カテゴリー別アーカイブ: Vol.8 2020

湿疹に対する指圧治療:新田 英輔

新田 英輔
指圧Livin 院長

Shiatsu Therapy for Eczema

Eisuke Nitta

 

Abstract :  This report examines the case of a patient with eczema who was treated with full-body shiatsu therapy focusing on the cervical and abdominal regions. After 5 treatments, redness and pruritus were eased. This suggests that shiatsu therapy could be effective for eczema.

Keywords:rash, eczema, shiatsu therapy, pruritus, improvement of skin condition


I.はじめに

 アトピー性皮膚炎に対する指圧療法では、金子1)、千葉ら2)が症状の改善を報告している。筆者は、アトピー性皮膚炎に指圧が効果を発揮するのであれば、突発性の発疹や湿疹に対しても同様の効果がみられるのではないかと考えていた。
 そのような中、アトピー性皮膚炎でない患者に突然の発疹、湿疹症状が出現している症例と遭遇し、指圧療法を試みたところ、症状の改善がみられたため報告する。

Ⅱ.症例

期間:

 2017年11月11日~ 2018年1月11日(計5回)

対象:

 43歳女性 既婚 3歳児の母親

社会歴:

 外資系メーカー勤務

現病歴:

 10月の初めごろに、突然背中、腕、足に発疹が発症した。皮膚科を受診したところ、ストレスによる発疹と診断され、湿疹症状に対し保湿剤兼ステロイド塗り薬、抗アレルギー薬のアレグラを処方されるも、2週間経過後も身体の痒み、赤みが全く変化しない状況が続いていた。
 6月に新居を購入し、引っ越し、育児、仕事の不満等、ストレスが続いていたことが原因ではないかと本人は分析している。

自覚所見:

 ・背中、腕、足に痒みがある
 ・とくに背中、腕に強い痒みを感じる
 ・9月、11月と仕事中に突然の動悸が起こるようになった

他覚所見:

 ・背部の赤みが強い
 ・頚部から肩甲間部に硬結
 ・健康な人の腹部は豆腐のような柔らかさだが、腹部が鉄のように硬くなっている
 ・2010年7月28日から通院している患者だが、運動療法で肩を牽引した際の肩関節の可動域が以前よりも硬くなっている

評価:

 写真による皮膚症状の変化

施術法:

 1.仰臥位で頚部、腹部に重点を置く浪越指圧療法を30分
 2.伏臥位または横臥位での全身指圧35〜40分
 3.横臥位での肩の運動療法0〜5分
 ※金子1)のアトピー性皮膚炎のポイントとなっている指圧療法を行った

Ⅲ.結果(経過)

第1回(2017年11月11日、図1)

他覚所見:

 ・腹部が全体的に硬い
 ・施術後の痒み、赤みに変化なし
 ・全身の施術により身体の爽快感、疲労が取れた感じはする

図1.第1回(2017年11月11日)治療後の所見

図1.第1回(2017年11月11日)治療後の所見

第2回(同年11月23日、図2)

自覚所見:

 ・痒みはまだあるが背中の赤みは軽減した

他覚所見:

 ・前回よりも頚部、肩背部、腹部の硬結が軽減したが、腹部中央部分から上の硬さが強い

図2.第2回(2017年11月23日)治療後の所見

図2.第2回(2017年11月23日)治療後の所見

第3回(同年12月9日、図3)

自覚所見:

 ・痒み、赤み、発疹の跡は前回より減っている

他覚所見:

 ・頚部の硬さは戻りやすいが、腹部の柔らかさは毎回柔らかくなってきている

図3.第3回(2017年12月9日)治療後の所見

図3.第3回(2017年12月9日)治療後の所見

第4回(同年12月22日、図4)

自覚所見:

 ・風邪を引いていたため咳がひどい
 ・引き続き痒みも改善し、ほとんど気にならない状態

他覚所見:

 ・頚部、腹部の筋肉の柔軟性が定着してきた

図4.第4回(2017年12月22日)治療後の所見

図4.第4回(2017年12月22日)治療後の所見

第5回(2018年1月11日、図5)

自覚所見:

 ・痒みは完全に取れて、背中の色素沈着も毎回改善してきている
 ・心臓の動悸に悩まされてきたが、それも治った

他覚所見:

 ・毎回来院するごとに筋肉の硬結は減っている
 ・肌の状態は完全ではないが、本人の悩みは解消したため、2週間に1度のペースは終了し、身体が辛くなったらまた来てもらうことにした

図5.第5回(2018年1月11日)治療後の所見

図5.第5回(2018年1月11日)治療後の所見

Ⅳ.考察

 湿疹は皮膚に痒みが出て、皮膚が赤くなったり(紅斑)、皮がむけたり、水疱ができたりする皮膚の炎症である。

 今回の患者はアレルギー検査の結果、アトピー性皮膚炎ではなく発疹と診断を受けている。身体にストレスが溜まると、自律神経が乱れ、肥満細胞からヒスタミンが分泌されることで痒みが起きることがあり3)、今回の患者では湿疹症状が出る1カ月前の新居への引っ越し、仕事、育児などの度重なるストレスが発症に関与していたと推測される。

 2008年に治療院を開業して以来、当院に来院する患者の大半は、頚や肩のこり、腰痛などを主訴としている。そのため、治療法として腹部以外の全身の指圧療法を行っていた。その中には主訴ではないものの発疹症状を持つ患者もいたが、症状の改善はみられなかった。

 しかし、今回の症例に対して、腹部指圧を入れた全身指圧を施したところ、症状の改善がみられた。腹部指圧により、消化管蠕動が亢進されること4)、瞳孔直径が変化すること5)が報告されていることから、今回の症例では腹部指圧により自律神経が調節され、結果として、ホルモン分泌等の免疫機能が改善され、発疹症状の治癒を早めたと推察される。

Ⅴ.結語

 腹部、頚部に重点を置いた全身指圧療法を行うことによって、心臓の動悸、湿疹症状の赤み、痒みに改善がみられた。

参考文献

1)金子泰隆:アトピー性皮膚炎に対する指圧治療,日本指圧学会誌1,p.2-5,2012
2)千葉優一:アトピー性皮膚炎に対する指圧治療,日本指圧学会誌2,p.22-25,2013
3)戸倉新樹,藤本学,椛島健治:臨床力がアップする! 皮膚免疫アレルギーハンドブック,南江堂,東京,p.110,2018
4)黒澤一弘 他:腹部指圧刺激による胃電図の変化,東洋療法学校協会学会誌31,p.55-58,2007
5)栗原耕二朗 他:腹部指圧刺激が瞳孔直径に及ぼす効果,東洋療法学校協会学会誌34,p.129-132,2010


【要旨】

湿疹に対する指圧治療
新田 英輔

 発疹による湿疹症状を訴える患者に対して、頚部、腹部に重点を置いた全身指圧療法を全5回行った。その結果、湿疹症状の赤み、痒みの改善が認められた。このことから、指圧療法が発疹に対して有効であることが推察される。

キーワード:発疹、湿疹、指圧療法、掻痒の軽減、皮膚症状の改善


脊柱管狭窄症に対する指圧療法を中心とした治療効果:新田 英輔

新田 英輔
指圧Livin 院長

Effects of Shiatsu Treatment for a Patient with Spinal Stenosis: A Case Report

Eisuke Nitta

 

Abstract :  The cause of spinal stenosis has not yet been ascertained, and there is no generally accepted definition for the disease. This report examines the case of a 70-year-old male patient diagnosed with spinal canal stenosis by three orthopedic surgeons, who received full-body shiatsu therapy. Following treatment, the pain disappeared and walking stability was improved. Following the second treatment, the patient could walk for about twice as long as before, and a maximum of over 14 times longer over the course of treatments. This suggests that full-body shiatsu therapy may be effective to ease symptoms of spinal stenosis.

Keywords:Spinal canal stenosis, back pain, pain, numbness, muscle weakness, intermittent claudication


I.はじめに

 脊柱管狭窄症は腰椎の椎間板と椎間関節の変性を基盤として神経の通路である脊柱管や椎間孔が狭小化することで、臀部から下肢への疼痛やしびれ、下肢筋力の低下、間欠跛行等の症状を呈する症候群である。
 現在のところ明確な原因は不明であり、定義に関しても統一された見解は存在しない。1)
 本症例の患者は2015年の春ごろ、3つの整形外科で脊柱管狭窄症と診断され、整形外科でリハビリを2年行ったが、症状に何の変化もない状況が続いていた。
 そのような中、全身指圧療法を中心とした施術を試みたところ、症状の改善がみられたため報告する。

Ⅱ.対象及び方法

場所:

 指圧Livin

期間:

 2017年7月6日~2019年6月12日
 以降もメンテナンスとして徐々に治療間隔をあけながら定期的に来院。

施術対象:

 70代男性(身長168.5cm、体重約72kg)

既往歴:

 18〜65歳に材木の卸会社で勤務しており、材木を担いで運ぶ等の力仕事で身体に負担が掛かることがあり、腰痛などを起こしていた。

現病歴:

 65〜68歳、材木を運ぶ運送の手伝いをしていたころから、歩行すると段々と左下肢に痺れ、痛みが発症し、長くは歩けず一度座って休まないと歩けない状態に悪化した(間欠跛行)。
 歩行可能時間は日によって違いがあり、5〜10分の歩行が限界であった。
 68歳のとき2016年11月~2017年3月にかけて3カ所の整形外科を受診し、いずれの病院でも脊柱菅狭窄症と診断された。その後、2年間で計2カ所の整形外科に通院し、機器を使用した10分ほどの腰痛のリハビリを受け、指導された自宅でのストレッチを行ったにもかかわらず、症状に変化はなかった。
 脊柱管狭窄症の症状が出たころから、左下肢筋力の低下、歩行時に強く意識しないと身体が左に段々とよれてしまうようになった。

自覚所見:

 ・左下肢筋力低下
 ・左大腿が右大腿より細い
 ・10分以上歩行ができず、左下肢に痛みと痺れが出る
 ・歩行時、身体にふらつきがあり意識しないと身体が左に行ってしまう

他覚所見:

 ・全体的に筋肉の硬結が強い
 ・頚の回旋可動域に制限がある
 ・左肩甲骨が脊柱に寄っている
 ・左下肢ショートレグ
 ・うつ伏せ時、左腰が浮いている姿勢
 ・うつ伏せ時、左下肢がひらいている
 ・左大腿が右よりも細い
 ・歩行時にふらつきがある
 ・図1のストレッチをした時、手が床から30~40cm浮いている

施術方法:

 施術時間90分、全身指圧療法、腰部伸展法2)、下肢牽引、腰部ストレッチ、大腿屈曲、伸展、股関節外転、内転、伸展の抵抗運動、肩の運動療法。

評価:

問診での施術後の歩行時の痛み、歩行時間の変化。

図1.初回治療時(2017年7月6日)の所見

図1.初回治療時(2017年7月6日)の所見

Ⅲ.結果(経過)

第1回(2017年7月6日)

自覚所見:

 指圧後、全身スッキリとした。

他覚所見:

 ・全体的に筋肉の硬結が強い。特に左腰から臀部にかけてが一番硬い
 ・頚の回旋可動域に制限がある
 ・左肩甲骨が脊柱に寄っている
 ・左下肢ショートレグ
 ・うつ伏せ時、左腰が浮いている姿勢
 ・図1のストレッチをしたとき、手が床から30~40cm浮いている
 ・左大腿が右よりも細い
 ・歩行時にふらつきがある

第3回(同年7月20日)

自覚所見:

 左腰から臀部が辛い。2回目の施術後、1日最大10分の歩行時間だったのが18分歩行できた。

他覚所見:

 左腰から臀部が硬い。左肩、頚の動きが硬い。

第5回(同年8月2日)

自覚所見:

 4回目の施術後、1日あたり20分歩いて出かけられたが、帰り道は15 分の歩行が限界。

他覚所見:

 うつ伏せでの下肢のひらきが治ってきた。

第6回(同年8月9日)

自覚所見:

 5回目の施術後は1日あたり、痛みに耐えて無理をすれば30 分歩いて出かけられたが、帰り道は10~15分の歩行が限界だった。

他覚所見:

 身体のゆがみが取れてきたが、腰の筋の緊張と臀部が硬い。

第12回(同年9月20日)

自覚所見:

 11回目施術後、1日に25分まで痛みなく歩くことができた。

他覚所見:

 歩く際の身体のふらつきが強かったが、改善してきた。左大腿筋膜張筋、左腰も段々ゆるみが出てきた。左腰から臀部を指圧すると、左肩もゆるむ。

第14回(同年10月2日)

自覚所見:

 13回目の施術後、1日35~40分歩けるようになった。

他覚所見:

 ・うつ伏せ時、左ショートレグ約7mm。指圧後は下肢の長さがそろう
 ・腰の硬さは以前よりも大分改善した。右腰と比べると4割ほど左腰が硬い
 ・右大胸筋が硬くなりやすい。今回は右大腿筋膜張筋がよく効いた
 ・うつ伏せから横向きにする段階で腰のゆるみが出るようになった

第17回(同年10月26日)

自覚所見:

 16回目の施術後、1日に40分余裕を持って歩けた。45分まで歩けそうだったが、悪天候のため試せていない。

他覚所見:

 ・うつ伏せ時、ヤコビー線の左右差がなくなった
 ・指圧後、下肢の長さが整う
 ・大腿筋膜張筋の硬さ、臀部の硬さが出なくなってきた
 ・指圧後に抵抗運動を入れることで大腿前面の筋の硬さが正常になってきた

第19回(同年11月22日)

自覚所見:

 18回目の施術後、1日に45分歩けた。50分も歩けそうだったが、トイレに行きたくなり、試せていない。

他覚所見:

 18回目のときは仰向けで両膝を胸に近づけると左右でずれがあったが、前回よりも改善した。

第20回(同年12月6日)

自覚所見:

 19回目の施術後、1日に53分歩けた。もっと歩けたが、TVが見たくてやめた。その翌日から調子が落ちて、35分までしか歩けなくなった。

他覚所見:

 仰向けで胸に膝を近づける動きをすると右が硬く、臀部のストレッチも右が硬い。

第22回(2018年1月10日)

自覚所見:

 指導された大腿内転、外転トレーニングもするようになり、身体のふらつきは指摘されるまで気づいていなかった。

他覚所見:

 前回から約3週間あき、左臀部から左大腿外側、前面が硬い。仰向けで膝を胸に近づける動きも左右バラバラになってしまった。

第26回(同年2月7日)

自覚所見:

 20回目以降あまり調子が上がらず、30分までしか歩けない状態が続いた。

第27回(同年2月14日)

自覚所見:

 26回目の施術後、1日40分歩けた。

他覚所見:

 仰向けで膝を胸に近づける動きが左右同じように動くようになった。

第33回(同年3月28日)

自覚所見:

 32回目の施術後、1日50分以降は痛みに耐えながら72 分まで歩けた。
 日が経つと40 分までに低下してしまった。

他覚所見:

 前回よりもゆるみが出ていたが脊柱起立筋の腰椎5番がまだ少し硬い。

第50回(同年10月22日)

自覚所見:

 42回目よりゴムチューブを使って1日10回肩のストレッチを追加したところ、体がつりやすいのが治った。良い状態がキープできているので、46回目以降、約3週間に一度のペースにしたが、歩ける時間は30~40分程度で安定していた。
 だが、10月20日に四男の引っ越しを手伝った日から腰を痛め、あまり歩けなくなった。

他覚所見:

 圧痛はないが傾いて歩いている。アイシングをして指圧。

第51回(同年11月5日)

自覚所見:

 50回目の翌日には腰の痛みが取れて、今まで時間が経つにつれて徐々に出ていた痛みが一切出なくなり、40分歩いても痛みはなかった。1時間でも痛みなく歩けそうな気がする。

第54回(2019年3月4日)

自覚所見:

 前回施術から47日。50回目以降徐々に期間をあけているが、その間一度も痛みが出ることなく、30分歩きストレッチをしてまた30分歩けている。痺れが少しあるだけで、痛みを感じることがなくなり日常生活に一切問題がなくなった。

第56回(同年6月12日)

自覚所見:

 前回施術から50日後、50分歩いたが、痛みなく歩けた。痺れが少しあるだけで何の問題もない。

 最初の頃よりも痺れの強さも減った。

他覚所見:

 触診によるゆがみはない。抵抗運動での左下肢筋力の右下肢との差がなくなってきた。

Ⅳ.考察

 腰痛症の85%は原因不明の非特異性腰痛である。3)

 腰部脊柱管狭窄症においても画像だけでは症状の有無を判別できず、しかも狭窄の程度と臨床症状の重症度とは必ずしも相関しない。4)

 本症例においても整形外科での2017年3月15日(指圧治療前)と2019年3月25日(指圧治療開始後)X線所見にて、画像における変化はないと医師に診断を受けている。しかし、歩行時間は最短5 分であったものが、指圧治療開始後は最長72分と、14倍以上の歩行が可能になった。画像所見による変化は認められないにも関わらず、歩行時間が延びるにつれて、疼痛は消失し、他覚所見にて観察された全体的な筋硬結にも改善がみられた。治療期間終了後は左下肢に痺れが少し残るのみとなり、日常生活に一切問題がなくなるまでになった。

 筋の収縮は、活動電位により筋小胞体の終末槽からCa2 +が細胞質中に放出され、筋漿膜内のCa2 +濃度が上昇しアクチンフィラメントがミオシンフィラメントに滑り込むことで出現する。しかし、筋小胞体損傷でCa2 +が損傷部から放出し、また筋細胞膜損傷で細胞外のCa2 +が細胞内へ流入すると、筋漿膜内のCa2 +濃度上昇に伴う、局所的なアクチンとミオシンの膠着が出現する。

 膠着解除のためATP が必要となり代謝は亢進するが、アクチンとミオシンの膠着による局所循環障害は、酸素欠乏と栄養低下によるエネルギー欠乏を招き5)、過敏性物質(内因性発痛物質)が筋細胞外に放出され、Ⅳ群神経終末や自律神経終末を刺激して痛みを引き起こす。さらに筋からの痛覚線維のインパルスが交感神経の反射活動を高めて局所的な虚血をもたらす。また、筋内の局所に交感神経節後線維から反射活動によって放出されるノルアドレナリンが、痛覚受容器の過敏化にも寄与する。6)これらのことにより、さらに膠着が持続し筋硬結が形成される。

 筋硬結を改善するためには、アクチンとミオシンの膠着を解除する必要がある。解除方法として、①物理的な伸張、②血流改善によるATP産生促進、③代謝低下による発痛物質の産生抑制、④痛覚線維の興奮性抑制などがあげられる。5)

 指圧療法では母指、手根による筋の圧迫をするので、①の方法に該当する。

 また指圧による血流改善7)の報告がされており②の方法も該当する。

 また、骨自体に関節を動かす力はなく、人が身体を動かすときには必ず筋肉を使う。

 ひとつの動作を行うとき、主動筋が働くときには、それに対する拮抗筋が自動的に弛緩することで、動作をスムーズに行うことができる(相反神経支配)ことから、筋硬結により主動筋と拮抗筋のバランス、筋肉の収縮と弛緩のバランスが崩れれば、動作をスムーズには行えないということになる。

 シェリントンの相反神経支配によると,短縮や緊張した筋は,その拮抗筋を抑制することから、筋の不均衡を改善するためには筋力低下を起こした筋より、緊張・短縮した筋にアプローチをすることが臨床的には適切であることが指摘されている。8)

 厚生労働省は、“ 人の身体には、地球の重力から姿勢を保つために働く抗重力筋があり、本来抗重力筋が正しい状態にあると、抗重力筋全体がバランスを取り合い身体の歪みが修正される。日常生活で身体に癖がつくと、抗重力筋は癖のある悪い姿勢を記憶して身体の歪みを作り、慢性の肩こりや腰痛を引き起こす。9)” としており、これらのことから、X 線所見において変化がみられないにも関わらず、明らかな症状の改善がみられるのは、X 線には映らない指圧治療による筋肉の状態の変化が大きく影響したと推測される。

 その機序として、指圧療法では血流の改善7)筋の硬さの改善10)11)関節可動域の拡大12)13)14)が報告されており、全身指圧療法を行ったことにより抗重力筋のバランスが整い、疼痛、脊柱管狭窄症状の改善に寄与したものと推測される。

 実際に、当院ではX 線では何の異常も認められないと診断された患者が複数名来院したが、指圧により疼痛の改善がみられている。

 今回、脊柱管狭窄症の疼痛の消失、歩行時間の改善、身体のふらつきが改善したことから、保存療法として指圧療法を取り入れていくことは十分価値あることだと思われる。

Ⅴ.結語

 脊柱管狭窄症に対して全身指圧療法を中心とした施術を試みたところ、疼痛の消失、歩行時間の改善、身体のふらつきの改善が認められた。日常生活において何の支障もきたさない状態に至った。

 指圧治療開始前と後の脊柱管狭窄症改善後でのX 線所見における画像変化は認められず、脊柱管の狭窄と臨床症状との相関性は認められなかった。

 脊柱管狭窄症に対して全身の指圧療法を中心とした施術が有効であることが示唆された。

参考文献

1)日本整形外科学会,日本脊椎脊髄病学会編:腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2011,南江堂,東京,p.1-2,2011
2)厚生省医務局医事課編:指圧の理論と実技,医歯薬出版,東京,1957
3)大川淳 編:しびれ・痛みに対する整形外科診療の進歩,別冊整形外科No.74;p.47,2018
4)日本整形外科学会,日本脊柱脊髄病学会編:前掲註1),p.27
5)黒田幸雄,篠原英記 他編;理学療法MOOK5 物理療法,三輪書店,東京,2000
6)竹井仁:姿勢の教科書,ナツメ社,東京,p.88-89,2017
7)蒲原秀明 他:末梢循環に及ぼす指圧刺激の効果,指圧研究会論文集Ⅱ;p.13-17,2013
8)葛原憲治:筋の不均衡を改善するためのパートナーストレッチング,日本保健医療行動科学会雑誌28(2);p.44,2014
9)厚生労働省ウェブサイト
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-093.html
10)浅井宗一 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果,指圧研究会論文集Ⅱ;p.19-22,2013
11)菅田直記 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果(第2報),指圧研究会論文集Ⅱ;p.23-26,2013
12)衞藤友親 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果(第3報),指圧研究会論文集Ⅱ;p.27-30,2013
13)田附正光 他:指圧刺激による脊柱の可動性及び筋の硬さに対する効果,指圧研究会論文集Ⅱ;p.31-34,2013
14)宮地愛美 他:腹部指圧刺激による脊柱の可動性に対する効果,指圧研究会論文集Ⅱ;p.35-38,2013


【要旨】

脊柱管狭窄症に対する指圧療法を中心とした治療効果
新田 英輔

 脊柱管狭窄症は現在のところ明確な原因は不明であり、定義に関しても統一された見解は存在しない。

 整形外科3 カ所で脊柱管狭窄症と診断され、2年間リハビリを行ったが効果が全くなかった70代の男性患者に対して、全身指圧療法を中心とする施術を試みたところ、疼痛の消失、歩行時間が指圧治療開始後2回目で約2倍に、最大14倍以上に延長し、歩行時の身体のふらつきの改善が認められた。

 脊柱管狭窄症に対して全身の指圧療法を中心とした施術が有効であることが示唆されたため、その症例を報告する。

キーワード:脊柱管狭窄症、腰痛、疼痛、痺れ、筋力低下、間欠跛行


乳がん術後の患者に対する疼痛と肩関節可動域制限への指圧治療:中盛 祐貴子

中盛 祐貴子
祐泉指圧治療院 院長

Shiatsu Treatment for a Patient with Shoulder Joint Pain and Decreased Range of Motion Due to Breast Cancer Surgery

Yukiko Nakamori

 

Abstract :  This report examines the case of a patient undergoing pectoral muscle-preserving mastectomy for cancer of the left breast, who was treated for the alleviation of shoulder joint pain and decreased range of motion using shiatsu therapy. After treatment, pain was alleviated and the range of motion of the shoulder joint was increased, which contributed to improving the patient’s quality of life. This suggests that shiatsu treatment combining finger pressure and joint mobilization was effective in improving the flexibility of the skin, subcutaneous tissue, and shoulder joint.

Keywords:breast cancer, mastectomy, pain, shoulder joint range of motion, strain, post-mastectomy neural pain, shiatsu, massage


I.はじめに

 乳がん手術後の主な後遺症としては、リンパ浮腫や手術後の恒常的な痛みなどがある。手術を受けたことによる胸部から腋窩、上腕にかけての痛み、違和感やしびれなどの知覚異常は、多くの場合、術後数カ月で和らぐとされている1)が、和らぐまでの間は患者が痛みに悩まされることになる。また、乳がん術後の患者においては、患側肩関節可動域が制限されやすく、更衣や整容などの日常生活動作の制限となる2)とされており、日常で不便さを感じる患者が多くいるといえる。
 今回、乳がんに対する左側胸筋温存乳房切除術後の患者に対し、全身指圧を施した。左胸部の疼痛と突っ張り感、左側肩関節を含む左側上肢各関節の可動域の制限を主に訴えており、筋、皮下組織及び皮膚の柔軟性と伸張性を改善することを主目的に施術を行ったところ、疼痛の緩和と肩関節可動域の変化を確認したのでここに報告する。

Ⅱ.対象および方法

施術対象:

 44歳 女性 自営業

施術日:

 令和1年8月27日

主訴:(患者の表現をそのまま記述):

 手術後、左胸あたりの痛み、突っ張り感がある。脇の下あたりも違和感がある。左腕が上がりにくいし、肘もしっかり伸ばせなくて、不便だし不快。左腕が上がりにくくなることは手術前に説明を受けているから理解はしているが、洗髪や髪を乾かす動作が思うように行えないのが苦しい。着替えの動作にも支障が出て、着られる服が制限されてしまい、毎朝の服選びに苦労している。疼痛により動きが阻害されることもストレス。早期の社会復帰に向けて、少しでも痛みが減り、身体が動きやすくなってほしい。

現病歴:

 令和1年7月30日、乳がんにより左側胸筋温存乳房切除術を受けてから、左胸部、腋窩部、上腕部に疼痛が出現。左側肩関節の可動域制限(主に前方挙上、側方挙上)も現れた。

既往歴:

 34 歳 卵巣嚢腫 腹腔鏡下手術

施術方法:

 1.仰臥位にて、腹部への指圧を行う
 2.仰臥位にて左胸部への軽圧での流動圧法や手掌刺激圧法を主に用いた指圧を行う。創傷部周辺(図1)は解離を起こさないように触圧と微圧にて慎重に行う
 3.仰臥位にて左上肢への指圧と運動操作を行う
 その後は全身調整として、
 4.側臥位にて、左側の頚部、背部、腰部および臀部への指圧を行う
 5.伏臥位にて、背部、腰部、臀部、両側下肢への指圧を行う
 宮下3)による乳がんに対する左乳房切除術(全摘手術)後の疼痛とそれに伴う肩関節可動域の制限に対する指圧療法の一例報告や指圧療法学4)も参考に施術を行った。

評価:

 ・問診での施術前後の所見、感覚の変化を聴取した
 ・目盛りのない直線100mm Visual Analogue Scale(VAS)を施術前後に記入してもらい、疼痛と突っ張り感を評価した
 ・角度計を用いて術前術後の肩関節可動域(前方挙上と側方挙上)を計測した

図1. 患者の乳房切除術後の創傷部

図1. 患者の乳房切除術後の創傷部

Ⅲ.結果

[術前所見]

自覚所見

 ・左胸部の疼痛および動作時痛
 ・左胸部、腋窩部の突っ張り感や違和感
 ・肩関節可動域制限(前方挙上、側方挙上)
 ・肩こりや背中の張りなどがあり、全身に倦怠感や疲労感がある

他覚所見

 ・肩関節の自動運動と他動運動時に左胸部に痛みを訴える
 ・触診により左胸部の皮膚の柔軟性と伸張性の低下を感じる
 ・左側肩関節の挙上動作の可動域制限あり(図2)
 ・両上肢の周囲径に顕著な左右差はみられない

図2.指圧施術前

図2.指圧施術前

図3.指圧施術後

図3.指圧施術後

[術後所見]

VAS 痛みの程度:

50 → 25

突っ張り感の程度:

48 → 22

肩関節の可動域:

前方挙上135°→ 145°、側方挙上:85°→ 95°

上腕周囲径(肘頭より上方10cm):

左28.5cm → 28.0cm、右28.9cm → 27.4cm

自覚所見

 ・左胸部の疼痛及び動作時痛が軽減した
 ・左胸部、腋窩部の突っ張り感や違和感が軽減した
 ・肩関節の可動域(前方挙上、側方挙上)が拡大した
 ・肩こりや背中の張りが軽減した

他覚所見

 ・触診により左胸部の皮膚の柔軟性と伸張性が向上した
 ・左側肩関節の可動域が拡大した(図3)

Ⅳ.考察

 本症例では、左側胸筋温存乳房切除術後4週後に指圧治療を行った。手術後から左胸部の疼痛、突っ張り感があるとのことだった。また、左側上肢を動かすと痛みが増強し、肩関節の可動域制限もみられ、QOL の低下を訴えていた。これらの症状は、『上腕後面、腋窩や前胸壁部などにおける、感覚低下を伴う締め付け感や灼熱感などが多い』『しばしば上肢運動によって痛みが増強するため、有痛性肩拘縮症となる』『術直後~半年までに発症することが多い』などの乳房切除術後疼痛症候群の特徴5)と重なる部分が多い。乳房切除術後疼痛症候群は乳房手術患者における手術操作による肋間上腕神経(第1 ~ 2 胸椎の皮枝)の神経障害が主な原因と考えられており、特徴があるとされている。本患者は乳房切除術後疼痛症候群を発症していたのではないかと考えられる。

 それに加えて今回、本患者は手術後の病理検査の結果待ちの状況にあり、「悪性度の高いがんだったら、と不安だ」などの発言を繰り返している様子からもストレスがかかった状態であったと推察される。そのため、ストレス=心の痛みが身体の痛みを増強させる6)ことから、痛みや不安の軽減を考慮する必要があった。指圧を含むマッサージは、エビデンスは示されていないものの、がん患者の痛みや不安などの苦痛症状を軽減するために主に緩和ケア病棟などで活用されている7)。指圧療法では、交感神経の興奮を抑制し、副交感神経活動を優位にする効果が示されている8)9)。今回、この指圧の効果によって、患者の交感神経の興奮、ストレスなどが緩和され、痛みを軽減できたと推察される。

 施術前と施術後の比較では、痛みの程度のVAS が50 → 25 に、突っ張り感の程度のVASが48 → 22 に変化した。不快な痛みや突っ張り感を緩和することは患者にとって有益であり、患者のQOL を向上させることに貢献できたといえる。

 本患者は、手術後11日間にわたりドレーン留置で過ごした。その期間、左側上肢を肩関節90°以上に挙上しないようにとの説明を受けていた。とはいえ、90°まで上げようとしても痛みや違和感が強く、ドレーン留置期間中は60°程度までしか上げられなかったとのことから、左側上肢の活動量が低下していたといえる。それに伴い、筋力低下、筋柔軟性の低下、筋の動きに関連する皮下組織や皮膚の柔軟性の低下が生じていたと推察される。指圧療法では筋柔軟性に対する効果が示されているほか10)11)12)、宮下3)は指圧療法が皮膚の柔軟性、伸張性を改善できる可能性を示唆する報告をしている。今回、これらの指圧の効果によって、肩関節の可動域に変化が起きたと推察される。

 施術前と施術後の画像(図2、3)を比較したところ、膝関節屈曲や骨盤後傾の改善がみられる。施術前には肩こりや背中の張りの訴えと倦怠感や疲労感の訴えがあり、上肢や胸部だけではなく背腰部や下肢などの筋にも過緊張が引き起こされていたと考えられる。新倉13)や作田14)は指圧療法が筋緊張を緩和させ姿勢を改善できる可能性を示唆する報告をしている。今回の症例においても、指圧の効果によって、姿勢が改善したと推察される。結果として、より上方へ手が届くようになり、日常生活動作の改善につながることが期待できる。

 施術1週間後に本患者から施術後経過の連絡があった。「施術後から動作時の痛みが減り、イライラすることがかなり減った。前屈みにならずに洗髪ができるようになり、着替えも楽になり服の選択肢が増えて快適。動きやすくなったことで運動への意欲が向上し、自主的リハビリテーションをより一層積極的に取り組めるようになった」との報告から、QOLが向上したといえる。

 早期の社会復帰を望む本患者は、乳房切除術後翌日から手指や手関節を動かすなどの自主的リハビリテーションにも取り組んでいた。生活指導および肩関節可動域訓練や上肢筋力増強訓練などの包括的リハビリテーションは、患側肩関節可動域の改善、上肢機能の改善がみられるので、実施が強く勧められている2)。しかしながら、入院期間の短縮化とともに、後遺症や合併症を有したまま退院する症例も多くみられ、術後がん患者の自宅生活におけるQOLを損なう大きな問題となっている15)。退院したあとの外来がんリハビリテーションに関しては、十分に行われていないのが現状である16)ため、指圧師が包括的なリハビリテーションや機能訓練の知識を学び、それに対応できる施術技術を持つことで、医療機関を退院後または外来リハビリテーションの終了後の乳がん術後の患者に対して、その役割を補完できると考えられる。

Ⅴ.結論

 指圧療法により、乳がんに対する胸筋温存乳房切除術後の疼痛を緩和させ、上肢の動作時痛を軽減できる可能性がある。また、指圧の押圧操作と運動操作を併用することで、肩関節可動域制限の改善がはかられ、乳がん手術後の患者のQOLを向上できる可能性があると考えられる。今回は1例のみの報告であるため、今後も症例を重ねて検討していきたい。

参考文献

1)日本乳癌学会:患者さんのための乳がん診療ガイドライン2019年版,p.100,金原出版, 東京,2019
2)日本リハビリテーション医学会:がんのリハビリテーションガイドライン,p.54,金原出版,東京,2013
3)宮下雅俊:乳がんに対する左乳房切除術(全摘手術)後の疼痛とそれに伴う肩関節可動域の制限に対する指圧療法の一例報告,日本指圧学会誌5;p.32-36,2016
4)石塚寛:指圧療法学 改訂第1 版,国際医学出版,東京,2008
5)日本緩和医療学会:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2010年版,https://www.jspm.ne.jp/guidelines/pain/2010/chapter02/02_01_03.php
6)仙波惠美子:ストレスにより痛みが増強する脳メカニズム,日本緩和医療薬学雑誌3(3);p.73-84,2010
7)日本緩和医療学会:がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス2016 年版,p.27-33,金原出版,東京,2016
8)栗原耕二朗 他:腹部の指圧刺激が瞳孔直径に及ぼす効果,東洋療法学校協会学会誌34;p.129-132,2010
9)渡辺貴之 他:仙骨部への指圧刺激が瞳孔直径・脈拍数• 血圧に及ぼす効果,東洋療法学校協会学会誌36;p.15-19,2012
10)浅井宗一 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果,東洋療法学校協会学会誌25;p.125-129,2001
11)菅田直記 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果(第2報),東洋療法学校協会学会誌26;p.35-39,2002
12)衞藤友親 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果(第3 報),東洋療法学校協会学会誌27;p.97-100,2003
13)新倉玄太:押圧操作と運動操作の併用により姿勢矯正が認められた一例,日本指圧学会誌4;p.15-18,2015
14)作田早苗:80 代女性 開腹手術後の円背矯正,日本指圧学会誌7;p.9-14,2018
15)日本医療研究開発機構:外来がんリハビリテーションプログラムの開発に関する研究,目的(2020年2月時点),http://www.jascc-cancer-reha.com/contents/c002.html
16)日本医療研究開発機構:外来がんリハビリテーションプログラムの開発に関する研究,トップページ(2020年2月時点),http://www.jascc-cancerreha.com/index.html


【要旨】

乳がん術後の患者に対する疼痛と肩関節可動域制限への指圧治療
中盛 祐貴子

 本症例では、乳がんに対する左側胸筋温存乳房切除術後の疼痛と肩関節可動域の制限がある患者に対して、指圧治療を行った。その結果、疼痛の緩和と肩関節可動域の拡大が見られ、患者のQOLの向上に貢献することができた。本症例の改善は、指圧により皮膚や皮下組織の柔軟性が向上し、肩関節に対して押圧操作と運動操作を施すことで、効果が得られたものと推察する。

キーワード:乳がん、乳房切除術、疼痛、肩関節可動域、痛み、突っ張り感、乳房切除後神経性疼痛、指圧、マッサージ


多嚢胞性卵巣(PCO)への指圧の治療効果:徳元 大輔

徳元 大輔
きりん堂指圧治療院 院長

Effects of Shiatsu Treatment for a Patient with Polycystic Ovary (PCO) : A Case Report

Daisuke Tokumoto

 

Abstract :  This report examines the case of a 31-year-old female patient complaining of constipation and menstrual pain and diagnosed with polycystic ovary (anovulatory menstruation), who received shiatsu treatments. The patient began to have regular bowel movements and the menstrual pain was eased as of the day following the first treatment. Six months later, she recovered from polycystic ovaries. Eight months later, she became pregnant. This case suggests that shiatsu treatment may contribute to the improvement of various gynecological diseases, including polycystic ovaries.

Keywords:shiatsu, polycystic ovary, anovulatory menstruation, infertility, menstrual cramps, constipation, Oriental medicine


I.はじめに

 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS:Polycystic Ovarian Syndrome)とは、排卵障害に伴う月経異常、卵巣の多嚢胞性変化、内分泌学的異常を主徴とする疾患であり、生殖年齢の5~8%に認められ1)、排卵障害の原因の一つといわれている。
 日本産科婦人科学会の診断基準2)によると、月経異常・多嚢胞性卵巣(ネックレスサイン)・内分泌学的異常(血中男性ホルモン高値、またはLH[黄体形成ホルモン]値が高値かつFSH[卵胞刺激ホルモン]値正常)などの診断基準を満たしたものが多嚢胞性卵巣と診断される。
 発症要因は、視床下部のドーパミン活性低下により下垂体からのLH 分泌が亢進することが第1に考えられている。また、近年はインスリン抵抗性もPCOS の病態形成に関与していることが明らかになり、様々な因子により発症すると考えられている1)。また、欧米では男性化兆候を伴うことが多いといわれているが、日本では必ずしもあてはまらない。3)
 本疾患のほとんどは軽度で、排卵が起こったり起こらなかったりする多嚢胞性卵巣症候群もどきといわれる多嚢胞性卵巣(PCO体質)も多い。今回取り上げる症例においても、患者は多嚢胞性卵巣症候群の診断基準を満たしていないため、多嚢胞性卵巣に該当する。この患者の生理痛と便秘の愁訴に対し指圧治療を行ったところ、症状の改善と多嚢胞性卵巣の正常化がみられたので報告する。

Ⅱ.対象及び方法

対象者

 31歳女性 主婦

主訴

 生理痛、便秘

自覚初見

 生理痛が強い、便通は2〜3日に1回ほど、肩こり、冷え性

他覚初見

 内臓と胸郭の下垂(やや扁平胸郭・打診音で胃下垂を認める)、下腹部の張り頚部および肩背部の筋緊張、骨盤の後屈および左短下肢、やや多毛

現病歴

 2017年6月5日、無排卵月経(多嚢胞性卵巣)と診断を受ける。

現病歴

 2017年6月5日、無排卵月経(多嚢胞性卵巣)と診断を受ける。
 漢方薬(温経湯)を処方されたが、初日で吐き気をもよおし服用をやめる。

既往歴

 なし

家族歴

 特記すべき事項なし

治療方針

     ・全身への指圧による筋緊張の緩和と運動操作による姿勢矯正および、胸郭と内臓下垂の改善
     ・普段の姿勢とストレッチの指導
     ・食事の傾向として炭水化物や糖質の摂取が多いため、糖質の摂取を控え、ミネラル(主にマグネシウム)を多く摂取するように食事指導

    治療方法とその手順

     1)腹部へ基本指圧
     2)下肢後面を除く両下肢へ、股関節部周辺から足趾へ以下の経絡に沿って流動圧法
     胃経4)、腎経5)、脾経6)、肝経7)、胆経8)
     3)下肢および足関節の運動操作9)
     4)両上肢へ肩関節周辺部から指先へ、経絡に沿って流動圧法
     肺経10)、心包経11)、心経12)、大腸経13)、三焦経14)、小腸経15)
     5)手関節の基本指圧
     6)臀部から両下肢後面を足趾へ、経絡に沿って流動圧法16)
     7)後頭部から背部を臀部まで、経絡に沿って流動圧法16)
     8)腰部伸展法17)
     9)左側にて、腰椎矯正法18)
     10)左前頚部を指圧
     11)左肩甲骨の挙上法19)
     12)右側にて、腰椎矯正法18)
     13)右前頚部を指圧
     14)右肩甲骨の挙上法19)
     15)頭部顔面への基本指圧
     16)腹部へ基本指圧
     17)上肢牽引法20)
     18)胸郭拡張法21)
     19)上肢反転法22)

    治療期間

     2017年6月〜2018年2月まで、計18回実施。
     2017年6月7日、21日/7月5日、18日/8月8日、25日/9月10日、30日/10月14日、25日/11月8日、22日/12月6日、20日
     2018年1月11日、14日/2月8日、20日

    Ⅲ.結果

    〈2017年6〜11月の治療経過〉

     ・血液検査でのホルモン値の異常は認められなかったが、超音波検査では多嚢胞性卵巣が認められた(図1)

    図1.6月5日の超音波検診結果

    図1.6月5日の超音波検診結果

     ・6月7日の治療後、翌日から毎日便通がある
     ・ストレッチは毎日ではないが実施している
     ・食事には全く気をつけていないとのこと
     ・7月13日の超音波検査では、卵巣の数が若干減って見える(図2)

    図2.7月13日の超音波検診結果

    図2.7月13日の超音波検診結果

     ・9月からは、月経痛が以前に比べてかなり軽減した
     ・12月14日の受診で、超音波検査では多嚢胞性卵巣は認められず、医師からいつでも妊娠できる状態だといわれる
     ・便通も毎日あり、生理痛も以前よりかなり軽減した
     ・2018 年2 月に妊娠検査薬で陽性反応が出たため、産婦人科を受診。妊娠2カ月ほどと診断された(図3)

    図3.2月13日の超音波検診結果

    図3.2月13日の超音波検診結果

     ・2018年9月に無事、男児を出産

    Ⅳ.考察

     多嚢胞性卵巣および、多嚢胞性卵巣症候群は原因がはっきりと分かっていない病気である。そのため、本症例において多嚢胞性卵巣の原因への直接的なアプローチは難しかったため、患者の体質、姿勢改善を主眼に置いた治療を行った。本患者においては、内臓下垂による血流不全と、腹部内臓の圧迫、食事の内容から糖質の摂取過多が疑われた。

     全身指圧は気血の流れを促進する目的で、四肢と背部の経絡に沿って流動圧法を実施した。加えて運動操作を行うことで、骨格矯正効果による内臓下垂の改善、神経伝達の促進がなされ、腹部内臓および骨盤神経に反射作用が生じ、卵子の成長、発育が正常化したものと考えられる。

     また、多嚢胞性卵巣症候群の主な症状に、肥満、ニキビ、糖代謝異常などが挙げられることから、慢性的なミネラル不足と、糖質摂取の量が多いことも可能性として考えられ、インスリン抵抗性もこれらの症状の発現に関与していると推察される。マグネシウムの摂取量低下はインスリン抵抗性や糖尿病と関連することが報告されており23)、多嚢胞性卵巣症候群の改善には糖質の摂取制限とマグネシウムの摂取が有効ではないかと考えられる24)

     しかし、今回は食事指導をしたにも関わらず、患者は全く気をつけていなかったことから、本症例では内臓下垂による代謝異常が主な原因であったと推察される。

    Ⅴ.結語

     施術開始翌日から便秘が改善し、生理痛も徐々に改善、その後約半年で多嚢胞性卵巣が完治した。これらのことから、指圧治療が多嚢胞性卵巣のみならず、様々な婦人科系疾患の改善に寄与できる可能性を示唆するものと考えられる。

    参考文献

    1)佐藤幸保:多嚢胞性卵巣症候群(PCOS),日本産科婦人科学会雑誌64(8)p.1841-1844,2012
    2)水沼英樹,苛原稔,久具宏司 他:生殖・内分泌委員会報告 本邦における多嚢胞性卵巣症候群の新しい診断基準の設定に関する小委員会(平成17年度〜平成18 年度)検討結果報告,日本産科婦人科学会雑誌59(3);p.868-886,2007
    3)岡庭豊:病気がみえるvol.9 婦人科・乳腺外科 第2版,p.36-37,図書印刷,東京,2009
    4)井沢正:図解による経絡経穴と指圧療法,p.71,日本指圧協会,東京,1972
    5)井沢正:前掲註4),p.115
    6)井沢正:前掲註4),p.83
    7)井沢正:前掲註4),p.151
    8)井沢正:前掲註4),p.139
    9)栗山三郎,浪越徳次郎:指圧療法全書,p.64,東京書館,東京,1967
    10)井沢正:前掲註4),p.55
    11)井沢正:前掲註4),p.123
    12)井沢正:前掲註4),p.91
    13)井沢正:前掲註4),p.63
    14)井沢正:前掲註4),p.129
    15)井沢正:前掲註4),p.95
    16)井沢正:前掲註4),p.103
    17)芹澤勝助:指圧の理論と実技,p.40,医歯薬出版,東京,1899
    18)栗山三郎,浪越徳次郎:前掲註9),p.64 実技写真64-65
    19)芹澤勝助:前掲註17),p.61-62
    20)栗山三郎,浪越徳次郎:前掲註9),p.71
    21)芹澤勝助:東洋医学の接点に立つ マッサージ・指圧法の実際,p.143-144,創元社,大阪,1970
    22)芹澤勝助:前掲註17),p.65-66
    23)Dong JY, et al.: Magnesium intake and risk of type2 diabetes: meta-analysis of prospective cohort studies,; Diabetes Care34; p.2116-2122, 2011
    24)池田康将,土屋浩一郎,玉置俊晃:見直される糖尿病の食事療法 5. 糖尿病と食事由来金属元素,糖尿病56(12);p.919-921,2013


    【要旨】

    多嚢胞性卵巣(PCO)への指圧の治療効果
    徳元 大輔

     本症例では、便秘、生理痛を訴える、多嚢胞性卵巣(無排卵月経)と診断された31歳の女性に対し、指圧治療を行った。その結果、治療開始翌日から便通があり、生理痛も軽減し、半年後には多嚢胞性卵巣が完治した。また、その8カ月後に当患者が妊娠したので、治療の経過をここに報告する。

     本症例から、指圧治療が多嚢胞性卵巣のみならず、さまざまな婦人科系疾患の改善に寄与できる可能性が考えられる。

    キーワード:指圧、多嚢胞性卵巣、無排卵月経、不妊症、生理痛、便秘、東洋医学


月経前症候群(PMS)と月経痛に対する指圧の効果について 第1報:PMS と月経痛に対するアンケート調査:硴田 雅子

硴田 雅子
千指圧治療院 院長

Effects of Shiatsu Therapy on Premenstrual Syndrome (PMS) and Menstrual Pain
1st Report: Survey by questionnaire on premenstrual syndrome (PMS) and menstrual pain

Masako Kakita

 

Abstract :  A survey was conducted in the form of a questionnaire on premenstrual syndrome (PMS) and menstrual pain, a general malaise specific to women, then shiatsu was performed on female subjects complaining of PMS and menstrual pain to examine the effects. This first report examines the results of the survey on PMS and menstrual pain conducted at a Japanese Shiatsu College and a medical and welfare school prior to the shiatsu treatments.

Keywords:Premenstrual Syndrome(PMS), Anma, Massage, Shiatsu, Questionnaire


I.はじめに

 近年、社会進出している女性の数が増えている中で、女性特有の不定愁訴を訴える数も増加傾向にあり、医療分野では女性外来の増設も数多くみられる。月経前症候群(Premenstrual Syndrome、以下PMS)も女性特有の症状であるが、PMSとは「月経前3~10日の間に続く身体的あるいは精神的症状で、月経が始まるとともに減退または消失するものをいう」と定義されている1)。PMSの身体的症状は、乳房痛、下腹部痛、過剰な睡眠欲、にきび、頭痛などがあり、精神的症状は、怒りやすい(イライラする)、憂うつ、疲れやすい、集中力低下、判断力の低下など広範囲にわたっている2)
 月経痛は激しい痛みと月経時随伴症状を引き起こし、重度な場合、寝込むなど日常生活に支障をきたすことがある。本研究では第1報としてアンケート調査の結果、第2報では指圧施術の効果について検討した。

Ⅱ.方法

1.対象

 日本指圧専門学校指圧科(以下、指圧学校)の女子学生91 名と、某医療福祉系学校(以下、福祉系学校)の女子学生81名に対し、PMSと月経痛についてアンケート調査を行った。なお、福祉系学校では鍼灸あん摩マッサージ指圧科(以下、本科)と介護福祉科の学生を対象とした。

 

2.アンケート期間

 令和元年6月6日~7月1日

3.アンケート内容

  PMSのアンケートは身体的症状と精神的症状について、月経痛および随伴症状のアンケートは鎮痛剤服用の有無や月経時の内容についてを表1、2の用紙を用いて聴取した。

4.集計方法

 PMSのアンケートは症状に3項目以上および5項目以上該当する人数の割合、月経痛および随伴症状のアンケートは自覚症状のある人数の割合を集計した。

表1.PMSアンケート

表1.PMSアンケート

表2.月経痛および随伴症状アンケート

表2.月経痛および随伴症状アンケート

Ⅲ.結果(経過)

1.アンケート回答率

 指圧学校は66 名(回答率72.5%)、福祉系学校は本科23 名、介護福祉科39 名の計62名(回答率76.5%)から回答を得られた。

2.年齢分布

 指圧学校では40歳以上は49%、24 歳以下は17%、35歳~39歳は15%であった。福祉系学校では24歳以下は82%、40歳以上は13%であった(図1)。

図1.年齢分布

図1.年齢分布

3.PMSアンケートについて

 PMSの身体的症状について3項目以上該当するのは指圧学校70%、福祉系学校71%であった。5項目以上該当するのは指圧学校39%、福祉系学校で44%であった。PMSの精神的症状について3項目以上該当するのは指圧学校36%、福祉系学校53%であった。5項目以上該当するのは指圧学校17%、福祉系学校で38%であった(図2、図3)。
 回答数の多い身体的症状の上位5項目は、指圧学校では、乳房痛51.5%、食欲亢進43.9%、過剰な睡眠欲39.3%、頭痛36.3%、下痢あるいは便秘34.8%であった。福祉系学校では、腰痛56.1%、乳房痛51.6%、下痢あるいは便秘40.9%、むくみ38.7%、頭痛33.8%であった(表3)。
 精神的症状の5項目以上の該当率については、指圧学校と福祉系学校で倍以上の差があったため、福祉系学校をさらに本科と介護福祉科に分類して結果を分析することにした。その結果、精神的症状の5項目以上に該当するのは本科30%、介護福祉科46%であった(図4)。
 回答数の多い精神的症状の上位5項目は、指圧学校では憂うつ46.9%、怒りやすい42.4%、疲れやすい42.4%、集中力低下31.8%、無気力24.2%であった。福祉系学校本科では怒りやすい47.8%、憂うつ34.7%、疲れやすい30.1%、無気力26.1%、涙もろくなる26.0%であった。福祉系学校介護福祉科では疲れやすい58.9%、怒りやすい53.8%、無気力53.8%、憂うつ51.2%、集中力低下33.3%であった(表4)。

図2.PMSの症状に3項目以上該当する人の割合

図2.PMSの症状に3項目以上該当する人の割合

図3.PMSの症状に5項目以上該当する人の割合

図3.PMSの症状に5項目以上該当する人の割合

表3.PMSの身体的症状 上位5項目

図4.PMS の症状に5項目以上該当する人の割合(本科と介護福祉科を分類)

図4.PMS の症状に5項目以上該当する人の割合(本科と介護福祉科を分類)

表4.PMSの精神的症状 上位5項目

表4.PMSの精神的症状 上位5項目

4.月経痛および随伴症状アンケートについて

 月経痛ありと回答したのは指圧学校68%、福祉系学校77%であった。月経痛があると回答した者のうち、鎮痛剤の服薬ありと回答したのは指圧学校58%、福祉系学校53%であった(図5)。

図5.月経痛の有無と服薬状況の回答結果

図5.月経痛の有無と服薬状況の回答結果

5.月経時随伴症状について

 月経時随伴症状については、問診票15項目中、特に多く該当した症状は下肢や全身のだるさ、眠気、イライラ、冷えであった(表5)。

表5.月経時随伴症状のうち該当率の高かった項目

表5.月経時随伴症状のうち該当率の高かった項目

Ⅳ.考察

 年齢分布については、指圧学校では40 歳以上が49%と約半数を占めており、24歳以下は17%だったのに対し、福祉系学校では40歳以上が13%、24歳以下は82%という、年齢分布に異なる特徴がみられた。

 PMSの身体的症状について指圧学校、福祉系学校とも約7割が症状を感じていることが分かった。症状の項目については指圧学校、福祉系学校では腰痛以外あまり差はみられなかった。

 PMSの精神的症状については憂うつ、怒りやすい、疲れやすい、無気力、集中力低下などが高い回答率を得ていることが分かった。5項目以上該当する率では、指圧学校、福祉系学校本科、福祉系学校介護福祉科で17%、30%、46%の順に多くなるという結果がみられた。これは、授業内で学生相互が手技の施術を行っているかどうかが影響を及ぼしていると推測される。指圧学校ではあん摩マッサージ指圧師の資格取得に向け、授業のカリキュラムの中で相互のあん摩マッサージ指圧施術を行っている。また、福祉系学校本科ではそれに鍼灸施術も加わる。それに対し、福祉系学校介護福祉科は、介護福祉士の資格取得を目指したカリキュラムのため、手技に類する施術は行われていない。つまり、指圧学校、福祉系学校本科では、日常的に授業の中で学生同士の施術が行われており、それが精神的ケアにつながり、精神的症状の該当率に差があらわれた可能性がある。しかし、身体的症状では両校で大きな差はなかった点や、学生相互の年齢分布に大きな差がある点などはこの考察ではカバーしきれていないため、今後の研究に繋げていく必要があると考える。

 月経痛については、指圧学校の68%、福祉系学校の77%で月経痛があるとの回答があった。また、月経痛がある者の半数以上が鎮痛剤を服用していると回答していた。月経時随伴症状については約7割に下肢や全身など、身体のいずれかの部位にだるさがあり、約6割に眠気、イライラ等の症状があるとの回答があった。

 今回のアンケート調査の対象では、半数以上に女性特有の不定愁訴であるPMSおよび月経痛、月経時随伴症状が現れていることがわかった。

 女性は思春期から閉経までに約400個排卵し3)、ほぼ毎月、月経を迎える。この期間は女性が社会と関わり、活躍を担う時期であることから、毎月起きる体調の変調は社会生活上、負担になっていると考えられる。月経に伴う体調の変化に対する治療法は様々であるが、PMSでは低用量ピル4)、月経痛では鎮痛剤が一般的な対処法とされている。しかしながら、瞬発力を要するアスリートや繊細な集中力を要する職業等、女性の活躍する場面は多岐にわたり、必ずしもすべての場面で薬剤処方がベストな選択になるとは限らない。そこで、薬剤以外の処方として、患者(重篤な基礎疾患のない)に対して手技である指圧施術を行い、その経過を観察した症例を得たため、第2報にて報告する予定である。

Ⅴ.結語

 今回のアンケート調査の結果において下記の知見を得た。

 1. PMSの身体的症状について、指圧学校、福祉系学校ともに3つ以上の症状に該当する回答者、5つ以上の症状に該当する回答者に大きな差はみられなかった

 2. PMSの精神的症状について、3つ以上の症状に該当する回答者の割合は福祉系学校より指圧学校の方が低かった。特に、指圧学校では5つ以上の症状に該当する回答者の割合は低かった

 3. 指圧学校の約7割、福祉系学校の約8割に月経痛の症状があり、月経痛のある者の約半数は服薬していることが分かった

Ⅵ.謝意

 本研究に協力いただいた教務の先生方とアンケートに協力いただいた皆様に心より感謝いたします。

参考文献

1)日本産科婦人科学会編:産科婦人科用語集第2版,p.34 金原出版,東京,1997
2)鈴木由紀子 他:PMS・PMDD と鍼灸治療,医道の日本66(7);27-51,2007
3)佐藤優子 他:生理学第二版,医歯薬出版,東京,150-152,2003
4)楠原浩二:低用量ピルの応用・子宮内膜症・PMS,臨床と薬物療法21;764-768,2002

その他 参考資料

1)武谷雄二:月経異常,日本医師会雑誌130(5);733-737,2003
2)光田大輔:別冊「ノーナプキンへの道」月経痛・PMS・PMDD 編—至福の月経を目指して—,木の香治療院,横浜,5-16,2009
3)石渡尚子 他:月経前症候群におよぼす大豆イソフラボンの影響(第2報),大豆たんぱく質研究7:157-160,2004


【要旨】

月経前症候群(PMS)と月経痛に対する指圧の効果について
第1報:PMS と月経痛に対するアンケート調査
硴田 雅子

 今回の研究では女性特有の不定愁訴である月経前症候群(PMS)と月経痛についてアンケート調査を行い、さらにPMSと月経痛を訴えている女性被験者に指圧施術を行い、その効果について検討した。本報告は第1報として、施術に先立ち日本指圧専門学校および某医療福祉系学校の女子学生を対象に、PMSと月経痛に関するアンケート調査を行った結果を報告する。

キーワード:月経前症候群(PMS)、あん摩マッサージ指圧、アンケート