星野 喬一,日比 宗孝
日本指圧専門学校
石塚 洋之
日本指圧専門学校専任教員
Effects of Plantar Region Shiatsu Treatment on the Variance of Center of Gravity
Koichi Hoshino, Munetaka Hibi / Yosuke Ishizuka
Abstract : There are few studies on the effects of plantar region shiatsu treatment on the motor system. In this study, the effects of plantar region shiatsu treatment on balance in the upright position were verified using a stabilograph. Four healthy subjects underwent plantar region shiatsu treatment with each session lasting for 1 min and 42 s. Our results show no significant differences between the shiatsu group and the control group for total trajectory, outer circumference area, rectangle area, or effective value area. Revision of both the subject population and the methods used are needed for further research on this topic.
Keywords: Shiatsu, plantar region, variance of center of gravity, balance in the upright position
I.はじめに
足底部は指圧施術に於いても、対処する症状などに応じて多様な解釈のもとにアプローチされ、また、経験的にも施術による効果が実感として様々に語られる部位であると言える。
しかし、本邦の手技療法の分野に於いて、この部位への施術と運動器系への影響を関連付けた研究はまだ多くは見られない。
今回われわれは足底部への指圧施術が足底部の筋や構造、また、そこから連動する運動機能へ与える影響を明らかにするための研究の端緒として、重心動揺計による立位バランスの変化の計測、検討をプレ実験の段階まで進めた。そこから得られた結果と、今後の課題のまとめを中間報告する。
Ⅱ.実験方法
1.対象
対象は本校学生の健常者4名(男性4名、平均年齢30±10.68歳)で、事前に十分な実験内容の説明をして同意を得た上で行った。
2.実験期間・場所
2015年1月29日から2015年2月5日まで、本校のラウンジスペースで行った。
3.計測方法
重心動揺計測には重心動揺計(アニマ社製 グラビコーダGS-10タイプC)を用い、足部内側縁を揃えた直立位で胸の前に両腕を組んだ姿勢にて、閉眼でそれぞれ1分間の計測を行った。計測結果として10種類の計測値を取得した(総軌跡長、単位軌跡長、単位面積軌跡長、外周面積、矩形面積、実効値面積、動揺平均中心偏位 X軸、動揺中心偏位 X軸、動揺平均中心偏位 Y軸、動揺中心偏位 Y軸)。
4.刺激方法
(1)刺激部位
浪越式指圧の基本圧点に従い、伏臥位にて足底部の第2趾と第3趾の付け根を1点目とし、踵の際まで4点を両手母指圧にて刺激した(図1)。
(2)刺激時間・方法
1点圧3秒、4点3通り行い、その後、3点目を1点圧3秒3回行い、左右で約1分42秒行った。圧刺激は通常圧法(漸増、持続、漸減)にて快圧(被験者が心地よいと感じる程度の圧)にて実施した1)。
5.実験手順
被験者の学習効果を平均化することを目的として、被験者を無作為にAグループ2名、Bグループ2名に分け、Aグループは無刺激群を先、刺激群を後の実験計測日程で行い、Bグループは刺激群を先、無刺激群を後の実験計測日程で行った(図2)。
(1)刺激群
以下の手順で行った。
①座位にて3分間安静。
②1回目の重心動揺計測。
③座位にて3分間安静。
④2回目の重心動揺計測。
⑤足底部指圧刺激。
⑥座位にて3分間安静。
⑦3回目の重心動揺計測。
(2)無刺激群
以下の手順で行った。
①座位にて3分間安静。
②1回目の重心動揺計測。
③座位にて3分間安静。
④2回目の重心動揺計測。
⑤伏臥位1分42秒安静。
⑥座位にて3分間安静。
⑦3回目の重心動揺計測。
6.統計処理
重心動揺計測で取得した計測値のうち、総軌跡長、外周面積、矩形面積、実効値面積に関して、2回目の計測値に対する3回目の計測値の変化の割合を、無刺激群と刺激群との間で対応のあるT検定にて比較した。
Ⅲ.結果
1.総軌跡長(図3)
無刺激群での変化割合85.5±7.2%(mean±SE)に対して、刺激群での変化割合92.9±7.0%となり有意差は見られなかった(p<0.595)。
2.外周面積(図4)
無刺激群での変化割合90.6±17.8%に対して、刺激群での変化割合79.6±13.3%となり有意差は見られなかった(p<0.744)。
3.矩形面積(図5)
無刺激群での変化割合79.3±14.9%に対して、刺激群での変化割合79.4±13.9%となり有意差は見られなかった(p<0.996)。
4.実効値面積(図6)
無刺激群での変化割合92.0±23.8%に対して、刺激群での変化割合90.6±17.6%となり有意差は見られなかった(p<0.975)。
Ⅳ.考察
本研究は足底部への指圧刺激による立位バランスへの影響を検討するものであった。これは立位バランスに対する足底部への感覚刺激の影響を報告する先行研究から2〜6)、指圧刺激によっても同様の影響があることを仮定してのものであった。
今回、プレ実験の段階としては、足底部への指圧刺激によるバランスへの影響を裏付ける計測、解析結果は得られなかった。しかし、個々のサンプルの観察に於いては指圧刺激の影響が示唆される傾向のものも見られ、サンプル数を増やす段階の実験では違った結果が得られる可能性も考えられる。
その一方、今回のサンプルから得られた計測値の全てが、健常者と見なされる標準値の範囲7)に収まる結果となっている。そして、その様な範囲に収まる計測値に於いては、被験者の学習効果及び、検査方法の統一では平均化し得ない身体のコンディションによって、容易に計測値が変化することが推測された。そのため重心動揺計で得られる計測値の比較のみでは指圧刺激による立位バランスへの影響の十分な検討が困難であると考えられた。 今後の課題として、実験対象の検討、並びに重心動揺計とは異なる計測事項と手法を追加し、それらから得られる検査結果を複合的に分析するような実験手法の検討が必要であると考える。
Ⅴ.結論
健常者4名を対象とした足底部への指圧刺激では、重心動揺計での計測値に有意な変化は見られなかった。 現段階の実験方法には限界があり、足底部への指圧刺激による立位バランスへの影響を検討する上では不十分であるため、実験手法の再検討が必要であると考えられる。
VI.参考文献
1) 石塚寛 他:指圧療法学,p.96,国際医学出版株式会社,2008
2) 大久保仁 他:足蹠圧受容器が重心動揺に及ぼす影響について,耳鼻臨床 72,p.1553-1562,1979
3) 伊藤綾乃 他:足底触圧覚が立位姿勢の重心動揺に与える影響,日本理学療法学術大会2004,A1113-A1113,2005
4) 宇都宮裕葵 他:感覚刺激が静的立位に及ぼす影響,日本理学療法学術大会2005,A0853-A0853,2006
5) 亀井省二 他:足底の感覚刺激が重心動揺に与える影響について,藍野学院紀要20,p.27-40,2006
6) 野瀬友裕 他:母趾足底部への触圧刺激が姿勢制御に及ぼす影響,日本理学療法学術大会2009,A4P2047-A4P2047,2010
7) 今村薫 他:重心動揺検査における健常者データの集計,Equilibrium research. Supplement 12,p.15-23,1997
【要旨】
足底部への指圧刺激が重心動揺に与える
影響について(第1報)
星野 喬一*1,日比 宗孝*1/石塚 洋之*2
指圧では頭痛やめまいに対する治療法があり、内耳や脳の循環改善や血流の改善を治療方針としている。内耳や脳に影響があるというならば、聴力にも何らかの作用があるのではないかと思い、指圧施術がどう影響するのか関心があった。そこで、老人性難聴患者に指圧を行い、血圧・脈拍数・体温・聞こえのVAS値がどう変化するかを観察した。その結果、収縮期血圧に有意な低下が見られ、体温に有意な上昇が認められたが、VAS値には有意な減少は認められなかった。しかし、施術後VAS値が低下傾向を示したことや、電子音への反応の改善を見られたことから、指圧療法が老人性難聴の治療に貢献できる可能性があると考える。
キーワード:指圧、足底部、重心動揺、立位バランス
*1 日本指圧専門学校 指圧科
*2 指導教員(日本指圧専門学校 教員)