衞藤 友親
明治大学体力トレーナー
桑森 真介
明治大学商学部教授
Variation in respiratory quotient by Shiatsu on anterior cervical region
Tomochika Etou, Masasuke Kuwamori
Abstract :To study the effect of Shiatsu therapy on the metabolism, we conducted a trial about variation in respiratory quotient comparing Shiatsu stimulus group versus non-stimulus group using an analysis system of expired gas. The analysis of variance resulted that variation over time was significant in Shiatsu stimulus group. Meanwhile, significant variation was not observed in the control group. The multiple comparison of the experimental group also indicated that the respiratory quotient was significantly decreased at the points of 45 seconds and 60 seconds after Shiatsu, comparing at the point of zero second (before Shiatsu stimulus). As a result, it was observed that the respiratory quotient was significantly decreased by Shiatsu on the anterior cervical region.
I.緒言
浪越式基本指圧において前頚部指圧(胸鎖乳突筋内縁の総頸動脈の頸動脈洞を1点目、鎖骨の1点上を4点目とし、ほぼ等間隔に4点を1回ずつ全3回押圧する動作1))は他の身体部位に先んじて施術される。
なぜ前頚部からの押圧操作が被施術者の身体に触れる一点目に定まったのか。これは、基本指圧成立の過程において、他所から始めた場合に比して高い治療効果が得られた、という施術者の経験や感覚に依拠していると推察される。
他方、これまでの指圧の科学的研究により前頚部指圧が全身に影響を及ぼす事象が報告されている2)3)。しかしその手順・方法は基本指圧ではない。
そこで今回、基本指圧同様の操作による全身に及ぶ影響をこれまでに試みられていない方法で観測することを目的とし、呼吸商(呼吸交換比=RER)を測定することとした。
II.方法
1.対象
健康成人12名(男性6名・女性6名)
年齢19から58歳(平均29.3歳)
2.実験期間
2012年1月21日から2月18日
3.場所
明治大学和泉総合体育館測定室B
4.環境
室温24±2.0℃,湿度50±5%
5.測定機器
呼気ガス分析装置
(ミナト医科学社製AE−300S)
6.手順
被検者に測定用マスクを装着させた状態で肘かけ背もたれ付きの椅子にて安静を保った。5分間経過後、前頚部4点3回を左右ともに約1分間(1点約2秒×4点×3回×左右+移動時間≒60秒)指圧した。
指圧中1分間とその前後1分間の計3分間計測し、15秒毎の呼気ガス解析結果を記録した。 対照群も同様に5分間の安静ののち、指圧をしない安静のまま3分間記録した。
7.解析
各データを平均値±標準偏差で示した。指圧群と対照群のそれぞれにおいて、繰り返しのある分散分析法(ANOVA)を施した。その結果、時間経過に伴う変化に有意性が確認された場合には,刺激前に比べ刺激何分後に有意な変化が現れたのかを調べる(多重比較)ために、対応のあるt検定(Bonferroni補正)を行った。有意水準は危険率5%未満(P < 0.05)とした。
III.結果
ANOVAの結果、指圧群では時間経過に伴う変化に有意性(F = 4.115,P < 0.01)が認められた。なお、対照群では有意な変化が確認されなかった。そこで、実験群について、多重比較を施したところ、指圧前に比べ指圧45秒後および60秒後では有意(それぞれ、t = 3.934、P < 0.05およびt = 4.412、P < 0.01)に低下していた。
呼吸商の変化
IV.考察
Holm法を採用したとしても、75秒後(指圧終了後15秒)にまだ効果が残っているということでなく、指圧終了後から15秒の間に数値が低かったということである。これは、呼吸組織での酸素摂取と二酸化炭素排泄の結果が、口から外に出てRERとなり反映されるまでに時間的に遅延することも十分に考えられるので、指圧終了後も効果が残存していたということを示すものではない。そのような意味では指圧30秒後(15-30秒)に有意な変化が見られなかったとしても、実際には効果がすでにあらわれており、それがその後の45秒後(30-45秒)の結果として表れた可能性もある。すなわち、刺激後15秒を過ぎてから効果が表れ始め、指圧終了後にはその効果はほとんど消失すると考えるのが妥当ではないかと判断できる。
あえてこのメカニズムを探るとするならば、ミオグロビンはきわめて酸素結合力がつよく4)比較的深部に存在する筋に多く含まれる5)ので、深部筋の活動が活発になった結果とも考えられる。しかし、その他のメカニズムが関与している可能性も十分あり得るので、今後の検討課題としたい。
V. 結論
前頸部指圧により呼吸商の低下が認められた。
VI.引用文献
1) 浪越 徹:完全図解指圧療法普及版,日貿出版社,東京,1992
2) 小谷田作夫 他:指圧刺激による心循環系に及ぼす効果について,東洋療法学校協会学会誌(22); pp.40-45, 1998
3) 加藤 良 他:前頚部指圧刺激が自律神経機能に及ぼす効果,東洋療法学校協会学会誌(32); pp.75-79, 2008
4) 真島英信:生理学 第18版, p.341,文光堂,東京, 1990
5)真島英信:生理学 第18版, p.274 表9-1, 文光堂,東京,1990
【要旨】
前頚部指圧による呼吸商の変化
衞藤 友親, 桑森 真介
指圧療法が代謝に及ぼす影響を検討するため、呼気ガス分析装置を用いて指圧刺激群および指圧無刺激群における呼吸商の変化を比較検討した。ANOVAの結果、指圧群では時間経過に伴う変化に有意性が認められた。なお、対照群では有意な変化が確認されなかった。そこで,実験群について多重比較を施したところ、指圧開始0時点(指圧前)に比べ指圧45秒後および60秒後では有意に低下していた。結果として前頚部指圧により呼吸商は有意に低下することが認められた。
キーワード:指圧、前頚部、呼吸商