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避難所での指圧救護と主訴:月足弘法

日本指圧協会 東京指圧救護赤十字奉仕団
月足 弘法
五本木指圧研究所所長
中盛祐貴子
祐泉指圧治療院院長
菅原 伸人
日本指圧協会文京支部
瀧本 光代
瀧本指圧治療院 院長

Shiatsu treatments and chief complaints at the evacuation center

Hironori Tsukiashi, Yukiko Nakamori, Nobuto Sugawara, Mitsuyo Takimoto

Abstract :After the Tohoku Earthquake, we supported evacuees with Shiatsu treatment at a primary evacuation center of Azuma Sports Park, Fukushima City, Fukushima Prefecture (the number of evacuees of the day; 633) for two days from May 11 to May 12, 2011. We conducted hearing survey of chief complaints from 181 evacuees and treated them with a twenty-minute session of Shiatsu therapy. Chief complaints of the 181 evacuees living there consisted of problems of shoulders; 78, lower back; 35, legs; 23, neck; 20, arms; 13, back; 6; and other problems including eyestrain, gastritis, and fatigue; 6. Contrary to our expectation that mainly their chief complaints would be about lower back and legs, the number of evacuees complaining about strains and stiffness of shoulders was actually more than double that of lower back. We also questioned them about the chief complaints after the Shiatsu treatments and confirmed that they were abated.


I.はじめに

 2011年(平成23年)3月11日(金)14時46分18秒(日本時間)東日本大震災により被災された皆様に心から御見舞い申し上げます。

 日本指圧協会所属である東京指圧救護赤十字奉仕団(日本赤十字社東京都支部 特殊奉仕団)は、東日本大震災の一次避難所にて指圧救護を行った。

 医療活動として、避難所での指圧救護に対する検討および避難所における被災者の主訴を報告する。

II.方 法

1.対象

 1次避難所にて寝泊まりおよび食事をする避難者(当日の避難者数633人)の中で、指圧救護を受けた男性66人、女性115人の合計181人を対象とした。

 なお、指圧治療と主訴の記録使用について、十分に説明し同意を得た上で行った。

2.期間

 平成23年5月11日(水)〜12日(木)の2日間(東日本大震災発生から2か月後)

3.場所

 福島県あづま総合運動公園(福島市)一次避難所内、あづま総合体育館の救護施設および県営あづま球場の会議室。

4.指圧方法

 パイプ椅子による座位指圧(図1)および組み立て式ベッドによる伏臥、仰臥、横臥(図2)による浪越式指圧1)にて1人当たり約20分の施術を行った。

図1. パイプ椅子による座位指圧

図1. パイプ椅子による座位指圧

図2.組み立て式ベッドによる 伏臥、仰臥、横臥位での指圧

図2.組み立て式ベッドによる伏臥、仰臥、横臥位での指圧

5.問診方法

 主訴および症状をあん摩マッサージ指圧師21人(男性14人、女性7人)が、患者から直接問診し用紙に記録した。

6.記録管理

 あん摩マッサージ指圧師の担当者2人が、記録した問診用紙を集計し確認した。

III.結 果

1.指圧救護

 東京指圧救護赤十字奉仕団は、新潟県中越地震の被災地や大島噴火災害、三宅島噴火災害の避難所などでの指圧救護活動の経験に基づき、東日本大震災および福島原子力発電所事故による被災者の長引く避難所生活での心身疲労を考慮し医療従事者として指圧治療した。

 また、避難所生活での健康に対するアドバイスや運動法を指導すると共に、エコノミークラス症候群対策の自己指圧プリントを避難者へ配布および避難所に掲示した。

2.主 訴

 避難所に寝泊まりする被災者181人の主訴(図3)は、肩部78人、腰部35人、下肢23人、頸部20人、上肢13人、背部6人、その他6人(眼精疲労、胃炎、倦怠感など)であった。

 避難所生活ではエコノミークラス症候群2)の注意が必要であり下肢や腰部の主訴が多いと思われたが、肩の張りや凝りを訴える方が腰部の倍以上であった。

 また、指圧診療後の問診により手足や体が温まり3)凝りが取れたと、主訴の改善が確認できた。

図3.避難所に寝泊まりする被災者181人の主訴

図3.避難所に寝泊まりする被災者181人の主訴

IV.結論

 避難所生活の初期段階では、エコノミークラス症候群を意識した指圧と共に指圧救護によるコミュニケーションが大切である。また、長期化するほど精神的な影響が身体へ影響してくる為、継続的な指圧療法が必要である。

 指圧救護の効果としては、特にプライバシーの少ない避難所生活における不眠症に対して有効であったと指圧を受けた被災者から多くの報告を頂いた。

 避難所での指圧治療と主訴について分析した情報を共有し、避難所と同様に仮設住宅においても長期的な医療活動が必要であるといえる。

V.参考文献

1) 石塚 寛:指圧療法学, 国際医学出版, 東京, 2008
2) 榛沢和彦 他:新潟中越地震災害医療報告-下肢静脈エコー診療結果,新潟医学会雑誌, 120; pp.14-20, 2006
3) 蒲原秀明 他:末梢循環に及ぼす指圧刺激の効果,東洋療法学校協会学会誌(24); p.51-56, 2000


【要旨】

避難所での指圧救護と主訴
月足 弘法, 中盛祐貴子, 菅原 伸人, 瀧本 光代

 東日本大震災後の平成23年5月11日(水)〜12日(木)の2日間を福島県あづま総合運動公園(福島市)の一次避難所(当日の避難者数633人)にて指圧救護を行い、合計181人に対し主訴の聴取および20分の指圧施術を行った。避難所に寝泊まりする181人の主訴は、肩78人、腰35人、下肢23人、首20人、上肢13人、背部6人、その他(眼精疲労、胃炎、倦怠感など)6人であった。避難所生活では腰や下肢の主訴が多いと思われたが、肩の張りや凝りを訴える方が腰の倍以上であった。また、指圧診療後の問診により、主訴が改善されたことを確認できた。

キーワード:指圧、ボランティア、東日本大震災、エコノミー症候群



オスグッド・シュラッター病に対する指圧治療:月足弘法

月足 弘法
五本木指圧研究所 所長

Shiatsu treatment for Osgood-Schlatter disease: a case report

Hironori Tsukiashi

Abstract :This is a case report regarding a patient of Osgood-Schlatter disease treated with Shiatsu therapy. By releasing tensed periarticular muscles of the hip and knee joints, Shiatsu treatment in this case resulted in pain relief.


 I.はじめに

 オスグッド・シュラッター病(症候群)1)は、小学生高学年から中学生、高校生など10代前半の成長期に好発し、スポーツ活動などにより膝に痛みや腫れ等を伴う骨の病変。特に膝蓋靭帯でつながる、膝蓋骨から脛骨粗面にかけて痛みを訴えることが多い。これらの事により、指圧にて腹部から鼠径部、大腿四頭筋、関節および膝蓋靭帯、脛骨粗面など緩めてから、関節可動域を高める治療を行った。

II.指圧治療対象

1.対象

 男性 11歳(小学5年生) サッカー選手

2.現病歴

 整形外科よりオスグッド・シュラッター病と診断され、五本木指圧研究所にて指圧治療を受ける。

 主訴:サッカーのプレイ中に両膝が痛む。股関節の痛み。

3.指圧治療期間

 平成23年8月18日(木)〜3ヶ月に1度位の治療

4.指圧治療場所

 五本木指圧研究所

5.問診方法

 患者から直接、主訴および症状を問診して用紙に記録した。

6.記録管理

 記録した問診用紙は、治療カルテにて管理した。なお、指圧治療と主訴の記録使用について、十分に説明し同意を得た上で指圧治療を行った。

III.指圧治療方法

 五本木指圧研究所治療室の畳に施術用布団をしき、浪越式指圧2)の横臥位、伏臥位、仰臥位にて1治療当たり約45分から60分の指圧治療を施術した。患部および患部周辺には、仰臥位による腹部指圧から下肢への指圧および運動法、その後に伏臥位による臀部から下肢の応用指圧を行った。

1.腹部

 の字型掌圧の後、下腹部と肋間部を入念に指圧し、腹部の硬さをほぐす。(図1)

図1. の字掌圧9点、腹部20点

図1. の字掌圧9点、腹部20点

2.鼠径部

 大腿直筋の起始である下前腸骨棘の周囲を指圧する。

3.大腿部(前部、前側、内側、外側)

 大腿四頭筋(大腿直筋・中間広筋・外側広筋・内側広筋)を指圧する。前部では股関節の屈曲を荷う大腿直筋、前側では中間広筋・外側広筋・内側広筋、外側では大腿四頭筋の起始である大腿骨を入念に指圧する。この時、膝蓋骨から膝蓋靭帯および大腿四頭筋の停止である脛骨粗面まで、膝の伸展を意識しながら指圧をする。内側では恥骨際から長内転筋など内転筋群を中心に指圧して、股関節の内転がスムーズに出来るように緩めていく。(図2)

図2. 鼠径部3点、大腿前側10点

図2. 鼠径部3点、大腿前側10点

4.膝蓋骨

 膝蓋骨周囲部および外側、内側を指圧する。

5.下腿部

 脛骨粗面の外方の陥凹部(足三里穴相当部位)を繰り返し、足関節手前まで指圧する。

6.足関節

 膝の痛みを訴える患者は足関節が固いことが多いので、柔らかくなるまで指圧や内転と外転の運動法を繰り返す。

7.膝の運動法

 膝を立てて膝窩部(委中相当部位および内側、外側)をおさえて、前方引き出テストや後方引き出しテストの要領で運動法を行う。(図3)

図3. 膝の運動法

図3. 膝の運動法

8.股関節の運動法

 股関節を屈曲させ、内転および外転の運動法を行い股関節の可動域を上げる。

9.仙骨部および臀部

 膝に痛みがある時は、膝に負担のかからない様に歩く為に臀部が緊張していることが多いので、仙骨および大殿筋から大転子まで指圧する。

10.大腿後側

 大腿四頭筋の拮抗筋であるハムストリング筋(大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋)を指圧する。大腿後側部は、外側、中央、内側の3列を指圧する。腰仙骨神経叢から始まり脛骨神経と総腓骨神経に分かれて終わる坐骨神経を指圧する。(図4)

図4. 仙骨部、殿部並びに大腿後側部

図4. 仙骨部、殿部並びに大腿後側部

11.膝窩部

 膝の痛みや膝窩部に張りがある場合、膝を屈曲させ指圧する。

12.下腿後側部および踵骨、足底

 膝窩部の下からアキレス腱まで、下腿三頭筋を中心に指圧する。膝が痛む患者は、踵骨および足底が固い事が多いので入念に指圧をする。

IV.結 果

1.腹部から下肢の指圧により、股関節および周囲の筋の緊張を取ることが出来た。これらの事により、股関節の可動域が高まった。

2.指圧治療により膝および股関節の痛みがなくなり、再びサッカーの試合にて活躍が出来るようになった。また、指圧診療後の問診により、主訴が改善されたことが確認できた。

V.考 察

 指圧治療によりオスグッド・シュラッター病における膝の痛みおよび股関節の痛みが軽減し、再び運動が出来るまで回復した。これらにより、オスグッド・シュラッター病に対して、指圧は効果的な治療法といえる。

 腹部指圧にて股関節の可動域が上がった事から、内臓および骨盤内臓が弛緩したものと推測される。内臓および骨盤内臓の弛緩により腰背部へも影響を与え、下腿部の皮膚温の変化3)もしくは血液循環の変化があったと思われる。また、関節可動域に変化を及ぼし膝の痛みが改善した事から、股関節および膝関節、足関節の下肢3つの関節は関連があると考えられる。これらにより指圧は、膝の治療に有効であると考察される。

VI.結論

 オスグッド・シュラッター病は、10代前半の成長期に好発する為、継続的な指圧治療が必要である。加えて、自己指圧やストレッチなどにより、自己管理を意識しなければならない。また、10代前半の成長期は、学校や勉強、友人関係などにより、精神的な影響を受けやすくストレスを感じる事も多い。成長痛の好発する下肢の患部に加え、頭部および頸部、上肢、腰背部などを含めた全身指圧が効果的であるといえる。

Ⅶ.参考文献

1) 平野 篤:オスグッド病の発生原因とその予防, 日本整形外科学会雑誌, 85(9); pp.546-550, 2011
2) 石塚 寛:指圧療法学, 国際医学出版, 東京, 2008
3) 月足弘法 他:腰背部の指圧刺激による下腿部・足部皮膚温の変化, 東洋療法学校協会学会誌(31); pp.55-58, 2007


【要旨】

オスグッド・シュラッター病に対する指圧治療
月足 弘法

 オスグッド・シュラッター病の患者に対し指圧療法を行い、股関節および膝関節周辺の筋緊張を緩和させることにより疼痛の緩和がなされたので報告する。

キーワード:オスグッド・シュラッター病、指圧