カテゴリー別アーカイブ: 症例報告

乳腺炎に対する指圧治療 :宮下雅俊

宮下 雅俊
てのひら指圧治療院
院長

Shiatsu treatment for mastitis: a case report

Masatoshi Miyashita

Abstract : From June 29 to July 1, 2011, two sessions of Shiatsu treatment were conducted for a patient of stagnation mastitis. Shiatsu was practiced on her papillae, areolae, and outer rims of papillae, and consequently the patency was acquired. This case suggested the effectiveness of Shiatsu treatment for stagnation mastitis.


Ⅰ. はじめに

 乳腺炎とは乳腺の炎症性疾患をいう。急性型と慢性型があり、急性乳腺炎はほとんどが授乳期、ことに産褥期にみられる。

 うっ滞性乳腺炎は産褥期に発症することが多い。これは乳汁の排出障害に原因するもので、必ずしも起炎菌の感染がない。局所の疼痛、腫脹はあるが治療は保存療法でよい。急性化膿性乳腺炎は細菌の感染があって、発熱、悪寒を伴う。乳房の発熱、疼痛、腫脹は、はじめびまん性であるが、次第に限局して膿瘍を形成する。治療は抗生物質の投与と膿瘍に対しては切開排膿が必要である。1)

 2008年、私の娘が先天性食道閉鎖症のC型で産まれてきた。産後、妻は母乳を搾乳して、鼻からまたは、胃ろうからの経管栄養で、娘に母乳を与えていた。妻の乳房からの搾乳の苦労を少しでも和らげようと、私は母乳の排出が向上するように、平島利文氏の乳腺炎に対する指圧の臨床例を参考にして、乳房への指圧施術と搾乳の指導を行った経験があった。その際、正常な乳房からの乳汁の排出の状態を確認していた事と、指圧施術により乳房からの乳汁の排出が向上する効果があった事を確認した。今回、乳汁の排出障害からくる、乳房の腫脹、疼痛を訴える産褥期の女性患者から、乳房への指圧施術の依頼があり、妻のときと同様に指圧を施術する事によって、乳房の腫脹、疼痛が軽減した事を確認できたので、その症例報告を行う。

Ⅱ. 対象及び方法

場所:

 世田谷区在住患者宅

日時:

 2011年6月29日〜2011年7月1日

施術対象:

 41歳(女)
  身長 148cm 体重 48.6kg
  妊娠前の平均体重 43キロ
  出産前日の体重  56.8キロ

初診:

 2011年5月17日

現病歴:

 2011年5月12日陣痛が始まり、普通分娩の出産予定が、胎児が産道を通過できる程、子宮口が広がらず、急きょ帝王切開での緊急手術により2980グラムの男子を出産した。

方法:

 乳房に対しては以下三つの手指操作法を基本的に用いて施術にあたった。

① 二指圧<母指—示指対立圧>:以下二指操作と呼ぶ。母指の指紋部と、同じ手の示指の指紋部を向かい合わせ、挟むようにして両指でおす。2)

※ 普及版 完全図解指圧療法 浪越 徹著の中では二指圧の治療部位は手、足の指先と記述されているが、今回は乳頭、乳輪部、乳輪部外縁の施術を二指操作によって行った。

② 掌圧:手掌全体で押す操作と、母指球、小指球、手根部の各部でおす操作がある。
 片手掌圧:5本の手指を全部そろえてぴたりとつけ、手掌全体で押す、片手だけの掌圧。2)

③ 三指圧:同じ手の示指、中指、薬指をぴたりと合わせて、この三指の指紋部で押す。触診や一部の自己指圧操作に用いる。2)

Ⅲ. 結果

<初 診:下肢浮腫に対する治療依頼>

[日 時]

 2011年5月17日

[既往歴]

 特記すべき事項なし

[家族歴]

 特記すべき事項なし

 帝王切開術後の下肢浮腫抑制のため、弾性ストッキングを着用するが下肢浮腫がひどく、出産した病院内にて2011年5月17日、横臥位にて全身の指圧治療を施した。

 退院後、下肢浮腫に対する治療依頼があり、患者宅にて横臥位による全身指圧を施した。その際、尾骨、仙骨周辺の感覚鈍麻、しびれ感を訴えるので、医療機関での受診を勧める。

 後日、医療機関での診察の結果、座骨神経痛ではない。との診断を受けたが、腰痛、尾骨、仙骨周辺の感覚鈍麻、しびれ感の改善のための指圧による治療の依頼があった。

<第1回乳房への指圧治療 >

[日 時]

 2011年6月29日

[既往歴]

 特記すべき事項なし

[家族歴]

 特記すべき事項なし

[自覚症状]

 全身倦怠感、寝不足、尾骨・仙骨周辺の感覚麻痺、仰臥位で尾骨が床面にあたり痛み有り、帝王切開の術後による下腹部傷口周囲部の痛み、左乳房の腫脹、疼痛あり。

[視診]

  • 患者の正面からの視診:左右乳房の膨らみに大きな差を確認した。(左乳房>右乳房)
  • 患者を横側から視診:脊柱S字湾曲の腰椎の湾曲が強く現れている事を確認した。

[問診]

 視診により乳房の左右差が大きいため、乳房についてと母乳の出方について問診をした。

 左乳房は1週間前から痛みが出始め、母乳の出が悪いせいか乳児も左乳房から哺乳したがらず、右乳房からの哺乳がほとんどである事がわかった。

 次第に、左乳房の腫脹と疼痛が強くなるが、本人が出産した医療機関のおっぱい外来での対応は、出産1ヶ月後までは対応しているが、それ以降の乳房のトラブルには対応していないという事で、乳房のトラブルに対応してくれる医療機関を探していたが見つからず、指圧でも治療が可能でしょうか?と相談を受ける。

 右の母乳は出ているので、左の乳房の指圧治療の依頼を受ける。悪寒、発熱はないとの事で、細菌感染からの乳腺炎ではなくうっ帯性の乳腺炎の可能性があると判断した。

 腰痛、尾骨・仙骨周辺に対する問診をした。横向きに寝ているとき以外は、長時間同じ姿勢をしていると痛みがある。歩行の移動、寝返りなどの移動時には帝王切開術後の傷跡に響くような痛みがある。尾骨は、仰向けに寝ると、床面にあたり痛みがある。仙骨周辺は仙骨の中心部は感覚があまりなく、その周りは痺れている感覚がある。

[診察所見]

  • 患者の正面からの視診:左右乳房の膨らみに大きな差がみられる。(左乳房>右乳房)
  • 腹臥位での両下肢の内果での下肢長差の検査
    – 左下肢に比べ右下肢が短い。
    – 仰臥位での腰椎の前湾部分に軽い握りこぶし一つ分の隙間、腰椎の過前屈がみられる。

 最初の主訴である、腰痛、尾骨・仙骨部の感覚鈍麻、しびれ感に対して横臥位での全身指圧と仰臥位(仰臥位では尾骨が床面にあたり痛みが出るため、立て膝の姿勢でクッションを膝下にいれての施術)での腹部、前頸部に対する指圧治療を行い左乳房への治療を始めた。

<乳房の腫脹、疼痛に対する指圧>

 胸部の下着を外し視診、左乳房全体の腫脹を確認した。片手掌圧、三指圧で左乳房を触診し、熱、肌の状態、固い部分、痛みのある部分、圧痛のある部分の状態を確認した。触診により、左乳房全体の腫脹、鎖骨外方から5cm下方に大きな硬結を確認した。

 次に実際に乳汁が出ている乳口を確認するために、乳輪部、乳輪部外縁の二指操作を行う。指圧施術の振動による痛みの誘発を防ぐため、左手は掌で乳房を支え、右手は母指と示指による二指操作による乳輪部・乳輪部外縁から乳管洞をイメージして水平押圧を行う。乳汁が出てくる乳口が1つ。他に開通している乳口を確認するために、縦、横、斜めの乳輪部外縁から乳頭に向け8方向からの二指操作による水平押圧操作と乳輪部の垂直押圧操作を行う。乳汁が出てくる乳口が1箇所であるため、開通している乳口は1箇所であることを確認した。

 二指操作で開通している乳口を確認後、蒸しタオルで軽く乳房を温めてから乳房に対する施術を開始した。乳房の腫脹が強く、腫脹による痛みの開放のため、開通している乳口より搾乳し、乳房の内圧を下げる。手指操作は、縦、横、斜めの乳輪部外縁から乳頭に向け8方向からの二指操作による水平押圧操作と乳輪部の垂直押圧操作を繰り返し行う。

 乳房内圧が減圧してきたのを掌圧で確認できたら、他の乳口の再開通のための施術を行う。乳頭部への二指操作による水平押圧操作を縦、横と繰り返し行いながら、縦、横、斜めの乳輪部外縁から乳頭に向け8方向からの二指操作による水平押圧操作と乳輪部の垂直押圧操作も合わせて繰り返し行う。

 最初、乳口が開通しているのは1箇所のみだったが、5箇所の乳口から乳汁が出ているのを確認ができたので、乳房内にある古い乳汁の搾乳を行い、乳房の腫脹の軽減を触診で判断し、本人から乳房の疼痛の軽減を確認したのち、授乳後の乳房に余っている乳汁の搾乳の指導を行って治療を完了した。

<第2回乳房への指圧治療 >

[日 時]

2011年7月1日

 前回の治療により左の乳房からの授乳はよくなったが、右乳房の乳汁の出がよくない事に患者本人が気付き、右乳房の乳口再開通の施術依頼を受けた。

 右乳房の触診で右乳房の腫脹を確認した。開通している乳口を確認すると、3箇所であったので、今回は乳房内圧の減圧は行わず、乳口再開通の以下の治療操作をはじめから行う。

 乳頭部への二指操作による水平押圧操作を縦、横と繰り返し行いながら、縦、横、斜めの乳輪部外縁から乳頭に向け8方向からの二指操作による水平押圧操作と乳輪部の垂直押圧操作も合わせて繰り返し行う。

 乳汁が出てくる乳口を6箇所確認できたので、乳房内にある古い乳汁の搾乳を行い、乳房の腫脹の軽減を触診で判断し、本人から乳房の疼痛の軽減を確認したのち、再度授乳後の搾乳指導を行い、横臥位での全身指圧を行って治療を完了した。

Ⅳ. 考察

 乳房に対しての指圧施術により、乳汁を排出する開通している乳口の数が増えたことを確認できた。また乳房の腫脹、疼痛が軽減した。

 乳腺炎は乳汁の排出障害を原因とするものである。乳腺は結合組織束の乳房提靭帯により10数個の乳腺葉に分けられる。それぞれの腺葉からは1本の乳管が乳管洞を経て乳頭に開口する3)。今回の症例では、指圧施術前に確認した乳汁が排出できている開通している乳口は、左乳房で1箇所、右乳房で3箇所であった。指圧施術後、乳汁を排出している乳口は、左乳房で5箇所、右乳房で6箇所。開通した乳口から指圧施術により搾乳した事で、乳房の腫脹、疼痛が軽減した事から、開通していない乳口の乳管洞、乳管に乳汁の貯留が多く、乳房内の内圧が高まり乳房の腫脹、疼痛を起こしていたと考えられる。

 乳頭への吸引刺激によって下垂体後葉から血中にオキシトシンが放出される4)事は知られているが、今回とくに乳頭部、乳輪部の指圧を繰り返す事で、乳汁が排出される乳口が開口されたことを確認できた。

 この事から指圧刺激により射乳反射に作用させ、オキシトシンの分泌を促進して、乳腺平滑筋を収縮し、乳汁を排出していた可能性が考えられる。

 しかしながら、射乳反射だけで乳汁の排出障害が改善されるならば、そもそも乳児が哺乳を行うだけで改善されていると考えられるが、実際には産褥期の授乳中の女性患者に、乳汁の排出障害が起きていて、指圧施術において乳汁の排出が促進されているところをみると、指圧による射乳反射のみならず、乳房に対する指圧の圧反射や、二指操作の対立圧による、乳管、乳管洞に貯留している乳汁に対する物理的作用などの、相互作用による効果であると言える。

 また、吉田ら5)が乳児の授乳拒否が乳房のトラブルの予知になると考えられると報告されている通り、今回のケースでも、乳児が2、3日前から左乳房の授乳拒否をしていて、腫脹が強く現れたと患者より報告があった。しかし、1回目の左乳房への指圧施術の翌日からは、乳児が左乳房からの授乳に満足している表情を見せていたと患者より報告をうけた。この事からも、乳房の排出障害は回復したことを証明できると考えられる。

 坪井ら6)の報告によれば、乳腺炎(急性化膿性乳腺炎)の86%は黄色・白色ブドウ球菌であり、極めて容易に短時間に広範囲に炎症が進行し、その原因の因子として、①授乳に際し、細菌感染の入口となるべき外傷が加わり易い。②乳汁が細菌増殖の培地になり得る。③疼痛と乳汁うっ滞の悪循環が容易に形成される事などをあげており、乳汁の鬱滞を防ぐために物理的処置を併用して保存的に炎症を早く消退さすべきである。と述べている。

 常在菌である黄色ブドウ球菌の細菌感染で、乳汁が培地になりえるならば、乳汁の排出障害のうっ滞性乳腺炎から、細菌感染の急性化膿性乳腺炎に移行するのは時間の問題であり、産褥期の女性であるならば誰にでも起こりえる可能性がある症状と言えるだろう。うっ滞性乳腺炎から病状が進行する事で、抗生物質の投与、乳房の切開などの外科的処置により、乳児への授乳の中断や、術後の乳房の瘢痕、心的肉体的苦痛など、母子ともにQOLの低下は避けられない。

 今回の症例のケースは指圧療法を施術する事で、腫脹、疼痛を軽減し、その後症状が悪化する事なく、回復に向かった事からも、早期の指圧療法がうっ滞性乳腺炎に効果があると言える。また、指圧を通して産褥期の女性や乳児のQOLに対しても貢献できる可能性があると考えられる。

Ⅴ. 結論

 今回の症例報告を通じ、指圧療法により、乳汁の排出できる乳口が増えた事で、乳房の腫脹、疼痛が減少した。このことから指圧療法が、うっ帯性乳腺炎に対して効果を上げる事が確認できた。

Ⅵ.参考文献

1) 南山堂医学大辞典 豪華版 第19版, p.1564, 南山堂,東京, 2006
2) 浪越 徹著:普及版 完全図解指圧療法, pp.53-57,日貿出版社,東京, 1992
3) 岸 清・石塚 寛 編:解剖学 第2版, p.264,医歯薬出版株式会社,東京, 2008
4) 佐藤優子・佐藤昭夫:生理学, p110, 医歯薬出版株式会社,東京, 2003
5) 吉田倫子 他:乳児が示す授乳拒否と乳房トラブルとの関係, 秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻紀要18(1); pp.33-39, 2010
6) 坪井重雄 他:急性乳腺炎治療の統計的観察, 東京女子医科大学雑誌,35(3); pp.252-256, 1965


【要旨】

乳腺炎に対する指圧治療
宮下 雅俊

 2011年6月29日〜2011年7月1日の期間2回にわたりうっ滞性乳腺炎の患者二指圧による乳頭部、乳輪部、乳輪部外縁の指圧施術を行った。その結果、乳口の開通が認められた。指圧療法がうっ滞性乳腺炎に治療効果を発揮することが示唆される。

キーワード:乳腺炎、乳腺、指圧、産褥期



オスグッド・シュラッター病に対する指圧治療:月足弘法

月足 弘法
五本木指圧研究所 所長

Shiatsu treatment for Osgood-Schlatter disease: a case report

Hironori Tsukiashi

Abstract :This is a case report regarding a patient of Osgood-Schlatter disease treated with Shiatsu therapy. By releasing tensed periarticular muscles of the hip and knee joints, Shiatsu treatment in this case resulted in pain relief.


 I.はじめに

 オスグッド・シュラッター病(症候群)1)は、小学生高学年から中学生、高校生など10代前半の成長期に好発し、スポーツ活動などにより膝に痛みや腫れ等を伴う骨の病変。特に膝蓋靭帯でつながる、膝蓋骨から脛骨粗面にかけて痛みを訴えることが多い。これらの事により、指圧にて腹部から鼠径部、大腿四頭筋、関節および膝蓋靭帯、脛骨粗面など緩めてから、関節可動域を高める治療を行った。

II.指圧治療対象

1.対象

 男性 11歳(小学5年生) サッカー選手

2.現病歴

 整形外科よりオスグッド・シュラッター病と診断され、五本木指圧研究所にて指圧治療を受ける。

 主訴:サッカーのプレイ中に両膝が痛む。股関節の痛み。

3.指圧治療期間

 平成23年8月18日(木)〜3ヶ月に1度位の治療

4.指圧治療場所

 五本木指圧研究所

5.問診方法

 患者から直接、主訴および症状を問診して用紙に記録した。

6.記録管理

 記録した問診用紙は、治療カルテにて管理した。なお、指圧治療と主訴の記録使用について、十分に説明し同意を得た上で指圧治療を行った。

III.指圧治療方法

 五本木指圧研究所治療室の畳に施術用布団をしき、浪越式指圧2)の横臥位、伏臥位、仰臥位にて1治療当たり約45分から60分の指圧治療を施術した。患部および患部周辺には、仰臥位による腹部指圧から下肢への指圧および運動法、その後に伏臥位による臀部から下肢の応用指圧を行った。

1.腹部

 の字型掌圧の後、下腹部と肋間部を入念に指圧し、腹部の硬さをほぐす。(図1)

図1. の字掌圧9点、腹部20点

図1. の字掌圧9点、腹部20点

2.鼠径部

 大腿直筋の起始である下前腸骨棘の周囲を指圧する。

3.大腿部(前部、前側、内側、外側)

 大腿四頭筋(大腿直筋・中間広筋・外側広筋・内側広筋)を指圧する。前部では股関節の屈曲を荷う大腿直筋、前側では中間広筋・外側広筋・内側広筋、外側では大腿四頭筋の起始である大腿骨を入念に指圧する。この時、膝蓋骨から膝蓋靭帯および大腿四頭筋の停止である脛骨粗面まで、膝の伸展を意識しながら指圧をする。内側では恥骨際から長内転筋など内転筋群を中心に指圧して、股関節の内転がスムーズに出来るように緩めていく。(図2)

図2. 鼠径部3点、大腿前側10点

図2. 鼠径部3点、大腿前側10点

4.膝蓋骨

 膝蓋骨周囲部および外側、内側を指圧する。

5.下腿部

 脛骨粗面の外方の陥凹部(足三里穴相当部位)を繰り返し、足関節手前まで指圧する。

6.足関節

 膝の痛みを訴える患者は足関節が固いことが多いので、柔らかくなるまで指圧や内転と外転の運動法を繰り返す。

7.膝の運動法

 膝を立てて膝窩部(委中相当部位および内側、外側)をおさえて、前方引き出テストや後方引き出しテストの要領で運動法を行う。(図3)

図3. 膝の運動法

図3. 膝の運動法

8.股関節の運動法

 股関節を屈曲させ、内転および外転の運動法を行い股関節の可動域を上げる。

9.仙骨部および臀部

 膝に痛みがある時は、膝に負担のかからない様に歩く為に臀部が緊張していることが多いので、仙骨および大殿筋から大転子まで指圧する。

10.大腿後側

 大腿四頭筋の拮抗筋であるハムストリング筋(大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋)を指圧する。大腿後側部は、外側、中央、内側の3列を指圧する。腰仙骨神経叢から始まり脛骨神経と総腓骨神経に分かれて終わる坐骨神経を指圧する。(図4)

図4. 仙骨部、殿部並びに大腿後側部

図4. 仙骨部、殿部並びに大腿後側部

11.膝窩部

 膝の痛みや膝窩部に張りがある場合、膝を屈曲させ指圧する。

12.下腿後側部および踵骨、足底

 膝窩部の下からアキレス腱まで、下腿三頭筋を中心に指圧する。膝が痛む患者は、踵骨および足底が固い事が多いので入念に指圧をする。

IV.結 果

1.腹部から下肢の指圧により、股関節および周囲の筋の緊張を取ることが出来た。これらの事により、股関節の可動域が高まった。

2.指圧治療により膝および股関節の痛みがなくなり、再びサッカーの試合にて活躍が出来るようになった。また、指圧診療後の問診により、主訴が改善されたことが確認できた。

V.考 察

 指圧治療によりオスグッド・シュラッター病における膝の痛みおよび股関節の痛みが軽減し、再び運動が出来るまで回復した。これらにより、オスグッド・シュラッター病に対して、指圧は効果的な治療法といえる。

 腹部指圧にて股関節の可動域が上がった事から、内臓および骨盤内臓が弛緩したものと推測される。内臓および骨盤内臓の弛緩により腰背部へも影響を与え、下腿部の皮膚温の変化3)もしくは血液循環の変化があったと思われる。また、関節可動域に変化を及ぼし膝の痛みが改善した事から、股関節および膝関節、足関節の下肢3つの関節は関連があると考えられる。これらにより指圧は、膝の治療に有効であると考察される。

VI.結論

 オスグッド・シュラッター病は、10代前半の成長期に好発する為、継続的な指圧治療が必要である。加えて、自己指圧やストレッチなどにより、自己管理を意識しなければならない。また、10代前半の成長期は、学校や勉強、友人関係などにより、精神的な影響を受けやすくストレスを感じる事も多い。成長痛の好発する下肢の患部に加え、頭部および頸部、上肢、腰背部などを含めた全身指圧が効果的であるといえる。

Ⅶ.参考文献

1) 平野 篤:オスグッド病の発生原因とその予防, 日本整形外科学会雑誌, 85(9); pp.546-550, 2011
2) 石塚 寛:指圧療法学, 国際医学出版, 東京, 2008
3) 月足弘法 他:腰背部の指圧刺激による下腿部・足部皮膚温の変化, 東洋療法学校協会学会誌(31); pp.55-58, 2007


【要旨】

オスグッド・シュラッター病に対する指圧治療
月足 弘法

 オスグッド・シュラッター病の患者に対し指圧療法を行い、股関節および膝関節周辺の筋緊張を緩和させることにより疼痛の緩和がなされたので報告する。

キーワード:オスグッド・シュラッター病、指圧



肩関節周囲炎の指圧治療:金子和人

金子 和人
バーディー指圧治療院 院長

Shiatsu treatment for scapulohumeral periarthritis: a case report

Kazuto Kaneko

Abstract :Aiming at releasing tension of muscles consisting rotator cuff and periarticular muscles in order to alleviate the pain and improve the range of joint motion, Shiatsu treatment was provided for a patient of scapulohumeral periarthritis. After seven sessions of Shiatsu treatment, the range of joint motion was consequently improved. This case suggested the potential of Shiatsu treatment to improve flexibility and the decreased range of joint motion caused by scapulohumeral periarthritis.


I.はじめに

 肩関節周囲炎(五十肩)は40代以降によく発生し肩関節の痛みと運動障害を引き起こす疾患であり、画像診断にてはっきり分かる腱板断裂、石灰沈着性腱板炎を除く原因不明の疾患である。現代医学的には消炎鎮痛剤の内服、ステロイド局麻酔等の関節内注入が行われ、理学療法も併用される。

 指圧により疼痛の緩和、筋緊張の除去によるQOL早期改善を目的に行った。

II.対象および方法

[症例]

 60代男性 建築士

[現病歴]

 半年前からゴルフプレー中に左肩があがらなくなった。

 接骨院を受診し低周波電気治療、極超短波温熱治療、運動療法など治療を受けるが改善しなかった。

 ゴルフプレーに支障がない様な状況にするため、当院を受診する。

[既往歴]

 腰椎椎間板ヘルニア

[家族歴]

 特になし

[検査所見]

 外転、外旋、内旋、伸展、障害有り。
 ジャクソンテスト陰性
 アドソンテスト陽性
 斜角筋隙 圧痛有り
 (すべて左側)

[治療方針]

 検査所見により可動域制限と疼痛が主たる症状であることから、医師の診断はないが、肩関節周囲炎が考えられる。またアドソンテストも陽性を示すことから胸郭出口部での腕神経叢および鎖骨下動脈の圧迫も併発していると考える。

 上記により腱板を構成する諸筋及び肩関節周囲の筋緊張を除去し、疼痛と関節可動域の拡大を図る。

III.結 果(治療経過)

治療1回目(6月2日)

[患側上の横臥位]

 菱形筋、前鋸筋、斜角筋に重点を置く浪越式基本指圧。

[伏臥位]

 棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋に重点を置く浪越式基本指圧。

[仰臥位]

 大円筋、肩甲下筋に圧を加えながらの運動操作。斜角筋、胸鎖乳突筋の指圧。

 菱形筋の硬結が顕著であり、前鋸筋、肩甲下筋に圧痛点が認められた。(前鋸筋は指を置く程度でも圧痛有り)腋窩部は圧痛のため上腕を動かしながらの施術。

[術後の変化]

 外転挙上はほとんど変化が見られない、肩甲骨可動が多少向上した。

治療2回目(6月9日)

 治療内容は一回目と同じであるが肩甲骨可動域拡大により指が入りやすくなった。

 前鋸筋の圧痛が少なくなってきているが外転時に左鎖骨上部(腕神経叢)にしびれが出る。

治療3回目(6月16日)

 治療内容は同じ

 仰臥位の施術中に大胸筋に硬結を見つける、腋窩前壁の部分を重点部位に加え施術する。

 水平近くまで外転可能になる。

治療4回目(7月1日)

 治療内容は同じ

 二週開いてしまったためか前回と変化は見られない。

治療5回目(7月8日)

 治療内容は同じ

 以前圧痛のあった前鋸筋 肩甲下筋の圧痛が少なくなっている

 腋窩の硬結もゴリゴリした感じが減り、施術の痛みも和らいでいる。外転時水平まで挙上可能になる。

治療6回目(7月15日)

 治療内容は同じ

 前鋸筋、肩甲下筋の圧痛がほぼなくなる、三角筋中部に圧痛点がある。外転挙上は先週と変わらず。ゴルフプレーのためか?

治療7回目(7月29日)

 治療内容は同じ。

 腋窩部の硬結が消失するが、外転角度の改善はみられなかった。

関節可動域の変化

図1. 初回(6月2日)

図1. 初回(6月2日)

図2. 6回目(7月15日)

図2. 6回目(7月15日)

IV.考 察

 本症例は肩関節周囲炎と胸郭出口症候群が複合した症例と考えられる。よって腱板を構成する筋、関節周囲、頚部、胸郭出口部の筋緊張の除去を目的に施術を行った。

 7回の施術により肩甲骨の可動性が改善し、外転挙上が水平位まで改善がみられた。

 今回の結果により、肩関節周囲炎における疼痛と可動域制限には、肩周辺、頸周辺の筋緊張が少なからず関与していると考えられる。

 指圧刺激が筋の柔軟性を向上させることが発表されていることから1)2)3)、それらの筋の緊張を緩和させる指圧療法が肩関節周囲炎の治療に貢献できる可能性がある。

V.参考文献

1) 指圧刺激による筋の柔軟性に及ぼす効果.(社)東洋療法学校協会学会誌(25)125−129.2001
2) 指圧刺激による筋の柔軟性に及ぼす効果(第2報).(社)東洋療法学校協会学会誌(26)35−39.2002
3) 指圧刺激による筋の柔軟性の及ぼす効果(第3報).(社)東洋療法学校協会学会誌(27)97−100.2003


【要旨】

肩関節周囲炎に対する指圧治療
金子 和人

 肩関節周囲炎の患者1名に対し、腱板を構成する諸筋及び肩関節周囲の筋緊張を除去し、疼痛と関節可動域の拡大を図る目的で指圧療法を行った。その結果、7回の治療で関節可動域の改善がみられた。指圧療法により、筋の柔軟性を高めることで肩関節周囲炎による関節可動域制限が改善する可能性がある。

キーワード:肩関節周囲炎、指圧、関節可動域、筋緊張



下肢のリンパ浮腫に対するアプローチ :中盛祐貴子

中盛祐貴子
祐泉指圧治療院 院長

Approach to lower-extremity lymphedema with Shiatsu and Földi method complex physical therapy: a case report

Yukiko Nakamori

Abstract : A patient of lower-extremity lymphedema, caused by extensive hysterectomy for treatment of uterine cervical cancer, was treated with combined application of Shiatsu therapy and Földi method complex physical therapy. Assessment of changes in circumference and volume of both lower-extremities based on seven reference points indicated decreases in all values. The result suggested the potential of treatments combined medical manual lymphatic drainage and Shiatsu therapy to alleviate the symptoms of secondary lymphedema and its concomitant symptoms.


I.目的

 リンパ浮腫は、主に原発性リンパ浮腫(原因不明、先天的)と続発性リンパ浮腫(原因明瞭、後天的)の2種類に大きく分類される。1)

 近年、日本においても乳がんや子宮がん、前立腺がんの発症率の増加2)と(図1)共に、後者の続発性リンパ浮腫患者の増加が杞憂されている。

図1. 部位別がん罹患数の推移[全年齢 複数年]

図1. 部位別がん罹患数の推移[全年齢 複数年]

 このリンパ浮腫に対するアプローチとして、「フェルディ式複合的理学的療法」と「指圧治療」の両者を採用することにより、手術や薬物投与に頼らないで保存療法を軸とするより多くの患者のQOLの向上に寄与できないかと考え、今回の臨床報告を行う。

Ⅱ.対象および方法

【症例】

日時:

 2010年9月11日〜2012年7月29日

施術対象:

 52歳女性
 ある日、不正出血があり、気がかりになり医療機関を受診。子宮頸がんの診断を受ける。  2010年3月9日に、同病の手術を受けた。病期分類はⅠ期。広範子宮全摘出術を採用。左右の鼠径リンパ節を郭清している。放射線療法や化学療法はしていない。術後は、リンパ浮腫予防のため、両下肢のセルフマッサージや、高位保持、ドクターショール製造のハイソックスやストッキングなどを着用し、セルフケアに努めていた。術後2ヶ月を経過した2010年5月頃から、右足関節の外果周辺に限局したリンパ浮腫を自覚。今後、右下肢大腿部や左下肢にも、このリンパ浮腫が広がっていかないか不安になり、当院を受診する。

【現病歴】

 右足関節の外果周辺にむくみを感じ、歩行時など下肢の重だるさや少し違和感がある。週末になると症状が重くなる。術後の後遺症として、全身の易疲労、便秘、腰痛などがある。

 術後から、エブランチル(排尿障害の改善薬)を服用。排尿は8回/日以上。

【初診時の所見】1)

  • シュテンマーサイン※1 …右第1足趾(+)
  • 圧痕性テスト …(−)
  • 皮膚肥厚チェック …右足背部(+)
  • 線維化・硬化 …(−)
  • 皮膚の状態 …右外果周辺に浮腫があり、手術の瘢痕は硬い。
  • 瘢痕の状態 …臍を囲んで縦型
  • 炎症徴候 ……なし
  • 反対側の浮腫 …感じたことはない
  • その他の所見 …下腿に靴下のくい込み痕

※1 シュテンマーサイン:浮腫が疑われる部分を親指と人差し指で薄くつまんだ場合、健康な皮膚は皮下組織より表面の部分が薄くつまめるが、浮腫がある場合には皮下組織の厚みを触知する。

【評価】1)

 左右下肢7点の計測基準点の周囲径計測値(図2)および下肢容積の変化(図3)を評価(治療開始時に計測)
 ①足背…第2趾爪甲根部より10cm
 ②外果…腓骨末端よりはじめ、外果より上点7cm
 ③下腿最大…下腿最大点(膝関節を基点に下方に向けて13cm)
 ④膝点…膝窩の関節裂隙外側 
 ⑤大腿部12cm…膝関節を基点に上方12cm 
 ⑥大腿部20cm…膝関節を基点に上方20cm 
 ⑦鼠径点…膝関節を基点に上方26cm、鼠径部付近の大腿最上点

図2. 下肢周囲径 計測表

図2. 下肢周囲径 計測表

図 3.下肢容積 計測表

図 3.下肢容積 計測表

 【治療】

 仰臥位にて、子宮がん術後右下肢リンパ浮腫を目的とした医療徒手リンパドレナージを60分施療。随伴症状に対しては、腰背部、臀部、下肢、肩甲骨および腋窩部、腹部に重点を置き、浪越式基本指圧を30分施療。同時に患者自身によるスキンケア及びマッサージ、弾性着衣による圧迫療法及び運動療法も併せて行う。

ⅰ.医療徒手リンパドレナージの基本手技1)3)

①静止クライス…指若しくは手掌全体で皮膚に密着し、皮膚と皮下部分に円運動を加える。

 (身体のあらゆる部位に用いることができる)

②ポンプ手技…母指と示指の間の部分を排液方向に向けて置き、手掌全体で圧を加える。

 (四肢や体幹、乳房の処置の際に用いられる)

③シェップ手技…四肢後面を手掌全体で交互にすくうように行う。

 (主に四肢末梢側に用いる、前腕や下腿)

④ドレー手技…手掌全体を体表に密着させ、適度に圧をかけながら前方へ柔らかく皮膚を動かす。

 (主に身体の面積の広い領域に対して用いる)

ⅱ.子宮がん術後右下肢リンパ浮腫へのアプローチ1)

※浮腫予防目的のため、両下肢を対象

①前処置

《臥位にて》

  • 頚部コンタクトと腹部深部のマッサージ、腹式呼吸を行う
  • 右腋窩〜右鼠径リンパ連絡路をドレナージ
  • 左腋窩〜左鼠径リンパ連絡路をドレナージ

《腹臥位にて》

  • 右腋窩〜右鼠径リンパ連絡路をドレナージ
  • 左腋窩〜左鼠径リンパ連絡路をドレナージ

②患肢及び健肢の処置

《腹臥位にて》

  • 右腰臀部外側〜大腿、膝、下腿、足部、足趾、右腋窩〜右鼠径リンパ連絡路
  • 左腰臀部外側〜大腿、膝、下腿、足部、足趾、左腋窩〜左鼠径リンパ連絡路

《臥位にて》

  • 腹臥位と同様の手順を下肢前面に行う

③後処置

《臥位にて》

  • 右腋窩〜右鼠径リンパ連絡路
  • 左腋窩〜左鼠径リンパ連絡路

ⅲ.指圧療法

《横臥位》

 腰背部(特にL4〜L5)に重点を置き、肩甲下部を施術する。臀部は、上前腸骨棘と仙骨下部に手掌を当て仙骨を下方に引き下げたり、鼠径靭帯と仙骨上部に手掌を当て上方に引き上げたりしながら、仙腸関節を意識しながら施術する。4)

 また浪越圧点や八髎穴は入念に施術する。下肢は大腿筋膜張筋や腸脛靭帯を中心に施術。最後に肩甲骨及び周囲筋を含めて、肩甲上部の施術をする。

《仰臥位》

 下肢は鼠径部と膝・足関節部に拍動を確認しながらポイント施術。次いで腹部、腋窩部、上肢、頚部の順番で、やはり同様に拍動を確認しながら施術する。4)

※場合によっては、《横臥位》を《伏臥位》に置き換えて施術することもある。

III.経過

 2010年9月11日〜2012年7月29日までの計45回(2週間に1度)の施術により、両下肢の周囲径および容積の減少、および随伴症状(易疲労感、腰痛、便秘など)の改善がみられた。

1.両下肢の最大減少周囲径および容積の比較

 計45回の施術前に記録した、左右下肢7点の計測基準点の周囲径計測値を初診から直近の再診時まで各々比較したところ、最大減少値が患肢では大腿20cm部位で-5.3cm、健肢では鼠径点で-4.8cmの改善がみられた。また、下肢容積においては、患肢では1,000ml以上、健肢では700ml以上の容積の減少が確認され、両下肢で鼠径〜腋窩リンパ連絡路への還流が促進され、貯留していたリンパ液の排液が促されたことをうかがわせる。

図4. 両下肢の最大減少周囲径および容積の比較

図4. 両下肢の最大減少周囲径および容積の比較

2.周囲径計測値の経時的変化

 計45回の施術前に記録した、計測基準点7点の周囲径計測値を、初診から直近の再診時まで、部位ごとの経時的変化に基づき、折れ線グラフで比較した。

2-1.足関節部(足背〜外果)の比較

 健肢と患肢の両者で、足背と外果の両部位にて比例した、なだらかな減少曲線を示した。

図5 健肢・左下肢・足関節部

図5 健肢 / 左下肢・足関節部

図 6. 患肢/右下肢・足関節部

図 6. 患肢 / 右下肢・足関節部

2-2.下腿部(下腿最大〜膝点)の比較

 健肢に比較して、患肢では2012年6月を最大減少値として、下腿最大と膝点で最良の成績を得られた。また、より患肢の方が、減少曲線が顕著である。

図 7. 健肢/左下肢・下腿部

図 7. 健肢 / 左下肢・下腿部

図 8. 患肢/右下肢・下腿部

図 8. 患肢 / 右下肢・下腿部

2-3.大腿部(大腿12cm〜大腿20cm〜鼠径点)の比較

 患肢の大腿12cmの部位にて、2012年6月に最大減少値を記録。健肢に比較して、減少傾向がより強いことを伺わせた。

図9. 健肢・左下肢・大腿部

図9. 健肢 / 左下肢・大腿部

図 10. 患肢/右下肢・大腿部

図 10. 患肢 / 右下肢・大腿部

3.下肢容積値の経時的変化

 周囲径計測値をもとに、両下肢の容積値を図3の表にて計算し、その結果を経時的に比較してみた。健肢に比較して、患肢でより顕著な減少曲線が見られた。特に、2012年6月において最大減少値を示した。

図 11. 健肢 / 左下肢・容積

図 11. 健肢 / 左下肢・容積

図 12. 患肢 / 右下肢・容積

図 12. 患肢 / 右下肢・容積

4.初診時と再診時との両下肢の比較

 初診時と再診時に撮影した写真の比較では、再診時の方が、足関節の周囲付着筋や靭帯、足根骨や足指骨の様子がくっきりと撮影されていた。特に足背部の比較では、足指間のそれぞれの開き具合が、再診時ではっきりと改善されていることがよくわかる。

図 13. 初診時(2010/9/11撮影)

図 13. 初診時(2010/9/11撮影)

図 14. 再診時(2012/7/29撮影)

図 14. 再診時(2012/7/29撮影)

図 15. 初診時(2010/9/11撮影)

図 15. 初診時(2010/9/11撮影)

図 16. 再診時(2012/7/29撮影)

図 16. 再診時(2012/7/29撮影)

 IV.考察

 続発性リンパ浮腫は、リンパ節の郭清を起因に発症することが多く、蜂窩織炎※2をはじめとする二次感染症の問題をはらんでいる。

 実際に乳がんや子宮がんなどを罹患した患者さんにとっては、術後のセルフケアを含め、そうした免疫力の低下に伴う様々なリスクをいかに回避し、感染症から身を守るかは大変に切実な問題である。途中経過で、患者が右下肢にざわざわした感覚が皮膚に走ると言った訴え(最初の訴えは2011年1月初旬〜)には、リンパ管輸送の際に必要な側副路※3が形成されていることを伺わせた。本症例は、こうしたリンパ浮腫に大変有意義な医療徒手リンパドレナージと、自然治癒力を高めてくれる指圧治療を掛け合わせることで、複合的な相乗効果を生み出せる可能性を示唆した。

※2蜂窩織炎…皮下組織に起きる広範囲の急性炎症のこと。発赤、38度を超える発熱、痛みを伴い、浮腫症状が増悪する場合がある1)。リンパ浮腫の合併症としては、最も避けなければならない疾患である。

※3側副路…迂回路、バイパス。手術や外傷などで深部リンパ管が損傷されて、一部の表在リンパ管が障害を起こしても、身体機能は何とかしてリンパ液を心臓へ戻そうとして、脇道を使って戻そうとする。その際に、この側副路の形成の有無が、大変重要な役割を果たす。

V.結語

 医療徒手リンパドレナージと指圧治療を複合的に施療することにより、続発性リンパ浮腫の症状および随伴症状を軽減できる可能性がある。

VI.参考文献

1)特定非営利活動法人 日本医療リンパドレナージ協会:【浮腫総論】「代表的なリンパ浮腫の分類」11〜12, 「合併症について」14, 【臨床総論】「主治医との連携 加療経過報告書」3, 「臨床の記録 予診表、所見、周囲径計測表」4〜6, 【医療リンパドレナージの実際(基礎編)】「基本手技」3, 【臨床各論】「続発性下肢リンパ浮腫の処置」13〜14, 17〜18, 医療リンパドレナージセラピスト初級・中級講習会配布資料, 2010
2)独立行政法人国立がん研究センター がん対策情報センター:部位別がん死亡数の推移 男性・女性  ホームページより引用
3)土屋勇夫:触れるを学ぶ, p.6, 第34回鍼灸マッサージ学会「手技療法講習会」配布資料, 2011
4)石塚 寛:指圧療法学, pp.160-166, 178, 182, 国際医学出版株式会社, 東京, 2008


【要旨】

下肢のリンパ浮腫に対するアプローチ
中盛祐貴子

 子宮頸がんのため、広範子宮全摘出術を行った患者に対し、「フェルディ式複合的理学的療法」と「指圧治療」の両者を併用し施療を行い、左右下肢7点の計測基準点の周囲径計測値および下肢容積の変化を評価した。その結果、全ての計測値が減少した。よって医療徒手リンパドレナージと指圧治療を複合的に施療することにより、続発性リンパ浮腫の症状および随伴症状を軽減できる可能性がある。

キーワード:リンパ浮腫、子宮がん、下肢、リンパドレナージ、指圧、むくみ