浪越式基本指圧腹部操作が短距離走の走行タイムに及ぼす影響:大久保圭祐、中野まほ

大久保 圭祐, 中野 まほ
日本指圧専門学校 
指導教員:石塚洋之
日本指圧専門学校専任教員

Effects of Abdominal Region Shiatsu Based on Namikoshi Shiatsu Therapy’s Standard Procedures on Short-Distance Sprint Performance

Keisuke Okubo, Maho Nakano / Hiroyuki Ishizuka

Abstract : Ahead of the 2020 Tokyo Olympic Games, sports is receiving increasing attention in Japan. The aim of this study was to verify the effects of Namikoshi shiatsu therapy’s standard procedures on sport performance.
After adequate warm-up, five 50-meter sprints separated by five-min-intervals were timed, and images were taken with a fixed camera to analyze its influences on posture. Twenty points on the abdomen, which were based on Namikoshi shiatsu therapy’s standard procedures, were treated three times before the first sprint and during each interval between the sprints. On a different day, splinters performed five 50-meter sprints separated by five-min-intervals in the supine position without shiatsu treatment.
On an average, the shiatsu-treated group had shorter sprint times than the control group. When camera images were compared between the shiatsu-treated and control groups, differences were observed in twisting of the trunk, flexion of the knee joint, and stride length. These results suggest that the 20-point abdominal-region shiatsu based on Namikoshi shiatsu therapy’s standard procedures may have positive effects on the sprint performance.

Keywords: Shiatsu, run, sprint, abdominal region, abdominal pressure, trunk, exercise, time, 50m, track and field, manipulative therapy, angular motion, image, rectus abdominis, obliquus externus abdominis muscle, obliquus internus abdominis muscle, Olympic, length of stride, twist, motion, ROM, range of joint motion, joint, load, track, race, performance, massage, start, dash, run, crouch start, running motion, abdominal region shiatsu based on Namikoshi shiatsu therapy’s standard procedures


I.はじめに

 本実験では、50m全力走行時に、事前に走者に対して浪越式基本指圧腹部操作20点圧1)を施すことにより足関節、膝関節、体幹、肩関節のROM、股関節の屈曲スピード、スタートにおける腰部の位置に及ぼす影響と、これらが歩幅と走行時間にもたらす変化を検証した。

 8月15日は被験者に指圧刺激を与えて計測し、対照としては8月2日は被験者に指圧刺激を与えずに計測を行った。指圧刺激は浪越式基本指圧腹部操作20点圧を3セットとし、最初の走行前と各走行前の5分休憩時に実施し、計5回行った。対照は、最初の走行前と各走行前の計5回、仰臥位で5分間の安静をとらせた。走行前には十分なストレッチを行った2)

Ⅱ.方法

日時

 2015年8月2日、15日

場所

 駒沢オリンピック記念公園 陸上競技場 直線トラック

被験者

 1名 27歳 男性 体重52㎏ 身長161㎝ 
 小学生から大学生までサッカー競技者

道具

 CASIO DIGITAL SPORTS STOP WATCH HS-70W

撮影機材

 SONY HANDYCAM HDR-CX420
 iPhone 6plus

編集アプリケーション

 Adobe premiere pro CC 2015
 Adobe photoshop CC 2015

図1.実験プロトコル図1.実験プロトコル

III.結果

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表1.腹部指圧の有無による時間比較(秒)表1.腹部指圧の有無による時間比較(秒)

vol4_06table2表2

 走行時間による計測、撮影画像の比較から、表1、表2のような結果が得られた。腹部指圧により変化したのは、膝関節(屈曲)、腰部の位置、体幹(捻り動作)、肩関節(伸展)、歩幅、走行時間の短縮である。

 

IV.考察

 短距離の走行周期は次の2つに分けられる。①サポート期(足底が路面に接触している期間)と②リカバリー期(足底が路面から離れている期間)である。さらに、①および②は各3つに分類される。①サポート期は①‐1フットストライク(足底の一部が路面に接地する期間)、①‐2ミッドサポート(足底が路面に接地し、体重を支え、踵が地面から離れる直前までの期間)、①‐3テイクオフ(踵部が路面から離れ、足指が路面を離れるまでの期間)②リカバリー期は②‐1フォロースルー(足底部が路面から離れ、下肢の後方の運動が止まるまでの期間)、②‐2フォワードスウィング(下肢が後方から前方に移動する期間)、②‐3フットディセント(足底部が接地する直前の期間)以上の各々の周期には特異的な筋活動がみられ、走行スピードによっても変化している。1㎞を平均時速12km/hで走行した場合と平均時速16km/hで走行した場合、100mを平均時速36km/hで走行した走行した場合の筋活動では、100mを平均時速36km/hで走行した場合のみ腹筋活動が強くみられている。走行周期では①‐2~②‐2までに腹筋活動が強くみられる3)

 短距離走でのみ腹筋活動がみられる理由として、腕振りと骨盤の強い角運動が考えられる。走行時、骨盤には鉛直軸にまわる回転運動が生じ、鉛直軸周りの角運動量が生じる。この運動による体幹のブレを軽減させる為に腕振りが大切であり、事実、腕振りの角運動は骨盤の角運動により体幹に生じるブレを打ち消している。これは、大きなストライドで走る短距離走での走行に特徴的にみられる4)

 走行には理想的な脚の軌跡があり、スプリント・トレーニングマシンを用いた研究によると、足の運動には骨盤や体幹部の柔軟な捻り動作、回転運動を有効に利用し、かつ、身体バランスを巧みにとることが必要であるとされている。また、重要となるのは、この運動の始点がみぞおち辺り、すなわち上部腰椎から胸椎辺りまでということである5)

 腹部指圧による影響を受けると考えられる筋には、腹圧に関わる筋(横隔膜、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋)が含まれている。これらの腹壁筋に骨盤底筋群が加わり、協調的に収縮することで、腹腔内圧は上昇する。腹腔内圧の上昇は上位腰椎・下位腰椎の椎間板にかかる負荷を大幅に軽減することが知られている6)

 以上のことから本実験において、腹部指圧により腹圧に関わる筋の協調的なパフォーマンスの向上、及び、体幹の安定が生じ走行パフォーマンスが向上し、走行タイムが縮んだことが1つの可能性として考えられる。また、スタートダッシュにおける第1歩までの反応時間も、走行タイム短縮の可能性として考えられるが現段階では分析が難しい。

Ⅴ.結論

 腹部指圧は走行において注目される下肢には直接作用していない。しかし、運動の始点となる体幹部に影響を与え、下肢や上肢がより理想的に運動することに寄与していると考えられる。

 しかしながら、本実験では不明な点が多く、また、腹筋の運動があまりみられない、中・長距離の走行の時間には影響を与えない可能性もある。この先、より専門的な実験、分析が必要である。

 

引用文献

1) 石塚寛:指圧療法学 改訂第一版,国際医学出版株式会社,2008 
2) 杉浦晋:ストレッチング&ウォームアップ部位別テクニックと競技別プログラム,株式会社大泉書店,2008
3) 河野一郎,筑波大学 他 監修:公認アスレティックトレーナー専門科目テキスト 第6刷,株式会社文光堂,2011 
4) 鹿倉二郎 他 編集,河野一郎 他 監修:公認アスレティックトレーナー専門科目テキスト 第7巻アスレティックリハビリテーション,株式会社文光堂,2011
5) 小林寛道:ランニングパフォーマンスを高めるスポーツ動作の創造,杏林書院,p.42,2001
6) 坂井建雄 他 監訳:プロメテウス 解剖学アトラス解剖学総論運動器系 第2版,株式会社医学書院,2013 

参考文献

斎藤宏:運動学,医歯薬出版株式会社,2003

撮影協力:Clothing Valley Digital Studio


【要旨】

浪越式基本指圧腹部操作が短距離走の走行タイムに及ぼす影響
大久保 圭祐, 中野 まほ / 石塚 洋之

 2020年東京オリンピック開催に向け国内ではスポーツ事業に大きな関心が集まりつつある。そこで、「浪越式基本指圧」がスポーツパフォーマンスにどのような影響を及ばすのかを検証することは意義があると考え本実験を行った。
 走行前に十分な準備運動を行い、50メートルの全力走行を5分の休憩を挟んで5回行い、それぞれの走行時間を計測。また、走行時の姿勢の検討の為、定点にカメラを設置し撮影した。腹部指圧を行う場合、最初の走行前とそれぞれの5分休憩の間に腹部指圧20点を3回行い、コントロールは同時間仰臥にて休憩をとった。なお、腹部指圧とコントロールはそれぞれ別日に行った。
 走行タイムは平均して、指圧を行った方が短縮した。また画像比較においても、体幹の捻り動作、膝関節の屈曲動作、歩幅の3点に変化がみられた。浪越式基本操作腹部指圧20点圧が、影響を与えた可能性があると考える。

キーワード:指圧、走行、短距離、腹部、腹圧、体幹、運動、時間、50m、陸上、手技、角運動、画像、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、オリンピック、歩幅、ひねり、動作、ROM、関節可動域、関節、負荷、トラック、競技、タイム、マッサージ、スタート、ダッシュ、走る、クラウチング、走動作、浪越式腹部指圧