指圧による底背屈力の変化について:衞藤友親

衞藤 友親
明治大学体力トレーナー

Plantar and dorsal flexion strength changes caused by Shiatsu

Tomochika Etou

Abstract :Effects of the lower extremity shiatsu on muscle strength of plantar and dorsal flexion were investigated using an isokinetic strength measuring equipment. Compared to a group without shiatsu treatment, muscle strength change of a group with shiatsu was decreased at the points of immediately after exercise and five minutes later when plantarflexing 180 degree / sec. This result indicates that shiatsu may have improved output controllability of muscles.


I.緒言

 マラソン大会参加者を対象に行ったアンケート調査1)の結果、下腿部の疲労・痛みを自覚する人の割合が多い傾向にあった。

 そこで本研究では、運動後の下腿部へ指圧を施すことにより足底背屈力にどのような変化が表れるのかを観察した。

II.方 法

1.対象

 健康成人7名(男性2名・女性5名)

 年齢22歳から40歳(平均29歳)

2.実験期間

 2013年1月21日から2月1日

3.場所

 明治大学和泉総合体育館測定室A

4.環境

 室温24±2.0℃,湿度45±5%

5.測定機器

 メディカ社製筋機能運動解析装置(CYBEX NORM)及び制御解析ソフト(HUMACシステム)

6.手順

 被験者をトレッドミルにて時速4kmで30秒間歩行させ、続けて時速8kmで4分間走行させ、再び時速4kmで30秒間歩行させた。計5分間運動させた。

 運動直後と運動5分後に底背屈力を左足、右足の順で測定した。測定時の体位は仰臥膝90°屈曲とした。7名を、最初の期間には運動後5分間安静にしてから測定した。安静時の体位は下腿指圧時に準じ伏臥3分間、体位変換30秒、仰臥1分30秒の5分間とした。

 次の期間には運動後5分間両下腿部に指圧を施した。指圧部位と方法は浪越式基本指圧で、下腿後側8点3回、下腿大掴み6点3回、下腿前側6点3回2)を1点につき2秒の押圧で行った。7名の両期間(両群)の運動直後から5分後の底背屈力の変化を比較した。

 120deg/secの等速性筋力発揮による底背屈を3往復と180deg/secの等速性筋力発揮による底背屈20往復のピーク値を底屈・背屈各々の左右とも記録し、180deg/secに関しては総仕事量も記録した。

7.解析

 運動後と安静後および運動後と指圧後の各速度・左右の値の変化量について対応あるt検定を行った。有意水準は危険率7%未満(P< 0.07)とした。

III.結果

 120deg/sec底屈および背屈のピーク値と180deg/secの背屈ピーク値並びに底屈および背屈の総仕事量では運動後と5分後の変化量に有意差はみられなかった。(図1,2,4,5,6)

 180deg/sec底屈ピーク値で運動後と5分後の変化量に有意差がみられた。(図3)

図1. 120deg/sec 底屈ピーク値の変化量の比較

図1. 120deg/sec 底屈ピーク値の変化量の比較

図2. 120deg/sec 背屈ピーク値の変化量の比較

図2. 120deg/sec 背屈ピーク値の変化量の比較

図3. 180deg/sec 底屈ピーク値の変化量の比較

図3. 180deg/sec 底屈ピーク値の変化量の比較

図4. 180deg/sec 背屈ピーク値の変化量の比較

図4. 180deg/sec 背屈ピーク値の変化量の比較

図5. 180deg/sec 底屈総仕事量の変化量の比較

図5. 180deg/sec 底屈総仕事量の変化量の比較

図6. 180deg/sec 背屈総仕事量の変化量の比較

図6. 180deg/sec 背屈総仕事量の変化量の比較

IV.考察

 無指圧群と比べて指圧群の運動後の数値が高かった。これは無指圧群の測定を行った期間が指圧群の測定に先行したため、学習効果が表れた可能性が高い。

 よって値そのものの比較は行わず、運動後の数値から無指圧群、指圧群ともに5分後の数値を減じた値を比較することとした。過去の研究例3,4)から指圧後に身体の左右を計測した場合、左右が各々その機能を補完するようにふるまう傾向が観察されているため、今回は数値の変化量そのものを比較した。即ち運動後の値から各々5分後の値を減じた値の絶対値を各群間の変化量として検定した。

 このため本研究では指圧後の変化量の小ささ、即ち運動後の状態をどれだけ保てたかを評価している。問題のある手法であると考えるが、過去の研究データが再評価され得る可能性の観点から敢えて試みた。

 片平は下腿部スポーツ障害経験群と未経験群を比較すると、経験群で底屈力が強い特徴があることを報告5)しているが、本研究では底背屈力のバランスが改善されるような結果は得られなかった。しかし、180deg/secの20反復という低負荷高回数の運動に於いて、指圧群が無指圧群と比較して運動後の筋力発揮を維持するようにふるまう現象が観察された。換言すれば、指圧により比較的小さな筋力発揮を繰り返す動作に於いて安定した出力が得られたこととなる。

 機序として①指圧が、速動性NMUと持続性NMU6)に何らかの効果を及ぼし筋力発揮に差が出た可能性と②指圧により筋の局所血液量が増大7)した結果、ヒラメ筋内のミオグロビンの酸素含有量が増大し、安定した筋力発揮に寄与した可能性と③その両方、が挙げられるが、推察の域を出ないので今後の研究課題としたい。

 また、運動前の指圧が競技パフォーマンスを向上させる可能性8)とも併せてスポーツ指圧の可能性を探りたい。

V.結論

 運動負荷を与えた下腿部への指圧により、運動前後の180deg/sec底屈ピーク値変化量が減少した。

VI.引用文献

1) 衞藤友親他:東京夢舞いマラソン指圧ボランティア報告:日本指圧学会誌(1) ,p.33,2012
2) 浪越徹:普及版完全図解指圧療法第5刷p.78-79, p.90,日貿出版,東京,2001
3) 菅田直記他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果(第2報):東洋療法学校協会学会誌,(26), p.35-39, 2002
4) 田附正光他:指圧刺激による脊柱の可動性及び筋の硬さに対する効果,東洋療法学校協会学会誌(28) , p.29-32, 2004
5) 片平誠人:長距離ランナーの下腿部スポーツ障害と内在因子の関係:福岡大学紀要(49)第5分冊p.7-19, 2000
6) 真島英信:生理学第18版,p.271-272, 文光堂, 東京,1990
7) 蒲原秀明他:末梢循環に及ぼす指圧刺激の効果:東洋療法学校協会学会誌(24), p.51-56, 2000
8) 石塚洋之:ビーチフットボール競技における指圧認知度調査報告, 日本指圧学会誌(1)p.24-26, 2012


【要旨】

指圧による底背屈力の変化について
衞藤 友親

 運動後の下腿部への指圧により、足底背屈動作の筋力発揮にどのような変化をもたらすのかを等速性筋力測定器を用いて調べた。指圧を行わなかった群と比較して、180deg/sec底屈動作時に運動直後と5分後の筋力変化量が減少した。この結果、指圧により筋出力の調整力が向上されている可能性が示唆される。

キーワード:下腿部指圧、足底背屈、等速性筋収縮