黒澤 一弘
日本指圧専門学校教員
Discussion about postural analysis and measurement of joint motion utilizing free software
Kazuhiro Kurosawa
Abstract : For the development of Shiatsu in medicine, accumulation of evidences is crucial. Assessing the clinical condition of a patient objectively and accurately as much as possible, keeping track of its progress, and recording it are important. Solely the patient’s satisfaction and the fact of a cure are incomplete. Among the needs for Shiatsu treatment, locomotory problems make up relatively large number of complaints. Maintaining poor posture adds extra stress and strain to joints and muscles, and it may result in pain or discomfort. Accurate analysis of the patient’s posture allows a therapist to presume his/her muscle balance – which muscles are stretched/shortened. Taking this opportunity, I would like to discuss postural analysis utilizing digital camera and GIMP (GNU Image Manipulation Program).
I.はじめに
医療における指圧が発展していくには、エビデンスの蓄積が必要である。それは単に患者の満足や治ったという事実で終わらせるのではなく、患者の病態を可能な限り客観的かつ正確に評価し、それを記録し経過を追っていくことが重要である。
今日コンピュータやデジタルカメラ、スマートフォンなどの機器が普及し、多くの人がそれらを活用している。ここでは、それらの機器を用い、フリーウェア※1 ,※2 を活用して姿勢分析や関節可動域測定を行い、それを記録していくための方法を紹介する。
※1 フリーウェア:オンラインソフトの中で、無料で提供されるソフトウェア。
※2 ソフトウェアの選定基準として、Mac、Windows双方で同じソフトウェアが提供されていることを条件とした。
II.デジタルカメラとGIMPを用いた姿勢分析
II-1. GIMPについて
指圧療法への要求のなかでも、運動器系の愁訴は多い。不良な姿勢がつづくことにより、関節や筋に持続的な緊張が加わり痛みや不快感の原因となりうるが、姿勢を正確に分析することにより、どの筋が伸長し、どの筋が短縮しているかという筋バランスを推測することができる。
GIMP※3はMac、Windows、Linuxで使える汎用の画像加工・編集ツールである。無料でありながら他の有料画像編集ソフトウェアと比べても遜色のない機能を備えている。GIMPの機能は非常に多岐にわたるが、ここでは姿勢分析のための鉛直線に沿うように画像を回転させ水平をとり、グリッド(マス目)を被せることにより姿勢分析に応用する方法を述べる。
※3 GIMPのライセンスはGPL(General Public License)に属し、GIMP本体のプログラムを改変し販売することは認められないが、使用に関しては誰もが無料で使用できる。
II-2 GIMPのインストール
ソフトウェア「GIMP」をダウンロードするために http://www.gimp.org/ にアクセスする。表示された画面の「Download」をクリックする。
ダウンロードしたファイルを実行し、GIMPをインストールする。尚、インストール画面までは英語表記であるが、プログラム本体は多言語対応で、インストール後に日本語表記となる。
II-3 GIMPを使い写真の水平垂直を合わせる
写真から姿勢分析を行うのに重要なことは、水平垂直が正確にとれていることである。そこで、天井などから錘を垂らし、鉛直線を1本つくる。
※ 鉛直線は釣具店などで鉛の重石を購入し、丈夫な紐に括り付ければ安価に作成できる。
下の写真は三脚を用いず、カメラを手持ちで撮影した。見た目にやや前傾姿勢に見えるが、この写真は正確な水平がとれていない。そこで、この写真をサンプルとして鉛直線を基準に画像を回転させ、水平垂直を合わせる。
① 水平をとるための仮想グリッド[表示]-[グリッドを表示]を選択する。
② 画面上にグリッドが引かれるが、マス目が細かすぎるので、グリッド幅を調節する。
[画像]-[グリッドの設定]を選択する。
間隔の数値をそれぞれ100※4 に変更する。
※4 幅と高さを100としたのは、後の画像を回転させ、水平垂直を合わせるために、見やすくするためであり、100以外でも可能である。デジタルカメラの画素数やPC環境により、最適な数値は異なる。
※5 鎖のマークは幅と高さの比率を固定とするか否かである。
③ グリッドの間隔が広がる。拡大して画像の傾きを確認する。
ツールボックスより【ズーム】を選択 する。
水平・垂直がずれているのが確認できる。
画像を回転させ、グリッドと鉛直線を平行にする。ツールボックスより【回転】を選択。
[回転]ツールを使い、鉛直線と縦グリッドを平行にあわせる
④ 水平垂直が正確となったが、表示されていたグリッドは画像編集のための仮想グリッドなので、保存してもグリッドは残らない。
II-4 GIMPを使い写真にグリッドをひく
⑤ 水平がとれたならば、次は姿勢分析のために画像に上書きするグリッド線をひく。まずは再び[表示]-[グリッドを表示]を選択し、仮想グリッドを非表示にする。
⑥ [フィルタ]-[下塗り] -[パターン] -[グリッド] を選択し、グリッドを画像に被せる。
グリッドの間隔が細かすぎるので変更する。間隔の値を適切な値に設定する。ここでは水平、垂直を16から100に変更する。
画像に直接グリッドが描画される。この状態で保存すれば、グリッド有りで保存される。
⑦ 周囲の不要な部分を除き、トリミングする。ツールボックスより[切り抜き]を選び、残したい部分を囲む。
範囲選択後、クリックまたはエンターキーで画像がトリミングされる。
以上の手順を行うことにより、鉛直線を基準として、写真の水平・垂直を合わせ、姿勢分析に必要なグリッドを描画し、写真の大きさを調節することができる。この作業を前後左右で行うことにより、三次元的な姿勢のアンバランスを見分けることが容易となる。
※ 水平器のある三脚を用いて撮影すれば、画像の水平・垂直を合わせる処理は省略できるので、簡便となる。
III.ImageJを用いた関節可動域・角度測定
III-1. ImageJについて
ImageJはアメリカ国立衛生研究所(NIH)で開発された画像処理ソフトウェアで、MacOS X、Windows、Linuxで動作する。パブリックドメインとして誰もが自由に無料で使用できる。ImageJの機能は多岐にわたる1)が、ここでは関節可動域の測定について述べる。
III-2. ImageJのインストール
ソフトウェア「ImageJ」をダウンロードするために http://rsb.info.nih.gov/ij/ にアクセスし、ダウンロードしインストールする。
※Windowsを使用している場合は、Javaが付属した32ビットバージョンで良いと思われる。(使用しているWindowsが64ビットの場合でも動作する)Macの場合は、32ビット版と64ビット版が同梱されている。
III-3. ImageJを用いた関節可動域・角度測定
① 術前・術後などで関節の可動範囲をデジタルカメラなどで写真にとっておく。
② 角度測定はアングルツールを用いるが、事前に計測したい関節周囲を虫眼鏡ツールで拡大する。ズームインしたいときは、このツールで画像をクリックする。ズームアウトの時は、Alt +クリック、または右クリック。(Macの場合、option + クリック、または右クリック)
③ アングルツールを用いて、角度測定を行う関節の基本軸と移動軸に合わせて線を引く。
④ メニューより[Analyze]-[Measure]を選択すると角度測定結果が表示される。
以上の手順により、術前・術後などで関節可動域の変化を数値で表せる。
IV.姿勢分析の一例
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眉間-オトガイのラインと指示基底面中心を通るラインがずれている。
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右肩上がり、左上肢が下がっている。
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側面図より、左上肢のほうが右上肢に比べ前にでていることから、体幹軸が左回旋していると考えられる。
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体幹の重心が左寄りになっている。
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右下肢軽度外旋位
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上肢が前にきていることにより、大胸筋, 小胸筋の過緊張が考えられる。※その結果として円背が引き起こされている可能性がある。
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胸椎後弯が目立つが、腰椎前弯はさほど強くないように思える。
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膝関節軽度屈曲
※股関節屈筋の緊張により、立位では膝屈曲が生じる。腰椎前弯を軽減させる目的で膝関節屈曲している可能性がある。2)
V.結語
GIMPやImageJを用いることにより、汎用のデジタルカメラを姿勢分析や関節可動域測定に利用できる。臨床の場では、角度計を用いた関節可動域測定は手間がかかることもあり、行われないことも多いと思われるが、デジタルカメラで術前、術後の写真を残しておけば、後から角度を測定し、記録していくことができる。
また、グリッド線を引くことにより、短時間での肉眼観察では気がつきにくい、筋骨格のアンバランスを知ることができる。
治療において、他覚的な所見を集め、その変化を記録し、観察していくことが重要だと思われる。クライエントに術前、術後の客観的変化を明示することにより、指圧の効果を具体的に示すことができ、それは施術者への信頼へとつながる。また、施術後に画像を解析することにより、考察を加え、次回の施術に活かしていくこともできる。そのプロセスの積み重ねが施術者の知識と技術の向上に大きく寄与すると考える。
理学療法の分野では、ImageJを用いた症例報告や研究論文が多数発表され、エビデンスの蓄積が行われている。今回、日本指圧学会の創立にあたり、指圧療法のエビデンス蓄積並びに、指圧界全体の発展に寄与できればと思い、本稿を執筆した。
VI.参考文献
1) 小島清嗣 他:画像解析テキスト—NIH Image, Scion Image, ImageJ実践講座,羊土社, 東京, 2006
2) ケンダル 他:筋 機能とテスト—姿勢と痛み,p.95, 西村書店, 東京, 2006
【要旨】
フリーウェアを用いた姿勢分析並びに関節可動域測定
黒澤 一弘
医療における指圧が発展していくには、エビデンスの蓄積が必要である。それは単に患者の満足や治ったという事実で終わらせるのではなく、患者の病態を可能な限り客観的かつ正確に評価し、それを記録し経過を追っていくことが重要である。指圧療法への要求のなかでも、運動器系の愁訴は比較的多いと思われる。不良な姿勢がつづくことにより、関節や筋にストレスや緊張が加わり痛みや不快感の原因となりうるが、姿勢を正確に分析することにより、どの筋が伸長し、どの筋が短縮しているかという筋バランスを推測することができる。今回は、デジタルカメラとGIMPを用いた姿勢分析について紹介する。
キーワード:姿勢分析、関節可動域、フリーウェア、GIMP、ImageJ、指圧