体の状態、生活状況であると判定する。

 また、16点以上はロコモと判定できるカットオフ値である。このロコモ25の結果は統計解析に使用でき、介入研究の効果判定ツールとしても使用できる。

図12.ロコモ25の年代別平均値図12.ロコモ25の年代別平均値

 以上の3つのロコモ度テストの結果で、1つでも年代相応の平均に達しない場合は、将来ロコモとなる可能性が高いと考えられる。

■ロコモ度テストの参考WEBサイト 

 ①立ち上がりテストや、②2ステップテストの動画や資料などはロコモチャレンジ!推進協議会のサイトで閲覧できる。また③ロコモ25の質問がブラウザでオンラインでチェックでき、すぐに判定できるので簡便に利用できる。

ロコモ25|ロコモチャレンジ! 
https://locomo-joa.jp/check/test/

 また、日本運動器科学会のサイトでは、ロコモ25の質問紙をダウンロードでき、またエクセルによる点数計算表も公開されている。

日本運動器科学会 
http://www.jsmr.org/news.html

III.健康日本21(第二次)と身体活動基準2013に基づいた運動指導について

III-1.健康日本21とは

 厚生労働省は2000年に「21世紀の我が国を、すべての国民が健やかで心豊かに生活できる活力ある社会とする」ことを目的に「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」を作成した。これには「栄養・食生活」、「身体活動・運動」、「休養・こころの健康づくり」、「たばこ」、「アルコール」、「歯の健康」、「糖尿病」、「循環器病」、「がん」について70項目にわたる具体的な数値目標を設定されている。さらに健康日本21を推進していくための法的整備として2002年に「健康増進法」が制定された。この健康日本21の2010年までの成果を評価した上で、厚生労働省は次期健康づくり運動である「健康日本21(第二次)」を2013年4月にスタートさせた。ロコモティブシンドロームの予防の重要性が認知されれば、個々人の行動変容が期待でき、国民全体としての運動器の健康が保たれ、介護が必要となる国民の割合を減少させることが期待できるという観念から、ロコモティブシンドロームを認知している国民の割合を増加させることが「健康日本21(第二次)」の具体的な数値目標として設定された10)。

 また、この「健康日本21(第二次)」を達成するためのツールとして、厚生労働省から2013年3月に「健康づくりのための身体活動基準2013」および「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」が発表された11)。身体活動基準2013では身体活動の増加でリスクを低減できるものとして、従来の糖尿病・循環器疾患に加えて、がんやロコモティブシンドローム・認知症が含まれることが明確化されている。また、子供から高齢者までの身体活動の基準が検討され、保健指導で運動指導を安全に推進するために具体的な判断・対応の手順が示されている。

表4.身体活動基準2013の概要表4.身体活動基準2013の概要

III-2.健康づくりのための身体活動基準2013

 将来、生活習慣病や運動器の不調のリスクを低減させるために、個人にとって達成することが望ましい身体活動の基準が定められている(表4)。以下、年齢別にこの数値の具体的な根拠などについて記す12)。

■18〜64歳の基準 

①身体活動量の基準(日常生活で体を動かす量の考え方)

『強度が3メッツ以上の身体活動を23メッツ・時/週行う。 具体的には、歩行又はそれと同等以上の強度の身体活動を毎日60分行う。』

 日本人の身体活動量の平均は概ね15〜20メッツ・時/週であるが、この身体活動量では生活習慣病および生活機能低下のリスク低減の効果は統計学的に確認できなかった。一方、身体活動量が22.5メッツ・時/週より多い者では、生活習慣病および生活機能のリスクが有意に低かった12)。

図14.生活活動のメッツ表図14.生活活動のメッツ表

②運動量の基準(スポーツや体力づくり運動で体を動かす量の考え方)

『強度が3メッツ以上の運動を4メッツ・時/週行う。具体的には、息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分行う。』

 少なくとも2.9メッツ・時/週の運動量があれば、ほぼ運動習慣のない集団と比較して、生活習慣病および生活機能低下のリスクは12%低かった。また10.6メッツ・時/週の運動量ではリスクは14%低下し、31.3メッツ・時/週の運動量ではリスクは18%低下することが示されている12)。

図13.運動のメッツ表図13.運動のメッツ表

③体力(うち全身持久力)の基準

『下表に示す強度での運動を約3分継続できた場合、基準を満たすと評価できる。』

体力(うち全身持久力)の基準表中の()内は酸素摂取量(VO2)を示す

 生活習慣病および生活機能低下のリスクの低減効果を高めるには、身体活動量を増やすだけでなく、適切な運動習慣を確立させ体力を向上させる取り組みが必要である。

 この全身持久力に関する基準値により現在の体力の評価を行うことができる。10.0メッツの強度の運動(ランニングなら10km/時)の速度で3分間以上継続できるのであれば、「少なくとも40〜59歳男性の基準値に相当する全身持久力がある」とい判断できる。

 また、また全身持久力を増加させるためには、基準値の50〜75%の強度の運動を習慣的に(1回30分以上、週2日以上)行うことが効率適である。この基準値を用いることで至適なトレーニング強度の設定が容易となる。例えば、50歳の男性の場合、5メッツ(10.0メッツの50%)を推奨することができる。

※ 最大酸素摂取量(VO2max):全身持久力の体力指標となり、単位時間あたりに生体が酸素を取り込むことができる最大量。この値が大きいほど「全身持久力が優れている」と評価され、単位時間あたり体重1kg当たりの酸素摂取量で評価する。最大酸素摂取量(VO2max)はトレッドミルなどを利用して負荷を上げていき、計測するが。3分程度全力で継続して疲労困ぱいになるような運動中に最大酸素摂取量が観察されることが多いが、あくまで測定上の指標であり、望ましい運動量の目標値でないことに注意する。

※ メッツは安静時における酸素摂取量(3.5ml/kg/分)を1メッツとし、この2倍を2メッツ、3倍を3メッツとする。

■65歳以上の基準

『強度を問わず、身体活動を10メッツ・時/週行う。具体的には横になったままや座ったままにならなければ、どんな動きでもよいので、身体活動を毎日40分行う。』

 65歳以上を対象とした調査で、3メッツ未満も含めて身体活動量が10メッツ・時/週の群では、最も身体活動量の少ない群と比較して、リスクが21%低かった。高齢者がより長く自立した生活を送るためには、運動器の機能を維持する必要がある。高齢者は骨粗鬆症による易骨折性と変形性関節症による関節の障害が合併しやすく、またロコモティブシンドロームやサルコペニア(加齢に伴う筋量・筋力の減少)により要介護状態となるリスクが高まることが指摘されている。これらは加齢を基盤に、身体活動不足が寄与していることから、高齢者においては特に、身体活動不足に至らないように注意する基準が必要として作成された12)。

 なお、本基準は高齢者の身体活動不足を予防することを主眼において設定されたものであるが、可能であれば高齢者においても3メッツ以上の運動を含めた身体活動に取り組み、身体活動量の維持向上を目指すことが望ましい。

3メッツ未満の生活活動・運動の例

  • 皿洗いをする(1.8メッツ)
  • 洗濯をする(2.0メッツ)
  • 立って食事の支度をする(2.0メッツ)
  • こどもと軽く遊ぶ(2.2メッツ)
  • 時々立ち止まりながら買い物や散歩をする(2.0〜3.0メッツ)
  • ストレッチングをする(2.3メッツ)
  • ガーデニングや水やりをする(2.3メッツ)
  • 動物の世話をする(2.3メッツ)
  • 座ってラジオ体操をする(2.8メッツ)
  • ゆっくりと平地を歩く(2.8メッツ)

■全ての世代に共通する方向性 

①身体活動の方向性

『現在の身体活動量を、少しでも増やす。例えば、今より毎日10分ずつ長く歩くようにする。』

 身体活動量と生活習慣病および生活機能低下のリスクとの量反応関係を解析した結果によると、身体活動量が1メッツ・時/週増加するごとに、リスクが0.8%減少することが示唆された。これは1日の身体活動量の2〜3分の増加により0.8%、10分で3.2%のリスク軽減が期待できる。

 身体活動量は個人差が大きく、現在の身体活動量が少ない人に対して、直ちに身体活動量23メッツ・時/週という基準を達成することを求めるのは現実的ではなく、むしろ身体活動に対する消極性を強めてしまう可能性も考えられる。よって科学的根拠に基づく量反応関係を基準として、個人差に配慮し当項目が設定された。特に歩数は日常的に測定評価できる身体活動量の客観的指標であり、歩数の増加が健康日本21(第二次)の目標項目として設定されていることも踏まえ、「今より毎日10分ずつ歩くようにする」と表現された。

②運動の方向性

『運動習慣をもつようにする。具体的には、30分以上の運動を週2回以上行う。』

 運動習慣をもつことで、生活習慣病や生活機能低下のリスク低減効果が高まるのみならず、全身持久力や体力の維持向上、また高齢者においてはロコモティブシンドロームや軽度認知障害の改善が期待できるとの科学的根拠を踏まえて、全ての世代において運動習慣を有することが望ましい。また他の運動実践者を見かける機会が多いと、自らの運動の実践にもつながりやすく、運動習慣を有する者が家族や職場の同僚などを運動の実践に誘うという好ましい影響もある。

III-3.運動指導の可否を判断する際の留意事項

 心臓疾患や脳卒中、腎臓疾患等の重篤な合併症がある患者では、メリットよりもリスクが大きくなる可能性がある。具体的なリスクとしては、過度な血圧上昇、不整脈、低血糖、血糖コントロールの悪化に加え、心不全、脳卒中等の生命に関わる心血管事故が挙げられる12)。

 したがって、生活習慣病患者が積極的に身体活動を行う際には、かかりつけの医師などに相談し、生活習慣の改善に取り組みつつ、必要に応じて薬物療法を受ける必要がある。  ここでは、血糖・血圧・脂質のいずれかについて保健指導判定値以上であったが、すぐには受診を要しないレベル(保健指導レベル)の対象者に対して運動指導を行う際に留意すべき事項とその判断の手順を示す。

【手順1】

 対象者が現在、定期的に医療機関を受診しているかどうかを確認する。受診している場合には、身体活動(生活活動・運動)に際しての注意や望ましい強度などについて、かかりつけの医師に相談するよう促す。

【手順2】

 定期的に受診している医療機関が無い場合、対象者に「身体活動のリスクに関するスクリーニングシート」(図15)に回答してもらい、身体活動に伴うリスクを確認する。対象者がこれらの項目に1項目でも該当した場合は、得られる効果よりも身体活動に伴うリスクが上回る可能性があることを伝え、積極的に身体活動に取り組む前に医療機関を受診するよう促す。

【手順3】

 手順2でスクリーニング項目のどの項目にも該当しない場合、対象者に「運動開始前のセルフチェックシート」(図16)について説明する。

【手順4】

 対象者が注意事項の内容を十分に理解したことを確認できれば、運動指導の実施を決定する。

図15.身体活動のリスクに関するスクリーニングシート図15.身体活動のリスクに関するスクリーニングシート

図16.運動開始前のセルフチェックシート図16.運動開始前のセルフチェックシート

III-4.身体活動を安全に取り組むために

 身体活動は、その取り組み方が適切でなかった場合、様々な傷害を発生したり疾病を発生したりする可能性がある。ここで身体活動を安全に取り組むための留意事項を挙げる。 

①服装や靴の選択

 暑さや寒さは、熱中症などに代表される身体活動に伴う事故の要因となるため、温度調節がしやすい服装が適している。また、動きにくい服装は転倒しかけたときに回避しにくいため適切でない。また膝痛や腰痛を予防するために、緩衝機能にすぐれ、身体活動に適した靴を履くことが望ましい。 

②前後の準備・整理運動の実施方法の指導

 身体活動の特性や、対象者の特性を考慮して計画された準備運動はスポーツ等の運動による傷害や心血管事故の発生を予防する効果がある。また、運動後の整理運動は、疲労を軽減し、蓄積を防ぐ効果などがある。 

③種類・種目や強度の選択

 身体活動の内容は、血圧上昇が小さく、エネルギー消費量が大きく、かつ傷害や事故の危険性が低い有酸素運動が望ましい。また運動器の機能向上を目的とする場合は、筋や骨により強い抵抗や刺激を与えるストレッチングや筋力トレーニングを組み合わせることが望ましい。 

 高齢者や生活習慣病患者などに対して身体活動の取り組みを支援する場合には、3メッツ(散歩)程度で開始する。 

 強度の決定はメッツ値だけでなく、対象者本人にとっての「きつさ」の感覚、すなわち自覚的運動強度(Borg指数)も有用である。高齢者や生活習慣病患者では、「楽である」〜「ややきつい」と感じる程度の強さの身体活動が適切であり、「きつい」と感じるような身体活動は避けたほうが良い。また、Borg指数は年代別の脈拍数で定量化できるので、脈拍数の簡便な測り方とともに、対象者にあらかじめ解説しておくと有用である。ただし年齢別の脈拍数は個人差があること、薬剤によって修飾を受けている可能性があることに留意する。 

表5.Borg指数と脈拍数の目安表5.Borg指数と脈拍数の目安

 

④正しいフォームの指導 

 身体活動は正しいフォームで実践しないと、思わぬ傷害や事故を引き起こす可能性がある。指導者は基本的なフォームを見せたり、留意点を確認させたりする実技を通して指導することが望ましい。 

⑤足腰に痛みがある場合の配慮 

 平成22年の国民生活基礎調査によると「腰痛」と「手足の関節の痛み」は65歳以上の高齢者で男女とも有訴者率の上位3位以内にある。また肥満等によって30〜50歳代からこうした自覚症状を有していることも少なくない。このような対象者に対しては、水中歩行や自転車運動など、体重の負荷が下肢にかかりすぎない身体活動から取り組むと良い。また身体活動によって実際に下肢や腰の痛みを感じた歳の適切な対応(速やかに患部を冷やす等)についても習得した上で、身体活動に取り組めるよう支援する。 

 また痛みのある部位やその周囲を中心にストレッチングや筋力トレーニングを行うことで、痛みが改善することが期待されるため、そうした情報提供を含めて支援することが重要である。 

⑥身体活動中の体調管理 

 身体活動の実施中は「無理をしない。異常を感じたら運動を中止し、周囲に助けを求める」ことを対象者に徹底する。支援者が身体活動の場に立ちあう場合は、身体活動中の対象者の様子や表情などをこまめに観察することが望ましい。 

⑦救急時のための準備 

 支援者は運動指導の現場における身体活動の際の障害や事故の発生に備えて、救急処置のスキルを高めておく必要がある。 

■もしも運動中に人が倒れたら 

 BLSはBasicLifeSupport(一次救命処置)の略称で、急に倒れたり、窒息を起こした人に対して、その場に居合わせた人が、救急隊や医師に引き継ぐまでの間に行う応急手当のこと。脳には酸素を蓄える能力がなく、心臓が止まってから短時間で不可逆的な障害となる。BLSは脳への酸素供給維持を目的としている。2分以内に心肺蘇生が開始された場合の救命率は90%程度あるが、4分では50%、5分では25%程度に減少する。  素早く質の高い応急処置は予後を向上させる。また救命の連鎖(通報、心肺蘇生、除細動、病院で二次救命処置)がつながることが重要である。

図17.BLS(一次救命処置)の手順 特定保健指導における運動指導の安全対策より図17.BLS(一次救命処置)の手順 特定保健指導における運動指導の安全対策より

 

III-5.アクティブガイド(健康づくりのための身体活動指針)

 科学的な研究成果をもとに策定された「健康づくりのための身体活動基準2013」の内容を広く国民に伝えるために、厚生労働省が公表したガイドラインとしてアクティブガイド(健康づくりのための身体活動指針)がある。必要な身体活動量の目標をわかりやすく示すとともに、その達成と普及のために、「今より10分多く、毎日からだを動かす:+10(プラス・テン)する」ことを呼びかけている13)。

図18.+10から始めよう図18.+10から始めよう

 健康づくりのための身体活動基準2013における全ての世代に向けた「現在の身体活動量を、少しでも増やす。例えば、今より毎日10分ずつ長く歩くようにする。」という指針を基本として、各年代での身体活動基準値が分かりやすく表記されている。  また、「あなたは大丈夫?健康のための身体活動チェック」は、アセスメントベース特定健診の標準的質問表をもとに、個々人の状況に合わせたアドバイスがなされている。 

 「健康のための一歩を踏み出そう!1.気づく!2.始める!3.達成する!4.つながる!」の部分は、行動変容理論やソーシャル/キャピタルの考え方を元にしている。

 紙面全体を通して、大変親しみやすい構成となっているので、ロコモティブシンドローム予防のための介入を行う場合に、大変有用であると思われる。

図19.アクティブガイド(健康づくりのための身体活動指針)図19.アクティブガイド(健康づくりのための身体活動指針)図19.アクティブガイド(健康づくりのための身体活動指針)

IV.運動嫌いな人に運動をしてもらうにはどうしたらいいか
-行動変容を促す効果的な心理学的介入についての考察-

 ロコモティブシンドロームの予防、改善には運動をしてもらうことが最も効果的な対策である。では、ロコモ予防のために「運動をしてください」、「さぁ、今すぐやってみましょう」と言っても、ほとんどの人は、行動を変えようとしない。時にクライアントから「そんなこと言われなくても解っている。うるさい。」などと思われることもありうる。 

 すべての人は、現在の行動を変えるにあたって、レディネス(準備性)の水準が異なっている。人々のレディネスの水準を考慮しながら、適切なアドバイスをしていくことが効果的であると思われる。 

IV-1.行動変容のトランスセオレティカル・モデル(TTM)とは

 Prochaskaらにより開発された行動変容のトランスセオレティカルモデル(Transtheoreticalmodel:以下TTM)は変化に対する個人のレディネス(準備性)を評価し、その人に適した介入プログラムを提供する。TTMは行動変容の5つのステージに対して、10の変容プロセス(介入)を用いて働きかけ、意思決定のバランスやセルフエフィカシー(自己効力感)を変化させることで行動変容を起こさせる。そしてそれを持続させるための方法として広く知られている。 

①5つの変容ステージ 

 変容ステージ(表6)はTTMの中心的な構成要素である。これは過去および現在における実際の行動とその行動に対する準備性(レディネス)を合わせ持った概念である16)。

表6.変容ステージ表6.変容ステージ

1.無関心期

『私は現在、運動をしていない。またこれから先(6ヶ月以内)もするつもりはない。』

  • 「無関心期」は、近い将来に行動を変容する意図がない段階である。この段階の人々は、運動不足に対する長期的な結果を認識していないか、考えないようにしていることが多い。 
  • 運動を行うことは不要、あるいは運動を行うことは不可能と感じている場合が多いため、非常に安定的で変容しにくい段階である。

2.関心期

『私は現在、運動をしていない。しかし、これから先(6ヶ月以内)に始めようとは思っている。』

  • 「関心期」の特徴としては、運動をすることの恩恵は気づいているが、運動に伴う負担も大きく感じていることが多い。すなわち、運動を行うことが望ましいと感じているものの、これまでの習慣も捨てがたく躊躇している状態で、実際に運動を始めるかどうかで迷っている段階ととらえられる。 
  • このステージの人は、運動を始めることで自分に起こりえるであろう短期的、および長期的結果について質問し始める傾向が強い。

3.準備期

『私は現在、運動をしている。 しかし、定期的ではない。』

  • 「準備期」は、今すぐ(1ヶ月以内)にも運動を始めようと意図している段階、もしくは、徐々に運動を始めた段階である。 
  • この段階の人々は、運動や身体活動に関する情報を得ようと積極的に努力したり、健康関連のイベントに実際に参加してみようと試みたりするのが特徴である。 
  • しかしながら、健康面での恩恵を得られる水準に達していないため、必ずしも運動に伴う肯定的な結果が得られていない場合も多い。

4.実行期

『私は現在、定期的に運動をしている。 しかし、始めてからまだ間もない(6ヶ月以内)。』

「実行期」では、健康への恩恵を得る水準で運動を行い始めたが、まだ6ヶ月経っていない段階である。この段階では、運動を行うことでの恩恵が負担を上回り、運動に伴う効果を確認しているものの、様々な障害に直面した場合に、運動習慣を中断したり、逆戻りしてしまうことが多い。 

5.維持期

『私は現在、定期的に運動をしている。 また、長期(6ヶ月以上)にわたって継続している。』

  • 「維持期」では、運動を行うことが、個人のライフスタイルの一部として習慣化しているために、健康に対する信念が高くなっている。 
  • 運動を維持していくための様々な障害を克服しており、運動をつづけることができるという自信が高く、運動習慣を中断することが比較的低い。 
  • しかし、まだ逆戻りの危険性はあるので、注意が必要である。 

②10の変容プロセス 

 変容プロセスは、「認知的プロセス」と「行動的プロセス」に大別される(表7)。行動変容のステージに沿った変容プロセスの過程を理解することで、より具体的かつ効果的なアドバイスを提案できる。また、クライアントが現在、どの変容プロセスを重視しているかを得点化する変容プロセス尺度を表8に示した。 

表7.変容プロセス表7.変容プロセス

表8.変容プロセス尺度表8.変容プロセス尺度

 

-認知的プロセス- 

1.意識の高揚

「知識を増やすこと」…ははーん
具体的には、健康行動について新しい情報を探そうと努力したり、より深く理解することに興味を持つこと。

 この変容プロセスを使用している人は、それぞれの行動が、自己と他者に与える影響力をよりよく理解するために、現在の行動についての情報を得ることに興味を示す。その目標は、運動不足が続くと、将来どのようなことが起こるかということについての気づきを増加させることである。例えば、ロコモについて不安を抱いている人は、アクティブガイドに興味を示すだろう。

2.ドラマティックリリーフ 

「リスクを予告すること」…どきり!
行動変容の動機づけとなるような、様々な情動的反応。感情の経験。

 このプロセスは、その人が変化させようとしている行動に対する直接的な情動的反応を通して、変化を行ないやすくするプロセスである。 運動不足が続くと健康に悪いという警告が心に影響を与えて、時に運動不足による弊害の劇的な描写により感情的な反応を示す。例えば、日頃運動不足を感じ、そろそろ運動を何か始めようと思っている人の同僚が運動不足が一つの要因となり心筋梗塞を起こしたことを知るような場合である。このような情動的経験は、定期的な運動習慣を採択しやすくする。 

3.自己再評価 

「恩恵を理解すること」… 自分のイメージ
行動を変容することで、自分にどのような影響が起こり、生活がどのように変化するのか考えること。

 人は、このプロセスを使用して、その行動の影響力について、認知的、あるいは情動的評価を通して変化を起こしていく。例えば、運動を行なっていない人が、運動不足が自分の生命にどのような影響を与え、運動を習慣とした場合に、自分の身体や生活がどのように変化するのかを考え始めるなどである。 

4.環境的再評価 

「他者にとっての重要性へ気づくこと」… 周りはどうなるか?
行動変容を始めることにより、周囲にどのような影響を及ぼすかについて考えること。

 このプロセスは自己再評価と似ているが、その行動について、自分自身ではなく、自分の周りの環境に与える影響を評価し始める。例えば、運動不足が要因となり要介護になった場合に家族に与える影響などを考慮することなどがある。

5. 社会的解放

「健康的な機会を増やすこと」… どこでなにがあるか
行動変容の促進のために、社会がどのように進んでいるのか理解したり、利用について考えること。

 このプロセスは、社会の風潮が、運動不足の影響をなくすように、より健康的なライフスタイルを促進させるように動いていることを認識することである。例えば、国が推進している健康日本21などである。そしてこの変容プロセスを使用する人は、社会の風潮にそった行動変容を行なう理由や利得を理解するであろう。

-行動的プロセス-

6. 反対条件づけ

「代わりを選択すること」… かわりに
不健康な行動や考え方をより健康的なものに置き換えること。

 この変容プロセスを使用している人は、現在の運動不足に代えて、健康的な行動を行なう方法を積極的に模索している。例えば、エレベーターを使う代わりに、階段を使うなどがあげられる。

7. 援助関係

「社会的支援を獲得すること」… 応援して!
行動変容を行っている最中に、気づかってくれる他者のサポートを利用する。

 援助関係は、友人や愛する人、家族、医師、セラピストなどからの気遣いや援助を受け取ることである。

8. 強化マネジメント

「自分自身へ報酬を与えること」… ご褒美
健康行動を促進、あるいは維持するための報酬を利用する。

 強化マネジメントを使用する人は、運動習慣を継続的に強化し、運動不足を減少させる方法を模索する。例えば、1ヶ月運動を続けたら、自分の好きな寿司を食べに行くなどである。自分にとっての報酬により運動に対する動機付けがより強化する。

9. 自己解放

「自分自身へのコミットメントを強める」… 宣言
行動変容させるために行う、その人の選択や言質のことで、誰もが変化できるという信念を含む。

 このプロセスは、運動するということを他人に対して宣言することによって実行できる。この方法により、運動をやめてしまう事に対しての抑止力として役に立つ。

10. 刺激コントロール

「自分自身に思い出させること」… きっかけ
健康行動を変容、維持することを連想させるものを身近に置くこと。

 このプロセスは、反対条件づけと類似しているが、個人の考えや行動よりも、運動習慣に適した環境をが整えられて、運動のためのきっかけを与えることによる。例えば、家の中ですぐに使えるところに運動器具を置いたりすることである。

③意思決定のバランス
~恩恵(プロズ)と負担(コンズ)~

 変容ステージが低い段階にある人は、運動を行なうことに対しての恩恵(プロズ)を低くみており、運動にかかる時間や手間、金銭などの負担(コンズ)を高く考えている。行動変容を起こすためには、この意思のバランスが変化していくことが必要で、運動をすることの価値を感じることが重要である。また意思決定のバランス尺度(表10)を以下に示した。

恩恵 (プロズ)  −  負担 (コンズ)  =  意思のバランス

表9.プロズとコンズの構成要素表9.プロズとコンズの構成要素

表10.意思決定のバランス尺度表10.意思決定のバランス尺度

④セルフエフィカシー(自己効力感)
~自分にもできるという見込み感~

 セルフエフィカシー(自己効力感)はBandura(1977)の社会的認知理論によって提唱された概念で、「ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまく行うことができるかという個人の確信」を差す17)。運動セルフエフィカシー尺度(表11)を以下に示した。運動を続ける為には、自分にもできるという自信が必要であり、セルフエフィカシーは、個人の選択や思考、情動的反応、行動パフォーマンスに影響を及ぼす。セルフエフィカシーは主に以下の4つの源泉から向上する。

表11.運動セルフエフィカシー尺度表11.運動セルフエフィカシー尺度

IV-2.TTMを用いた身体活動増加を目的とした介入の例

1. 無関心期の人へのアプローチ

 無関心期に属する人は、問題が存在するという事実に抵抗をしめしたり、否認したりするという特徴を持つ。また自身の行動を合理化する傾向があり、時に運動を行なわない原因を他人や環境にのせいにしてしまうこともある。一方的で理屈っぽい知識の提供は逆効果となりがちなので注意が必要。クライアントが知っていそうなことから話を始めて、運動と健康の関係を徐々に知らせていくと良い。

 無関心期の人は、運動不足についての一般的情報を得ること(意識の高揚)、親しい友人、家族やセラピストからの激励を受けること(援助関係)、運動不足に起因する社会的な問題や、運動習慣を促進させるために社会的風潮の流れを知ること(社会的解放)から多くの恩恵を受けとる。

具体的アドバイス:

自分の将来の健康状態をイメージしてみませんか?

  • 身体を動かすことについて、その負担ばかり目を向けていませんか?まずはわかりやすい効果をイメージしてみてください。病気になりにくい、体重が減る、階段を上がっても息が切れない、などの効果です。(意識の高揚、自己再評価)
  • このまま身体活動量が低い状態が続くと、あなたの身体は将来どうなるのでしょうか。その時、周囲の人に与える影響はどのようなものか想像してみましょう。今、わずかに何かを行なうことで、あなたの将来は今よりずっと良くなっていきます。活発に身体を動かし、元気になったあなたを想像してみましょう。(環境的再評価、意識の高揚)
  • メタボの次はロコモとここ近年よく耳にします。運動不足などにより筋肉や関節などが衰えて、将来的に介護状態となる危険性が高い状態をロコモといいます。要介護状態となる人々を減らすために国が推進している運動です。(社会的解放)
  • 運動が嫌い、不得意、行う自信がない、時間がないという場合でも、階段を使う、近場には歩いていくなどの生活の場に運動を取り入れることでも効果があります。(反対条件づけ)

何もやらないよりは、わずかでも身体を動かしましょう。まずはできることから。

  • まずは、目の前のできることから始めましょう。何もやらないよりは、わずかなことでもできることから何かをやったほうがいいです。まずは、普段着でもできるストレッチや散歩、階段上りにチャレンジしてみましょう。(反対条件づけ)
  • あなたに合った運動の仕方や生活活動の増やし方について、私と一緒に考えていきませんか。きっとよいアドバイスができると思います。(援助関係)

2. 関心期の人へのアプローチ

 関心期に属する人は、運動の恩恵と負担の知覚を特に強化すべきである。いま現在のライフスタイルの批判は避けるべきである。関心期にいる人たちは、準備期に移るために、意識の高揚、自己再評価、およびドラマティックリリーフをより多く使用する傾向がある。そのため、クライアントにその運動不足が人々の生命に影響を与えている過程をより深く気づかせようとする気づきの技術が有効である。また、運動を始めたいと思っている意思を積極的に支援して、温かい言葉をかけることも大切である。

具体的アドバイス:

生活活動量を増やすことから始めましょう。

  • あなたは、近々なにか運動を始めたいと思っています。これは素晴らしいことです。まずは、実現に向かって一歩を踏み出しましょう。(セルフエフィカシーの増加)
  • 心筋梗塞や脳卒中などは動脈硬化が主な原因です。運動は、脂肪を燃焼させ、コレステロール、血糖値、血圧全てを改善の方向に導きます。(意識の高揚)
  • 最近あなたの周りで運動不足のために糖尿病や心疾患を患った人、体力がおちて調子の悪い人はいませんか。(ドラマティックリリーフ)
  • 日々の生活のなかに、楽しく運動を取り入れることにより、ストレス解消にもなり、生活習慣病の予防にもなります。さらに身体も元気になり、活力もでてきます。(自己再評価)
  • 運動でなくても、日常生活で活発に身体を動かすことによって健康の維持、増進は可能です。健康づくりのためにあなたにお勧めする1日の生活活動量は、歩数にして、8,000歩から10,000歩程度です。いきなり、このような歩数を目標としなくても、まずはわずかでもできる範囲の量を増やすことから始めましょう。(反対条件づけ)
  • まずは、1,000歩だけ増やして、慣れてきたら徐々に歩数を増やしていくといった方法はどうでしょうか。10分歩くと約1,000歩になります。(反対条件づけ)
  • 歩数にこだわらなくても、散歩、通勤による歩行、床掃除、庭仕事、洗車、子供と遊ぶことなどの活動を毎日60分程度行うことを目指しましょう。特別に時間をとらなくても、家事を行いながらの「ながら」体操も実施できます。(反対条件づけ)

行ってみた感想はどうですか?

  • 生活活動を増やすためにこの程度ならできるというものが意外に多いことに気づくことでしょう。きっとできますよ。自信を持ちましょう。(自己再評価、セルフエフィカシーの増加)
  • 一日の歩数を増やすことができたなら、次はわずかな運動、例えば週末に1回程度、30分くらいでかまいません。まずは、新しくチャレンジできそうな運動をわずかでも行ってみましょう。(セルフエフィカシーの増加)

3. 準備期の人へのアプローチ

 準備期の人へのアプローチは介入の効果が最も大きい。このステージの人へのアプローチは、主にセルフエフィカシーを強化することに焦点を当てるべきである。クライアントは、このステージで変化を起こす準備ができている。このステーシでは、引き続き自己再評価を行い続けさせること、また、援助を求め続けさせることが、この行動変容プロセスの援助としてよい方略である。自己解放の時期は手近にある。また定期的な活動を達成した場合に自分に報酬を与えるような強化マネジメントのスキルを学習させることが効果的だと考えられる。

具体的アドバイス:

週1回程度の運動から始め、継続できる楽しみをみつけましょう。

  • あなたは、今まで、たとえ「時々」にしても、生活活動を増やしたり、運動を行おうと心がけてこられました。これは素晴らしいことです。なかなかできることではありません。自分に自信をもってください。今後行うべきあなたの課題は、「時々」を「定期的」に変えて行くことです。(セルフエフィカシーの増加)
  • 最近、ウォーキングをしたり、意識して階段をあがったりする人が増えています。一駅分歩く「一駅族」など、そういう人があなたの周りにいるかどうか観察してみてください。(社会的解放)
  • 健康づくりのために、あなたにおすすめする活動は、週1回1時間程度の運動です。楽しく続けられるものが良いと思います。速歩、自転車、ダンス、エアロビクス、水泳、テニスなども良いですし、私のお勧めは太極拳です。とてもいいですよ。

継続させるための工夫を行いましょう。

  • 冷蔵庫に目標とする運動内容(例えば歩数)を貼っておく、玄関の目立つ所にウォーキングシューズをおく、部屋にトレーニングウェアを飾るなど、実践のためのきっかけや合図になるものを身の回りにちりばめましょう。(刺激コントロール)
  • ある期間を継続できたら、良くがんばった自分にご褒美をあげましょう。ご褒美の内容は、旅行に行く、おいしい料理を食べるなどはどうでしょう。(強化マネジメント)
  • 具体的で実行可能な小目標をたてていくとい効果的です。現在の活動状況を把握して、いつ、どこで、どれくらい運動をできるのかの計画をたててみるとよいと思います。
  • 家族やお友達の方に応援してもらったり、一緒に運動を行えるように頼んでみましょう。彼らの前で「運動するぞ!」と宣言してみるのもいいです。(援助関係、自己解放)

4. 実行期の人へのアプローチ

 実行期の人へのアプローチは、周囲の人の理解とサポートををうまく利用できるように働きかけ、活動的なライフスタイルが習慣として根付くようにさせるとよい。しばしば運動の中止などの逆戻りがみられるので、運動を妨げる要因についての克服法について共に話し合っておくと良い。実行期の人は、運動を始めたがまだ6ヶ月以内であり、もとの生活に戻ってしまう危険性が高い。まずはクライアントが運動を行っているということを評価し、セルフエフィカシーの増加を図る言葉かけが大切である。また、運動習慣を維持するための、自己解放、刺激コントロール、強化マネジメント、および反対条件づけは有効な変容プロセスである。

素晴らしいことです。このまま現在の習慣をキープできる工夫をしましょう。

具体的アドバイス:

  • あなたは今まで生活活動を増やし、運動を実践してこられました。なんてすばらしいことでしょう。今後は、どのようにその習慣をキープするのかを考えましょう。(セルフエフィカシーの増加)
  • 振り返ってみましょう。今までに途中でやめたくなる気持ちが起こる事もしばしば、また残業や家族の世話で継続できない状況に対して、あなたはうまく打ち勝ってきました。続けてきた、そのことに自信をもってください。(セルフエフィカシーの増加)

身体の調子はいかがですか。

  • 疲れにくくなった、楽に階段が上がれるようになった、ウエストサイズが減少して服が着やすくなった、肩こりがなくなったなど、生活の中で感じる効果も自覚できていることと思います。もう一度、それらの効果を確認してみましょう。(自己再評価)
  • 現在の習慣を妨げる要因にうまく対処しましょう。例えば悪天候で運動できない日には、なにか室内で行う代わりの活動を考えておく。突然の仕事が入ったら、他の日に少し多めに行って1週間単位での目標運動量を確保する、倦怠感が生じたら、運動内容を変えてみるのもよい方法です。(反対条件づけ)
  • 手帳やカレンダーに運動を行う日をあらかじめ記入するようにしましょう。(刺激コントロール)
  • 運動したくないと感じる時が必ずあります。そういうときは、とりあえず運動する場所に行ってみる、先に着替えを行ってしまうなどの対策が有効です。(反対条件づけ)
  • 運動を始めたことを家族やお友達の方にお話してみましたか。是非話してみてください。(自己解放)
  • もしかしたら同じように運動を始めたいと思っている人もいるかもしれません。ぜひ運動仲間を見つけてみてください。(援助関係)
  • きっと運動を始めてから、日常生活にも活力がでてきたのではないでしょうか。ご家族の方々もきっと喜んでいると思います。(環境的再評価)
  • 運動を行うにあたっての疑問点や、身体の調子、使い方など相談がありましたら、いつでもいらしてください。(援助関係)

5. 維持期の人へのアプローチ

 このステージに属する人は、少なくとも6ヶ月以上の間、活動的なライフスタイルを継続している。運動にともなう恩恵や、家族や知人への影響を再評価させ、援助関係で得た信頼を保ち続けることが大切である。このステージの人へは積極的に地域の活動に参加するように促すと良い。運動を休みたいという誘惑はいまだ存在するものの、行動変容を上手く行ってきた時間が増加してきたので、概して誘惑は弱く、発生頻度も少ない。維持期にいる期間が増えていくにつれ、運動習慣が定着し、刺激コントロール、強化マネジメント、反対条件づけのプロセスの必要性は減少していく。

継続できたことに自信を持ちましょう。 家族や友人も誘ってあげてください。

  • 幾多の誘惑、困難にもかかわらず、継続されてきたことはなんてすばらしいことでしょうか。自分を褒めてあげて下さい。(セルフエフィカシーの増加)
  • 疲れにくくなった、楽に階段が上がれるようになった、ウエストサイズが減少して服が着やすくなった、肩こりがなくなったなど、生活の中で感じる効果を再認識しましょう。(自己再評価)
  • きっと運動を継続してきたおかげで、身体の調子もよくなり、心の活力もでてきたのではないでしょうか。日常生活にも自信が沸き、笑顔でいられる時間も増えたと思います。ぜひご家族も一緒に運動できるように勧めてあげてください。(環境的再評価、援助関係)

IV-3.TTMを用いた身体活動増加を目的とした介入の例

 クライアントの変容ステージに応じた身体活動増加を目的とした介入の例をあげたが、これはあくまでも例にしか過ぎないので、実際の事例においてはそれぞれの事例に応じて柔軟に変容プロセスを組み合わせて適応させていくことが望ましい。以下に岡らによる行動変容のトランスセオレティカル・ モデルに基づく運動アドヒレンス研究の動向 17)より行動変容の TTM に基づく身体活動促進のための介入を行う際に必要な情報のまとめを載せた。

表12.行動変容のTTMに基づく身体活動促進のための介入を行う際に必要な情報17)表12.行動変容のTTMに基づく身体活動促進のための介入を行う際に必要な情報17)

V. 結語

 ロコモティブシンドロームの基礎知識から初めて、各世代の運動指導の目安と注意点、そして行動変容のトランスセオレティカル・モデルを用いた心理学的介入について検討を行った。僭越ながら、最後に伝えたいことは、理論より大切なことは治療家として患者さんが心と身体の調和がとれた生活を送れるよう心より応援する姿勢であると思う。知識・技術・人間性の全てを磨いていくことが患者さんからの信頼を得るために必要であり、信頼関係が無ければTTMにおける介入の効果も低くなる。我々あん摩マッサージ指圧師は治療を行いながら患者さんとじっくり話ができる時間がある。ただ漫然と施術するのではなく、一人一人の患者さんの真の健康を願い、そのために自分は何ができるのかを熟考していくことが大切だと思う。

 ロコモ25の質問紙や、変容プロセス尺度、意思決定のバランス尺度、運動セルフエフィカシー尺度などは科学的根拠に基づいたもので、数値化したデータを蓄積していくことで、学術的な症例報告論文にも応用できる。医師はもちろんのこと、鍼灸師や理学療法士などは多くの学術論文を世に発表し、科学的根拠を積み重ねていっているが、指圧師の世界では論文の蓄積はまだ少数である。今回多くの情報を書物とインターネットより検索した学術論文より得てこの資料を作成した。Googleの学術論文専門の検索システムであるGoogle Scholarで調べると、たくさんの世に発表された学術論文を読むことができる。指圧が医療の世界でより認められて国民に貢献していくために、一人でも多くの指圧師が学術論文を読み、そして論文を発表していくことを願っている。

 この情報がきっかけとなり、一人でも多くの指圧師とその患者さんの人生に少しでも良い影響を与えることができたら、なによりの喜びである。

 

VI.参考文献

1) 厚生労働省:日本人の平均余命 平成21年簡易生命表: http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life09/sankou02.html
2) 平均寿命と健康寿命をみる|厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/chiiki-gyousei_03_02.pdf
3) 平成22年国民生活基礎調査の概況|厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa10/4-2.html
4) 佐悦男:ロコモティブシンドローム:運動器疾患を取り囲む新たな概念―ロコモ予防とリハビリテーション―,リハビリテーション医学(50),p.48-54,2013
5) ロコモチャレンジ!推進協議会:ロコモパンフレット2014年度版
https://locomo-joa.jp/check/pdf/locomo_pf2014.pdf
6) 山本利春:測定と評価(改訂・増補版),p.142,ブックハウス・エイチディ,2004
7) 「障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準」作成検討会報告書 http://www.ipss.go.jp/publication/j/shiryou/no.13/data/shiryou/syakaifukushi/429.pdf
8) 村永信吾:2ステップテストを用いた簡便な歩行能力推定法の開発,昭和医学会誌63(3),p.301-308,2003
9) 「ロコモ25」「ロコモ5」の使い方|日本運動器学会 http://www.jsmr.org/documents/locomo_25.pdf
10) 厚生労働省:健康日本21(第二次)の推進に関する参考資料 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkounippon21_02.pdf
11) 澤田亨他:健康日本21(第二次)・身体活動基準2013およびアクティブガイド,日本食生活学会誌24(3),p.139-142,2013
12) 運動施策の推進健康づくりのための身体活動基準2013|厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/undou/index.html
13) 「健康づくりのための身体活動基準2013」及び「健康づくりのための身体活動指針」について|厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple.html
14) 事故事例から学ぶ特定保健指導における運動指導の安全対策 http://www.ahv.pref.aichi.jp/ct/other000001700/undo_anzentaisaku.pdf
15) 宮地元彦:新しい身体活動基準2013身体活動指に基づいた保健指導 http://www.niph.go.jp/soshiki/jinzai/koroshoshiryo/
tokutei25/keikaku/program/K2-2.pdf
16) PartriciaM.Brubank著,竹中晃二約:高齢者の運動と行動変容-トランスセオレティカル・モデルを用いた介入,ブックハウス・エイチディ,2005
17) 岡 浩一郎:行動変容のトランスセオレティカル・モデルに基づく運動アドヒレンス研究の動向,体育学研究45,p.543-561,2000


【要旨】

ロコモティブシンドローム予防のために
〜 運動実践へ向けたトランスセオレティカルモデル(TTM)の活用 〜
黒澤一弘

 ロコモティブシンドロームの最も効果的な予防法は定期的な運動である。ここではロコモの基礎知識を正しく知り、患者が定期的な運動を実践していくための心理的なアプローチ法について考察する。

キーワード:ロコモティブシンドローム、行動変容、TTM