湿疹に対する指圧治療:新田 英輔

新田 英輔
指圧Livin 院長

Shiatsu Therapy for Eczema

Eisuke Nitta

 

Abstract :  This report examines the case of a patient with eczema who was treated with full-body shiatsu therapy focusing on the cervical and abdominal regions. After 5 treatments, redness and pruritus were eased. This suggests that shiatsu therapy could be effective for eczema.

Keywords:rash, eczema, shiatsu therapy, pruritus, improvement of skin condition


I.はじめに

 アトピー性皮膚炎に対する指圧療法では、金子1)、千葉ら2)が症状の改善を報告している。筆者は、アトピー性皮膚炎に指圧が効果を発揮するのであれば、突発性の発疹や湿疹に対しても同様の効果がみられるのではないかと考えていた。
 そのような中、アトピー性皮膚炎でない患者に突然の発疹、湿疹症状が出現している症例と遭遇し、指圧療法を試みたところ、症状の改善がみられたため報告する。

Ⅱ.症例

期間:

 2017年11月11日~ 2018年1月11日(計5回)

対象:

 43歳女性 既婚 3歳児の母親

社会歴:

 外資系メーカー勤務

現病歴:

 10月の初めごろに、突然背中、腕、足に発疹が発症した。皮膚科を受診したところ、ストレスによる発疹と診断され、湿疹症状に対し保湿剤兼ステロイド塗り薬、抗アレルギー薬のアレグラを処方されるも、2週間経過後も身体の痒み、赤みが全く変化しない状況が続いていた。
 6月に新居を購入し、引っ越し、育児、仕事の不満等、ストレスが続いていたことが原因ではないかと本人は分析している。

自覚所見:

 ・背中、腕、足に痒みがある
 ・とくに背中、腕に強い痒みを感じる
 ・9月、11月と仕事中に突然の動悸が起こるようになった

他覚所見:

 ・背部の赤みが強い
 ・頚部から肩甲間部に硬結
 ・健康な人の腹部は豆腐のような柔らかさだが、腹部が鉄のように硬くなっている
 ・2010年7月28日から通院している患者だが、運動療法で肩を牽引した際の肩関節の可動域が以前よりも硬くなっている

評価:

 写真による皮膚症状の変化

施術法:

 1.仰臥位で頚部、腹部に重点を置く浪越指圧療法を30分
 2.伏臥位または横臥位での全身指圧35〜40分
 3.横臥位での肩の運動療法0〜5分
 ※金子1)のアトピー性皮膚炎のポイントとなっている指圧療法を行った

Ⅲ.結果(経過)

第1回(2017年11月11日、図1)

他覚所見:

 ・腹部が全体的に硬い
 ・施術後の痒み、赤みに変化なし
 ・全身の施術により身体の爽快感、疲労が取れた感じはする

図1.第1回(2017年11月11日)治療後の所見

図1.第1回(2017年11月11日)治療後の所見

第2回(同年11月23日、図2)

自覚所見:

 ・痒みはまだあるが背中の赤みは軽減した

他覚所見:

 ・前回よりも頚部、肩背部、腹部の硬結が軽減したが、腹部中央部分から上の硬さが強い

図2.第2回(2017年11月23日)治療後の所見

図2.第2回(2017年11月23日)治療後の所見

第3回(同年12月9日、図3)

自覚所見:

 ・痒み、赤み、発疹の跡は前回より減っている

他覚所見:

 ・頚部の硬さは戻りやすいが、腹部の柔らかさは毎回柔らかくなってきている

図3.第3回(2017年12月9日)治療後の所見

図3.第3回(2017年12月9日)治療後の所見

第4回(同年12月22日、図4)

自覚所見:

 ・風邪を引いていたため咳がひどい
 ・引き続き痒みも改善し、ほとんど気にならない状態

他覚所見:

 ・頚部、腹部の筋肉の柔軟性が定着してきた

図4.第4回(2017年12月22日)治療後の所見

図4.第4回(2017年12月22日)治療後の所見

第5回(2018年1月11日、図5)

自覚所見:

 ・痒みは完全に取れて、背中の色素沈着も毎回改善してきている
 ・心臓の動悸に悩まされてきたが、それも治った

他覚所見:

 ・毎回来院するごとに筋肉の硬結は減っている
 ・肌の状態は完全ではないが、本人の悩みは解消したため、2週間に1度のペースは終了し、身体が辛くなったらまた来てもらうことにした

図5.第5回(2018年1月11日)治療後の所見

図5.第5回(2018年1月11日)治療後の所見

Ⅳ.考察

 湿疹は皮膚に痒みが出て、皮膚が赤くなったり(紅斑)、皮がむけたり、水疱ができたりする皮膚の炎症である。

 今回の患者はアレルギー検査の結果、アトピー性皮膚炎ではなく発疹と診断を受けている。身体にストレスが溜まると、自律神経が乱れ、肥満細胞からヒスタミンが分泌されることで痒みが起きることがあり3)、今回の患者では湿疹症状が出る1カ月前の新居への引っ越し、仕事、育児などの度重なるストレスが発症に関与していたと推測される。

 2008年に治療院を開業して以来、当院に来院する患者の大半は、頚や肩のこり、腰痛などを主訴としている。そのため、治療法として腹部以外の全身の指圧療法を行っていた。その中には主訴ではないものの発疹症状を持つ患者もいたが、症状の改善はみられなかった。

 しかし、今回の症例に対して、腹部指圧を入れた全身指圧を施したところ、症状の改善がみられた。腹部指圧により、消化管蠕動が亢進されること4)、瞳孔直径が変化すること5)が報告されていることから、今回の症例では腹部指圧により自律神経が調節され、結果として、ホルモン分泌等の免疫機能が改善され、発疹症状の治癒を早めたと推察される。

Ⅴ.結語

 腹部、頚部に重点を置いた全身指圧療法を行うことによって、心臓の動悸、湿疹症状の赤み、痒みに改善がみられた。

参考文献

1)金子泰隆:アトピー性皮膚炎に対する指圧治療,日本指圧学会誌1,p.2-5,2012
2)千葉優一:アトピー性皮膚炎に対する指圧治療,日本指圧学会誌2,p.22-25,2013
3)戸倉新樹,藤本学,椛島健治:臨床力がアップする! 皮膚免疫アレルギーハンドブック,南江堂,東京,p.110,2018
4)黒澤一弘 他:腹部指圧刺激による胃電図の変化,東洋療法学校協会学会誌31,p.55-58,2007
5)栗原耕二朗 他:腹部指圧刺激が瞳孔直径に及ぼす効果,東洋療法学校協会学会誌34,p.129-132,2010


【要旨】

湿疹に対する指圧治療
新田 英輔

 発疹による湿疹症状を訴える患者に対して、頚部、腹部に重点を置いた全身指圧療法を全5回行った。その結果、湿疹症状の赤み、痒みの改善が認められた。このことから、指圧療法が発疹に対して有効であることが推察される。

キーワード:発疹、湿疹、指圧療法、掻痒の軽減、皮膚症状の改善