カテゴリー別アーカイブ: 症例報告

押圧操作と運動操作の併用により姿勢矯正が認められた一例:新倉玄太

新倉玄太
げんた治療院 院長

A case of posture correction by a combination of pressure application and exercise therapy

Genta Niikura

Abstract : Many people with subjective symptoms such as stiff shoulder or low back pain are encountered in clinical practice. Here we report a case where shiatsu therapy helped the patient achieve symptom relief and better posture. Shiatsu therapy not only released the muscle tension but also adjusted the joints. Shiatsu therapy involves a combination of pressure application and exercise therapy, and it is possible that this combination had effects on both muscles and joints and helped achieve the favorable outcomes in the present case.

Keywords: shiatsu therapy, pressure application, exercise therapy, posture correction


I.はじめに

 指圧治療において、筋、軟部組織への押圧操作だけで筋緊張を緩めることができても、数日後または数週間後に同様の症状に悩まされてしまう患者が臨床現場で多く見られる。そのような症例に対し継続的に姿勢矯正、関節の調整も並行して行うことにより治療効果を向上させることができるのではないかと考えた。

 今回、押圧操作と運動操作を同時にまたは併用して行うことにより、関節の調整をし、姿勢矯正することで高い治療効果を上げることができた症例を報告する。

Ⅱ.対象および方法

施術対象

 30代女性 保育士

場所

 当院

期間

 2014年3月30日~4月12日

主訴

 かがんでの作業が多いため腰痛、猫背で肩こりがひどい、職場の人に姿勢が悪いと言われ気にしている

治療法

 全身指圧1)および肩関節、股関節、仙腸関節の運動操作

  • 円背に対して
    伏臥位にて脊柱掌圧、棘突起調整
  • 肩関節過内旋に対して
    横臥位にて
    肩甲骨上角、鎖骨下、烏口突起に押圧操作
    プラス、肩甲骨の調整操作
  • 腰椎後弯に対して
    仰臥位にて、腹部掌圧・鼠径部掌圧
    腹臥位にて、股関節・仙腸関節調整
  • 骨盤後傾に対して
    仰臥位にて、腹部・鼠径部掌圧
    伏臥位にて、股関節・仙腸関節調整

III.結果

第1回(平成26年3月30日)
[術前所見]

  • 自覚症状:かがんでの作業が多いため腰痛、猫背で肩こりがひどい。
    職場の人に姿勢が悪いと言われ気にしている。
  • 他覚所見:骨盤過後傾、円背、肩関節過内旋がみられる(図1)。

[術後所見]

  • 自覚所見:肩こりや腰痛を感じにくくなった。
    同じ姿勢を続けても、仕事中辛さを感じにくくなった。
  • 他覚所見:骨盤が前傾位になり腰椎が前弯したため腰部の筋の緊張が緩和された。
    肩甲骨の位置が改善されたため肩関節の内旋が改善された(図2)。

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第2回(平成26年4月12日)
[術前所見]

  • 自覚所見:周りの方から姿勢が改善されたと言われた。
    腰痛が緩和している。
  • 他覚所見:骨盤の前傾が保たれている。
    肩関節過内旋の所見が見られる(図3)。

[術後所見]

  • 自覚所見:肩こり腰痛の症状が軽減された。
    同じ姿勢を続けても痛みを感じにくくなった。
  • 他覚所見:肩関節過内旋が改善されている(図4)。
    関節の位置の調整を行ったことで筋肉の緊張も緩和されている。

vol4_04fig2

IV.考察

 厚生労働省の国民生活基礎調査2)によれば、日本国民が普段感じている自覚症状の1位、2位が男女とも肩こり腰痛という結果が出ている。その状況は現在でも大きくは変わっておらず、当院に来院する患者の主訴も肩こりや腰痛が比較的多い。

 臨床の現場において、経験上ではあるが肩こりや腰痛を緩和させるためには、筋の過緊張を取り除くと同時に、関節の調整を行うことでより効果が持続する感覚を持っている。
その理由として、二足歩行である人体は常に重力に抗して姿勢を維持しており、姿勢を維持するために抗重力筋である伸筋や体幹の筋肉が常時収縮していなければならないことや、姿勢が崩されるときには姿勢反射が働き姿勢を維持しようとする3)ことなどから円滑な日常生活を行う上での正しい骨格、姿勢が崩れると、より筋肉に負荷がかかることが考えられる。そのため慢性的に崩れてしまった骨格、姿勢を調整することが肩こりや腰痛の改善につながると考えられる。

 本症例は、初診時には重心線の崩れが非常に大きく(図1)、そのため大胸筋をはじめとする肩関節内旋筋の過緊張および抗重力筋の緊張低下が引き起こされていたものと考えられる。また大殿筋およびハムストリングスが過緊張することで骨盤後傾がみられたものと考える。

 初回の治療において、大殿筋およびハムストリングスの過緊張が改善され、また腰方形筋、脊柱起立筋の過伸展が改善されたことにより骨盤後傾及び腰椎の後弯の改善がみとめられたものと考える。また肩関節に関しては、大胸筋、広背筋、肩甲下筋などの上腕を内旋させる筋の過緊張が改善されたことで肩甲骨の位置が変わったと推測する(図2)。

 第2回目の術前では、若干の肩関節内旋の所見は見られるものの第1回の術後から重心線が大きく崩れている様子は見受けられない(図2、図3)。第2回の治療において、さらに過緊張した筋の柔軟性が向上し、過伸展された筋とのバランスがとれたことにより、肩関節および上腕骨の位置に変化が生じたことで僧帽筋、胸鎖乳突筋などの頸部の筋肉の緊張が緩和され頭位の変化まで認められたものと推測する。

 円滑な日常生活を行う上での姿勢の崩れが筋の過緊張や緊張低下に始まり起こるのか、関節の位置の異常にはじまり起こるのかという点に関してはどちらともいえない側面があるが、少なくとも指圧刺激が筋の柔軟性に及ぼす効果についての報告が複数存在する4~6)ことから、本症例においては姿勢を崩す原因となっている筋の過緊張が押圧操作により改善されたこと、また運動操作により関節の位置が改善されたことにより症状の改善が見られたものと考える。

V.結論

 指圧治療において押圧操作と運動操作を併用し、筋の過緊張を取り除き、関節の位置を改善させることにより肩こり腰痛が改善される傾向にあると考えられる。しかし今回は1例のみの報告であるため、さらに症例を重ね検討していきたいと考える。

VI.参考文献

1) 石塚寛:指圧療法学 改訂第1版,国際医学出版,2008
2) 厚生労働省:国民生活基礎調査.2013,http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html
3) 東洋療法学校協会:生理学,医歯薬出版株式会社,1990
4) 浅井宗一 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果,(社)東洋療法学校協会学会誌(25),p.125-129,2001
5) 菅田直紀 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果(第2報),(社)東洋療法学校協会学会誌(26),p.35-39,2002
6) 衛藤友親 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果(第3報),(社)東洋療法学校協会学会誌(27),p.97-100,2003


【要旨】

押圧操作と運動操作の併用により姿勢矯正が認められた一例
新倉 玄太

 臨床現場において、多くの方が肩こり・腰痛の自覚症状を持っている。指圧治療において筋の緊張を 取り除くことだけではなく、姿勢や関節の調整を行うことで症状を改善させることができた。指圧治療の押圧操作と運動操作を併用することで筋・関節の両方に影響を与え効果を得られたものと考える。

キーワード:指圧治療、押圧操作、運動操作、姿勢矯正


下肢のしびれに対する指圧療法の効果:金子泰隆

金子 泰隆
MTA指圧治療院
院長
日本指圧専門学校教員

Effectiveness of Shiatsu Treatment Against Numbness of the Lower Extremities

Yasutaka Kaneko

 

Abstract : Patients with a diagnosis of lumbar disc hernia often visit shiatsu clinics, and they experience reduction in symptoms after a several shiatsu sessions in many cases. The lumbar disc hernia diagnosed by imaging findings does not always relate to the symptoms. This is a case report of a patient diagnosed with lumbar spinal canal stenosis and serious lumbar disc hernia became mostly asymptomatic after three shiatsu sessions although the imaging showed little changes. Since muscle tightness and / or blood circulation disorder of the lower extremities may be neurologically causing the symptom, shiatsu treatment is worth trying for even a patient diagnosed with lumber disc hernia to ease the symptom.


I.はじめに

 臨床現場において腰椎椎間板ヘルニアの診断を受けて来院する患者は少なくない。しかし、数回の施術でその症状が改善するケースも多く、必ずしも画像所見におけるヘルニアが症状の発現に関与しているとは限らない。今回、腰部脊柱管狭窄症と重度の腰椎椎間板ヘルニアの診断を受けた患者に3回の施術を行い症状がほぼ消失したので報告する。

Ⅱ.対象および方法

場所:学校法人浪越学園 日本指圧専門学校 臨床実習室
期間:平成25年11月27日~12月11日(治療回数3回)

[症例]

 36歳男性

[現病歴]

 25~26歳頃から慢性的な腰痛を自覚していた。特に大きな症状の悪化もなかったためそのままにしておいたところ、2013年11月20日頃から腰痛と左殿部~足先にかけてのしびれが出現した。今まで経験したことの無い症状の強さであったため、整形外科を受診したところ、腰部脊柱管狭窄症と重度のヘルニアであるとの診断を受け手術も考慮した方が良いとのことであった。できるだけ手術は避けたいとの思いから、保存療法で症状を軽減させるべく指圧療法を受診するに至った。

[既往歴]

 右前腕血管腫の既往あり
 アレルギー(卵・ハウスダスト)あり

[治療法]

  • 横臥位を除く浪越式基本指圧1)(両下肢に重点を置く)
  • 仰臥位における頚部操作 ・左仙腸関節矯正のための中殿筋の押圧回旋操作

[評価]

  • 問診での術前術後の所見の変化の聴取。
  • 10段階のVAS(Visual Analogue Scale )を用いてしびれの評価を行った。

III.結果

11月27日(第1回)

[術前所見]

 自覚所見:

  • 自発痛・夜間痛なし。
  • 左下肢にしびれ感あり。
  • 間欠跛行なし。
  • 足を引きずるように歩く。
  • 咳やくしゃみでの痛みの増強なし。
  • 膀胱直腸障害なし。
  • 排便時に会陰部の激しい痛みがある。

 他覚所見:

  • 大腿動脈及び足背動脈の拍動は正常。
  • 疼痛回避のための側弯がみられる。
  • 左母趾底背屈に減弱がみられ、思うように動かせない。
  • SLRテスト45°で足背、足底、下腿後面にしびれ出現。
  • 右腰部圧痛あり、左腰部圧痛なし。
  • 左上後腸骨棘が下方に変位している。
  • MRI画像にて L4/5間にヘルニアを認める。(図1、図2)

図1.本症例におけるMRI画像所見図1.本症例におけるMRI画像所見

図2 医療機関報告書(一部抜粋)図2 医療機関報告書(一部抜粋)

[術後所見]

  • SLRテスト45°(+)→70°(-)
  • 術前VAS10→術後VAS1
  • 血流が改善してきた感覚があり、知覚鈍麻が改善した。
  • 歩行時の重だるさがなくなった。

12月4日(第2回)

[術前所見]

 自覚所見:

  • 左足背のみしびれを感じる。
  • 左母趾底背屈に減弱がみられ、思うように動かせない。
  • 排便痛が消失した。

 他覚所見:

  • SLR 80°(-)脹痛を感じる。
  • 第1回治療から1週間で体重が108㎏ →104kgに減少

[術後所見]

  • 左母趾の感覚が出てきた。
  • SLR 90°(-)脹痛が消失した。
  • 術前VAS3→術後VAS2

12月11日(第3回)

[術前所見]

 自覚所見:

  • 左母趾の違和感がある。

 他覚所見:

  • 片足立ちのバランスが不安定。
  • 左母趾背屈が可能になった。
  • SLR 90°(-)心地よい脹痛を感じる。

[術後所見]

  • 片足立ちがスムーズにできるようになった。
  • 階段がスムーズに昇れるようになった。
  • 睡眠の質が改善した。
  • 術前VAS2→術後VAS1  

 ほぼ症状が寛解したため、治療を終了した。

IV.考察

 腰椎椎間板ヘルニアは、髄核を取り囲んでいる線維輪の後方部分が断裂し、変性した髄核が断裂部から後方に逸脱することにより神経根、馬尾が圧迫されて発症する病態と考えられている。しかし、椎間板症や腰部脊柱管狭窄症との鑑別が十分になされていない現状が認められたため、腰椎椎間板ヘルニアガイドライン策定委員会により診断基準が提唱されるに至った2)。提唱された診断基準(図3)である。

図3 腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン策定委員会提唱の診断基準図3 腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン策定委員会提唱の診断基準

 上記診断基準に本症例を照らし合わせると、基準1、基準3、基準5で一致がみられるが、基準2および4では一致がみられていない。そのため、医療機関における診断はL4/5椎間板ヘルニアであったが、椎間板ヘルニア以外の要因により諸々の症状が出現しているということも念頭に置き診察、治療にあたった。  本症例は、腰部脊柱管狭窄症と重度の腰椎椎間板ヘルニアの合併という診断を受けており、画像所見からはその状態が観察される(図1)。しかしながら、自覚所見の聴取では間欠跛行などの所見はみられなかった。そのため、腰部脊柱管狭窄症での症状出現の可能性は低いと判断した。また、SLRやしびれの出現領域、母趾背屈力の低下など腰椎椎間板ヘルニアを疑う所見は充分にあったが、安静時の症状がないことなどから下肢の筋緊張による血流障害により症状が出現している可能性もあると判断した。

 診察所見として、左上後腸骨棘の下方への変位が観察されたため、左仙腸関節の後方下方変位により、左下肢の筋緊張が亢進した症例であると判断し、左仙腸関節の調整と下肢全体の筋緊張緩和を目的として施術を行った。

 第1回の治療後のVAS値の変化、SLR所見の変化がみられたことから第2回、第3回共に同じ内容の施術を行った。結果、3回の治療でほぼ症状が寛解したため治療を終了した。症状はほぼ寛解したが、術前術後の医療機関用報告書では、画像所見に大きな変化はみられなかった(図2)。そのことを考慮すれば、本症例は左仙腸関節変位による下肢の筋緊張が長引いたことで下肢のしびれと筋力低下を起こしたものと推測するのが妥当であると考える。

 臨床現場で腰椎椎間板ヘルニアの診断を受け来院するケースは比較的多いように思われる。しかしながら、症状と画像所見の一致していないケースも存在するものと思われる。ガイドラインにおいても的確な問診を行うことにより、ヘルニアを疑うことやヘルニアの高位の推定を行うことは高い確率で可能であるため、腰椎椎間板ヘルニアの診断に際して問診や病歴を採取することは極めて重要である2)としている。そのため、問診や病歴の採取と画像所見および神経学的所見などを総合的に判断し、診断、治療を行うことが極めて重要であると考える。  また、腰椎椎間板ヘルニアの診断を受けた場合でも下肢の筋緊張や血流障害が神経学的所見の原因となっていることも考えられる。指圧刺激が筋の柔軟性を向上させることも報告されている3)4)5)ことから、腰椎椎間板ヘルニアの診断を受けた場合においても、保存療法として指圧療法を試みることには充分価値があるものと考える。

V.結論

 腰椎椎間板ヘルニアの診断を受け患者が来院したケースでも、的確な問診や病歴の聴取、神経学的所見から総合的に判断し、治療を行うことが重要である。また、腰椎椎間板ヘルニアの診断を受けた場合でも、指圧療法を試みる価値は充分にあると考える。

VI.参考文献

1) 石塚寛:指圧療法学 改訂第1版, 国際医学出版, 東京,2008
2) 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会, 腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン策定委員会:腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン改訂第2版,南山堂,東京,2011
3) 浅井宗一ら:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果,(社)東洋療法学校協会学会誌(25),p.125-129,2001
4) 菅田直記ら:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果(第2報),(社)東洋療法学校協会学会誌(26),p.35-39,2002
5) 衞藤友親ら:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果(第3報),(社)東洋療法学校協会学会誌(27),p.97-100,2003


【要旨】

下肢のしびれに対する指圧療法の効果
金子泰隆

 臨床現場において腰椎椎間板ヘルニアの診断を受けて来院する患者は少なくない。しかし、数回の施術でその症状が改善するケースも多く、必ずしも画像所見におけるヘルニアが症状の発現に関与しているとは限らない。今回、医療機関にて腰部脊柱管狭窄症と重度の腰椎椎間板ヘルニアの診断を受けた症例に指圧療法を行った結果、3回の施術で症状がほとんど消失した。本症例では、症状が消失したにもかかわらず、画像の所見に大きな変化はみられなかった。腰椎椎間板ヘルニアの診断を受けた場合でも下肢の筋緊張や血流障害がしびれなどの神経学的所見の原因となっていることも考えられるため、指圧療法を試みることは充分価値のあるものと考える。

キーワード:下肢の筋緊張、しびれ、指圧療法


顔面神経麻痺(Bell麻痺)に対する指圧治療:石原博司、永井努

石原 博司
石原指圧治療所 院長
永井 努
永井指圧治療院 院長

Shiatsu Treatment for Facial Nerve Paralysis (Bell’s Palsy)

Hiroshi Ishihara, Tsutomu Nagai

 

Abstract : Facial nerve paralysis is a disease caused by various factors, and its definite treatment method is not established yet. It is also one of poor prognostic factors that the age of peak incidence of facial nerve paralysis is forties. This is a case report of a 93-year-old male patient treated with shiatsu and his symptoms was eased in three weeks although he had been diagnosed with facial nerve paralysis (Bell’s Palsy) requiring three months for recovery. The efficacy in terms of the improvement rate of the symptom and the patient safety were confirmed, and therefore shiatsu treatment potentially contributes to treat this disease.


I.はじめに

顔面神経麻痺の原因には様々な要因があるとされているが、患者から単純ヘルペスウイルスⅠ型(HSV-Ⅰ)が検出されることが多く。現代医学では、副腎皮質ホルモン療法を選択されることが多いとされている1)。今回指圧療法により、症状の緩和が見られたので、報告する。

Ⅱ.対象および方法

場所:石原指圧治療所
期間:2013年10月23日~11月6日
施術対象:93歳 男性

[現病歴]

 来院の1週間前ぐらいに、顔が急に動かなくなり、医療機関にて左顔面神経麻痺と診断され、治療期間は3ヶ月と診断された。仕事柄、公けの場に出ることが多く、3ヶ月の治療期間は、仕事に支障をきたすので、短期治療を目的に当院に来院する。

[既往歴]

 特記するべき事項なし。

[家族歴]

 特記するべき事項なし。

[自覚所見]

  • 顔の筋肉が思うように動かせない。

[診察所見]

  • 左側頚部の強度なこり
  • 左肩甲上部の強度なこり
  • 左肩甲間部の強度なこり

[その他]

 当治療院には約30年の通院歴があり、日頃から健康維持の為に、指圧療法を受けていた。1年前に尾骨を骨折し、その間通院を休まれていた。今回顔面神経麻痺が発症し、通院を再開した。

[治療方法]

  1. 仰臥位にて、顔面に両手掌圧を1分間行う
  2. 横臥位にて、左側頚部部に中圧を用いて5分間の指圧操作2)
  3. 横臥位にて、左肩甲上部に中圧を用いて2分間の指圧施術2)
  4. 横臥位にて、左肩甲間部に中圧を用いて5分間の指圧施術2)
  5. 全身の施術を40分行う。再度1~4の操作を行う。

III.結果

[治療経過]

第1回2013年10月23日
第2回2013年10月30日
第3回2013年11月6日

  • 第1回の最初の施術で顔面のこわばりが、8割ぐらいとれ症状の改善が見られた。2回目、3回目の治療で、ほぼ正常な状態に戻る、その後公けの場に出ている姿を確認した時には、全く問題は感じられなかった。その後月1回の頻度で通院を続けている。

IV.考察

 顔面神経麻痺(Bell麻痺)は発症数が多いとされているが、原因が様々な要因が考えられているため、まとまった治療の方針が確立されていなのが現状である。患者から単純ヘルペスウイルスⅠ型(HSV-Ⅰ)が検出されることが多いため、副腎皮質ホルモン療法を選択されることが多いとされている。

 病態として、神経浮腫、炎症細胞の浸潤、脱髄、一部軸索変性との混在が見られ、また神経炎により神経の絞扼と虚血が生じた場合二次的に神経損傷が起こる。 感染部位としては、内耳道遠位部、迷路部 膝部に認められている。

 症状として、健側に比べて麻痺側の額のしわが浅く瞼列が大きく、瞬目が弱く、口角が下がる。また生活動作では、閉眼が不十分によって生じる兎眼、麻痺側の口角からの空気漏れによる、しゃべりにくくなり、液体のものが漏れて食べにくくなる症状がでる。また顔面神経経路により、麻痺側の聴覚過敏により、音が大きく聞こえる、耳介あるいは顔面の痛みやしびれを伴うことがある。また遅発性の症状として、隣接する神経に異所性再生や混信伝導を起こすことにより、病的共同運動が起こる。例えばまばたきをすると、口周囲筋を支配する神経にも活動が伝わり、麻痺側の口角が不随意に動く、あるいは、唾液腺を支配していた副交感神経が大錐体神経へ異所性再生すると、食事の際に涙が出る。また障害部位近くの神経に異所性興奮が起こると麻痺側顔面に不随意な筋痙攣が起こる1)

 今回の症例は、症状として、患者自身が思うようにしゃべる事が出来ない事や、表情がうまく作れない等が主とされる。第2咽頭弓由来の表情筋を支配する顔面神経の中の特殊臓性運動線維(SVE)に原因が求められ、味覚を伝える特殊感覚線維(SVA)、涙腺、唾液腺分泌を促す副交感性節前線維、一般臓性体性線維(GVE)、外耳道、耳介後方の感覚を伝える体性感覚線維(GSE)が含まれる中間神経には影響を及ぼしていないと考えられる。また問題の発生部位として、症状から推測されるのは、顔面神経が側頭骨から出る、茎乳突孔周辺からその先の顔面神経の経路に何かしら障害が生じたものと考えられる3)

 診察所見より、左の側頚部、左肩甲上部、左肩甲間部のこりが非常に強く、それら患部のこりがほぐれる事により症状の改善が見られた。特に側頚部1点目周辺への指圧操作は、本症例において治療効果が高い部位と思われる。浅井4)、菅田5)、衞藤6)らの指圧刺激に対して筋の柔軟性が向上したという報告や、蒲原7)らが指圧刺激に対して末梢の循環の改善が見られたとの報告がされているとおり、本症例も指圧刺激により固まっていた筋膜や筋肉がほぐれ、2次的に血流が良くなり、症状の改善が見られたと思われる。側頚部1点目周辺に関しては、解剖学的に顔面神経が出る茎乳突孔に近接している為に、何らかの要因で顔面神経が圧迫されていたものが、指圧刺激により圧迫感が緩和されたものと推測される。  血流については、左鎖骨下動脈から出る、椎骨動脈→脳底動脈の経路をたどり、顔面神経核のある橋への血流改善、甲状頚動脈→下甲状腺動脈、頚横動脈の経路たどり、頚、肩甲上部、間部の筋肉への血流改善が見られたと推測される3)

 しかしながら、表情と言うものを考えた場合、通常我々が認識する、笑顔や悲しみの微妙な表情は表情筋と顔面神経の他に前頭前野皮質が大きく関わっていると言われている。したがって、本症例は単に筋肉のこりをほぐし、血流改善によってもたらされた他にも症状改善を導く要因があったのではないかと思われる。最近、「脳と心」という主題で、その中で重要語句となる「意識」というものを神経学的観点から研究する事が本格的に始められている8)。意識を考える上で、大事な部位として、先程挙げた前頭前野皮質と情動などに関わる大脳基底核群の関連性が注目されていて、この研究では、何らかの外部刺激により、それら部位で情報交換がされ、最終的に意識の変化が得られるという可能性が指摘されている。本症例を考える時、物理的に顔面の筋肉が動かせないという状態の他に、1ヶ月後には公けの場に出て仕事をしなければならないという時に、医者からは全治3ヶ月という診断をくだされた状況の中で、来院されている。このことから、心理的にはかなり不安定な状態に陥っていた事は容易に想像がつく。先程挙げた何らかの外部刺激が最終的に意識の変化に影響を与えるのであれば、指圧療法による外部刺激が前頭前野皮質や大脳基底核群に働きかけ、不安定な状態を取り除き、意識の変化をもたらし、最終的に前頭前野皮質での微妙な表情筋のコントロールが正常な形に戻ったと考えることができると思われる8)。しかしながら、意識というものに対して、明確な定義がなされていないため、推測の域は出ていない。ただし本症例の著者である石原は指圧療法の治療効果の機序として、指圧の刺激が脳に伝達され、脳から改善の要求命令が出されて、体の状態が良くなっていくと予測している。

 次に治療時間の視点から、本症例を見た場合であるが、3週間に3回の治療で症状の改善が見られている。同じ症状に対しての指圧療法の報告例がないために比較が出来ないので、短期治療効果があったかどうかという事は明確に述べられないが、医者から全治3ヶ月と診断された事や、統計的に見ると、顔面神経麻痺の発症年齢は40歳代がピークであり、予後が不良になる一因に高齢が挙げられている1)。したがって、高齢者にとっては稀な病気であり、まとまった治療方法が確立されていない現状と組み合わせると、高齢者にとって難治な病気の1つと言える。しかし、実際には3分の1以下の期間で治療結果を出しているので、この側面からは短期治療効果の可能性はあったと考えられる。これら短期治療効果に至った可能性の1つは、患者が約30年にわたり指圧療法を受けてきた事に要因があるのではないかと思う。指圧療法を長期に受ける事による、身体に与える影響に関しては、論拠立てた報告を確認出来ていないため、推測の域は出ないが、長期間指圧療法を受ける事により、ホメオスタシスが維持されやすい状態を作り出していると思われる。その状態が基本的に強ければ、本症例の急性的な症状に対しても、短期的に治療効果を出せる可能性はあったと予測される。

 最後に、冒頭に述べた様に顔面神経麻痺は原因が様々考えられ、更に自然治癒の確率も高く、全体的に症例報告数が少ないために治療指針が確立していないのが現状である。しかしながら、その中でもウイルス性のものが報告される場合が多いため、副腎皮質ホルモン療法など薬剤治療が第1選択肢となることが多い。その他治療法としては、星状神経節ブロック、鍼灸、高圧酸素療法、外科治療、ボツリヌス毒素療法、マッサージ、リハビリテーション等があげられる。指圧療法も現状ではこの部類の治療法に含まれることになるが、これらの治療法を選択する場合において、薬剤治療と比較して、改善率、安全性(合併症、副作用など)、簡便性などに優れている事が重要視される1)。本症例の治療の結果はそれら条件を十分満たしていると思われる。これら総合的な面から、顔面神経麻痺の治療に対して指圧療法は貢献出来る可能性が高いと考える。

V.結論

 顔面神経麻痺に対して指圧療法が治療に貢献出来る可能性が示唆された。

VI.参考文献

1) 日本神経治療学会:標準的神経治療,BELL麻痺,神経治療Vol.25 No2,p.173-175,p.182-185,2008
2) 石塚寛:指圧療法学,国際医学出版,東京,2008
3) Richard L, Drake, Wayne Vogl, Adam W,MMitchell(著)塩田浩平、瀬口春道,大谷浩,杉本哲夫(訳):グレイ解剖学原1版,p.789,p.804,p806,p.929,エルゼビア・ジャパン株式会社,東京,2007
4) 浅井宗一他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果,東洋療法学会誌(25),p.125-129,2001
5) 菅田直紀他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果(第2報),東洋療法学会誌(26),p.35-39,2002
6) 衞藤友親他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果(第3報),東洋療法学会誌(27),p.97-100,2003
7) 蒲原秀明他:末梢循環に及ぼす指圧刺激の効果,東洋療法学会誌(24),p.51-56,2000
8) 小島比呂氏編者,大谷悟,熊本栄一,中村春和,藤田亜美著:脳とニューロンの生理学,p.196-203,丸善出版,東京,2014


【要旨】

顔面神経麻痺(Bell麻痺)に対する指圧治療
石原博司 , 永井 努

 顔面神経麻痺を発症し、全治3ヶ月と診断を受けた本症例(93歳 男性)では、指圧療法で、3週間で症状の改善が見られた。顔面神経麻痺は、原因が様々な要因が考えられ、まとまった治療方針が確立されていない。また統計的に発症年齢は40歳代がピークで、予後不良の要因の一つに高齢が挙げられている。この様に治療に関しては条件が厳しい中、症状に対する改善率、患者に対しての安全性が確認され、顔面神経麻痺の治療に対して、指圧療法が貢献出来る可能性が見られたので、その症例を報告する。

キーワード:指圧、顔面神経麻痺、Bell麻痺


糖尿病、高脂血症、高血圧症に 合併した浮腫に対する指圧の効果:満留伸行

満留 伸行
指圧マッサージ 指愈 -Yubiyu- 院長

Effectiveness of shiatsu against concomitant edema with diabetes,
hyperlipidemia and hypertension: a case report

Nobuyuki Mitudome*

Abstract :The number of elder patients with diabetes, hyperlipidemia and hypertension has been demonstrating an upward trend especially in recent years. This case, a 81 year old female patient, was diagnosed with diabetes, hyperlipidemia and hypertension, and she has been on medication since then. These diseases have been stabilized by medication. Meanwhile, edema of lower extremities was gradually getting prominent. Aiming at ease of the edema, she has been continuously treated by shiatsu since July, 2011. As a result, the treatment has been providing symptomatic relief. This is a case report indicating that continuous shiatsu treatment may contribute to ease and prevent edema.


 

I.はじめに

 浮腫とは、毛細血管内腔から皮下組織内に間質液が過剰に貯留した状態のことをいい、おもに全身性浮腫と局所性浮腫に大別される。

 全身性浮腫は、おもに心臓、腎臓、肝臓などの内臓疾患や甲状腺ホルモンの分泌異常、その他リウマチや膠原病、アレルギー、薬剤などによって生じ、左右対称にむくみが出現する。局所性浮腫は、おもに静脈およびリンパ管の輸送経路に障害が起きるために生じ、左右非対称に出現する。

 現代医学的アプローチとして、全身性疾患(心臓、腎臓、肝臓など)が原因であれば、専門の医師による原因疾患の治療を優先することが必要であり、浮腫が残る場合などに、圧迫療法が用いられている。

 また局所性リンパ浮腫は、圧迫療法や徒手的リンパドレナージを中心とする複合的理学療法(スキンケア、圧迫下での運動療法などが含まれる)が用いられている1)

 今回の女性患者は、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、高血圧の薬剤治療を始めた頃と同時期より、下肢に浮腫が表れはじめた。顔面や腹部など、全身に浮腫がみられるが、特に両下肢に強い浮腫が出ている。

 今回、指圧療法を行ったことで、浮腫症状の軽減が確認できたため、その症例を報告する。

 

II.対象及び方法

場所:指圧マッサージ 指愈 −Yubiyu−

期間:2011年7月25日〜2012年6月29日
(1週間〜10日に1回の間隔で定期的に施術)

2012年7月以降は、月1〜2回の間隔(不定期)で施術。

施術対象:81歳 女性

[現病歴]

 2005年頃より、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、高血圧と診断され、当時より薬物療法を続けている。投薬により各疾患の状態は安定しているが、服用を開始した頃より、徐々に下肢に強い浮腫が出現するようになった。投薬後の浮腫出現について、医師は承知をしているが、これまでに浮腫に対する治療は行っていない。現在は、整形外科通院による週一回程度の運動療法を行っているが、浮腫症状に変化はみられない。

 何年も、サンダルと大きいサイズの靴しか履けていないため、下駄箱に長い期間置いてある靴が、また履けるようになりたいとの理由により、当院にて指圧療法を受けることになった。

[既往歴]

  • 変形性膝関節症との診断を受けており、歩行痛や動作開始痛がある。
  • 心窩部に不快感があり、逆流性食道炎がある。

[使用薬](現在も処方)

  • アマリール錠
    (スルホニルウレア系経口血糖降下剤)
  • アクトス錠
    (インスリン抵抗性改善剤)
  • ジャヌビア錠
    (選択的DPP-4阻害剤, 糖尿病用剤)
  • カデュエット配合錠
    (持続性Ca拮抗薬, HMG-CoA還元酵素阻害剤)
  • ブロプレス錠
    (持続性アンジオテンシンII受容体拮抗剤)
  • リピトール錠
    (HMG-CoA還元酵素阻害剤)
  • パリエット錠
    (プロトンポンプ阻害剤)

[家族歴]

  • 特記すべき事項なし

[自覚所見]

  • 下肢がむくむ。
  • 膝の痛み(変形性膝関節による歩行痛や動作開始痛がある)。
  • 心窩部に不快感あり(逆流性食道炎がある)。
  • 腹部膨満感がある。

[診察所見]

  • 下肢(特に下腿)に強い浮腫がみられる。また顔面や腹部などにも軽度の浮腫がみられる。
  • 下腿皮膚に硬さを強く感じる。
  • 圧痕性テスト(下腿)(+)。
  • 下肢押圧時につねられたような、また皮膚をひっぱられるような痛み(チクチク)が出る。
  • 大腿骨内側顆付近に大腿骨外旋時に膝の痛みが出る。
    (変形性膝関節による膝の痛み(左 < 右))
  • 両鼡径部に硬さがみられる。

[その他]

  • 食習慣(自炊はあまりせず、購入や外食が多い)。
  • 日常的にあまり歩かずに椅子に座っていることが多い。

[治療方法]

 横臥位および仰臥位における浪越式基本指圧点2)(伏臥位での施術は息苦しくなるため行わなかった)。全身の指圧操作を60分。そのうち下肢への指圧操作を約30分程度行う。

 下肢の施術は、押圧操作時に痛みを感じる部位を重点的に、母指圧、対立圧、掌圧を用いて、患者の反応を見ながら、やや軽めの圧によるゆったりとしたリズム(持続圧を含む)にて施術を行った。

 特に鼡径部、大腿内側部、膝関節周囲部、膝窩部、下腿外側部、下腿後側部、下腿内側部、足関節部、足背部、足趾部の押圧操作時に痛みを感じた。

※ 下腿内側部は浪越式指圧の基本圧点ではないが、圧痛が認められたこと、ならびに後脛骨動静脈などの走行を考慮し治療点として加えた。

 

図1.下肢の基本圧点分布図

図1.下肢の基本圧点分布図
(但し下腿内側部は、◎圧痛点 として記載)

III.結果

[治療経過]

■第1回目(2011年7月25日)

■第2回目(2011年8月3日)

 第1回、第2回の施術は、患者の希望により、下肢のみを30分間施術。

  • 自覚症状の変化:効果はほとんどみられず。
  • 他覚症状の変化:下腿の浮腫及び皮膚の硬さの変化はほとんどみられず。

■第3回目(2011年8月12日)【図2】

 今回より全身指圧の有効性を説明の上、全身60分の浪越式基本指圧に切り替える。

  • 自覚症状の変化:効果はほとんどみられず。
  • 他覚症状の変化:下腿の浮腫及び皮膚の硬さの変化はほとんどみられず。
     (第10回頃まで、施術後の変化はあまりみられず)
図2.2011年8月12日(第3回施術後)/(全身指圧に切り替え1回目) 下腿、足関節、足背、足趾部全体に浮腫、足趾部にしわがみられる。

図2.2011年8月12日(第3回施術後)/(全身指圧に切り替え1回目)
下腿、足関節、足背、足趾部全体に浮腫、足趾部にしわがみられる。

■第11回目(2011年10月26日)

  • 自覚症状の変化:効果はほとんどみられず。
  • 他覚症状の変化:これまでより、足関節にわずかながら浮腫及び皮膚の硬さの改善がみられた。

■第16回目(2011年12月12日)【図3】

  • 自覚症状の変化:これまでに比べ浮腫の改善がはっきりみられるようになった。
  • 他覚症状の変化:足関節、足背、足趾部に浮腫の改善(特に右に)がみられる。皮膚表面にすべすべとした感じがある。
     (その後の施術も同様の状況を繰り返すものの、軽減後の浮腫への戻りが早い)

 

図3.2011年12月12日(第16回施術後) 右足関節、足背部、足趾部に 浮腫の軽減がみられ、皮膚表面にすべすべとした感じが出てきた。

図3.2011年12月12日(第16回施術後) 右足関節、足背部、足趾部に
浮腫の軽減がみられ、皮膚表面にすべすべとした感じが出てきた。

■第25回目(2012年2月24日)

  • 自覚症状の変化:夕方になると強く浮腫が出ることがある。以前に比べて施術時の痛み(チクチクした痛み)が軽減されてきている。
  • 他覚症状の変化:これまでと同様に施術前と施術後に浮腫の改善がはっきりみられる。
    (日によって浮腫症状が以前のように強くみられることがあり、安定しないとのこと)

■第34回目(2012年5月14日)

  • 自覚症状の変化:これまで以上に足がすっきりしている。施術時の痛み(チクチクした痛み)がかなり軽減された。浮腫軽減後から、再出現するまでの時間も以前に比べ長くなっている。
  • 他覚症状の変化:浮腫の改善及び、下腿皮膚の硬さが軽減された。下肢のみでなく、顔面、腹部の浮腫も改善されてきた。

■第38回目(2012年6月29日)【図4】

  • 自覚症状の変化:施術後の浮腫の改善が著しくみられるようになった。しばらく履くことができなかった靴が履けるようになった。
  • 他覚症状の変化:今までよりあきらかに、浮腫の症状が軽減されている。皮膚の硬さが改善され、柔らかくなっている。膝の痛み(大腿骨内側顆付近)も軽減されている。
     (今回にて継続的な施術(約1週間〜10日に1回の施術)は終了)
図4.2012年6月29日(第38回施術後) 左右の下腿、足関節、足背、足趾部ともに 浮腫の軽減がみられ、足趾部のしわも改善。見た目の浮腫が気にならなくなった。

図4.2012年6月29日(第38回施術後) 左右の下腿、足関節、足背、足趾部ともに
浮腫の軽減がみられ、足趾部のしわも改善。見た目の浮腫が気にならなくなった。

□第45回目(2012年10月17日)【図5〜7】

 2012 年7 月以降は、不定期(月1〜 2 回の施術)間隔にて来院。前回施術時(第44 回目(2012 年9 月21 日))より約1ヶ月後に来院された際、最近の中では浮腫が強く出てしまった。

足関節、足背、足趾に浮腫がみられ、足趾部のしわも強く出ている。圧痕性テスト(+)(写真参照)。皮膚の状態は柔らかく、水っぽい(来院当初の硬さとは異なる)。

 一度の指圧施術にて、施術前、施術後の違いがあきらかにみられた(浮腫変化の評価に用いる下肢周囲径の計測は行っていない)。

図5.施術前:下腿、足関節、足背、足趾部に浮腫が強くみられる。

図5.施術前:下腿、足関節、足背、足趾部に浮腫が強くみられる。

図6.施術前:下腿外足部  圧痕性テスト(+)

図6.施術前:下腿外足部  圧痕性テスト(+)

図7.施術後:下腿、足関節、足背、足趾部ともに浮腫の改善がみられた。

図7.施術後:下腿、足関節、足背、足趾部ともに浮腫の改善がみられた。

IV.考察

 浮腫に対する指圧施術により、浮腫が軽減され、また施術時の痛みも軽減することを確認できた。また、浮腫の軽減によって、しばらくの間履いていなかった靴が履けるようになり、見た目を気にせずに歩くことができるようになった。

 本症例における浮腫の原因の一つとして、浮腫発生時期と同時期より、糖尿病、高脂血症、高血圧の治療で継続的に処方されている薬剤そのものによる浮腫が考えられる3)。服用している糖尿病、高脂血症、高血圧の治療薬には、副作用の一つとして浮腫症状が挙げられている4)5)

 また、変形性膝関節症に伴う歩行痛や動作開始痛により、日常的に十分な歩行ができずに下腿の筋力が低下し、血液を心臓に送り返している筋ポンプ機能の低下によって、静脈、リンパ還流障害の一つである廃用性浮腫が生じたことも推察される。あわせて食習慣における食塩の摂取過多により、浮腫を悪化させていることも考えられる。そのため、今回のケースは一つの原因ではなく、複数の原因が重複することによって症状の発現がみられた症例であると推測する。

 現在、超高齢化社会の日本においては、特に高齢者の糖尿病、高脂血症、高血圧患者は増加傾向6)7)を示しており、今回のような様々な原因が複合して生じる浮腫形成が行われる可能性は十分に考えられ、それに伴い患者のQOLが低下することは予測可能である。

 本症例では、初診および2回目の治療は、下肢への局所施術で対応したが、原因が多岐にわたることが考えられるため、全身調整を行うことが効果的であるとの判断から、浪越式指圧療法を基本とした全身指圧に切り替えた。これは末梢循環が局所の柔軟性だけではなく、自律神経系の調整を受けていることを反映させたためである。

 今回、経過を追う中で15回目の施術までは顕著な効果が確認できなかった。これは下腿の皮膚に強い硬さがみられたことから推測すると、浮腫症状が長期間続いたことにより、皮膚での物質代謝が滞り、組織の線維化によって硬化が生じていたためであると  考えられる。

 16回目以降の施術により、自覚的にも他覚的にも症状が改善されてきたことは、硬化した皮膚の柔軟性が向上し、それに伴って末梢循環が改善されたことがその一因になると考えられる。

 しかし、浮腫軽減が表れはじめた後にも、浮腫の戻りが早い期間が続いたこと、また日によって浮腫症状が強くみられるなど不安定な期間が続いたことは、薬物療法の継続的な処方により浮腫の出現が続いていること、あるいは指圧による直後効果が長期間続かないことを示していると考えることができる。

 その点を考えると、継続した指圧療法を受ける意味が少ないと思われるかもしれないが、34回目以降、回を重ねるごとにさらに浮腫が軽減していることや、軽減後に浮腫が再出現するまでにかかった時間が徐々に長くなっていったこと、そして第45回目の来院時に出現した強い浮腫が一回の施術で軽減した点などを考えると、継続した指圧施術が十分に継続効果を期待できる治療法であることを示唆している。

 本症例で浮腫が改善したこと、ならびに膝の痛みが軽減したことは確認できたが、その作用機序は不明な点も多い。しかしながら、蒲原ら8)が、指圧刺激が交感神経活動抑制に作用し筋血液量増大が起こったことならびに浅井ら9)、菅田ら10)、衛藤ら11)が指圧刺激によって筋の柔軟性が向上したことなどを報告していることから、自律神経系の調整作用による血流改善や筋の柔軟性向上などにより末梢循環が改善されたことで浮腫が軽減したことが考えられる。

 そのため、指圧刺激を全身に加える指圧療法において、本症例のような複数の原因が重複して生じた浮腫に対してもその効果が発揮されていることが考えられ、患者のQOLに対しても貢献できる可能性があると考えられる。さらに、糖尿病、高脂血症、高血圧などの薬物療法における副作用軽減の観点から、これらの疾患の治療に指圧療法が貢献できる可能性も示している。

V.結論

 指圧療法によって浮腫症状の軽減に効果を上げる事が確認できた。また浮腫症状の軽減後も継続的な指圧療法が症状の予防に有効である可能性があることが確認できた。

VI.参考文献

1) 小川佳宏:むくみで困ったときに読む本p.34-36, 84-88 保険同人社,東京,2010
2) 石塚 寛:指圧療法学 -改定第1版- p.160, 162,164,172-173,178,182,国際医学出版,東京,2010
3) 日本臨床検査医学会:臨床検査のガイドライン(JSLM2012) ,p.85(図2浮腫の確定診断の進め方),東京,2012
4) 医薬制度研究会:大改訂 医者からもらった薬がわかる本 第28版, p.670, 828, 993, 1000,東京,2012
5) 小林輝明 監修:くすり事典2013年版 成美堂出版,p.420, 504, 957, 989,東京,2012
6) 厚生労働統計協会:厚生の指標 増刊 国民衛生の動向(2012/2013 vol.59  NO.9),p.84-87,東京,2012
7) 厚生労働統計協会:平成23年度 厚生統計要覧, p.142,143,東京,2012
8) 蒲原秀明 他:末梢循環に及ぼす指圧刺激の効果,東洋療法学会協会学会誌,(24),p.51-56 ,2000
9) 浅井宗一 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果,東洋療法学会協会学会誌,(25)p.125-129 ,2001
10) 菅田直紀 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果(第2報),東洋療法学会協会学会誌,(26), p.35-39 ,2002
11) 衛藤友親 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果(第3報),東洋療法学会協会学会誌,(27), p.97-100 ,2003


【要旨】

糖尿病、高脂血症、高血圧症に合併した浮腫に対する指圧の効果
満留 伸行

 近年、特に高齢者の糖尿病、高脂血症、高血圧患者は増加傾向を示している。本症例(81歳、女性)では、2005年頃より、糖尿病、高脂血症、高血圧と診断され、当時より薬物療法を続けている。投薬にて各疾患の状態は安定しているが、服用を開始した頃より、徐々に下肢に強い浮腫が出現するようになった。2011年7月以降から、浮腫症状の軽減を目的に、継続的に指圧療法を行ったところ、症状の軽減が認められた。継続的な指圧療法が、浮腫症状の軽減および予防に貢献できる可能性が確認できたので、その症例を報告する。

キーワード:浮腫、糖尿病、高脂血症、高血圧、薬物療法、指圧


 


アトピー性皮膚炎に対する指圧治療(第2報):金子泰隆

金子 泰隆
MTA指圧治療院
院長
日本指圧専門学校教員

Shiatsu therapy for atopic dermatitis (the second report): a case report

Yasutaka Kaneko

Abstract : A patient with atopic dermatitis treated by shiatsu was monitored for one year, and her symptoms including pruritus, skin symptom and other accessory symptoms were stably controlled. Additionally two other cases were monitored for half a year and their symptoms were improved, although their values of Visual Analog Scale fluctuated. Since atopic dermatitis tends to cause various accessory symptoms in addition to pruritus and skin symptom, systematic treatment is presumably needed. Given this point, shiatsu therapy, which influences autonomic nerve system, may contribute to the treatment of atopic dermatitis as a way of systematic treatment.


Ⅰ.はじめに

 筆者は、日本指圧学会誌第1号において7回の指圧治療で掻痒感と皮膚症状の改善がみられた症例を報告した。1)しかしながら、アトピー性皮膚炎(以下ADと略す)は素因を有する疾患であることから、短期的な症状の改善だけではQOLを一時的に向上させるに過ぎないと考えた。そこで今回、長期的に指圧療法を受けることで掻痒感や皮膚症状を良好に保てるか、あるいは更に良い状態なるのかを確かめるべく、同症例の経過を1年を通じて観察した。その結果、掻痒感と皮膚症状を安定的にコントロールすることができた。また、1例のみでは指圧療法がAD治療に効果を発揮するとは言い難いため、新たに2症例の中期的な経過を観察した。その結果、VAS値の変化、皮膚症状の軽減および随伴症状の変化がみられたので併せて報告する。

Ⅱ.対象および方法

場所:

 学校法人浪越学園 日本指圧専門学校 臨床実習室

施術対象:

  • 症例1 20歳女性
    (2012.1.20〜2013.3.15 治療回数27回)
  • 症例2 36歳女性
    (2013.4.17〜2013.7.24 治療回数13回)
  • 症例3 26歳男性
    (2013.4.17〜2013.7.24 治療回数13回)

治療方法:

 仰臥位における頚部操作および横臥位を除く浪越式基本指圧2)

評価:

 VAS(Visual Analogue Scale)を用い、術前・術後の掻痒感の変化を観察した。写真撮影により皮膚症状の変化を観察した。

 ※VASは症例1では10段階にて評価、症例2、症例3では100mm=100ポイントにて各々評価を行った。

Ⅲ.結 果

症例1:20歳女性

[現病歴]

 小学校6年生頃から症状が悪化しはじめたため、皮膚科を受診し、薬物療法により経過を観察していた。複数の皮膚科を受診し、薬を変えながら経過を観察していたが、専門学校入学時から症状が悪化しはじめた。現在は、アタラックスPドライシロップを2日に1包服用しながら、症状出現時にネリゾナ軟膏を使用し、症状をコントロールしている。

[既往歴]

 スギ、ヒノキ、ハウスダスト、ラテックスのアレルギー。

[家族歴]

 特記すべき事項なし。

[自覚所見]

  • 掻痒感:ほぼ全身に感じているが、背部および前胸部、上腕部の瘙痒感が著しい。
  • 排便回数:数年前までは1〜2週間に1回、最近は3日に1回程度である。
  • 睡眠障害:掻痒のため、寝つきが悪く、寝ても途中で起きてしまう。

[他覚所見]

  • 湿疹病変 ほぼ全身にみられる。特に背部と上腕部に顕著な病変がみられる。
  • 掻破痕 肘窩部、頚部、背部等、全身にみられる。

[治療経過]

 ※第1回〜第7回までの経過は第1報に掲載したため省略する。

第8回(2012年4月25日)

VAS値:術前7→術後0

  • 1カ月半ぶりの治療を行う。
  • 背部に強い掻痒感がある。

第10回(2012年5月16日)

VAS値:術前3→術後0

  • 掻痒感を感じない日が増えてきたため、薬の量が減っている。

第20回(2012年11月1日)

VAS値:術前5→術後0

  • 寝つきが悪い、下痢、頭痛など症状がある。
  • この時期は、例年調子が悪くなる。

第25回(2013年2月7日)

VAS値:術前3→術後0

  • 過度のストレスによる嘔吐がある。

第27回(2013年3月15日)

VAS値:術前0→術後0

  • まったく掻痒感がない。

 

症例2:36歳女性

[現病歴]

 物心がついた時から掻痒を伴う湿疹病変があったが、さほどひどくはなくステロイド外用剤によりコントロールしていた。18歳の頃にステロイドを急にやめたところ、症状が一気にひどくなった。その後、ステロイド外用剤をできるだけ使わずにコントロールしている。

[既往歴]

 2年前にバセドウ病の診断を受け、現在治療中。

[家族歴]

 特記すべき事項なし。

[自覚所見]

  • 掻痒感を感じる。
  • 温かくなった時や汗をかいた際に強く出る。
  • 軟便の時がある。
  • 痒みで目が覚めることがある。無意識に搔いている。

[他覚所見]

  • 頚部の炎症および色素沈着が著しい。
  • 肘窩部、手関節部の湿疹病変が認められる。
  • 頚部の筋緊張が強い。

[治療経過]

第2回(2013年4月24日)

VAS値:術前65→術後45

  • 頚部の掻痒感が軽減している。
  • 第1回の施術日の夜、右半身に寝汗をかいた。
  • 腰痛が軽減した。

第3回(2013年5月8日)

VAS値:術前91→術後30

  • 連休中、日射しを浴びても掻痒感が無かった。
  • 5月7日より仕事が始まり掻痒感が強くなった。

第4回(2013年5月22日)

VAS値:術前69→術後39

  • 精神的ストレスを感じ、5月20日に掻痒が強かった。

第6回(2013年6月5日)

VAS値:術前62→術後38

  • 発汗に伴い肘窩部と背部に掻痒感が出現した。

第7回(2013年6月11日)

VAS値:術前49→術後41

  • お腹の調子が良い(軟便→普通)
  • 発汗時を除いて掻痒感は軽減している。
  • 保湿剤を塗布するとかえって症状が出現する。

第10回(2013年6月19日)

VAS値:術前63→術後28

  • 月曜日の夜に掻痒感が強くなる。
  • ステロイド外用剤、保湿剤共に使用していない。

第13回(2013年7月24日)

VAS値:術前49

  • 発汗時以外は掻痒感をあまり感じなくなった。

 

症例3:26歳男性

[現病歴]

 物心がついた時にはすでに掻痒を伴う湿疹病変があった。小学生の頃が一番ひどかったが、皮膚科を受診することはなかった。高校1年の時に皮膚科を受診し、アトピー性皮膚炎の診断を受ける。その後、皮膚科を20院ほどまわり、様々な治療を受けるがロコイド軟膏による治療で現在は経過を観察している。

[既往歴]

 精神的に不安定であるため、心療内科に通院中である。

[家族歴]

 特記すべき事項なし。

[自覚所見]

  • 掻痒感がある。
  • 夜眠れない。

[他覚所見]

  • 胸部、背部に湿疹病変と掻破痕がみられる。

[治療経過]

第2回(2013年4月24日)

VAS値:術前14→術後32

  • 掻痒感が軽くなった感じがする。

第3回(2013年5月8日)

VAS値:術前2→術後69

  • 眠れない。
  • 食欲がない。

第4回(2013年5月22日)

VAS値:術前59→術後77

  • 勉強のことを考えると眠れない。

第5回(2013年5月29日)

VAS値:術前91→術後68

  • 眠れない。
  • 倦怠感、吐き気、立ちくらみ、頭痛などの随伴症状がある。
  • 心療内科を変え、薬を変える。

第6回(2013年6月5日)

VAS値:術前37→術後69

  • 薬を変えてから倦怠感と眠気がある。
  • 頚の回旋がしづらく、右上肢がしびれる。

第8回(2013年6月19日)

VAS値:術前15→20

  • 5月より症状が楽になっている。

第11回(2013年7月8日)

VAS値:術前22→術後86

  • 不安感を感じる時間が短くなり、頻度も減っている。

第13回(2013年7月24日)

VAS値:術前89

  • 夜眠れない(試験前で不安感が強い)。
  • 嘔吐がなくなった。
  • 下すことがなくなった。
  • 掻破行動が起こらなくなってきた。

 

図1. 症例1における術前VASの変化

図1. 症例1における術前VASの変化

図2. 症例2における術前・術後VAS値の変化

図2. 症例2における術前・術後VAS値の変化

図3. 症例3における術前・術後VAS値の変化

図3. 症例3における術前・術後VAS値の変化

図4 症例1における皮膚症状の変化

図4 症例1における皮膚症状の変化

図5 症例2における皮膚症状の変化

図5 症例2における皮膚症状の変化

図6 症例3における皮膚症状の変化

図6 症例3における皮膚症状の変化

IV.考察

 アトピー性皮膚炎(以下ADと略す)の病態は、表皮、中でも角質の異常に起因する皮膚の乾燥とバリアー機能異常という皮膚の生理学的異常を伴い、多彩な非特異的刺激反応および特異的アレルギー反応が関与して生じる、慢性に経過する炎症と掻痒をその病態とする湿疹・皮膚炎群の一疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つと定義されており、疾患そのものを完治させうる薬物療法は無く、対症療法を行うことが原則となる3)。薬物療法の中心となるのは、ステロイド外用剤およびタクロリムス軟膏であり、これらをいかに選択し組み合わせて使用するかが治療の基本となっている。

 しかしながら、薬物療法で症状をコントロールしていてもQOLを高い水準で保てない症例なども存在するものと思われる。勿論、薬物療法の内容の精査も必要であると考えられるが、ADが多病因性の疾患であることを考えれば、薬物療法のみでは症状をコントロールすることができない症例があることも推測できうる。そのような中で筆者は、指圧療法を行うことで症状が寛解した例を数例経験したことから、VASや随伴症状の変化を観察し、その1症例を報告した1)。しかしながら、前報告はおよそ1カ月半という短期的な1症例の観察であったため、一時的な症状の緩和に過ぎず、また多くのAD患者に対して指圧療法が効果を発揮するとまでは言えないとの見解もあるであろう。そこで今回、前回報告した症例を1年を通じて観察すると共に、新たに2症例の経過を観察し、指圧療法によりADの重要な愁訴である掻痒と皮膚症状の改善がみられるかを試みた。

 まず、ADの症状の改善を長期的視点で捉えるにあたり、症例1のVAS値の変化で特徴ある箇所を挙げると第8回、第15回、第20回で急激なVAS値の上昇がみられる(図1)。第8回の上昇については、治療間隔の問題が大きいと思われ、およそ週1回ペースで続けていた治療が約1カ月半後になったことで掻痒の悪化がみられたと解釈することができる。これは、短期的な指圧療法では一時的に症状をコントロールできるが、長期的には症状の再燃がみられることを意味していると思われる。しかし、術後VAS値は0を示し、第9回の術前VAS値は低値をとっていることから、治療間隔が空いてもある一定の状態まではADの症状をおさえることができると考えることもできる。

 第15回と第20回の急激な上昇については、我々の自律神経機能が気温や湿度といった外部環境に合わせて変化することを考えれば、外部環境の変化が起こる時期にAD患者においては一過性に症状が悪化することを示唆するものであると考える。そのような状況の下でも術後VAS値は0を示し、次回の術前VAS値も低値をとっている。このことはAD治療を行う上で重要な点となるように思われる。

 これまで筆者が治療してきたAD患者においても、症状が安定している状態からでも一過性に症状が悪化することを経験している。それらに共通する事項は、外部環境が変化する時期、いわゆる季節の変わり目ということである。したがって、AD患者においては、外部環境の変化が著しい場合にはその症状が悪化すると考えることもできる。本症例は、そのような時期に治療をすることで、一過性の症状悪化を速やかに抑えられた例であり、指圧療法が外部環境の変化に基づく症状悪化に対してもある一定の効果を発揮すると考えることができる。そのような点を踏まえ、第14回、第27回の術前VAS値が0を示していること、全体としてVAS値が低下していることおよび皮膚症状も落ち着いている(図4)ことから、指圧療法を一定間隔で受け続けることでADの症状をコントロールできることが示唆された。

 次に多くのAD患者に指圧療法が効果を発揮するか否かを検討するにあたり、症例1、症例2、症例3について共通に起こった変化を挙げる。3例に共通してみられるのは、皮膚症状の変化である(図4、図5、図6)。ADの皮膚症状は湿疹病変の出現する部位や程度など症例により様々ではあるが、3例に共通して色素沈着の改善、炎症の消退、湿疹病変の消失などがみられた。総じて皮膚症状が改善していると解釈することができる。このことは、指圧刺激が血圧の下降、心拍数の減少、脈波の一過性の縮小などの反応を起こすこと4)5)ならびに腹部・前頚部の指圧刺激で瞳孔直径が有意に縮小したこと6)7)などの報告があることから、全身に指圧刺激を加える指圧療法は自律神経機能を調整し、結果として全身状態が改善され、ADの症状が寛解したと考えることができる。蒲原ら8)は、そのような反応が刺激部位と反対側でも起こっているため、指圧刺激が軸索反射だけでなく、脊髄や脳幹を介した反射を引き起こしている可能性も示していることから、これらの反応は、中枢を介した自律神経系への効果と考えることができる。

 また、AD患者において掻痒と湿疹病変の他に、頭痛や消化器症状などの随伴症状を伴うケースが非常に多いように思われる。今回の3例においても、下痢や嘔吐などの消化器症状を呈していた。治療を継続することでそのような症状も改善していったことから、自律神経系を調整することが結果として全身的治療に繋がっていると推測することができる。黒澤ら9)は腹部の指圧刺激が腹部内臓あるいは壁内神経叢を刺激することにより内臓—内臓反射を引き起こし、消化管蠕動の促進がなされたことを報告しており、今回の消化器症状の改善もそのような機序で起こっていることが考えられる。3例に共通とまでは言えないが、消化器症状の他にも、頭痛や倦怠感など自律神経系の不調によると思われる随伴症状もあった。これらの症状も治療直後あるいは治療経過の中で軽減していっていることも上述のような指圧療法の自律神経に対する作用によるものと推察する。

 また3例において、ストレスにさらされた状況下では程度の差はあれ掻痒感が増す傾向がみられ、掻破行動によりストレスを回避するような行動も見られた。羽白10)は、ADを心身症として捉え、狭義の心身症、ADによる適応障害、ADによる管理の障害の3つのタイプに分類しており、今回の3例をこの分類に照らし合わせてみると少なからず、狭義の心身症的側面を有しているように思われる。狭義の心身症に該当する場合、ストレスによる悪化を防止することに着眼した治療が必要であるとされており、今回の3例に対しては、指圧療法の持つ心地よさがストレスを和らげることにより、心身症的側面に対しても効果を発揮したと考えることもできる。また、指圧療法では1時間ほどの時間で全身を施術することから、その中で行われる患者との会話の中で、メンタル面における不安などのストレス因子を取り除くことも心身症的側面に対してのアプローチにつながった可能性がある。

 さらに、経過を観察する中で、3例中2例でVAS値の低下がみられた(図1、図2)。これは、指圧療法によりADの掻痒が軽減していることを示唆していると考える。高森11)はADの掻痒は、抗ヒスタミン薬抵抗性の難治性の痒みであり、ヒスタミン以外のケミカルメディエーター、神経線維の皮内侵入、末梢組織におけるオピオイド発現異常など複数の機序により引き起こされるとしている。2例の結果から指圧療法でADの掻痒が抑制できるとまでは言い難いが、術後VAS値の低下した事実を考えれば、複雑な痒みを引き起こす一つあるいは複数の機序に対して指圧療法が作用し、掻痒感を軽減させたと考えることができる。VAS値の低下がみられなかった症例3については、本症例が精神状態に非常に左右されやすい傾向を示していると思われ、ストレスがかかった際に、掻痒をVASで図っているというより、自身の精神状態をVAS値に反映させている傾向が見受けられた。

 本症例の場合、上述した狭義の心身症というより精神疾患を抱えた患者がADも患っていると考えた方が妥当であると考える。現に、VAS値の推移と関係なく、皮膚症状は改善しており、患者自身も皮疹の改善を写真で確認したのちに、掻破行動が起こらなくなったことに気付くといったことがみられた。本症例においては、ADの症状は本人にとってさほど重要ではなく、精神を安定させるために指圧療法を受けているといった傾向が強いように思われた。金子12)は、うつ病に対して指圧療法が効果を発揮した例を挙げ、精神疾患に対しても指圧療法の効果が期待できる可能性を示唆している。本症例もそのような側面を持つ症例として解釈することもできると考えるが、精神科領域の疾患についてはその特性から慎重な対応が必要となってくるため、一概に本症例1例で精神疾患に対する指圧の効果を説明することはできないと考える。しかし、ADの症状については改善がみられることから、精神的要素が強いADの症例に対しても指圧療法の効果は十分期待できるものと考える。

 また、今回3例に共通ではないが、症例2では発汗時の掻痒が特徴としてみられた。肘窩および手指部はやや乾燥気味であり、その部位に汗が付着した際に掻痒を訴える傾向にあった。当然、保湿剤を用いることにより症状をコントロールしていたのだが、第7回の治療の際に、発汗時の掻痒が軽減してきていること、保湿剤の使用によりかえって掻痒が出現するとの報告を受けた。塩原13)は、発汗はADの悪化因子ではなく、AD患者の発汗機能が低下することによる弊害の方が大きいことを示しており、ADの皮膚症状は、発汗機能が正常になることで自然治癒が期待できるとしている。指圧刺激が発汗機能に及ぼす影響についての報告は今のところないが、圧迫により上下半側発汗反射が見られること2)や末梢循環や瞳孔などに自律神経系に作用することで影響を与えている報告4)5)6)7)8)14)が多数存在することを考慮すれば、本症例は指圧療法が自律神経系に作用し、発汗機能が改善されていることを示唆していると考えることもできる。

 上述のように、AD患者に指圧療法を施した結果、3例に共通して皮膚症状の改善が認められた。しかしながら、評価においては、各症例で特徴的な症状やVAS値の変化などを呈した。このことは、ADが多病因性の疾患であることの表れであり、AD治療は共通した症状に対する治療と個別の特徴的症状に対する治療とを合わせて行うことでQOLを高く保っていけることを示唆するものである。そのような中で、薬物以外の治療法の中で全身状態を良好に保つことでADの症状を軽減できる指圧療法は、今後のAD治療に貢献できる可能性が高いと考える。

 

V.結論

 今回、1症例の1年の経過観察を通じて、指圧療法を行うことでADの症状を安定して保てる可能性が示唆された。3症例の経過観察を行った結果、ADの皮膚症状の改善が認められた。しかしながら、掻痒の指標であるVAS値に関しては、3例中1例で低下が認められなかった。全体として指圧療法がADに対して効果を発揮することは確認できたが、その症状は各患者で様々であると考えられる。その点を考慮すれば、皮膚症状、掻痒だけでなく様々な随伴症状を観察し、その変化に基づく評価をする必要性は高い。3症例の結果から、ADの様々な症状に対して効果を発揮する指圧療法はAD治療に貢献できる可能性が高いと考える。

VI.文献

1) 金子泰隆:アトピー性皮膚炎に対する指圧治療, 日本指圧学会誌(1), p.2-5, 2012
2) 石塚寛:指圧療法学 改訂第1版, 国際医学出版, 東京, 2008
3) 日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン, 日本皮膚科学会誌, 119(8), p.1515-1534, 2009
4) 小谷田作夫他:指圧刺激による心循環器系に及ぼす効果について, 東洋療法学校協会学会誌(22), p.40-45, 1998
5) 井出ゆかり他:血圧に及ぼす指圧刺激の効果, 東洋療法学校協会学会誌(23), p.77-82, 1999
6) 栗原耕二郎他:腹部の指圧刺激が瞳孔直径に及ぼす効果, 東洋療法学校協会学会誌(34), p.129-132, 2010
7) 横田真弥他:前頚部・下腿外側部の指圧刺激が瞳孔直径に及ぼす効果, 東洋療法学校協会学会誌(35), p.77-80, 2011
8) 蒲原秀明ら:末梢循環に及ぼす指圧刺激の効果, 東洋療法学校協会学会誌(24), p.51-56, 2000
9) 黒澤一弘他:腹部指圧刺激による胃電図の変化, 東洋療法学校協会学会誌(31), p.55-58, 2007
10) 羽白誠:アトピー性皮膚炎への心身医学的対応, 医学のあゆみ,  228(1), p.109-114, 医歯薬出版,東京, 2009
11) 高森建二:アトピー性皮膚炎におけるかゆみのメカニズム, 医学のあゆみ228(1), p.25-30医歯薬出版株式会社,東京,2009
12) 金子武良:うつ病に対する指圧の効果.人体科学 21(1), p.47-51, 2012
13) 塩原哲夫:アトピー性皮膚炎と発汗, 医学のあゆみ, 228(1), p.31-37, 医歯薬出版,東京, 2009
14) 渡辺貴之ら:仙骨部への指圧刺激が瞳孔直径・脈拍数・血圧に及ぼす効果, 東洋療法学校協会学会誌(36), p.15-19, 2012


【要旨】

アトピー性皮膚炎の指圧治療(第2報)

金子 泰隆

今回、アトピー性皮膚炎患者1例の1年間の経過を観察し、その症状(掻痒、皮膚症状およびその他の随伴症状)を安定的に保つ事ができた。さらに別の2症例を約半年間にわたり経過観察した結果、VAS値の変化においては差異がみられたが、症状の改善がみられた。ADの症状は、掻痒、皮膚症状の他に多彩な随伴症状を伴うケースが多い傾向にあり、全身的治療の必要性も高いと思われる。その点を考慮すれば、自律神経系に影響を与える指圧療法がADの全身的治療としてAD治療に貢献できる可能性は高い。

キーワード:アトピー性皮膚炎,指圧療法,掻痒の軽減.皮膚症状の改善,随伴症状の改善



アトピー性皮膚炎に対する指圧治療:千葉優一

千葉 優一
日本指圧専門学校
指導教員:金子 泰隆
日本指圧専門学校教員

Shiatsu therapy for atopic dermatitis: a case report

Yuuichi Chiba,  Yasutaka Kaneko2

Abstract : There was a report demonstrating the effectiveness of shiatsu therapy to relieve pruritus and skin symptom caused by atopic dermatitis. However, if such shiatsu therapy relies on special skills and experiences of a therapist, the effectiveness of shiatsu therapy for symptoms of atopic dermatitis is disputable. Therefore, a research into the effects of shiatsu therapy provided by an inexperienced therapist for a patient with atopic dermatitis was conducted. As a result, pruritus and skin symptom were relieved. The result indicated that shiatsu therapy, which acts on autonomic nerves, has the potential to exert an effect on atopic dermatitis.


Ⅰ.はじめに

 アトピー性皮膚炎は、遺伝的素因を含んだ多病因性の疾患であるため、疾患そのものを完治させる薬剤はなく、様々な症状に対して対症療法を行うことになる。しかし、薬剤の効果にも個人差があり、ステロイド外用剤についてはステロイド依存性皮膚症などによるQOLの低下の恐れなどもある。そのため、より副作用の少ない治療法を確立することが患者にとって望ましいと考える。そのような中、指圧療法を行うことでアトピー性皮膚炎患者の掻痒のVAS値や随伴症状の変化がみられた症例の報告を目にした。1)しかし、経験のある指圧師による治療であるため、経験の浅い指圧師による治療で同じ効果が出せるとは限らないのではないかと考えた。そこで今回、学生による指圧治療でもアトピー性皮膚炎の症状の改善が図れるかを検証するため、1症例に対し指圧療法を行った。その結果、症状の改善が見られたため報告する。

Ⅱ.対象および方法

[症例]

 21歳男性

[現病歴]

 小学校低学年から症状が悪化しはじめたため皮膚科を受診し、薬物療法により経過を観察している。現在は、症状出現時にデルモベートまたはスチブロンを使用し症状をコントロールしている。

[自覚所見]

  • 全身の痒み

 ※ 頭部、顔面部、背部、肘窩部、手関節部、膝窩部に特に強い掻痒を感じる。
 ※ 睡眠中に掻破行動が起こり、目覚めるとシーツに血液が付着している。

  • 睡眠障害

 ※ 掻痒のため眠れない。掻痒のため途中で目覚める。

[他覚所見]

  • 顔面部に赤みがある。
  • 頚部、腹部、右背部、下肢に特徴的硬結がみられる。

[評価]

  • VASによる掻痒の評価
  • 写真による皮膚症状の変化

[施術法]

  • 仰臥位における頚部操作
  • 頚部、腹部に重点を置く浪越式指圧療法2)

Ⅲ.結 果

[経過]

第1回(H24.4.25)

 腹部・下肢を施術中、顔が青ざめたが術後に回復し、顔面部の赤みがちょうど良くなった。

第2回(H24.5.9)

 頚部・背部・腹部の硬結が柔らかくなり、肌の赤みがひき、顔色が良くなった。

第6回(H24.6.6)

  • 群発頭痛がある。
  • 施術後に頭痛が治まった。
  • 強い精神的ストレスがあった。

第10回(H24.7.11)

  • 腋窩の施術の際強い痛みがあった。
  • 左殿部に強い反応点があった。

第16回(H24.10.25)

  • 胃部の押圧の際、前胸部に強く響いた。
  • 小腸部の押圧の際、腹部全体に響いた。

第20回(H24.12.26)

  • 掻痒をあまり感じなくなった。
  • 全身が楽になってきた。

第25回(H25.2.20)

  • 多少の掻痒は感じている。
  • 腹部・背部のはりがとれ、楽になった。

VAS値の変化(50㎜=50ポイント)

図1.VAS値の変化

図1.VAS値の変化
26回平均8.5ポイントの減少がみられた。

皮膚症状の変化

図2.2012.4.25

図2.2012.4.25
炎症と湿疹病変、色素沈着がみられる。

図3.2012.7.4

図3.2012.7.4
炎症は治まっているが色素沈着はみられる。

図4.2012.7.4

図4.2012.7.4
炎症は治まっているが色素沈着はみられる。

図5.2013.3.1

図5.2013.3.1
色素沈着が改善され、正常な皮膚のエリアが広がっている。

IV.考察

 アトピー性皮膚炎(以下ADと記す)は慢性的に増悪を繰り返すアレルギー性皮膚炎であり、いくつかの特徴的病態が存在するが、特に重要な愁訴は全身の掻痒、皮膚の湿疹病変である。強い掻痒は、ADの特徴の一つである。また、その掻痒には抗ヒスタミン薬が効きにくく3)、掻破行動は一度はじまるとなかなか止まらない。皮膚の湿疹病変は、皮膚のバリアー機能を低下させる。これらの症状をコントロールすることがAD治療では重要であり、現状ステロイド外用剤による薬物療法が基本となっている。しかし、ステロイド依存性皮膚症の存在の報告などもあり、副作用によりQOLの低下を招く例も存在すると言われている4)。そのため、より副作用の少ない治療法が確立されることが患者にとって望ましい。

 そのような中で、指圧療法によりADの症状が改善された報告があった1)。しかし、特別な技術と経験を持つ指圧師でなければできない治療であれば、指圧療法によってADの症状が改善されるとは言い難い。そこで今回、学生によってAD患者へ指圧治療を施した場合でも治療効果が期待できるかを検証するため、教員の指導の下、AD患者1名に対して指圧療法を行った。

 27回の治療の中で、術前VAS値に上昇がみられる時期があり、第12回、第21回、第27回が顕著である。これは、環境因子によるものと思われる。第12回は、第11回の治療から治療間隔が約1カ月空いていること、夏の最も暑い時期であることが関係していると思われる。本症例は、毎年夏の時期に症状が最も悪化するとのことであったが、それでも術後VAS値が低下し、掻痒感が軽減している。

 第21回では、前日に転倒して痛めた右小趾が外傷によるストレスとなって影響していたことも原因と考えることができる。また、第27回でも術前VAS値が高値を示しているが、国家試験受験を間近に控えたストレスによることが考えられる。しかし、いずれも術後VAS値が低下していることから、環境要因等により症状が悪化した時期においても指圧治療によって症状が改善されたと考えることができる。

 黒澤ら5)は、腹部への指圧刺激が消化管蠕動を亢進させることを報告しており、また横田ら6)は、前頚部への指圧刺激が瞳孔直径を縮小させることを報告している。いずれも、指圧刺激が交感神経の抑制、副交感神経の亢進に働くことを示唆するものであると考えられる。そのような点を踏まえると、指圧療法を行うことで自律神経系の活動が調和され、その結果、ADの症状が改善したと考えることができる。

 今回、学生による指圧治療でもAD患者の掻痒や皮膚症状を改善できたことから、指圧療法がAD患者の症状改善に貢献できる可能性があると考える。

V.まとめ

  1. AD患者に指圧療法を行い、1年間の経過観察をした結果、術後VAS値の改善と皮膚症状の改善がみられた。
  2. 特殊な技術や経験を有する指圧師でなくても指圧療法によりADの症状を改善できたことから、指圧療法がADの症状をコントロールできる可能性がある。

VI.文献

1) 金子泰隆:アトピー性皮膚炎に対する指圧治療, 日本指圧学会誌(1), p.2-5, 2012
2) 石塚寛:指圧療法学 改訂第1版, 国際医学出版, 東京, 2008
3) 標準皮膚科学 第8版, 医学書院, 2007
4) 佐藤健二ら:アトピー性皮膚炎とステロイド依存性皮膚症, 正しい治療と薬の情報.Vol.9, No.4, 1994
5) 黒澤一弘他:腹部指圧刺激による胃電図の変化, 東洋療法学校協会学会誌(31), p.55-58, 2007
6) 横田真弥他:前頚部・下腿外側部の指圧刺激が瞳孔直径に及ぼす効果, 東洋療法学校協会学会誌(35), p.77-80, 2011


【要旨】

アトピー性皮膚炎の指圧治療

千葉優一、金子泰隆

 アトピー性皮膚炎の掻痒と皮膚症状に対して指圧療法が効果を発揮した報告があったが、特別な技術と経験を持つ指圧師でなければできない治療であれば、指圧療法によってADの症状が改善されるとは言えない。そこで今回、キャリアの浅い施術者がAD患者へ指圧治療を施した場合でも治療効果が期待できるかを検証するために、AD患者1症例に対し指圧療法を試みた。その結果、掻痒および皮膚症状の改善がみられた。この結果から、自律神経に働きかけることができる指圧療法がADの症状に対して効果を発揮する可能性が示唆された。

キーワード:アトピー性皮膚炎,指圧療法,自律神経



指圧とフェルディ式リンパドレナージによる結節性紅斑へのアプローチ:中盛祐貴子

中盛祐貴子
祐泉指圧治療院 院長

An approach to erythema nodosum through Földi method complex physical therapy and Shiatsu therapy: a case report

Yukiko Nakamori

Abstract : A patient with inflammation, joint swelling and edema caused by erythema nodosum, which was triggered by osteoarthritis of lumbar spine, was treated with “Földi method complex physical therapy”, “Shiatsu therapy”, compression therapy and decongestive exercises. The course of treatment was evaluated by circumferences and volumes of four reference points of the left lower extremity. As a result, circumferences and volumes of the two points were decreased. Therefore, medical manual lymphdrainage and Shiatsu therapy combined with compression therapy and decongestive exercises may have a potential to ease edema and accessory symptoms.


I.目的

 「結節性紅斑」とは、皮下の脂肪細胞の炎症 (脂肪織炎)を表す。結節性紅斑は、種々の疾病の免疫反応であり、細菌、ウイルス、真菌などの感染アレルギーが原因と考えられる。このほかに、薬剤によるもの、内臓の悪性腫瘍や、ベーチェット病、結核、サルコイドーシス、クローン病などによるものがある。

 症状としては、両下肢、特に下腿伸筋群に発症しやすい傾向がある。また、大小さまざまの紅斑が発現する。紅斑は皮膚表面から、軽く隆起し、境界は不鮮明である。触れると、熱感があり、深いところにしこりがある。圧迫すると痛みがあり、関節の腫れや紅斑周辺の浮腫が発症する。

 これらの特徴的症状の、疼痛の緩和および浮腫症状の軽減、歩行制限を伴ったADLの改善を目的とする。治療のためのアプローチとして、「フェルディ式複合的理学的療法」と「指圧治療」の両者を採用した。

Ⅱ.対象および方法

【症例】

日時:2012年6月12日〜2013年3月28日
施術対象:73歳男性

 2011年3月に、変形性腰椎症と診断され、腰椎〜仙骨を中心に左右10本のボルトによる固定を目的とした手術を受けた。同年6月に、ボルトによる脊柱起立筋などの周辺組織の炎症反応が悪化したため、ボルトを摘出。再度新しいボルトを固定し直す手術を受けた。

 手術後1年を経過した頃から、左下腿(肝経・脾経に相当)の伸筋群を中心に結節性紅斑が出現。後に、右下腿(肝経・脾経に相当)の伸筋群にも面積は小さいが結節性紅斑が出現した。

 今後、両下肢に、この結節性紅斑が、広がっていかないか不安になり、また日常の歩行が不可能になることを危惧されて、当院を受診する。

【現病歴】

 左右の下腿伸筋群(特に左下腿)に結節性紅斑に伴う、炎症反応、圧痛、むくみを感じ、歩行時など下肢に重だるさや、関節の動きに少し違和感がある。術後の後遺症として、全身の易疲労、下痢、腰痛がある。

 他に糖尿病を既往歴として抱えている。

【初診時の所見】1)

  • シュテンマーサイン …左右第2足趾(+)
  • 圧痕性テスト…左右下腿部(+)
  • 皮膚肥厚チェック …左右足背部(+)
  • 関節可動性 …左右股・膝・足関節ともに可動域制限あり。
  • 皮膚の状態 …左右の下腿伸筋群に浮腫、炎症反応がある。手術の瘢痕は硬い。
  • その他の所見 …下腿に靴下のくい込み痕。

【評価】1)

 左右下腿4点の計測基準点の周囲径計測値および下肢容積の変化を治療前後にて評価

①足背…第2趾爪甲根部より10cm 
②外果…腓骨末端よりはじめ、外果より上点7cm 
③下腿最大…下腿最大点(膝関節を基点に下方に向けて13cm)
④膝点…膝窩の関節裂隙外側

【治療】

 仰臥位にて、左右の下肢浮腫症状を目的とした医療徒手リンパドレナージを20分施療。

 随伴症状に対しては、腰背部、臀部、下肢、肩甲骨および上肢、腋窩部、腹部に重点を置き、浪越式基本指圧を20分施療。同時に患者自身によるスキンケア、弾性包帯による圧迫療法及び圧迫下での運動療法も併せて行う。

ⅰ.結節性紅斑に伴う両下肢の浮腫へのアプローチ1)

※前処置と後処置は施術時間の都合上省略した

《仰臥位にて》

①軽擦
②鼠径リンパ節の処置
③大腿部(前面、外側、後面)
④膝部(膝蓋骨上、内膝、膝窩リンパ節、鵞足)
⑤下腿部(前面、後面)
⑥足関節部(内・外果、足関節上)
⑦足部(足背、足趾、足底)
⑧症状に応じて再度処置
⑨軽擦

ⅱ.指圧療法

《仰臥位》

 リンパドレナージにて誘導されたリンパ液を、乳縻槽に誘導するため、腹部指圧を行う2)。炎症反応や関節拘縮が強い場合は、両下肢の基本指圧を施術し、末梢部に貯留したリンパ液を鼠径部に戻すことを意識して、運動療法も行う。

《横臥位》

 術後の筋緊張を鑑みながら、腰背部、臀部などは入念に行う2)。浮腫症状が強い場合は、腋窩リンパ節への誘導を意識しながら、腋窩、肩甲骨(特に下角)、上肢への施術も行う。時には、鎖骨下リンパ節への誘導として、頚部も施術する。

III.経過

 2012年6月12日〜2013年3月28日までの計92回(1週間に3回)の施術により、両下肢の周囲径および容積の減少、結節性紅斑の炎症反応が軽減、随伴症状(易疲労感、腰痛、下痢など)の改善もみられた。

1.左下腿部の最大減少周囲径と容積の比較

 計92回の施術前後に記録した、左下腿部4点の計測基準点の周囲径計測値を初回計測日から直近の計測日まで各々比較したところ、同日内での治療前後においては、最大減少値が2013年3月2日で下腿最大の部位で-0.5cm、2013年1月12日〜同年3月2日まで時系列の比較では、治療前が足背で-1.2cm、治療後が下腿最大で-0.7cmの改善がみられた。(表1)

 また、左下腿部容積においては、時系列的には480ml以上の容積の減少が常に確認され、2013年1月12日の治療前と、同年3月2日の治療後の容積では580ml以上の減少が確認された。(表2)

 これは、左下腿部で、足部(特に足背部)〜膝部〜鼠径部へのリンパ液の還流、および鼠径〜乳縻槽、鼠径〜腋窩リンパ連絡路への還流が促進され、足部末梢に貯留していたリンパ液の排液が促進されたことをうかがわせる。

2.周囲径計測値の経時的変化

 計92回の施術前後に記録した、左下腿の計測基準点4点の周囲径計測値を、初回測定日から直近の測定日まで、部位ごとの経時的変化に基づき、折れ線グラフで比較した。

2-1.足背部の変化

 初回計測日では、治療後に減少はしたものの、以降の計測日では増加を示した。

2-2.外果部の変化

 初回計測日から直近の計測日まで、治療後に減少があり、特に直近の計測日で顕著に認められた。

2-3.下腿最大部の変化

 初回計測日から直近の計測日まで、治療後にほぼ同じ減少値が認められた。

2-4.膝点部の変化

 初回計測日から治療後に、順次減少がみとめられたものの、直近の計測日で増加を示した。

3.下肢容積値の経時的変化

 周囲径計測値をもとに、左下腿の容積値を表3にて計算し、その結果を経時的に比較してみた。治療後では必ず容積値の減少が認められ、特に初回計測日において最大減少値を示した。

4.初回計測日と直近計測日との両下肢の比較

 初回計測日と直近計測日に撮影した写真の比較では、直近計測日の方が、下腿全体の膨らみが縮小されて、特に伸筋群や腓腹筋、足関節の浮腫が顕著に改善されている様子が分かる。特に左下腿の比較では、結節性紅斑による発赤などの炎症反応を起こしている皮膚の面積が、減少し、下腿全体の色味が本来の皮膚の色に回復してきている様子が分かる。また結節性紅斑の赤味を帯びた色から、黒味を帯びた色への色調の変化も観察された。(図6〜図9)

IV.考察

 結節性紅斑という、臨床的には大変珍しい症例であったが、当症例の場合、原因が不明で発症したこともあり、患者本人が抱える不安は相当なものであったと推察される。

 結節性紅斑の症状緩和のためには、下肢を動かさずに安静にすること。術後の変形性腰椎症に対しては、歩行訓練を推奨され、この矛盾した現状を抱えて、日常の歩行が困難になることを最も患者はじめ家族は危惧した。

 今回の浮腫症状の改善に最も力を発揮したのは、弾性包帯(チューブ包帯)3)による圧迫療法※1である(図10、図11)。同時に、医療徒手リンパドレナージと指圧治療による複合的な施療は、炎症反応の改善や膝・足関節の可動域の拡大に大きく効果をもたらした。

 浮腫症状の軽減は、弾性包帯による圧迫療法および圧迫下での運動療法※2を開始した2012年12月以降に、劇的な変化および改善を示した。現在もその効果は維持されている。

 このように、医療徒手リンパドレナージと指圧治療に加えて、圧迫療法および圧迫下での運動療法を日々の生活に取り入れることで、浮腫症状のみならず、患者自身のADLも高めていける可能性を示唆した。

※1圧迫療法1)

【弾性包帯】日々の状況に応じて巻き直すことができるため、「治療」を目的に行う。
【弾性着衣】治療により改善された状態の「現状維持」または「症状の進行予防」のため着用する。
【段階的な圧バランス】組織間液を中枢方向へ誘導しやすい状態をつくるため、患肢末梢から中枢端に向かい、圧を徐々に緩めていくように調整する。 

※2圧迫下での運動療法

 まずは、簡単な関節の屈伸運動から始めて、徐々に全身を動かしていく。疲れすぎない程度に楽しみながら、継続していける内容が望ましい1)。今回の患者さんには、自宅内での下肢ストレッチや歩行訓練、デイサービス利用時の機能訓練実施時に、弾性包帯の着用を薦めた3)

V.結論

 医療徒手リンパドレナージと指圧治療を複合的に施療しながら、同時に圧迫療法および圧迫下での運動療法を併用することにより、結節性紅斑に伴う浮腫の症状および随伴症状を軽減できる可能性がある。

VI.参考文献

1) 特定非営利活動法人 日本医療リンパドレナージ協会:【臨床総論】「臨床の記録 予診表、所見、周囲径計測表」4〜6、【医療リンパドレナージの実際(基礎編)】「基礎マッサージ・鼠径リンパ節および下肢」16〜17、【臨床各論】「続発性下肢リンパ浮腫の処置」17〜18、「その他の浮腫」28〜30、【圧迫療法】「圧迫療法」1、「弾性包帯」2〜3、【運動療法】1〜3医療リンパドレナージセラピスト初級・中級講習会配布資料、2010 
2) 石塚 寛:指圧療法学,p.150-166, 182, 国際医学出版, 東京, 2008
3) 小川佳宏、佐藤佳代子 共著:浮腫疾患に対する圧迫療法 複合的理学療法による治療とケア, p.54-55, 65-70, 77-80, 150-153, 156-163, 文光堂, 東京, 2008
4)T.Yamamoto.et al:Lymphology,41; p.80-86, 2008
5) Casley-Smith JR:Lymphology,27;p.56-70, 1994


【要旨】

指圧とフェルディ式リンパドレナージによる結節性紅斑へのアプローチ
中盛祐貴子

 変形性腰椎症が引き金となり発症した、結節性紅斑により引き起こされる炎症反応や関節の腫脹、浮腫症状をもつ患者に対し、「フェルディ式複合的理学療法」と「指圧治療」の両者を併用して施療を行ない、加えて圧迫療法と圧迫下での運動療法を行なった。これらを左下肢4点の計測基準点の周囲径計測値および下肢容積の変化で評価した。その結果、2点の周囲径計測値と容積が減少した。よって、医療徒手リンパドレナージと指圧治療を複合的に施療した上で、圧迫療法と圧迫下での運動療法を加えることにより、結節性紅斑による浮腫症状および随伴症状を軽減できる可能性がある。

キーワード:結節性紅斑、浮腫、リンパドレナージ、指圧、圧迫療法



指圧療法にて肩関節可動域が改善した 石灰沈着性腱板炎の1症例:金子和人

金子 和人
バーディー指圧治療院 院長

Shiatsu treatment for scapulohumeral periarthritis: a case report

Kazuto Kaneko

Abstract :Aiming at releasing tension of muscles consisting rotator cuff and periarticular muscles in order to alleviate the pain and improve the range of joint motion, Shiatsu treatment was provided for a patient of scapulohumeral periarthritis. After seven sessions of Shiatsu treatment, the range of joint motion was consequently improved. This case suggested the potential of Shiatsu treatment to improve flexibility and the decreased range of joint motion caused by scapulohumeral periarthritis.


I.はじめに

 筆者は、肩関節周囲炎の患者1例の経過観察し、疼痛と関節可動域が改善した例を報告した1)。しかし、継続して経過を観察していく中で、疼痛および関節可動域の改善がある一定の段階からみられなかったことから、同症例に整形外科の受診を勧めた。

 整形外科での画像診断の結果、同症例は、石灰沈着性腱板炎であるとの診断を受けた。その際、医師より投薬による疼痛管理と共に、更なる疼痛の軽減および関節可動域拡大を目的として指圧療法を併用する助言を頂き、引き続き継続して経過観察を行った。その結果、関節可動域の改善がみられたので報告する。

II.対象及び方法

[症例]

 60代男性 建築士

[現病歴]

 一年前からゴルフプレー中に左肩があがらなくなった。接骨院を受診し低周波電気治療、極超短波温熱治療、運動療法など治療を受けるが改善しなかった。ゴルフプレーに支障がないような状況にするため、2012年6月から当院を受診する。指圧療法を継続し、外転角度が約90°までは改善したが、それ以上の改善が思うようにいかなかったため、2013年1月24日に整形外科を受診した。

 その結果、石灰沈着性腱板炎と診断されたが、医師に指圧療法との併用を勧められ、継続して治療を行うことになった。

[既往歴]

 腰椎椎間板ヘルニア

[家族歴]

 特になし

[検査所見]

  • レントゲン検査所見:異所性骨化、上腕骨大結節 棘上筋腱に石灰沈着がみられた。
  • 血液検査所見:炎症反応を認めた。
  • MRI所見:肩関節包の委縮による滑液不足、棘上筋腱の石灰沈着が見られる(腱断裂は見られない)。肩関節包の委縮が見られる。
図1. 肩関節のX線画像所見

図1. 肩関節のX線画像所見

図2. 肩関節のMRI画像

図2. 肩関節のMRI画像

[理学検査所見]

  • 外転、外旋、内旋、伸展、障害有り(外転90度 屈曲100度)。

[治療方針]

 腱板を構成する諸筋及び肩関節周囲の筋緊張を除去し、疼痛と関節可動域の拡大を図る。

※ ただし棘上筋腱に石灰沈着があり正常な状態より腱が痩せているために過度の刺激を行うと腱の断裂につながるために細心の注意が必要である。

III.結果

2013-2-3

  • 2013.1.24、2013.2.14に整形外科にて関節包内ヒアルロン酸注射を受ける。
  • 2013.2.2に内服薬セレコックス ミオナール ガスロンNの処方を受ける。
  • 指圧治療:ローテーターカフ部分に重点を置く局所治療。
    ※ 棘上筋、棘下筋、小円筋、特に肩甲下筋は入念に施術する。
  • 術後所見:外転90度 屈曲100度

2013-2-11

  • 指圧治療:ローテーターカフ部分に重点を置く局所治療。
  • 術後所見:外転95度 屈曲120度

2013-2-16

  • 指圧治療:ローテーターカフ部分に重点を置く局所治療
  • 術後所見:外転80度 屈曲110度

2013-2-18

  • 整形外科を受診し、関節包内ヒアルロン酸注射を受ける。
  • 指圧治療:胸鎖関節から肩鎖関節の周辺および肩甲骨外側縁周辺に重点を置く全身施術を行う。
    ※ 整形外科受診後の来院で注射直後のため関節包付近には触れなかった。
  • 術後所見:外転100度 屈曲120度に改善

2013-3-8

  • 2013.3.5に整形外科を受診し関節包内ヒアルロン酸カルボカイン注射を受ける。
  • 頸部、胸部、腰背部に重点を置く全身施術を行う。
  • 術後所見:外転100度 屈曲120度
図3. 肩関節外転可動域(2012-07-29)

図3. 肩関節外転可動域(2012-07-29)

図4. 肩関節外転可動域(2013-03-22)

図4. 肩関節外転可動域(2013-03-22)

IV.考察

 本症例は、筆者が肩関節周囲炎と判断し指圧療法を行った症例である。しかしながら、経過観察を続ける中である一定以上の症状の改善が認められなかったため、整形外科にて画像診断を行った結果、石灰沈着性腱板炎との診断を受けた。

 整形外科の領域において、肩関節周囲炎や五十肩、凍結肩、癒着性関節包炎などは微妙なニュアンスの違いはあるものの、ほぼ同義で使われているのが現状であるが、五十肩と鑑別すべき疾患として石灰沈着性腱板炎が挙げられている2)。石灰沈着性腱板炎に対しては、急性期には石灰穿刺による局麻剤や水溶性ステロイドの注入、慢性期には局麻剤やステロイドの肩峰下腔内注射などを用い、鎮痛処置を行い、それでも奏功しない症例に対しては、関節鏡視下石灰除去術などの手術療法が行われている3)

 今回の症例は、X線検査およびMRI検査の所見で石灰の沈着がみられたため(図1、図2)、肩関節周囲炎や五十肩の病態とは一線を画すものであったと考えられる。そのため、経過において疼痛や関節可動域のスムーズな改善がみられなかったと推測することができる。

 しかしながら、来院当初の肩関節の外転可動域(図3)が指圧療法を継続する中で約90°程度に改善され、整形外科受診後に関節包内ヒアルロン酸注射や消炎鎮痛剤と指圧療法の併用で治療を進めるようになってからは、さらに外転可動域が広がっている(図4)。腱板を構成する筋や肩関節周囲の筋の柔軟性の向上を目的として指圧療法を行ったことを考えると、本症例は石灰沈着性腱板炎に肩周辺の筋緊張が加わり、関節可動域の低下をもたらした症例であると考えることができる。

 整形外科受診後の可動域改善に関しては、整形外科における治療効果もあると考えられるため、一概に指圧療法の効果であるとは言い難い側面もある。しかし、少なくとも整形外科受診前までの関節可動域改善が、指圧療法の効果である可能性は否定できないと考える。今回収集した情報から可動域改善に関与した関節や筋の要素を断定して論じることはできないが、筋の柔軟性が指圧刺激により改善することが菅田ら4)により報告されていることから、今回の関節可動域の改善は筋の柔軟性の改善が関与しているものと考えられる。しいて言えば。行った指圧療法の内容から、腱板を構成する筋や肩関節周辺の筋の柔軟性が向上したことにより、肩甲骨の可動性が広がったことが一要因になっていると推測する。

V.結論

 石灰沈着性腱板炎は肩関節周囲炎からは除外して考えるべき疾患である。しかしながら、画像診断を行う前に来院するケースも多く、その識別は困難である。そのため、理学検査および経過観察を詳細に行い、必要であれば医療機関の受診を勧め、画像所見を得ることも大切であると考える。

 今回の症例は、石灰沈着性腱板炎と腱板および肩関節周辺の筋の筋緊張により肩関節可動域が狭小化した例であり、指圧療法により筋緊張の緩和がなされ、肩甲上腕リズムを改善することで肩関節可動域の拡大および疼痛の軽減ができたと考えられる

VI.参考文献

1) 金子和人:肩関節周囲炎に対する指圧治療,日本指圧学会誌(1), p.35-37, 2012
2) 玉井和哉:特集五十肩を理解する 基礎的情報病態・診断, 関節外科11(30),p.14-19, 2011
3) 名越充:肩石灰性腱炎の診断と治療, MB orthop 25(11), p.67-72, 2012
4) 菅田直記 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果, 東洋療法学校協会学会誌(26), p.35-39, 2002


【要旨】

指圧療法にて肩関節可動域が改善した石灰沈着性腱板炎の1症例
金子 和人

 前報で報告した肩関節周囲炎の患者は、医療機関におけるX線およびMRIの所見から石灰沈着性腱板炎であると判明した。整形外科領域において肩関節周囲炎から除外する疾患として、石灰沈着性腱板炎が挙げられている。本症例においてある一定以上の効果があがらなかったのは石灰沈着性腱板であったことが一要因である考えられる。しかし、石灰沈着性腱板炎と判明する以前の肩関節の関節可動域制限は、指圧療法を行うことで改善がみられた。そのため、本症例は石灰沈着性腱板炎に腱板や肩関節周辺の筋の筋緊張が加わり、関節可動域制限を起こしていたと考えられる。このようなケースでは、十分な評価に基づき指圧療法を行うことが重要であると考える。

キーワード:石灰沈着性腱板炎,指圧療法,関節可動域の改善



花粉症(季節性アレルギー鼻炎) に対する指圧療法:長谷川有基

長谷川有基
MTA指圧治療院

Shiatsu therapy for hay fever (seasonal allergic rhinitis)

Yuuki Hasegawa

Abstract : Building on the recent reports indicating that shiatsu therapy has the potential to ease symptoms of atopic dermatitis, a research was conducted to determine the effects of shiatsu therapy on hay fever, which is classified into type I allergy. Through observation of three patients regularly treated by shiatsu, it was found that ratings of Visual Analog Scale were generally lowered, and eye itchiness and nasal congestion were especially relieved after the treatments. Also, there was a case where a patient succeeded in reducing the dose of prescription medication with controlling symptoms. Regarding these three cases, there was a tendency that the more recent they developed hay fever and the milder symptoms they have, the more effective shiatsu therapy was. These results indicated that regular shiatsu therapy may relieve symptoms of hay fever.


I.はじめに

 金子によるアトピー性皮膚炎に対しての指圧治療が改善の可能性をうかがわせた1) ことから、同じⅠ型アレルギーの他疾患には指圧施術がどう影響するのか関心があった。そこで、より一般的であろう花粉症を標的に週1回の定期的な施術でどう変化するか見ることを目的に施術を行った。

 花粉症(季節性アレルギー鼻炎)の中等症・重症例では適切な薬物療法に関わらず鼻炎のコントロールが難しい例がある。またなるべく薬を使いたくないと思う患者も一定数はいると考える。指圧療法も選択肢の一つとして利用できるならば、そういった方々への対応の幅も広がると考える。

II.対象、方法

[対象者]

  • 症例1. 34歳男性
  • 症例2. 25歳女性
  • 症例3. 40歳女性

[方法]

 仰臥位での頚部および仰臥・腹臥位での上下肢・腹部・背部に指圧施術を行った。記載がなければ1回1時間を目安に施術を行った。

 施術の時間帯は概ね同一になるように実施した(およそ19:45〜21:30)。

[期間]

 2013年3月上旬〜5月上旬まで(個別の期間は各々を参照)。

 各被験者にどれ位で症状が自然に消退するかを尋ねたところ、ゴールデンウィークを過ぎた頃から落ち着くとの事であった。時期が過ぎて症状が落ち着いたものと、施術によって症状が落ち着いたものとを分けるため、長くとも上旬までとした。

[評価項目]

  • 自覚する症状の変化
  • VAS…今迄で一番辛かったときを10、無症状を0として自己申告の値を記録した。

 客観性に欠けるが、前述のように目的はどう変化するか経過を見ることであり、それには患者本人の主観も大切であること、血液検査などの手段を持たないことから、簡易ではあるがこの2つとした。

III.結果

 術前は前回の施術からの経過や気付いたこと、術後は施術直後の変化や感想を記載した。

●症例1 34歳男性

[期間]

 3月8日〜4月19日 全6回

[現病歴]

 大学時代より。鼻閉、目のかゆみ、充血がある。目の周囲が腫れぼったく顔が熱い。今年はひと月ほど前より自覚している。鼻閉で眠れないときや仕事に支障のある増悪時のみ市販薬(目薬、吸入薬)を使用している。酷いと熱が出て、頭がぼうっとする。

[家族歴]

 兄:花粉症

[自覚症状]

  • 目のかゆみ、充血、周囲の腫れ
  • 鼻漏、鼻閉
  • 顔の熱感

[経過]

初回(2013.3.8)VAS3→3

術後:身体が楽になり、症状が気にならなくなった。鼻の通りがよくなった。顔が弛む感じがある。

2回目(2013.3.15)VAS8→6

術前:天候と施術、どちらによるものかは不明だが、若干調子はいい。
熱っぽい、ボーっとする。睡眠不足。通常6時間だが、このところ4.5〜5時間位。夜間鼻づまりで目が覚める。
術後:片側の鼻づまりが取れた。目のゴロゴロ感が取れ、かゆみもない。

3回目(2013.3.22)VAS8→5

術前:3日前より腰痛がある。ここ何日か鼻が詰まる。
術後:鼻の通りがいい。いつも施術あとで鼻が通る。腰痛は改善した。

4回目(2013.3.30、45分)VAS6→4

術前:一昨日より、寝過ぎで腰が痛い。一昨日夜より熱、38度。風邪だと思う。目のかゆみはない。施術翌朝非常に楽。その状態が2日位持つ。
術後:鼻の通りがすごくよい。うつ伏せで多少鼻が詰まる感じがある。顔が弛む感じがする。

5回目(2013.4.6)VAS5→3〜4

術前:前回後、2〜3日楽だった。鼻づまりが少しずつなくなってきている。以前より深く眠れるようになった。最近鼻より目のかゆみが気になる。定期的にくしゃみが出る。
術後:今迄で一番楽な感覚。すっきりしている。

6回目(2013.4.19)VAS6→4〜5

術前:くしゃみ、鼻水が出るが、3月より症状が落ち着いている
術後:鼻どおりがいい

●症例2 25歳女性

[期間]

 3月11日〜4月12日 全4回

[現病歴]

 初発は一昨年で、1日だけ花粉症と思われる症状があった。去年は睡眠時のくしゃみなどが酷かったが、その原因は降りてきた埃だと推測している。去年迄は目のかゆみ、異物感の程度は軽かった。今年は目のかゆみが強い。鼻水、鼻づまりは朝に強いが、ないときもある。かゆみのピークが2日前にあり、横から見ると白目が黒目より突出していると友人に指摘された。

[自覚症状]

  • 目のかゆみ、特に内側が強い
  • くしゃみ、鼻漏、鼻閉

[経過]

初回(2013.3.11、90分)VAS3→1

術前:かなり疲れている。
術後:目のかゆみ消失した。首の施術後、鼻漏・鼻閉は消失したが、他部位施術中に再び出現した。

2回目(2013.3.18、75分)VAS2〜1→0

術前:前回翌朝、目のかゆみあったが、2〜3日後消失。周囲の人には花粉症状が出ているが、自分は出ていない。身体が温かい。鼻水、痰が出る(業務上使用する塩素が原因の可能性もある)。2日前より首が痛い。疲労を感じる。
術後:頭が重く、ふらふらする。施術中鼻水が出たが、終了後は鼻が通った。

3回目(2013.3.25)VAS0→0

術前:周囲の花粉症の人は鼻水が凄いが、全く平気。金曜〜土曜頃になると多少症状が出る。術後:(特筆すべき変化なし)

4回目(2013.4.12)VAS0→0

術前:施術の日は寝つきが良い。前回10日後位にくしゃみが出たが、程度が軽く、以後は出ていない。他の人は花粉が辛い様子が伺える。
術後:施術中の鼻づまり全くなかった

●症例3 40才女性

[期間]

 4月1日〜5月9日 全5回

[現病歴]

 2年前発症。それまでアレルギーなかった。病院にて血液検査の結果、杉のみ陽性であった。日中は点眼(フルメトロン点眼液0.1%、パタノール点眼液0.1%)、夜は錠剤(ポララミン錠2mg、セレスタミン配合錠)各2錠を使用。コンタクトが辛く、めがねを使うときもある。耳が痛むことがあり、耳鼻科にて鼻のかみすぎと診断された。症状が強くなくとも、悪化への恐怖から予防的に薬を使用してしまう。

[自覚症状]

  • くしゃみ、鼻漏
  • 目のかゆみ、腫れ、流涙、目ヤニ

[経過]

初回(2013.4.1)VAS6→6

術後:身体が非常に軽い。目のかゆみが消失した。腹臥時、鼻水出てきて鼻が詰まった(施術前は通っていた)。

2回目(2013.4.8)VAS5→0〜1

術前:目頭がかゆい。コンタクトが乾く。前回後、金曜まで症状が気にならなかった。よく眠れ、身体が温かかった。首筋〜肩にかけてコリをよく感じる。土日仕事でずっとPCを使用していた。
術後:目のかゆみが消失した。脱力感がある。全身内側から暖かい感じがする。腹臥時、鼻が詰まった。

3回目(2013.4.15)VAS5→3〜4

術前:洗顔時、手触りがツルツルしている。肌が綺麗になっている感じがある。前回後、調子がとても良かったので薬を月曜夜と火曜朝使わなかったら、くしゃみが止まらず、目もかゆい。薬を飲むとくしゃみは抑えられたが、かゆみは取れない。
術後:目のかゆみ消失。四肢末端が温かい。以前より圧が奥まで入る感覚がある。

4回目(2013.4.22)VAS2→0

術前:夜の薬を各一錠に減らしてみたが、調子がいい状態を保てている。かゆみが軽減している。目の腫れ・流涙・くしゃみ・鼻漏は消失している。
術後:身体が軽く、首周りが若干柔らかくなった感がある。施術中、両手が温かくなる。

5回目(2013.5.9)VAS4→2〜3

術前:前回施術10日後位の風が強い日、くしゃみ、目ヤニが酷かった。同時期、肌荒れが再び気になりだした。薬は各一錠のまま。
術後:両手が温かくなる。かゆみが消失した。

[施術日とVAS]

症例1

  • 初回 (3月8日 金) 3→3
  • 2回目 (3月15日 金) 8→6
  • 3回目 (3月22日 金) 8→5
  • 4回目 (3月30日 土) 6→4( 45分)
  • 5回目 (4月6日 土) 5→3〜4
  • 6回目 (4月19日 金) 6→4〜5

症例2

  • 初回 (3月11日 月) 3→1(90分)
  • 2回目 (3月18日 月) 2〜1→0(75分)
  • 3回目 (3月25日 月) 0→0
  • 4回目 (4月19日 金) 0→0

症例3

  • 初回 (4月1日 月) 6→6
  • 2回目 (4月8日 月) 5→0〜1
  • 3回目 (4月15日 月) 5→3〜4
  • 4回目 (4月22日 月) 2→0
  • 5回目 (5月9日 木) 4→2〜3

IV.考察

 今回、3名の協力のもと、数回の施術を実施した。歴が浅く症状が軽めの方、歴が浅く症状が強めの方、歴が長く症状が強い方の3名である。症例数・施術回数ともに少ないのでこれだけで判断はできないが、少なくともこの3例では、個人差はあるものの、施術直後の改善だけでなく施術前の問診でも、回を重ねる毎に自覚する症状は少しずつ改善する傾向にあると考えられる。

 施術後の変化では目のかゆみと鼻通りがよく挙げられた。施術の時間帯が夜であり、アレルゲン曝露6〜10時間経過していることを考えると施術前の鼻閉は遅発相の可能性も考えられる。

 3例を比較すると、歴が浅く症状が軽いほど良好な反応が得られた。1例目では改善の度合いが思わしくないものの、10年以上の罹患期間を考慮すると、妥当とも健闘しているとも考えられる。2例目では以後症状が殆どなくなったと報告を受けた。それぞれ最後の施術に注目すると、症状が落ち着く前に間が空いてしまうと少しずつ症状が盛り返しているようにも見える。症状出現以前から始めていたり、もう少し長い期間や回数を施術していたら違った結果になるとも考えられる。

 施術者の感覚や技術、圧の強さや方法、被験者の心理状態など一定にできない要素もあり、それらによっても結果は変わってくる可能性は十分ある。特に心理的要素は花粉症だけでなくアレルギー全般に大きく関与していることが指摘されている2)

 アレルギー性鼻炎で見られる3主徴は、くしゃみ発作、水様性鼻漏、鼻閉だが、大量の抗原に曝される花粉症では他にも、眼症状(季節性アレルギー性結膜炎[杉ではほぼ必発]:掻痒感・流涙・異物感・眼痛)、口腔症状(口腔乾燥、味覚障害、口腔アレルギー症候群[OAS])、

咽頭症状(異常感、掻痒感、咳など)、皮膚症状(浮腫性紅斑、アトピー性皮膚炎の増悪)、全身症状(頭重感、倦怠感、うつ状態、発熱、頭痛など)の出現もある。これらの症状は抗原そのものが障害を起こす以外に、鼻呼吸障害の結果として誘導されるもの、治療薬による副作用もあるようだが3)、いずれにせよ非常に煩わしくQOLを低下させると考える。これらの症状に伴う睡眠障害はQOLをさらに低下させる上、疲労の蓄積から花粉症状の更なる悪化へと連鎖する。日常生活以外に労働生産性への影響の指摘もある4)。また「小児スギ花粉への感作は、早い児では生後2シーズンで成立」5)との記載もあり、たかが花粉症と侮れない面もある。

 季節性アレルギー鼻炎の治療は、減感作療法、薬物療法、手術療法がある。主となる薬物療法の目標は治癒ではなく、重度を中等度に、中等度を軽度にと、症状を軽減していくことにある。

 症例3では、薬の量を半減させても症状が気にならなかったと報告された。薬の血中濃度などは判らないが、元々2錠飲んでいても症状が辛かったことを考慮すると、指圧療法を併用することで、薬物療法の効果を高められたり、症状の軽減に寄与できる可能性がある。

 なお事後報告であったので行えなかったが、薬の減量については本来、耳鼻科担当医とも相談しながら徐々に行ったほうがよいだろうと付記しておく。

V.結論

 花粉症に対して今回の3例においては、VAS値変化や感想から、病歴が浅く症状が軽いほど自覚の症状がより軽減された。

 また、ある程度の間隔で施術を続けたほうがより症状を抑えられる可能性がある。

VI.参考文献、引用文献

1) 金子泰隆:アトピー性皮膚炎に対する指圧治療, 日本指圧学会(1), p.2-5, 2012
2) 一般社団法人日本アレルギー学会編 臨床医のためのアレルギー診療ガイドブック, p.514, 診断と治療社, 東京, 2012
3) 内科学 第9版, p.1126-1127, 朝倉書店, 東京, 2007
4) 南由優、塩崎由梨ほか:スギ花粉症患者の労働生産性と症状・QOLの関連−2008年と2009年の比較−, 日本鼻科学学会誌, p.481-489, 2010
5) 一般社団法人日本アレルギー学会編 臨床医のためのアレルギー診療ガイドブック, p.207, 診断と治療社, 東京, 2012


【要旨】

花粉症(季節性アレルギー鼻炎)に対する指圧療法
長谷川有基

 指圧治療がアトピー性皮膚炎改善の可能性を伺わせた報告を踏まえ、指圧治療がⅠ型アレルギーに分類される花粉症に与える影響を観察、検討した。3名に対して定期的に指圧治療を行った結果、全体的にVAS値は軽減する傾向にあり、施術前後の変化では目のかゆみと鼻詰まりの改善がとくに大きかった。また、症状を抑えつつ処方薬の減量ができた例もあった。今回の3例においては、罹患歴が短いほど効果が現れやすく、症状が軽いほど効果が現れやすい傾向にあり、定期的な施術で症状が改善していく可能性が示唆された。

キーワード:アレルギー、花粉症、季節性アレルギー鼻炎、指圧



アトピー性皮膚炎の指圧治療:金子泰隆

金子 泰隆
MTA指圧治療院
院長
日本指圧専門学校教員

Shiatsu therapy for atopic dermatitis: a case report

Yasutaka Kaneko

Abstract : In terms of treatment for atopic dermatitis, symptomatic therapies are mainly provided for the patients. Aiming at relief of symptoms and quality-of-life improvement, Shiatsu therapy was practiced. As a result, improvements in Visual Analog Scale and changes in eczema lesion and accompanying symptoms were observed after seven sessions of Shiatsu therapy. Eczema lesion and pruritus are the most problematic symptoms of atopic dermatitits, and such symptoms tend to be reduced by maintaining general health. Effects of Shiatsu on autonomic nerve system and muscle hardness have also been reported. Therefore, it is suggested that Shiatsu therapy is potentially capable of relieving symptoms of atopic dermatitis.


Ⅰ.はじめに

 アトピー性皮膚炎は、増悪・寛解を繰り返す、瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つと定義されている。アトピー性皮膚炎は遺伝的素因も含んだ多病因性の疾患であり、疾患そのものを完治させうる薬物療法はないと言われている。よって対症療法を行うことが原則となるのであるが、薬物療法の効果にも個人差があり、ステロイド外用剤については副作用の報告も存在している。そのため、より副作用等の少ない治療法を確立することが患者のQOLの向上の手助けになると考える。そこで今回、指圧療法を行うことで症状の軽減、あるいは薬物の効きが良くなった症例を報告する。

Ⅱ.対象および方法

場所:

 学校法人浪越学園 日本指圧専門学校 臨床実習室

期間:

 2012年1月20日〜2012年3月9日

施術対象:

 20歳女性

治療方法:

 仰臥位における頚部操作および横臥位を除く浪越式基本指圧

Ⅲ.結 果

[症 例]

 20歳女性

[初 診]

 2012年1月20日

[現病歴]

 小学校6年生頃から症状が悪化しはじめたため、皮膚科を受診し、薬物療法により経過を観察していた。複数の皮膚科を受診し、薬を変えながら経過を観察していたが、専門学校入学時から症状が悪化しはじめた。現在は、アタラックスPドライシロップを2日に1包服用しながら、症状出現時にネリゾナ軟膏を使用し、症状をコントロールしている。

[既往歴]

 スギ、ヒノキ、ハウスダスト、ラテックスのアレルギー。

[家族歴]

 特記すべき事項なし。

[自覚所見]

  • 瘙痒感:ほぼ全身に感じているが、背部および前胸部、上腕部の瘙痒感が著しい。
  • 便秘症:数年前までは1〜2週間に1回、最近は3日に1回程度である。
  • 睡眠障害:掻痒のため、寝つきが悪く、寝ても途中で起きてしまう。

[診察所見]

  • 湿疹病変:ほぼ全身にみられる。特に背部と上腕部に顕著な病変がみられる。
  • 掻破痕:肘窩部、頚部、背部等、全身にみられる。

[治療経過]

第1回(2012年1月20日)

  • 背部および上腕部に掻痒を感じていたが、術後に掻痒を感じなくなった。
  • 正常な皮膚の部分と病変部の境界が明瞭になる。
  • 体の温かさを感じる。

第2回(2012年1月27日)

  • 第1回目の施術日の夜は眠れなかったが、2日目以降ぐっすり眠れる日が数日あった。
  • 自覚として肌がスベスベしているような感じがする。
  • 前日は久しぶりに瘙痒感を感じた。
  • 背部の瘙痒感が強かったが、術後は瘙痒感を感じなくなった。

第3回(2012年2月3日)

  • 抗ヒスタミン薬の効きが良くなっている。以前は朝・夕に服用していたが、最近は服用を忘れるほどである。
  • 瘙痒感が軽くなってきた。
  • 術後は瘙痒感を全く感じない。
  • 皮膚につやが出てきた。

第4回(2012年2月10日)

  • ストレスがかかることがあり、イライラ感のため掻破行動が起こった。掻破行動をとると気持ちが落ち着く。
  • 新しい掻破痕がみられる。
  • 術後の瘙痒感はない。

第5回(2012年2月24日)

  • 瘙痒感は、前回ほどは感じていない。
  • 術後に瘙痒感はなくなった。

第6回(2012年3月2日)

  • 夜に目が覚めることがなくなった。
  • 全体がかゆいことがなくなった。
  • 掻破痕の治りが良くなった。
  • 痂皮ができるのが早くなった。

第7回(2012年3月9日)

  • ぐっすり眠れるようになった。
  • 肌がきれいになってきた。
  • 薬を飲むのを忘れるようになった。
  • 腹痛がなくなった。

7回の治療におけるVAS値の変化

7回の治療におけるVAS値の変化

皮膚症状の変化

図1. 1月20日背部

図1. 1月20日背部
皮膚の色素沈着が著しく正常な皮膚のエリアが狭い。

図2. 3月9日背部

図2. 3月9日背部
色素沈着が改善され肌色のエリアが広がってきている。

Ⅳ.考 察

 アトピー性皮膚炎患者の愁訴において、最も重要なものは掻痒と湿疹病変である。アトピー性皮膚炎の掻痒は、他のアレルギー疾患と違い睡眠障害を伴うことが報告されており1)、患者のQOLを著しく低下させる要因であるのは間違いない。従って、掻痒をコントロールすることがアトピー性皮膚炎治療での最重要課題になると考える。しかしながら、掻痒は患者の自覚症状であるため、その評価を可視化することが困難である。そのため、客観性に乏しい面はあるが、その一つの評価としてVASを用いた。 今回、VASを用い患者の自覚的な掻痒の変化を追いかける中で、術後の掻痒は毎回0を示し、回を追うごとに術前のVAS値も低下していることから、掻痒に対する直後効果と継続効果の両方を期待できる可能性が示唆される。

 また、湿疹病変と掻破行動により、皮膚のバリアー機能が低下することもアトピー性皮膚炎の症状を悪化させる一つの重要な因子である。そのため、皮膚の状態を正常に近づけていくことが、湿疹病変と掻痒→掻破行動→皮膚のバリアー機能の低下→新たな湿疹病変と掻痒といった悪循環を断ち切ることに繋がると考える。今回、皮膚症状の変化を写真にて追いかけた(図1、図2)。色素沈着のエリアの狭小化、湿疹病変部の変化等がみられたため、患者の自覚症状の変化と併せて皮膚の状態が改善していることが示唆される。

 掻痒と湿疹病変の改善に指圧療法が効果を発揮する可能性があることは確認できたが、その作用機序については不明な点も多い。それは、圧刺激が自然刺激であるため、その定量化が困難であることや術者の感覚に相違がある点などが挙げられる。

 しかしながら、蒲原ら2)が、腹部の指圧刺激が交感神経活動抑制に働き筋血液量の増大がなされたこと、ならびに、浅井ら3)が、腰背部の指圧刺激によっても交感神経活動抑制による筋血流増大がおこることを報告していることから、指圧療法が交感神経活動を抑制し、相対的に自律神経活動が調和され、その結果として症状が軽減したと考えることができる。また、横田ら4)は、前頚部の指圧刺激により縮瞳反応がみられたことを報告しており、指圧刺激が副交感神経を亢進させる可能性も示している。 いずれにせよ、指圧刺激が部位ごとにその反応を異にすることは考えられるが、自律神経系に影響を与えていることが考えられる。そのため、指圧刺激を全身に加える指圧療法においても、自律神経系を調整することによりその効果が発揮されていることが考えられる。

Ⅴ.結 語

 指圧療法はアトピー性皮膚炎の重要な愁訴である掻痒と湿疹病変に対して効果を発揮する可能性がある。

Ⅵ.参考文献

1) 江畑俊哉:アトピー性皮膚炎の痒みについて, アレルギー科 , 13(5); pp.405-411, 2002
2) 蒲原秀明 他:末梢循環に及ぼす指圧刺激の効果, 東洋療法学校協会学会誌, (24); pp.51-56, 2002
3) 浅井宗一 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果, 東洋療法学校協会学会誌, (25); pp.125-129, 2001
4) 横田真弥 他:前頚部および下腿外側部の指圧刺激が瞳孔直径に及ぼす効果, 東洋療法学校協会学会誌 , (35); pp.77-80, 2011


【要旨】

アトピー性皮膚炎の指圧治療
金子 泰隆

 対症療法が中心となるアトピー性皮膚炎に対して、症状の軽減およびQOL向上を目的として指圧療法を行った。その結果、7回の施術でVASの改善、湿疹病変の変化、随伴症状の変化等がみられた。アトピー性皮膚炎の症状で最も問題となる湿疹病変と掻痒は全身状態を良好に保つことで軽減される傾向がある。そのため、自律神経系や筋硬度に影響を与える指圧療法を用いることでアトピー性皮膚炎の症状を軽減できる可能性がある。

キーワード:アトピー性皮膚炎、指圧、掻痒、自律神経、バリアー機能、色素沈着