押圧操作と運動操作の併用により姿勢矯正が認められた一例:新倉玄太

新倉玄太
げんた治療院 院長

A case of posture correction by a combination of pressure application and exercise therapy

Genta Niikura

Abstract : Many people with subjective symptoms such as stiff shoulder or low back pain are encountered in clinical practice. Here we report a case where shiatsu therapy helped the patient achieve symptom relief and better posture. Shiatsu therapy not only released the muscle tension but also adjusted the joints. Shiatsu therapy involves a combination of pressure application and exercise therapy, and it is possible that this combination had effects on both muscles and joints and helped achieve the favorable outcomes in the present case.

Keywords: shiatsu therapy, pressure application, exercise therapy, posture correction


I.はじめに

 指圧治療において、筋、軟部組織への押圧操作だけで筋緊張を緩めることができても、数日後または数週間後に同様の症状に悩まされてしまう患者が臨床現場で多く見られる。そのような症例に対し継続的に姿勢矯正、関節の調整も並行して行うことにより治療効果を向上させることができるのではないかと考えた。

 今回、押圧操作と運動操作を同時にまたは併用して行うことにより、関節の調整をし、姿勢矯正することで高い治療効果を上げることができた症例を報告する。

Ⅱ.対象および方法

施術対象

 30代女性 保育士

場所

 当院

期間

 2014年3月30日~4月12日

主訴

 かがんでの作業が多いため腰痛、猫背で肩こりがひどい、職場の人に姿勢が悪いと言われ気にしている

治療法

 全身指圧1)および肩関節、股関節、仙腸関節の運動操作

  • 円背に対して
    伏臥位にて脊柱掌圧、棘突起調整
  • 肩関節過内旋に対して
    横臥位にて
    肩甲骨上角、鎖骨下、烏口突起に押圧操作
    プラス、肩甲骨の調整操作
  • 腰椎後弯に対して
    仰臥位にて、腹部掌圧・鼠径部掌圧
    腹臥位にて、股関節・仙腸関節調整
  • 骨盤後傾に対して
    仰臥位にて、腹部・鼠径部掌圧
    伏臥位にて、股関節・仙腸関節調整

III.結果

第1回(平成26年3月30日)
[術前所見]

  • 自覚症状:かがんでの作業が多いため腰痛、猫背で肩こりがひどい。
    職場の人に姿勢が悪いと言われ気にしている。
  • 他覚所見:骨盤過後傾、円背、肩関節過内旋がみられる(図1)。

[術後所見]

  • 自覚所見:肩こりや腰痛を感じにくくなった。
    同じ姿勢を続けても、仕事中辛さを感じにくくなった。
  • 他覚所見:骨盤が前傾位になり腰椎が前弯したため腰部の筋の緊張が緩和された。
    肩甲骨の位置が改善されたため肩関節の内旋が改善された(図2)。

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第2回(平成26年4月12日)
[術前所見]

  • 自覚所見:周りの方から姿勢が改善されたと言われた。
    腰痛が緩和している。
  • 他覚所見:骨盤の前傾が保たれている。
    肩関節過内旋の所見が見られる(図3)。

[術後所見]

  • 自覚所見:肩こり腰痛の症状が軽減された。
    同じ姿勢を続けても痛みを感じにくくなった。
  • 他覚所見:肩関節過内旋が改善されている(図4)。
    関節の位置の調整を行ったことで筋肉の緊張も緩和されている。

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IV.考察

 厚生労働省の国民生活基礎調査2)によれば、日本国民が普段感じている自覚症状の1位、2位が男女とも肩こり腰痛という結果が出ている。その状況は現在でも大きくは変わっておらず、当院に来院する患者の主訴も肩こりや腰痛が比較的多い。

 臨床の現場において、経験上ではあるが肩こりや腰痛を緩和させるためには、筋の過緊張を取り除くと同時に、関節の調整を行うことでより効果が持続する感覚を持っている。
その理由として、二足歩行である人体は常に重力に抗して姿勢を維持しており、姿勢を維持するために抗重力筋である伸筋や体幹の筋肉が常時収縮していなければならないことや、姿勢が崩されるときには姿勢反射が働き姿勢を維持しようとする3)ことなどから円滑な日常生活を行う上での正しい骨格、姿勢が崩れると、より筋肉に負荷がかかることが考えられる。そのため慢性的に崩れてしまった骨格、姿勢を調整することが肩こりや腰痛の改善につながると考えられる。

 本症例は、初診時には重心線の崩れが非常に大きく(図1)、そのため大胸筋をはじめとする肩関節内旋筋の過緊張および抗重力筋の緊張低下が引き起こされていたものと考えられる。また大殿筋およびハムストリングスが過緊張することで骨盤後傾がみられたものと考える。

 初回の治療において、大殿筋およびハムストリングスの過緊張が改善され、また腰方形筋、脊柱起立筋の過伸展が改善されたことにより骨盤後傾及び腰椎の後弯の改善がみとめられたものと考える。また肩関節に関しては、大胸筋、広背筋、肩甲下筋などの上腕を内旋させる筋の過緊張が改善されたことで肩甲骨の位置が変わったと推測する(図2)。

 第2回目の術前では、若干の肩関節内旋の所見は見られるものの第1回の術後から重心線が大きく崩れている様子は見受けられない(図2、図3)。第2回の治療において、さらに過緊張した筋の柔軟性が向上し、過伸展された筋とのバランスがとれたことにより、肩関節および上腕骨の位置に変化が生じたことで僧帽筋、胸鎖乳突筋などの頸部の筋肉の緊張が緩和され頭位の変化まで認められたものと推測する。

 円滑な日常生活を行う上での姿勢の崩れが筋の過緊張や緊張低下に始まり起こるのか、関節の位置の異常にはじまり起こるのかという点に関してはどちらともいえない側面があるが、少なくとも指圧刺激が筋の柔軟性に及ぼす効果についての報告が複数存在する4~6)ことから、本症例においては姿勢を崩す原因となっている筋の過緊張が押圧操作により改善されたこと、また運動操作により関節の位置が改善されたことにより症状の改善が見られたものと考える。

V.結論

 指圧治療において押圧操作と運動操作を併用し、筋の過緊張を取り除き、関節の位置を改善させることにより肩こり腰痛が改善される傾向にあると考えられる。しかし今回は1例のみの報告であるため、さらに症例を重ね検討していきたいと考える。

VI.参考文献

1) 石塚寛:指圧療法学 改訂第1版,国際医学出版,2008
2) 厚生労働省:国民生活基礎調査.2013,http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html
3) 東洋療法学校協会:生理学,医歯薬出版株式会社,1990
4) 浅井宗一 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果,(社)東洋療法学校協会学会誌(25),p.125-129,2001
5) 菅田直紀 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果(第2報),(社)東洋療法学校協会学会誌(26),p.35-39,2002
6) 衛藤友親 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果(第3報),(社)東洋療法学校協会学会誌(27),p.97-100,2003


【要旨】

押圧操作と運動操作の併用により姿勢矯正が認められた一例
新倉 玄太

 臨床現場において、多くの方が肩こり・腰痛の自覚症状を持っている。指圧治療において筋の緊張を 取り除くことだけではなく、姿勢や関節の調整を行うことで症状を改善させることができた。指圧治療の押圧操作と運動操作を併用することで筋・関節の両方に影響を与え効果を得られたものと考える。

キーワード:指圧治療、押圧操作、運動操作、姿勢矯正