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肩関節周囲炎の指圧治療:金子和人

金子 和人
バーディー指圧治療院 院長

Shiatsu treatment for scapulohumeral periarthritis: a case report

Kazuto Kaneko

Abstract :Aiming at releasing tension of muscles consisting rotator cuff and periarticular muscles in order to alleviate the pain and improve the range of joint motion, Shiatsu treatment was provided for a patient of scapulohumeral periarthritis. After seven sessions of Shiatsu treatment, the range of joint motion was consequently improved. This case suggested the potential of Shiatsu treatment to improve flexibility and the decreased range of joint motion caused by scapulohumeral periarthritis.


I.はじめに

 肩関節周囲炎(五十肩)は40代以降によく発生し肩関節の痛みと運動障害を引き起こす疾患であり、画像診断にてはっきり分かる腱板断裂、石灰沈着性腱板炎を除く原因不明の疾患である。現代医学的には消炎鎮痛剤の内服、ステロイド局麻酔等の関節内注入が行われ、理学療法も併用される。

 指圧により疼痛の緩和、筋緊張の除去によるQOL早期改善を目的に行った。

II.対象および方法

[症例]

 60代男性 建築士

[現病歴]

 半年前からゴルフプレー中に左肩があがらなくなった。

 接骨院を受診し低周波電気治療、極超短波温熱治療、運動療法など治療を受けるが改善しなかった。

 ゴルフプレーに支障がない様な状況にするため、当院を受診する。

[既往歴]

 腰椎椎間板ヘルニア

[家族歴]

 特になし

[検査所見]

 外転、外旋、内旋、伸展、障害有り。
 ジャクソンテスト陰性
 アドソンテスト陽性
 斜角筋隙 圧痛有り
 (すべて左側)

[治療方針]

 検査所見により可動域制限と疼痛が主たる症状であることから、医師の診断はないが、肩関節周囲炎が考えられる。またアドソンテストも陽性を示すことから胸郭出口部での腕神経叢および鎖骨下動脈の圧迫も併発していると考える。

 上記により腱板を構成する諸筋及び肩関節周囲の筋緊張を除去し、疼痛と関節可動域の拡大を図る。

III.結 果(治療経過)

治療1回目(6月2日)

[患側上の横臥位]

 菱形筋、前鋸筋、斜角筋に重点を置く浪越式基本指圧。

[伏臥位]

 棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋に重点を置く浪越式基本指圧。

[仰臥位]

 大円筋、肩甲下筋に圧を加えながらの運動操作。斜角筋、胸鎖乳突筋の指圧。

 菱形筋の硬結が顕著であり、前鋸筋、肩甲下筋に圧痛点が認められた。(前鋸筋は指を置く程度でも圧痛有り)腋窩部は圧痛のため上腕を動かしながらの施術。

[術後の変化]

 外転挙上はほとんど変化が見られない、肩甲骨可動が多少向上した。

治療2回目(6月9日)

 治療内容は一回目と同じであるが肩甲骨可動域拡大により指が入りやすくなった。

 前鋸筋の圧痛が少なくなってきているが外転時に左鎖骨上部(腕神経叢)にしびれが出る。

治療3回目(6月16日)

 治療内容は同じ

 仰臥位の施術中に大胸筋に硬結を見つける、腋窩前壁の部分を重点部位に加え施術する。

 水平近くまで外転可能になる。

治療4回目(7月1日)

 治療内容は同じ

 二週開いてしまったためか前回と変化は見られない。

治療5回目(7月8日)

 治療内容は同じ

 以前圧痛のあった前鋸筋 肩甲下筋の圧痛が少なくなっている

 腋窩の硬結もゴリゴリした感じが減り、施術の痛みも和らいでいる。外転時水平まで挙上可能になる。

治療6回目(7月15日)

 治療内容は同じ

 前鋸筋、肩甲下筋の圧痛がほぼなくなる、三角筋中部に圧痛点がある。外転挙上は先週と変わらず。ゴルフプレーのためか?

治療7回目(7月29日)

 治療内容は同じ。

 腋窩部の硬結が消失するが、外転角度の改善はみられなかった。

関節可動域の変化

図1. 初回(6月2日)

図1. 初回(6月2日)

図2. 6回目(7月15日)

図2. 6回目(7月15日)

IV.考 察

 本症例は肩関節周囲炎と胸郭出口症候群が複合した症例と考えられる。よって腱板を構成する筋、関節周囲、頚部、胸郭出口部の筋緊張の除去を目的に施術を行った。

 7回の施術により肩甲骨の可動性が改善し、外転挙上が水平位まで改善がみられた。

 今回の結果により、肩関節周囲炎における疼痛と可動域制限には、肩周辺、頸周辺の筋緊張が少なからず関与していると考えられる。

 指圧刺激が筋の柔軟性を向上させることが発表されていることから1)2)3)、それらの筋の緊張を緩和させる指圧療法が肩関節周囲炎の治療に貢献できる可能性がある。

V.参考文献

1) 指圧刺激による筋の柔軟性に及ぼす効果.(社)東洋療法学校協会学会誌(25)125−129.2001
2) 指圧刺激による筋の柔軟性に及ぼす効果(第2報).(社)東洋療法学校協会学会誌(26)35−39.2002
3) 指圧刺激による筋の柔軟性の及ぼす効果(第3報).(社)東洋療法学校協会学会誌(27)97−100.2003


【要旨】

肩関節周囲炎に対する指圧治療
金子 和人

 肩関節周囲炎の患者1名に対し、腱板を構成する諸筋及び肩関節周囲の筋緊張を除去し、疼痛と関節可動域の拡大を図る目的で指圧療法を行った。その結果、7回の治療で関節可動域の改善がみられた。指圧療法により、筋の柔軟性を高めることで肩関節周囲炎による関節可動域制限が改善する可能性がある。

キーワード:肩関節周囲炎、指圧、関節可動域、筋緊張