カテゴリー別アーカイブ: 症例報告

2型糖尿病患者に対する基本指圧―全身操作の効果について―:本多剛

本多 剛
日本指圧専門学校専任教員

Shiatsu on a Patient with Type 2 Diabetes―Effect of Namikoshi Standard Full Body―

Tsuyoshi Honda

 

Abstract : Type 2 diabetes is classified as a lifestyle-related disease, and the number of diabetic and pre-diabetic patients has been increasing in recent years. This report examines the case of a patient diagnosed with type 2 diabetes seven years previously, who received ongoing Namikoshistandard full body shiatsu treatments. After 20 treatments, the patient’s hemoglobin A1c level (National Glycohemoglobin Standardization Program) decreased by 0.5 percent compared to the first treatment. Further shiatsu treatment and monitoring is required for this case.

Keywords: Type 2 diabetes, hemoglobin A1c (National Glycohemoglobin Standardization Program), Namikoshi standard full body shiatsu


Ⅰ.はじめに

 糖尿病患者数は、厚生労働省の平成 26年患者調査によると 317万人となり1)、前回(平成 23年)調査の 270万から 47万人増えて、過去最高となっている。また、生活習慣病患者数で比較すると、高血圧性疾患が 1,011万人と圧倒的だが、糖尿病はそれに次ぐ多さである。一方、厚生労働省の平成 26年国民健康・栄養調査によると、糖尿病患者予備群を含めた糖尿病有病率は男性で15.5%、女性で 9.8%であり2)、このデータから 3,000万人以上の国民が糖尿病患者、あるいはその予備群であると推計される。この国民病とも言える糖尿病を指圧治療で改善できれば、国民の健康の保持・増進に大きく貢献できることになる。また、鍼灸治療が糖尿病患者にもたらす効果についての報告はあるが、指圧治療の効果に関するものはない。そこで今回、浪越式基本指圧の全身操作が、糖尿病患者に対しどの様な効果を与えるか、実際の患者の血液検査値を用い、その推移を考察した。

Ⅱ.対象

[症例]

対 象:40歳 男性

初 診:平成28年4月13日

主 訴:頸と肩がこる、頭痛がする

[現病歴]

 7年前に会社の健康診断を受診し、血糖値が高かったことから再検査となる。O病院にて精密検査を受けたところ、2型糖尿病と診断され、3週間の入院治療を受ける。退院後は、O病院より糖尿病の専門外来医療機関のTクリニックを紹介され、月1回の診察を受け、処方された薬を 1日 1回服用し、経過を観察しながら現在に至る。尚、現在の HbA1c(NGSP)は概ね 8以下であり、糖尿病に由来する合併症の出現はない。職業は衛生関連の建設作業管理で、設計図面を作成することが多く、慢性的に頸と肩がこり、頭痛を伴うことがある。仕事柄、竣工前の繁忙期では週に1度も帰宅できないということもあり、そのため食事時間が不規則で、外食中心、接待も多い。また、多忙によるストレスから暴飲暴食に走ることもある。定期的に運動する時間的・精神的余裕はない。

[服用薬]

  • テネリア錠20mg(テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物錠・糖尿病治療薬)
  • リバロOD錠 1mg(ピタバスタチンカルシウム水和物・高コレステロール血症治療薬)
  • メトグルコ錠 250mg(メトホルミン塩酸塩錠・糖尿病治療薬)

[既往歴]

 13年前、下腿外傷で入院治療を受ける。

[家族歴]

 実母が胆石症による胆嚢摘出術を受ける(2~3年前)。

[初診時所見]

自覚所見

 頸と肩がこる、頭痛がする。

他覚所見

 右側頸部、右背部、右下腿前面に強い筋緊張がある。全身にむくみ感がある。

Ⅲ.方法

 対象に浪越式基本指圧の全身操作3)を行い、施術前後の自覚症状の変化を VAS(VisualAnalogueScale)で評価した。また、対象が通院しているTクリニックで概ね月1回採取した血液検査の結果のうち、HbA1c(NGSP)の推移を評価した。

Ⅳ.結果

治療期間

平成28年4月13日から同8月30日 (全20回)

主要経過

第2回 平成 28年4月20日

  • 全身のむくみ感が軽減した。
  • 週に1度もないことがあった便通が週 1.5回程度になった。

第3回 平成 28年4月29日

  • 便通が週2回程度になった。
  • 体調も良く、久しぶりにスポーツジムで軽く運動をした。

第5回 平成 28年5月11日

  • 体調の良さに伴い食欲が亢進して体重が増加した。
  • 便通は週2回程度で安定している。

第6回 平成 28年5月18日

  • 体調が良いことから、増加した体重をコントロールしてみようと思うようになる。

第11回 平成 28年6月22日

  • 体調が良く、食欲の亢進をなかなか抑えることができない。

第14回 平成 28年7月20日

  • 胃の痛みを感じ医療機関を受診。ピロリ菌の感染が確認され薬物治療を受ける。

第15回 平成 28年7月 27日

  • 胃の痛みが改善する。

第16回 平成 28年8月4日

  • 花粉症 (ブタクサ)を発症して医療機関を受診。薬物治療を受ける。
  • 第 19回 平成 28年8月24日

    • 仕事による疲労が蓄積しており、頸部に強い筋緊張がみられる。

    ①VAS

     自覚症状で多かったのは頸と肩の筋緊張による頭痛と右足つけ根の痛みである。VASの術前と術後の変化から、浪越式基本指圧の全身操作により自覚症状の改善がみられた。(表1)

    表1.施術前後のVAS 値
    表1.施術前後のVAS 値

    ②HbA1c(NGSP)

     HbA1c(NGSP)は過去1~2ヶ月の血糖の推移を反映したものである4)。対象の初診日が平成 28年4月 13日であることから、基準となる値を平成 28年 5月7日の数値とし、平成28年9月7日までの数値の変化を評価したところ、0.5%の減少がみられた。(図1)

    図1.HbA1c(NGSP)の経過
    図1.HbA1c(NGSP)の経過

    Ⅴ. 考 察

     施術前と比較して、施術後の VASの値が大きく減少していることから、浪越式基本指圧の全身操作が対象の自覚症状と体調の改善に寄与したと考えられる。

     衞藤 他の報告によると5)、浪越式基本指圧の前頸部施術を受けた者に呼吸商の優位な低下がみられており、絹田 他の症例報告によると6)、薬物治療を中止した2型糖尿病患者のHbA1c(NGSP)を鍼灸治療によって安定させたという事例がある。このことから、浪越式基本指圧の全身操作により対象の代謝量が増加し、糖利用が促進されたと考えられる。また、副交感神経の興奮は、膵臓のランゲルハンス島B細胞からのインスリンの分泌を亢進する7)。横田 他は8)前頸部および下腿外側部で、渡辺 他は9)仙骨部で、田高 他は10)頭部での浪越式基本指圧で、それぞれ縮瞳反応が生じることを報告しており、この反応は指圧により被験者に交感神経の抑制、あるいは副交感神経の興奮がみられたために起きたものであると示唆される。前に述べたが、インスリンの分泌亢進は副交感神経の興奮により起こる。このことから、浪越式基本指圧の全身操作により副交感神経の興奮がみられた結果、膵臓からのインスリン分泌が亢進し、糖利用の促進がなされたと考えられる。更に、定期的に指圧治療を行うことで、不規則な対象の生活に一定のリズムが生じ、睡眠時間の確保や運動習慣の意識づけがなされたことも関与していると考えられる。以上のことから、浪越式基本指圧の全身操作が、HbA1c(NGSP)の改善に寄与したと考えられる。

     主要経過で述べたが、平成 28年5月中旬から同6月にかけて対象の食欲が亢進し、体重も増加している。これが平成 28年8月9日のHbA1c(NGSP)の前回値より 0.2%上昇に関与していると考えられる。体重は初診時から増加傾向のままであるが、平成 28年9月7日の検査では HbA1c(NGSP)が前回値より0.6%減少した。この結果については対象の主治医も明確な理由を明らかにできていない。また、対象はインスリンの分泌を促進する薬を服用しており、6月以降、当該薬物の投与量増加もはかられている。このことから、指圧治療単独の効果と言える確証を得るには至っていないが、更に指圧治療を継続し、糖尿病治療薬の投与量とHbA1c(NGSP)の持続的な減少をみることができれば指圧治療の効果の確証につながるものと考えられる。

     日本糖尿病学会の糖尿病診療ガイドライン2016によると11)、合併症予防のための目標としてHbA1c(NGSP)を 7.0%未満と定めている(図2)。対象の健康管理の観点から鑑みると、この目標を達成することが当面の課題である。今後も指圧治療を継続し、経過を観察していきたい。

    図2.日本糖尿病学会の血糖コントロール目標
    図2.日本糖尿病学会の血糖コントロール目標

    Ⅵ. 結 語

     対象に全 20回の浪越式基本指圧の全身操作を行い、以下の結果を得た。

    • 自覚症状が大幅に軽減した。
    • HbA1c(NGSP)が0.5%減少した。

    参考文献

    1)厚生労働統計協会:国民衛生の動向2016/2017,p.94,厚生労働統計協会,東京,2016
    2)厚生労働統計協会:国民衛生の動向2016/2017,p.94-95,厚生労働統計協会 ,東京,2016
    3)石塚寛:指圧療法学 -改定第1版 -,p.77-126,国際医学出版 ,東京,2010
    4)奈良信雄 他:臨床医学各論 -第2版 -,p.113,医歯薬出版,東京,2013
    5)衞藤友親,桑森真介:前頚部指圧による呼吸商の変化 ,日本指圧学会誌(1);p.11-13,2012
    6)絹田章,中村弘典 他:糖尿病に対する鍼治療の一症例 ,全日本鍼灸学会雑誌 49巻(2);p.299-304, 1999
    7)本郷利憲 他:標準生理学 -第6版-,p.935,医学書院,東京,2005
    8)横田真弥 他:前頸部および下腿外側部の指圧刺激が瞳孔直径に及ぼす効果 ,東洋療法学校協会学会誌(35);p.77-80,2011
    9)渡辺貴之 他:仙骨部への指圧刺激が瞳孔直径・脈拍数・血圧に及ぼす効果 ,東洋療法学校協会学会誌 (36);p.15-19,2012
    10)田高隼 他:頭部への指圧刺激が瞳孔直径・脈拍数・血圧に及ぼす効果 ,東洋療法学校協会学会誌 (37);p.154-158,2013
    11)日本糖尿病学会:糖尿病診療ガイドライン2016,p.27,南江堂,東京,2016


    【要旨】

    2型糖尿病患者に対する基本指圧―全身操作の効果について―
    本多 剛

     生活習慣病に含まれる2型糖尿病の患者は、その予備軍も合わせて近年増加している。今回、2型糖尿病を発症して7年間経過した患者に対して指圧治療を施す機会を得た。指圧治療法は浪越式基本 指圧の全身操作とし、全 20回の治療を行ったところ、患者のHbA1c(NGSP)値が指圧治療開始時と比較して 0.5%の減少をみた。今後も指圧治療を継続し、経過を観察していきたい。

    キーワード:2型糖尿病、HbA1c(NGSP)、浪越式基本指圧全身操作


    乳がんに対する左乳房切除術(全摘手術)後の疼痛とそれに伴う肩関節可動域の制限に対する指圧治療の一例報告:宮下雅俊

    宮下 雅俊
    株式会社日本指圧研究所世田谷指圧治療院てのひら 院長

    Shiatsu Therapy for a Patient with Post-mastectomy Pain and Limited Shoulder Joint Range of Motion Caused by Total Mastectomy

    Masatoshi Miyashita

     

    Abstract : This report examines the case of a patient who received shiatsu treatments following total mastectomy of the left breast in the treatment of breast cancer. Following treatment, relief of postsurgical pain and improvement in the shoulder joint’s range of motion were observed. Pain was treated using standard Namikoshi shiatsu techniques such as fluid pressure and suction pressure applied to the skin, and the shoulder joint was treated using a combination of pressure applications and mobilizations. We conclude that in this patient, these shiatsu techniques helped to relieve postsurgical pain and improve the shoulder joint’s range of motion.

    Keywords: breast cancer, skin, scar, shoulder joint range of motion, mastectomy, post-mastectomy neurogenic pain, shiatsu, mobilization


    Ⅰ.はじめに

     国立がん研究センターの「2015年のがん罹患数、死亡数予測」の統計データによると1)、わが国では女性の癌の中で一番患者数が多いのが乳がんである。乳がんの患者は年々増加傾向にあり、罹患数が増加するのに比例して死亡数も増加しているのが現状である。

     今回、乳がんに対する左乳房切除術(全摘手術)後の左胸部の疼痛と、処置部位の瘢痕拘縮が原因と考えられる肩関節可動域の制限が現れている患者に対し、まず左胸部の指圧は皮膚の柔軟性、伸張性を改善することを重点において施術、それから全身指圧を施した。

     指圧療法は、世間一般的には、筋肉にアプローチするものとイメージされていることが多い。しかし、指圧は筋肉、神経、血管、骨、腱、内臓、皮下組織など、身体のあらゆる箇所を対象に、皮膚の上から押圧または運動操作を施し、人体のあらゆる反射を利用する手技療法と言える。

     皮膚は身体の全表面を覆い、内部の諸器官を外部からの刺激、衝撃から保護するとともに、独自の生理機能を持って身体全体の調和に関係している器官である。皮膚は薄いながらも表面積が広いので、その重さは体重の約8%にもあたり、内臓の中で最も重い肝臓の約3倍になる。いわば、皮膚は身体の最大の器官ということができる2)

     マイスナー小体やパチニ小体といった、皮膚の感覚受容器に働きかける指圧療法は、皮膚とは密接な関係にあるが、皮膚の柔軟性、伸張性に着目した指圧の症例報告は少ないので、この度は、乳房切除術後の患者に対し、特に胸部、腹部、肩周囲の皮膚の柔軟性、伸張性を改善するよう指圧してから全身の指圧施術をし、その前後で写真撮影を行い、肩関節前方挙上(肩関節屈曲)可動域の変化を確認したのでここに報告する。

    Ⅱ .対象

    施術対象:44歳 女性 個人事業主

    場  所:世田谷指圧治療院てのひら

    期  間:平成 27年9月 11日

    主  訴:乳がんに対する左乳房切除術(全摘手術)後の左胸部瘢痕(図1)の疼痛と左上肢の動作痛、またそれに伴う関節可動域の制限

    治 療 法:基本指圧を応用し、仰臥位で瘢痕の創傷部離解が起きないように、瘢痕に直接片手掌圧を加えて皮膚移動を抑えながら、もう片方の手で瘢痕の周りを片手掌圧し、瘢痕を中心とした八方の遠位方向に、流動圧法を加える二点圧を使用した。左胸部の瘢痕への指圧は、瘢痕周辺の皮膚の柔軟性、伸張性を向上させることを目的に指圧を行った。

     その後、全身の調整として、仰臥位にて、胸部、腹部、肩周囲部、上肢帯、頸部、頭部の指圧を行った。

     横臥位にて、頸部、肩上部、肩甲間部、肩甲下部、上肢帯への指圧と肩関節、肘関節の運動操作を行った。

     伏臥位にて、仙骨部掌圧・股関節伸展操作による骨盤調整を行い、臀部、大腿後側部、下腿後側部、足底部の指圧を行った。

     圧法の種類は、通常圧法、持続圧法、吸引圧法、流動圧法、振動圧法を適宜に使い分けた3)

    図1 患者の乳がん乳房切除術後の瘢痕
    図1 患者の乳がん乳房切除術後の瘢痕

    Ⅲ .結果

    [現病歴]

     平成 27年8月 19日、乳がんにより左乳房切除(全摘手術)を行ってから、左胸部の疼痛と動作痛が現れた。それに伴い、肩関節前方挙上(肩関節屈曲)可動域の制限も現れた。

    [既往歴]

    27歳 局所性左乳がん発症 ステージⅠ

    温存手術 +化学療法 +放射線治療を受けた

    [家族歴]

    なし

    [術前所見]

    自覚所見

    • 乳房切除術後からある肩こり
    • 乳房切除術後からある背中の張り
    • 乳房切除術後の左胸部(瘢痕)の疼痛
    • 乳房切除術後からある左胸部(瘢痕)の上肢の動作痛
    • 乳房切除術後からある肩関節の前方挙上(肩関節屈曲)可動域の制限
    • 乳房切除術後からある胸部の皮膚の突っ張り感(瘢痕拘縮と考えられる)
    • 便秘
    • 倦怠感

    他覚所見

    • 発汗
    • 両上肢の周径に顕著な左右差は見られない
    • 肩関節の前方挙上(肩関節屈曲)の可動域の制限あり(図2)
    • 触診により胸部の皮膚の柔軟性、伸張性の低下を感じる
    • 仰臥位時に肩関節の自動運動、他動運動をすると左胸部(瘢痕)に痛みを訴える
    • 瘢痕に直接片手掌圧を加え、瘢痕の移動を抑えながら肩関節の他動運動、自動運動をすると痛みが減少することを確認した

    [術後所見]

    自覚所見

    • 肩こりが軽減した
    • 背中の張りが軽減した
    • 術後の瘢痕の疼痛が軽減した
    • 術後からある瘢痕部の上肢動作痛が軽減した
    • 術後からある肩関節前方挙上(肩関節屈曲)の可動域が向上した
    • 胸部の皮膚の突っ張り感が軽減した(瘢痕拘縮と考えられる)

    他覚所見

    • 肩関節前方挙上(肩関節屈曲)の可動域が向上した(図3)
    • 触診により胸部の皮膚の柔軟性、伸張性が向上した
    • 肩関節の運動痛が軽減した

    図2 指圧施術前
    図2 指圧施術前

    図3 指圧施術後
    図3 指圧施術後

    Ⅳ .考察

     本症例の施術前後の画像(図2、3)を比較したところ、指圧による押圧操作と運動操作により、肩関節前方挙上(肩関節屈曲)の関節可動域が改善したのを確認できた。これは、福井4)が提唱する皮膚運動の5つの原則と照らし合わせると、瘢痕の影響により肩関節挙上運動に生じていた制限が、指圧による瘢痕周囲の皮膚の柔軟性、伸張性の向上により改善され、肩関節の可動域に変化が起きたためと考えられる。

     また、今回治療で使用した、流動圧法、吸引圧法、また基本指圧にもある撫で下ろしなどの圧法は、筆者の臨床上の経験から、皮膚を誘導する方法として非常に効果の高い手技であると考えている。福井4)は、皮膚を適切な方向に誘導することで関節運動が楽に行えるように感じるのは、浅筋膜で隔てられた浅層部と深層部が、互いに反対方向に移動する滑走状態を作り上げているからではないかと推測しており、上記の手技はこれと同じ効果を出しているとも考えられる。

     もちろん、指圧刺激が筋の柔軟性に及ぼす効果についての報告が複数存在する5~7)ことからも、皮膚、筋、両方の相乗効果とも推察できる。また、指圧施術後に、胸部の皮膚の突っ張り感の軽減と、瘢痕の疼痛が軽減したとの患者の報告から、左乳房切除術後の神経障害性疼痛と思われる症状にも効果があったと推察される。

     乳癌術後の症例として真っ先に頭に浮かぶのはリンパ浮腫であろう。2006年日本乳癌学会研究班の北村らによるリンパ浮腫の発症率の調査によれば、1379例の一側性乳癌術後のうち、平均術後観察年数は 3.9年、全体のリンパ浮腫発症率は50.9%、うち重症が 46.6%と報告されている8)

     本症例では、左乳房切除術後 23日後に指圧治療を行った。その際の所見では、両上肢の周径に大きな左右差は見られなかったが、術後から左胸部の疼痛、皮膚の突っ張り感があり、術後の左胸部は感覚低下があるとのことだった。また、左上肢を自動・他動運動で動かすと痛みが増強し、肩関節の可動域制限もみられ、QOLの低下を訴えていた。これらの症状は、日本緩和医療学会が発表している、がん疼痛の薬物療法のガイドライン 2010年版9)の乳房切除後疼痛症候群(post-mastectomy pain syndrome:PMPS)の特徴である。『上腕後面、腋窩や前胸壁部などにおける、感覚低下を伴う締め付け感や灼熱感などが多い』、『術後痛の強さや腋窩郭清が発現率に関連する』、『しばしば上肢運動によって痛みが増強するため、有痛性肩拘縮症となる』、『術直後~半年までに発症することが多い』と重なる部分が多く、本患者は乳房切除後疼痛症候群を発症していたのではないかと考えられる。乳房切除後疼痛症候群は、手術、放射線療法、化学療法による肋間上腕神経障害が関与すると言われており10)、約 20%の患者は術後 10年経過しても症状が残存するとの報告もある11)。今回は一症例のみの紹介であるが、本症例における症状の改善は、指圧治療が乳房切除後疼痛症候群に有効である可能性を示唆するものと考える。

     日本リハビリテーション医学会の発行する、がんのリハビリテーションガイドラインでは、肩関節可動域の改善、上肢機能の改善、リンパ浮腫の発症リスクを減少させるなどの目的で、包括的リハビリテーションを行うように強くすすめられている12)

     しかしながら、根岸ら13)が近年、乳がん術後の入院日数が短縮傾向にあり、リハビリテーションとその指導が十分に行われないままに退院する患者が増加していることを挙げており、指圧師が包括的なリハビリテーションの知識と、それに対応しうる施術技術を持つことで、医療機関を退院した乳がん術後の患者に対してその役割を十分果たせると考えられる。

     今回疼痛の程度を評価していなかったため、今後の課題としてNRS(Numerical Rating Scale)や、VAS(Visual Analogue Scale)などの評価スケールを用いた、乳房切除術後の痛みの程度の変化も評価検討したい。

    Ⅴ .結論

     指圧治療により、乳がんに対する乳房切除術(全摘手術)後の患者に対し、指圧の押圧操作と運動操作を併用することで、肩関節可動域の制限が改善できる可能性がある。また、乳がんに対する乳房切除術(全摘手術)後の疼痛を緩和させ、上肢の動作痛も軽減される可能性がある。しかし、今回は1例のみの報告であるため、さらに症例を重ね検討したいと考えている。

    参考文献

    1)国立がん研究センター:2015年のがん罹患数、死亡数予測,http://www.ncc.go.jp/jp/information/ press_release_20150428.html
    2)朝田康夫:美容皮膚科学事典 ,中央書院,p.4, 2002
    3)浪越徹:完全図解指圧療法,日貿出版社,p.58-59, 1979
    4)福井勉:皮膚運動学 ,三和書店,2010
    5)浅井宗一 他:指圧刺激による筋の柔軟性に体する効果,(社)東洋療法学校協会学会誌(25);p.125-129,2001
    6)菅田直紀 他:指圧刺激による筋の柔軟性に体する効果(第2報),(社)東洋療法学校協会学会誌(26);p.35-39,2002
    7)衛藤友親 他:指圧刺激による筋の柔軟性に体する効果(第3報),(社)東洋療法学校協会学会誌(27);p.97-100,2001
    8)北村薫 他:乳癌術後のリンパ浮腫に関する他施設実態調査と今後の課題 ,日本脈管学会機関誌50;P.715-720,2010
    9)日本緩和医療学会:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2010年版,http://www.jspm.ne.jp/ guidelines/pain/2010/chapter02/02_01_03. php#top
    10)Vecht CJ et al: Post-axillary dissection pain in breast cancer due to a lesion of the intercostobrachial nerve, Pain 38(2) ; p.171-176, 1989
    11)Macdonald L et al: Long-term follow-up of breast cancer survivors with post-mastectomy pain syndrome, Br J Cancer 92(2); p.225-230, 2005
    12)日本リハビリテーション医学会:がんのリハビリテーションガイドライン,金原出版,p.54-75, 2013
    13)根岸智美 他:乳癌術後リハビリテーションにおける肩関節可動域運動の開始時期の検討,理学療法学第 13巻第1号,p.18-21,2016


    【要旨】

    乳がんに対する左乳房切除術(全摘手術)後の疼痛とそれに伴う肩関節可動域の制限に対する指圧治療の一例報告
    宮下 雅俊

     本症例では、乳がんに対する左乳房切除術(全摘手術)後の左胸部疼痛と、肩関節可動域の制限がある患者に対し、指圧治療を行い、疼痛の緩和、肩関節可動域の改善が見られた。疼痛に対するアプローチとしては、皮膚に対して流動圧法、吸引圧法などの基本指圧の応用操作を行い、肩関節に対しては押圧操作と運動操作を併用して治療することで、効果を得られたものと推察する。

    キーワード:乳がん、皮膚、瘢痕、肩関節可動域、乳房切除術、乳房切除後神経性疼痛、指圧、運動操作


    20代女性の側弯症に対する指圧治療によるCobb角の変化:作田早苗

    作田 早苗
    りんでんマニピ指圧治療院

    Effects of Shiatsu Therapy on the Cobb Angle of a Female Patient in Her Twenties with Scoliosis

    Sanae Sakuta

     

    Abstract : This report examines the case of a female patient in her twenties diagnosed with lumbar idiopathic levoscoliosis who received 93 shiatsu treatments between 2013 and 2016. Following treatment, the Cobb angle was improved from 69.6. to 62.3.Relief of subjective symptoms such as back pain and severe menstrual cramps was also observed. We concluded that reducing muscle tension with shiatsu treatment resulted in improved spinal mobility leading to correction of leg length difference, asymmetric pelvis, tilted ribs, and unaligned spine.

    Keywords: shiatsu, scoliosis, Cobb angle, spine


    Ⅰ.はじめに

     側弯症とは、脊柱がねじれを伴って左右に曲がってしまう症状であり、それに伴い胸郭の変形、肩甲骨の出っ張りに加え、前屈時の高さ、肩の高さ、骨盤の高さの左右差などが生じる。また、肺などの臓器の圧迫や位置のズレに伴う背腰部痛、生理痛、胃腸障害が生じたり、好きな服が着られない、水着になれないなどの外見上の問題による精神的ストレスを受けるなど、心身ともに影響が及ぼされるといわれる1)

     側弯症の分類はおおまかに機能性側弯症と構築性側弯症があり、構築性側弯症に分類される特発性側弯症が側弯症全体の 70~ 80%を占める2)。特発性側弯症の原因はわかっておらず、思春期側弯症が最も多く、症例の 85%が女性と言われている3)。予防法は未だ確立されていないが、早期発見が手術適用のリスクを軽減するため、現在は学校での検診が行われている1)

     側弯の程度を表すための方法としては、立位でのレントゲン写真から測定する Cobb法 (脊柱の前後から見て、最も傾いた椎体間の角度を計測する方法 )が用いられている2)(図1)。

     日本側弯症学会によると、側弯症に対する手技療法では、痛みの緩和はあっても症状の改善には効果がないとされてきた1)。しかし、今回、指圧施術により患者の Cobb角に改善がみられた症例が得られたので、ここに報告する。

    図1.Cobb角の計測法
    図1.Cobb角の計測法
    X線において、脊柱カーブの上下端で水平面に対して最も傾いている頭側終椎の上縁と、尾側終椎の下縁を結ぶ線のなす角度を Cobb角とする。

    Ⅱ.対象および方法

    日時及び回数:

    2013年2月 28日~ 2016年3月 24日 全93回(表1)

    対象:20歳 女性 身長 162.8cm

    現病歴:11歳の時に歯ぎしりがひどく、顎関節を治すために行った整体院で脊柱の側弯を指摘された。その時点では自覚症状はなかったが、その後 13歳のときから背腰部痛が発生するようになり、15歳で側弯症専門の整形外科を受診し腰部左凸の特発性側弯症と診断される。手術を勧められたが、なるべく手術はしたくないという考えもあり体操や装具などで改善を図りつつ、現在に至る。装具は着けているのが辛く、ほとんど使用していない。

    自覚所見:

    • 背腰部痛…痛みのため、椅子に座っていることができず、在宅時は寝転びながら勉強をする
    • 生理痛…重症時は痛み止めを服用する。痛みのため学校を休むことも多い
    • 軟便傾向である
    • 開口時、顎関節がズレる

    他覚所見:

    • 視診
       静止時の姿勢では、反り腰、体幹の右回旋、腰部の左回旋がみられる。右肋骨は張り出し、左肩が上がった状態である。右の肩甲骨は挙上し、内縁は胸郭から浮いている。下肢長は右のほうが長い。
    • 触診
       右肩甲骨周り、右鼠径部、左背腰部に顕著な硬結がみられる。右腸腰筋の短縮が認められる。両下肢外側に張りがある。右腰部は筋量が少ない。

    施術方法:

     石塚4)、田之倉5)を参考に、以下のような施術を行った。

    • 2013年~ 2014年
       顔面部・頭部・背部・腰部・殿部・腹部・下肢への指圧
    • 2015年~
       顔面部・頭部・頸部・背部・腹部・殿部・腹部・下肢への指圧・棘突起調整・座骨掌圧・背部調整・下肢長の調整・肋間筋への指圧

    Ⅲ.結果

    ・Cobb角について

     整形外科で撮影されたレントゲン写真からTh10~ L3の Cobb角を計測した。2012年Cobb角は 69.6°だったが、2016年には 62.3°まで改善された(表2)。

    ・自覚症状について

     2013.3.7 腰の痛みが緩和した。

     4.24 座っていても、背腰部が痛くなくなってきた。

     6.23 生理痛はあったが、寝込むほどではなくなった。

     10.13 開口時の顎関節のズレが改善した。

     12.16 生理痛があり、薬を飲むほど痛かった。

     2015.5 生理痛が緩和した。これ以降、本人の自覚症状の訴えは出ていない。

    表1.各月ごとの施術回数
    表1.各月ごとの施術回数

    表2.施術期間中のTh10 ~ L3 のCobb 角
    表2.施術期間中のTh10 ~ L3 のCobb 角

    Ⅳ.考察

     本患者の診察所見では、右腰部の筋量低下がみられたため、立位において左腰部筋力とのアンバランスが生じ、側弯が増強されていたと考えられる。藤川6)は手技療法による Cobb角の改善を成人で4例報告しており、脊椎アライメントの調整と筋硬直の解消の重要性を示唆している。田附ら7)、宮地ら8)は指圧により脊柱可動性が向上することを報告しており、本症例において Cobb角の改善がみられたのは、指圧により筋硬直が改善し脊柱の可動性が高まり、それに伴い下肢長、骨盤、肋骨の高さ、脊柱のアライメントが矯正されたことによるものと推察する。今後は今の可動性を保ちながら、筋肉を増強させることが更なる改善に重要であると考える。また、2013~ 2014年にかけて Cobb角の変化に停滞がみられたが、これは患者の受験期間などと重なることで、施術頻度がやや減少したことに起因すると推察される。また、受験等のストレスにより筋の柔軟性が低下し、脊柱のアライメントの不整につながった可能性も考えられる。大木9)は定期的な指圧施術で患者の精神的ストレスが改善された症例を報告しており、なるべく間隔をあけず定期的に施術を行うことが治療において重要であると考える。

     日本側弯症学会1)によると、手技療法は側弯に伴う痛みなどの緩和には効果が期待されても、改善、進行を防ぐ効果はないとされ、経過観察、運動療法、装具着用、手術が推奨されており、16歳以降の側弯の改善は難しいとされてきた。しかし、本症例により、成人における指圧療法による改善の可能性が示唆されたと考える。また、医療関係者と連携し、装具療法や運動療法を併用して治療を始め、早期から姿勢、筋バランスを整えることがより良い治療効果を得るために重要であると考える。

    Ⅴ.結語

     側弯症患者に対する全 93回の指圧治療により、Cobb角の改善がみられた。

    参考文献

    1)日本側弯症学会:知っておきたい脊柱側弯症,p.1-63,インテルナ出版,東京,2003
    2)奈良信雄 他:臨床医学各論 第 2版,p.151-154,医歯薬出版株式会社,東京,2004
    3)国分正一,鳥巣岳彦:標準整形外科学 第 10版,医学書院,東京,2008
    4)石塚寛:指圧療法学 改訂第1版,国際医学出版,東京,2008
    5)田野倉快泉:無薬医術指圧療法復刻,p.50,八幡書店,東京 ,2002
    6)藤川勝正:脊柱側弯症の保存療法,整形外科と災害外科39(1);p.349-358,1990
    7)田附正光 他:指圧刺激による脊柱の可動性及び筋の硬さに対する効果,東洋療法学校協会学会誌(28);p.29-32,2005
    8)宮地愛美 他:腹部指圧刺激による脊柱の可動性に対する効果,東洋療法学校協会学会誌(29);p.60-64,2006
    9)大木慎平:全身指圧による心理的影響を測定した一例,日本指圧学会誌(4);p.7-10,2015


    【要旨】

    20代女性の側弯症に対する指圧治療によるCobb角の変化
    作田 早苗

     今回、専門医により腰部左凸の特発性側弯症と診断された 20代女性に対し、2013年~ 2016年まで計 93回の指圧治療を行った。その結果、初診時点では69.6°であった Cobb角が、62.3°まで改善した。また、背腰部痛や重い生理痛などの自覚症状にも改善がみられた。本症例の改善は、指圧により筋硬直が解消して脊柱可動性が向上し、下肢長、骨盤、肋骨の高さ、脊柱のアライメントが矯正されたことにより生じたと推察する。

    キーワード:指圧、側弯症、Cobb角、脊柱


    Measurement of the Psychological Effect of Full Body Shiatsu Therapy: a Case Report

    Shinpei Oki
    Representative, Nekonote Shiatsu

    Abstract : This report examines the case of a female patient in her 20s who received three full body shiatsu treatments between May 24 and June 7 2015, with the objective of reducing psychological stress. The psychological effect was evaluated using the Profile of Mood States (POMS) index. Following treatment, improvements in the t-scores of all six POMS factors were observed. This suggests that full body shiatsu therapy has a stress-relief effect, which may be verified through further studies.

    Keywords: shiatsu, stress, POMS


    I.Introduction

     So many people are feeling the effects of psychological stress in modern society that stress can be considered endemic 1. In Japan, many people look to alternative therapies, including anma, massage, and shiatsu, for treatment of stress.

     Multiple studies have been conducted into the effects of manual therapy on stress relief 2~5, confirming its effectiveness. Research has also been conducted into the use of shiatsu for treating stress 6, but insufficient data exists on the effects of general shiatsu carried out by a therapist on a patient. In this paper, we report on a case in which full body shiatsu used to alleviate stress with psychological stress measured using a mood profile, which will serve as a springboard for future investigation.

    Ⅱ.Methods

    Test subject

     Female office worker in her 20s

    Period

     May 24 to June 7, 2015 (3 sessions)

    Location

     Patient’s home

    Treatment method

     Namikoshi-style full body shiatsu, starting in lateral position

    Evaluation method

     In order to evaluate psychological effects, a Japanese-language POMS™ test (Kaneko Shobo) was administered immediately before and after treatment. POMS is a mood profile test developed by McNair et al in the U.S., which employs answers to 65 questions to enable simultaneous measurement of six factors: tension-anxiety, depression, anger-hostility, vigor, fatigue, and confusion 7. The POMS results for this report were converted from raw data to t-scores and totaled. POMS has been implemented on large groups of healthy adult males and females and standardized, with t-scores calculated for mean value and standard deviation by age and sex. The t-score is calculated as 50 + 10 x (raw score – average score) / standard deviation. If the raw score is equal to the average score, the t-score will be 50. The lower the t-score, the lower the tension-anxiety, depression, anger-hostility, vigor, fatigue, or confusion. Thus, for vigor, a higher t-score indicates a more favorable condition 7.

     The goal and measurement procedure for POMS was fully explained to the patient and her consent obtained.

    Ⅲ.Results

    History of present illness

     The patient was transferred to a new department at work in April 2015 and, still unaccustomed to the new workplace and job responsibilities, was experiencing high daily stress levels. Work mainly involved VDT (video display terminal) operation, with over 7 hours per day spent engaging in computer input.

    Medical history

     Inguinal hernia (surgery completed in 2013)

    Family history

     No relevant items

    Subjective findings

    • Sleep disorder
      On some days, the patient had difficulty getting to sleep because she was unable to relax emotionally. The harder she tried to sleep, the more difficult it would become.
    • Neck, shoulder, and lumbar pain
      The patient experienced chronic neck and shoulder stiffness. Perhaps because she assumed the same posture for extended periods, she experienced a grinding pain when she extended her back.

    Examination findings

    • Observation
      The patient’s complexion was poor, with bags under her eyes and numerous pimples around her jaw. Head-forward poster with exaggerated lumbar kyphosis was observed.
    • Palpation
      Cervical region: Hypertonus was confirmed in anterior and middle scalenus, splenius capitis, rectus capitis posterior major and minor, and semispinalis capitis. Misalignment of the lower cervical vertebrae was also observed.
      Shoulder, dorsal, and lumbar regions: Hypertonus was confirmed in the upper trapezius, levator scapulae, and quadratus lumborum.
      Abdomen: The lower abdomen was flaccid and induration was observed in the descending colon region (left umbilical region).

    Treatment #1 (May 24, 2015)

    • Rigidity in the dorsal region was alleviated.
    • Post-treatment, the patient reported fullbody relaxation and mild drowsiness.

    Treatment #2 (May 30, 2015)

    • Patient reported that she slept well after the previous treatment and that she awoke the next morning with no feelings of lethargy.
    • She also stated that her neck and shoulders felt lighter than usual.

    Treatment #3 (June 7, 2015)

    • Patient reported that she slept well for several days after treatment and that she felt comparatively fresh on waking.
    • She still felt stiffness in the neck and shoulders, but it was not severe. Her lumbar region was still slightly stiff, but not painfully so.
    • She felt that her stress level was lower as well.

     Table 1 shows the POMS t-scores measured before and after all three treatments. Aside from the anxiety factor on May 24 and the vigor factor on May 30, the values for all factors showed improvement posttreatment, with a general trend toward improvement as the treatments progressed (Fig. 1).

    Table 1. T-scores for six POMS factors
    Table 1. T-scores for six POMS factors

    Fig. 1. Changes in t-scores for six POMS factors
    Fig. 1. Changes in t-scores for six POMS factors

    Ⅳ.Discussion

     In the case presented in this report, the patient showed improvement in all six POMS factors over the course of three treatments. Kamohara et al and Asai et al demonstrated the possibility for suppression of sympathetic nervous system activity using shiatsu to the abdominal region and the dorsal region, respectively 8-9. Also, Yokota, Watanabe, and Tadaka et al reported miotic (pupil contraction) response to shiatsu to the anterior cervical, lower leg, sacral, and head regions, respectively, possibly due to either suppression of the sympathetic nervous system or stimulation of the parasympathetic nervous system 10~12. The patient in this case report received full body shiatsu, including comprehensive shiatsu stimulation to all of the above-mentioned regions, so it is probable that a relaxation effect was achieved due to both suppression of the sympathetic nervous system and stimulation of the parasympathetic nervous system. In addition, Kato reported that, in restraint-stressed rats, acupuncture electrostimulation lead to normalization of secretion of monamines including dopamine and serotonin in all areas of the brain 13, so one might consider the possibility that a similar mechanism occurs with shiatsu stimulation as well.

     A single case such as this is insufficient evidence to argue for the effectiveness of shiatsu therapy for treatment of stress. Verification of the effectiveness of shiatsu as a means of stress alleviation will require a study employing statistical methodology, which I hope to pursue as a research topic in the future.

    Ⅴ.Conclusion

     Improvement was observed in all six POMS factors over the course of three full body shiatsu treatments.

    References

    1. Govt. of Japan Cabinet Office website: Heisei 20 nendo-ban kokumin seikatsu akusho, 2008 (in Japanese)
    2. Kober A, Scheck T, et al: Auricular acupressure as a treatment for anxiety i prehospital transport setting. Anesthesiology 98: 1328-1332, 2003
    3. Sato T: Kenko na seijin josei ni okeru hando massaji no jiritsu shinkei katsudo oyobi kibun he no eikyo. Yamanashi daigaku kango gakkaishi 4(2): 25-32, 2006(in Japanese)
    4. Fujita K: Haibu massaji ni yoru seijin dansei no shintaiteki • sinnriteki eikyo. Ube furontia diagaku kangogaku janaru 4(1): 37-43, 2011 (in Japanese)
    5. Sakai K et al: Kenko na josei ni taisuru takutiru kea no seiriteki • shinriteki koka. Nippon kango kenkyu gakkaishi 35(1): 145-152, 2012 (in Japanese)
    6. Honda Y et al: Serufu keiraku shiatsu ga kibun ni oyobosu kyusei koka to sono yuzabiriti ni kan suru kenkyu. Kenko Shien 15(1): 49-54, 2013 (in Japanese)
    7. Yokoyama K: Nihongoban POMS tebiki, 1-7. Kaneko Shobo, Tokyo, 1994 (in Japanese)
    8. Kamohara H et al: Effects of Shiatsu Stimulation on Peripheral Circulation. Toyo ryoho gakko kyokaishi(24): 51-56, 2002 (in Japanese)
    9. Asai S et al: Effects of Shiatsu StimuIation on Muscle PIiability. Toyo ryoho gakko kyokaishi (25): 125-129, 2001 (in Japanese)
    10. Yokota M et al: Effect on Pupil Diameter of Shiatsu Stimulation to the Anterior Cervical and Lateral Crural Regions. Toyo ryoho gakko kyokaishi (35): 77-80, 2011 (in Japanese)
    11. Watanabe T et al: Effect on Pupil Diameter,Pulse Rate, and Blood Pressure of Shiatsu Stimulation to the Sacral Region. Toyo ryoho gakko kyokaishi (36): 15-19, 2012 (in Japanese)
    12. Tadaka S et al: Tobu he no shiatsu shigeki ga doko chokkei • myakuhakusu• ketsuatsu ni oyobosu koka. Toyo ryoho gakko kyokaishi (37): 154-158, 2013 (in Japanese)
    13. Kato M: Kosoku sutoresu ratto he no hari tsuden shigeki no nonai monoamin ni oyobosu eikyo. Meiji shinkyu igaku (27): 27-45, 2000 (in Japanese)


    Shiatsu Therapy for a Patient with Suspected Peripheral Neuropathy while Diagnosed with Traumatic Cervical Spinal Cord Injury

    Ichiro Maruyama
    Graduated Japan Shiatsu College in 2012

    Abstract : This report examines the case of a patient diagnosed with traumatic cervical spinal cord injury and suspected peripheral neuropathy (flaccid paralysis of the lower extremities) who was treated with shiatsu therapy for the alleviation of dorsal muscle tension. After 29 treatments, lower-limb motor function recovered. This suggests that hypertonicity in paraspinal muscles was significantly related to the motor dysfunction due to peripheral neuropathy. Considering other reports on the effect of shiatsu stimulation in improvement of muscle pliability, we conclude that in this patient the decrease in muscle hypertonicity due to shiatsu therapy resulted in improved blood circulation and increased spinal range of motion, leading to a recovery of motor function.

    Keywords: flaccid paralysis of the lower extremities, shiatsu therapy, dorsal muscle tension


    I.Introduction

     Spinal cord injury refers to injury of the spinal cord where it is protected within the spinal canal. Depending on the level of the spinal cord injury, symptoms presented may include motor, respiratory, circulatory, urinary, digestive, or other dysfunctions. Treatment is divided between initial phase treatment and chronic phase treatment, with initial phase treatment including pharmacotherapy, localized rest, cranial traction, and surgery, while chronic phase treatment centers on rehabilitation. Here, we report on a case in which the symptoms of a patient diagnosed with traumatic cervical spinal cord injury virtually disappeared following therapy.

    Ⅱ.Methods

    Location

     Patient’s home

    Period

     August 25 to December 1, 2014 (Number of treatments: 29)

    Test subject

     82 year old female

    History of present illness

     The patient sustained a traumatic cervical spinal cord injury 46 years previously. Rehabilitation restored motor function in the upper limbs, but paralysis (paraplegia) of the lower limbs remained and she had been confined to a wheelchair ever since. Six years previously she sustained a fracture to her right humerus, and later required amputation of the arm due to pyogenic osteomyelitis. Two years previously she was diagnosed with tuberculosis and admitted to a tuberculosis ward, after which she became bedridden. After discharge from the hospital, she developed pain in her upper limb and dorsal regions, and it was arranged for her to received homecare massage for alleviation of the pain.

    Medical history

     Paraplegia (circulatory organ, urinary, and digestive organ dysfunction) due to spinal cord injury; gallbladder cancer; pancreatic cancer; tuberculosis; amputation of right arm due to pyogenic osteomyelitis

    Treatment

    • Shiatsu to cervical, dorsal, sacral, and gluteal regions in lateral position
    • Shiatsu to left upper limb and lower limbs in supine position (emphasis on treatment of lower limbs)

    Evaluation

    • Pain evaluated using 10-step VAS
    • Manual muscle testing (MMT)

    III.Results

    August 25 (Treatment #1)
    Pre-treatment findings
     Subjective findings

    • Motor paralysis and sensory dysfunction inferior to lumbar region
    • Numbness below knees
    • Bladder and rectal dysfunction
    • Pain in upper limb and dorsal regions
    • Hot and cold flashes (excessive sweating from neck up)

     Objective findings

    • Limited range of motion in left shoulder joint
    • Flaccid paralysis and sensory dysfunction of lower limbs
    • Pain in dorsal and gluteal regions

     Post-treatment findings

    • Hot and cold flashes alleviated due to improved circulation
    • Pain reduced

    September 4 (Treatment #4)
     Post-treatment findings

    • Dorsal region muscle tension reduced (thoracolumbar junction)
    • Pain in medial femoral region absent
    • Slight return of sensory function in femoral region (femoral nerve, obturator nerve)
    • Muscle contraction observed in femoralregion (adductor muscles)

    September 8 (Treatment #5)
     Post-treatment findings

    • Plantar pain absent
    • Patient found shiatsu to sacral region pleasurable

    September 18 (Treatment #8)
     Post-treatment findings

    • Patient felt urinary and bowel sensations (improvement of bladder and rectal dysfunction)
    • Return of sensory function to femoral region

    October 2 (Treatment #12)
     Post-treatment findings

    • Muscle contraction observed in femoral region (femoral nerve, obturator nerve)

    October 30 (Treatment #20)
     Post-treatment findings

    • Muscle contraction observed in femoral region (sciatic nerve)

    November 6 (Treatment #22)
     Post-treatment findings

    • Movement observed in hip joint (flexion, extension, external rotation, internal rotation)
    • Movement observed in knee joint (flexion, extension)
    • Left shoulder joint more stable; pain absent
    • Changed sensation distal to knee

    November 17 (Treatment #25)
     Post-treatment findings

    • Movement observed in ankle joint and toes (flexion, extension) with patient lying in lateral position
    • Patient able to form slight bridge (elevation of gluteal region)

    December 1 (Treatment #29)
     Post-treatment findings

     Subjective findings

    • Patient experiences numbness in calcaneal region
    • Pain eliminated

     Objective findings

    • Return of motor function inferior to lumbar region
    • Improvement to bladder and rectal dysfunction

    Table 1. 10-step VAS pain scale values (post-treatment)
    Table 1. 10-step VAS pain scale values (post-treatment)

    Table 2. Manual muscle testing (MMT) of lower limbs
    Table 2. Manual muscle testing (MMT) of lower limbs

    IV.Discussion

     In most cases of spinal cord injury, the vertebrae undergo dislocation fracture due to an external force, with concomitant damage to the spinal cord. Characteristics vary depending on the level and degree of spinal cord injury (complete or incomplete paralysis), but immediately after the injury spinal shock occurs and autonomy is lost in the spinal cord inferior to the injury. Specifically, flaccid paralysis occurs, with loss of all motor, sensory, and deep tendon reflex function, while at the same time autonomic nervous function is also impaired. Following the recovery period, reflex functions in the spinal cord inferior to the injury are recovered, resulting in spastic paralysis, characterized by hyperreflexia of the deep tendon reflexes 1.
     In this case, since the patient exhibited flaccid paralysis from post-injury to the present, it is likely that this was a case not of spinal cord injury, but rather of spinal cord compression. In other words, assuming lower motor neuron damage and comparing spinal cord injury level with ADL levels, since T1 ADLs (upper limbs normal, full wheelchair mobility) were possible and T6 functions (circulatory organ stability) were unstable, it was determined that there was an irregularity in the upper thoracic vertebrae. Clinical findings indicated that the thoracic spine was straight, with almost no curve in the thoracic vertebrae. We may hypothesize that this caused hypertonus in the dorsal musculature, causing lower motor neuron damage, pain, and motor dysfunction.
     Based on the above determination of peripheral neuropathy due to spinal cord compression, shiatsu therapy was carried out with the objective of alleviating pain and restoring motor function in the patient. As a result, after 29 treatments, decrease in VAS values as an indicator of pain (Table 1) and recovery of muscle strength as determined by manual muscle testing (Table 2) were observed, although numbness remained in the calcaneal region. If this were a case of spinal cord injury, such rapid return of function would be unlikely 2-3. It is therefore reasonable to assume that recovery was due to shiatsu treatment of peripheral neuropathy caused by nerve entrapment due to hypertonic muscles.
     At the very least, in this case it is highly likely that hypertonicity in paraspinal muscles was significantly related to the motor dysfunction due to peripheral neuropathy. Considering other reports on the effect of shiatsu stimulation in improvement of muscle pliability 4~6, we conclude that in this patient the decrease in muscle hypertonicity due to shiatsu therapy resulted in improved blood circulation and increased spinal range of motion, leading to a recovery of motor function.

    V.Conclusion

     Even in patients afflicted by long-term peripheral neuropathy (pain and motor dysfunction), recovery through shiatsu therapy is possible.

    VI.References

    1. Nara N et al: Toyo ryoho gakko kyokai rinsho igakukakuron (dai 2 han) sekizui sonsho. Ishiyaku shuppan KK: 171-173, 2010 (in Japanese)
    2. Shinno Y: Massho shinkei shogai no rihabiriteshon. Nihon rihabiriteshon igakukaishi 28 (6): 453-458 (in Japanese)
    3. Nishiwaki K et al: Massho shinkei sonshogo no shinkeisaisei to rihabiriteshon. Nihon rihabiriteshon igakukaishi 39 (5): 257-266, 2002 (in Japanese)
    4. Asai S et al: Effects of Shiatsu Stimulation on Muscle Pliability. Toyo ryoho gakko kyokai gakkaishi (25): 125-129, 2001 (in Japanese)
    5. Sugata N et al: Effects of Shiatsu Stimulation on Muscle Pliability(Part2). Toyo ryoho gakko kyokai gakkaishi (26): 35-39, 2002 (in Japanese)
    6. Eto T et al: Effects of Shiatsu Stimulation on Muscle Pliability(Part3). Toyo ryoho gakko kyokai gakkaishi (27): 97-100, 2003 (in Japanese)


    A Case of Posture Correction with a Combination of Pressure Application and Mobilization

    Genta Niikura
    Clinic Director, Genta Chiryoin

    Abstract : In clinical practice, one encounters many patients presenting subjective symptoms of shoulder stiffness or back pain. Here we examine a case in which symptoms were alleviated through posture and joint correction, in addition to using shiatsu therapy to reduce muscle tension. By combining the pressure applications of shiatsu therapy with mobilization, it was possible to achieve an effect on both muscles and joints.

    Keywords: shiatsu therapy, pressure application, exercise therapy, posture correction


    I.Introduction

     In clinical practice, one often encounters patients for whom, even though muscle tension is alleviated through shiatsu therapy consisting of pressure application to muscles and soft tissues, similar symptoms return after several days or weeks.

     It was our opinion that these symptoms could be more effectively treated with a combination of shiatsu therapy and ongoing posture correction and joint adjustment.

     Here, we report on a case in which significant therapeutic effect was achieved through joint adjustment and posture correction via the use of pressure applications combined with mobilization.

    Ⅱ.Methods

    Subject

     Female child care worker in her 30s

    Location

     This clinic (Genta Chiroin)

    Period

     March 30 to April 12, 2014

    Primary complaint

     Work involves frequent crouching, leading to lumbar pain, stooped posture, and severe shoulder stiffness; patient told by coworkers that she has poor posture

    Treatment method

     Full body shiatsu 1 combined with mobilization for shoulder, hip, and sacroiliac joints

    • For rounded back:
      Prone position: Palmar pressure to spine, spinous process adjustment
    • For internal rotation of shoulder joints:
      Lateral position:
      Pressure applications to superior angle of scapula, sub-clavicular region, and coracoid process, plus adjustment procedure to scapula
    • For Lumbar kyphosis:
      Supine position: Palmar pressure to abdomen and inguinal region
      Prone position: Adjustment of hip and sacroiliac joints
    • For posterior pelvic tilt:
      Supine position: Palmar pressure to abdomen and inguinal region
      Prone position: Adjustment of hip and sacroiliac joints

    III.Results

    Treatment #1 (March 30, 2014)
    Pre-treatment findings
     Subjective findings

    • Work involves frequent crouching, leading to lumbar pain, stooped posture, and severe shoulder stiffness; patient told by coworkers that she has poor posture Objective findings
    • Exaggerated posterior pelvic tilt, rounded back, exaggerated internal rotation of shoulders (Fig. 1)

    Post-treatment findings
     Subjective findings

    • Reduced sensations of shoulder stiffness and lumbar pain; reduced discomfort at work, even after maintaining same posture for a prolonged period

     Objective findings

    • Tension in lumbar musculature reduced due to creation of anterior pelvic tilt and lumbar lordotic curve; reduced internal rotation of shoulders due to improved shoulder posture (Fig. 2)

    treatment #1

    Treatment #2 (April 12, 2014)
    Pre-treatment findings
     Subjective findings

    • Patient told by those around her that her posture had improved; alleviation of lumber pain

     Objective findings

    • Anterior pelvic tilt maintained; exaggerated internal rotation of shoulders observed (Fig. 3)

    Post-treatment findings
     Subjective findings

    • Alleviation of symptoms of shoulder stiffness and lumbar pain; reduced discomfort, even after maintaining same posture for a prolonged period

     Objective findings

    • Improvement of exaggerated internal rotation of shoulders (Fig. 4); alleviation of muscle tension due to adjustment of joint position

    treatment #2

    IV.Discussion

     According to the Comprehensive Survey of Living Conditions by the Japanese Ministry of Health, Labour and Welfare 2, the two most common symptoms experienced by both men and women in Japan are, in order, stiff shoulders and lumbar pain. Little has changed in this situation, and a comparatively large number of patients visiting our clinic list stiff shoulders or lumbar pain as their primary complaint.

     It is my experience in a clinical setting that, in order to alleviate shoulder stiffness or lumbar pain, effects are longer lasting if reduction of excess muscle tension is used in combination with joint adjustment.

     The reason is that, as humans are bipedal, they must continually maintain posture in opposition to gravity. The extensors, trunk muscles, and other antigravity muscles must maintain contraction in order to resist gravity and maintain proper posture, which when disrupted is corrected by postural reflexes 3. It follows that a greater load is placed on these muscles when proper posture and skeletal alignment are regularly disrupted during routine daily activities. For this reason, correction of chronically disrupted postural and skeletal alignment should help alleviate symptoms of shoulder stiffness and lumbar pain.

     In this case, initial examination revealed marked postural disruption from the line of gravity (Fig. 1), indicating probable hypertonus in the pectoralis major and other shoulder internal rotator muscles along with reduced tonus of the antigravity muscles. Also, hypertension in the gluteus maximus and hamstring muscles were likely responsible for the posterior pelvic tilt.

     In the initial treatment, hypertonus in the gluteus maximus and hamstrings was improved, along with overextension of the quadratus lumborum and erector spinae muscles, as was evidenced by the reductions in posterior pelvic tilt and lumbar kyphosis. Also, concerning the shoulder joints, changes to the position of the scapula were likely due to reduced hypertonus in the internal rotators, including the pectoralis major, latissimus dorsi, and subscapularis (Fig. 2).

     Prior to treatment #2, a slight internal rotation of the shoulder joints was observed, though no major postural disruption from the line of gravity compared to post-treatment #1 was apparent (Figs. 2, 3). In treatment #2, further improvements to pliability in hypertoned muscles improved balance with over-extended muscles, causing positional changes to the shoulder joint and humerus that likely resulted in reduced tension in the trapezius, sternocleidomastoid, and other neck muscles that led to improvements in head position.

     It is difficult to determine whether disrupted posture due to routine daily activities led to muscular hypertonus and hypotonus or whether the problem was due to irregularities in joint alignment, but since multiple reports have shown that shiatsu stimulation effectively increases muscle pliability 4-6, in this case it is likely that pressure application relaxed hypertoned muscles that were the cause of postural disruption while mobilization improved joint positioning, resulting in alleviation of symptoms.

    V.Conclusions

     When the pressure applications of shiatsu therapy are combined with mobilization, there is a tendency for symptoms of stiff shoulders and lumbar pain to be alleviated due to elimination of muscle hypertension and improved joint positioning. However, because this report only contains one example, it will be necessary to study a larger number of cases.

    VI.References

    1. Ishizuka H: Shiatsu ryohogaku, first revised edition, International Medical Publishers, Ltd. Tokyo, 2008 (in Japanese)
    2) 2. Japanese Ministry of Health, Labour and Welfare: Kokumin seikatsu kiso chosa. 2013, http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html (in Japanese)
    3. Toyo ryoho gakko kyokai: Seirigaku. Ishiyaku shuppan KK, 1990 (in Japanese)
    4. Asai S et al: Effects of Shiatsu Stimulation on Muscle Pliability. Toyo ryoho gakko kyokai gakkaishi (25): 125-129, 2001 (in Japanese)
    5. Sugata N et al: Effects of Shiatsu Stimulation on Muscle Pliability(Part2). Toyo ryoho gakko kyokai gakkaishi (26): 35-39, 2002 (in Japanese)
    6. Eto T et al: Effects of Shiatsu Stimulation on Muscle Pliability(Part3). Toyo ryoho gakko kyokai gakkaishi (27): 97-100, 2003 (in Japanese)


    五十肩に対する指圧治療:宮下雅俊

    宮下雅俊
    てのひら指圧治療院 院長

    Shiatsu Therapy for Frozen Shoulder

    Masatoshi Miyashita

     

    Abstract : With a view to relieving pain around the left shoulder joint and improving range of the left shoulder motion, a sixty year old female patient with frozen shoulder was treated by shiatsu. The treatment of twelve sessions resulted in removing the pain and improving the range of the joint motion. As for the range of motion, the difference between the left and right shoulders was eliminated. Increasing muscle flexibility by shiatsu therapy may have potential to ease pain and to improve range of joint motion.


    I.はじめに

     五十肩は肩関節周囲炎と呼ばれる疾患の一つである。整形外科での五十肩を含めた肩関節周囲炎の治療のガイドラインによると、急性期と慢性期では治療方針が異なり、急性期では疼痛緩和の為の貼付剤や消炎鎮痛剤、筋弛緩剤などの薬が処方される。慢性期ではマイクロウェーブやホットマグナーといった温熱療法やコッドマン体操などの運動療法が取り入れられている。

     今回、整形外科医による五十肩の診断を受けた患者に対して指圧治療を行い、関節可動域の改善がみられた症例を報告する。

    Ⅱ.対象および方法

    場 所: 都内患者宅
    期 間: 2012年11月16日〜2013年9月13日の合計12回の指圧施術
    施術対象:60歳女性
    家族歴: 特筆事項無し
    既往歴: 卵巣嚢腫
    現病歴: 2011年11月頃より左肩周辺に痛みが出はじめるものの、そのうち良くなるとの判断により約1年間放置していた。しかし疼痛が増大し、関節可動域の制限が強くなった。 2012年10月、整形外科にてX線の画像診断による石灰の沈着などが診られない等の理由から五十肩との診断を受ける。薬(ノイロトロピン)の処方と理学療法室での治療を進められたが、事情により毎日の通院が難しいため往診による指圧治療を受けることとなった。

    [検査所見]

    • ヤーガーソンテスト陰性
    • スピードテスト陰性
    • ペインフルアークサイン陰性
    • アップレイスクラッチテスト陽性
    • ダウバーン兆候陰性
    • ドロップアームサイン陰性
    • 棘上筋、三角筋後部線維に圧痛有り
    • 左上肢前方挙上に関節可動域制限と運動痛有り

    [診察所見]

    •  軽度円背を認める。
    • 伏臥位では左下肢が右下肢に比べ短い。 (内果を基準)
    • 腰椎の前弯が強く現れている。

    [治療方針]

     検査所見から棘上筋、三角筋を中心に肩関節の周辺を重点的に行う指圧1)と、全身の指圧施術を行う。

     

    III.結果

     左肩関節周囲の疼痛が改善してからは、三角筋後部線維を中心に肩関節の周辺を重点的に行う指圧と、胸椎の可動域を広げる目的で背部脊柱起立筋の両側に対する押圧法による衝圧法2)と全身の指圧施術を行った。

    第1回 2012年11月16日

    • 棘上筋、三角筋を中心に肩関節周囲の指圧施術と全身に対する指圧操作を行う。
    • 棘上筋、三角筋、上腕三頭筋に押圧操作を施しながらの、肩関節挙上、外転の他動運動による運動操作を行う。
    • 左上肢前方挙上の関節可動域の改善が見られた。
      (図1と図2の指圧治療の施術前、施術後の比較)

    第2回 2012年12月7日 

    • 棘上筋、三角筋を中心に肩関節周囲の指圧施術と全身に対する指圧操作を行う。
    • 棘上筋、三角筋、上腕三頭筋に押圧操作を施しながらの、肩関節挙上、外転の他動運動の運動操作を行う。
    • 自覚症状として前回の施術時に比べ、棘上筋よりも、三角筋後部線維の運動痛と圧痛が強く感じられる。

    第3回 2012年12月21日

    • 指圧施術前に、健側の右肩関節の可動域が前回よりも低下していることを画像で確認した。
    • 三角筋後部線維、前鋸筋を中心に肩関節周囲の指圧施術と全身に対する指圧操作を行う。
    • 腹臥位にて、背部脊柱両側に衝圧法を行う。
    • 三角筋後部線維、上腕三頭筋に押圧操作を施しながらの、肩関節挙上、外転の他動運動の運動操作を行う。
    • 左肩関節周囲の疼痛は改善したが、運動痛、圧痛は残っており、初回施術後の様な顕著な他覚的な変化がないため、施術期間を2週間に一度の治療ペースから、ひと月に一度の治療ペースに移行した。

    第4回 2013年1月25日

    • 前回と同様の施術内容。
    • 施術後、肩周辺の筋肉の緊張は和らぐが、上肢前方挙上に左右差が見られる。

    第5回 2013年2月15日

    • 前回同様の施術内容。
    • 施術後、肩周辺の筋肉の緊張は和らぐが、上肢前方挙上に左右差が見られる。 第6回 

    2013年3月15日

    • 前回同様の施術内容。
    • 施術後、肩周辺の筋肉の緊張は和らぐが、上肢前方挙上に左右差が見られる。 第7回 

    2013年4月12日

    • 前回同様の施術内容。
    • 三角筋後部線維の圧痛が和らいできている。
    • 施術後、肩周辺の筋肉の緊張は和らぐが、上肢前方挙上に左右差が見られる。

    第8回 2013年5月10日

    • 前回同様の施術内容。
    • 三角筋後部線維の圧痛、運動痛が和らいできている。
    • 施術後、肩周辺の筋肉の緊張は和らぎ、上肢前方挙上に左右差の減少。

    第9回 2013年6月14日

    • 前回同様の施術内容。
    • 三角筋後部線維の圧痛、運動痛が和らいできている。
    • 施術後、肩周辺の筋肉の緊張は和らぎ、上肢前方挙上に左右差の減少。

    第10回 2013年7月12日

    • 前回同様の施術内容
    • 三角筋後部線維の圧痛、運動痛が和らいできている。
    • 施術後、肩周辺の筋肉の緊張は和らぎ、上肢前方挙上に左右差が前回に比べ更に減少。

    第11回 2013年8月9日

    • 左右肩関節前方挙上の左右差がほとんど見られることはなく、左肩関節の関節可動域が改善した。
    • 左肩関節の疼痛の消失、運動痛の消失、圧痛の減少が確認できた。

    第12回 2013年9月13日

    • 前回同様、左右上肢の前方挙上の左右差がほとんど見られることはなく、左肩関節の関節可動域が改善した。
    • 左肩関節の疼痛の消失、運動痛の消失、圧痛の消失が確認できた為、五十肩に対する指圧治療は12回目をもって終了した。

     図1. 左右上肢前方挙上の肩関節可動域図1. 左右上肢前方挙上の肩関節可動域

    IV.考察

     五十肩は多様な症状を示すため、腱板断裂などの疾患が五十肩と診断され保存的治療が漫然と行われている場合も少なくない3)。今回は整形外科医による五十肩という診断後に指圧治療を開始したことが、患者が安心して指圧治療を受けることができた一番の要因であった。

     図1と図2の比較により、第1回指圧施術で左肩関節の前方挙上動作の改善が見られ、左肩関節の関節可動域の向上の確認と同時に、健側であるはずの右肩関節の可動域改善も確認できた。

     しかしながら図3の第3回指圧治療前では、改善していたはずの右肩関節の可動域が低下しているのが確認された。

     図4にあるように、第12回指圧施術で左右上肢前方挙上による肩関節可動域の左右差がほとんど見られない程度に改善し、両肩関節とも前方挙上の正常可動域のほぼ180度近くまで拡大していることが確認できた。

     これらの考察は正確なROM測定を行っていないので動きのメカニズムのどこに作用したかは断定できない。他方、肩関節の前方挙上運動は、上腕骨や肩甲骨の運動のみではなく、体幹(特に胸椎の伸展運動)の動きが連動して起こるとされている4)。  本症例における関節可動域改善のメカニズムを今回の結果から断定的に論じることはできないが、指圧刺激が筋の柔軟性を向上させる5)ことから、本症例へ施した肩甲間部、肩甲下部への指圧や背部への衝圧法により周辺の筋緊張が緩和され、上記の肩関節上方挙上運動機構のいずれかあるいは複数を改善させることにより、関節可動域が改善したと推察する。

    V.結論

     指圧療法は、五十肩における肩関節の可動域の改善に対して効果が確認できた。

    VI.参考文献

    1) 浪越徹著:普及版 完全図解指圧療法,p.224-225,日貿出版社,東京,2001
    2) 社団法人東洋療法学校協会 教科書執筆小委員会著:あん摩マッサージ指圧理論,p.17,p.27,株式会社医道の日本社,東京,2003
    3) 森岡健他:五十肩として治療されていた腱板断裂例の治療成績,p.283-290,日本リウマチ・関節外科学会雑誌vol.12,NO3,1993,
    4) 上田泰之他:若年者と高齢者における上肢挙上時の体幹アライメントの違い,体力科學,57(4),p.485-490,2008
    5) 浅井宗一他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果,p.125-129,東洋療法学校協会学会誌,(25),2001


    【要旨】

    五十肩に対する指圧治療
    宮下雅俊

     60歳女性の五十肩に対して、左肩関節周囲の疼痛の緩和、左肩関節の関節可動域の向上を目的として指圧療法を行った。その結果、全12回の指圧治療により左肩関節の疼痛の消失、関節可動域の改善が見られ、左右の肩関節の可動域に左右差が見られなくなった。指圧療法により、筋の柔軟性を高めることで、五十肩による疼痛改善、関節可動域の改善をみた。

    キーワード:五十肩、肩関節周囲炎、関節可動域、指圧


    老人性難聴に対する指圧療法:相澤真有美

    相澤真有美
    日本指圧専門学校 
    指導教員:金子泰隆・黒澤一弘・石塚洋之
    日本指圧専門学校専任教員

    Shiatsu Treatment for Presbycusis

    Mayumi Aizawa

     

    Abstract : Aiming at circulation improvement of the inner ear and the brain, shiatsu treatment procedures have traditionally been established for patients with headache and / or dizziness. Since it is experimentally known among shiatsu therapists that shiatsu affects the inner ear and the brain, the author has been interested in the influence of shiatsu treatment over audibility. This is a case report of a patient with presbycusis treated by shiatsu. As a result of the observation of blood pressure, pulse, body temperature and VAS (Visual Analog Scale) of hearing loss, a fall in systolic blood pressure and a raise in body temperature were significant, while decrease in value of VAS was not significant. Given that post-treatment VAS exhibited a declining trend and the patient’s response to beep sound of a sphygmomanometer was improved after shiatsu treatment, however, shiatsu treatment could be potentially contribute to the treatment of presbycusis.


    I.はじめに

     老人性難聴は、加齢現象によって引き起こされる感音性難聴である。現代医学的治療では治療困難とされ、補聴器を使って聴力を補うという対症療法が主な手段となっている。そのため、超高齢化社会の日本において、今後も増加するであろう老人性難聴に対して、効果的な治療法を見出すことは重要性が高いと考える。

     そのような中、指圧手技において耳鳴りに対する治療法がある。これは、聴力障害を伴うものを適応としてはいないとされている。しかしながら、指圧手技では頭痛やめまいに対する治療法があり、これらは内耳や脳の循環改善や血流の改善を治療方針としている1)。内耳や脳に影響があるというならば、聴力にも何らかの作用があるのではないかと思い、指圧施術がどう影響するのか関心があった。そこで、指圧を行うことで老人性難聴患者の血圧・脈拍数・体温・聞こえのVAS値がどう変化するか見ることを目的に施術を行った。

    Ⅱ.対象および方法

    施術対象:70歳 男性
    場所:患者自宅
    期間:2013年8月22日~2013年9月9日
    (2日に1回の間隔で定期的に施術。施術回数10回。)

    [現病歴]

    • 2010年に受けた人間ドックの聴力検査において、左耳の4000Hzの項目で「所見あり」とされた。耳鼻科を受診したところ、老人性難聴であるとの説明を受けた。

    [既往歴]

    • 幼少期に耳鼻科にて、左耳の鼓膜に異常があると診断された。以降、学校や会社などの定期健康診断の聴力検査において、左耳の1000Hzの項目では、常に「所見あり」と記載されている(表1)。

    表1. 聴力検査の結果表1. 聴力検査の結果

    [自覚所見]

    • 左側からの音や呼びかけに聞こえにくさを感じている。右耳が聞こえるため、日常生活において不自由は感じていない。

    [評価]

    • 血圧および脈拍数は、オムロン社製電子血圧計HEM-6000を用いて左手首で測定した。
    • 体温は、オムロン社製 電子体温計 MC-670を用いて左腋窩温を測定した。
    • VAS値…今迄で一番聞こえが悪かったときを100、今迄で一番聞こえが良かったときを0として、聞こえ具合の自己申告の値を記録した。

    ※ 血圧、脈拍数、体温は、毎回の施術前・施術後に計測を行った。
    ※ 聞こえ具合を調べるために、音楽を26~38dBの音量で3分間のヒアリングを行った後にVAS値の記入をした。
    ※ VAS値は、8/22・8/28・9/3・9/9の4回の計測を行った。

     統計処理は、施術前と施術後の各数値について、対応のあるt検定により比較を行った。有意判定は危険率5%未満で行った。

    [施術法]

    • 坐位にて浪越式基本指圧の頚部(側頚部、延髄部、後頚部)と頭部(側頭部)操作。
    • 経穴(耳門、聴宮、聴会、翳風、瘈脈、完骨、風池、)への指圧操作。 上記を合わせて、約15分の施術を行う。

    III.結果

    [経過]

    第1回目(2013.8.22,9:00)
    施術前:頚部と側頭部に硬さを感じる。
    施術後:頚部が軟らかくなった。音の聞こえは極端な変化は感じない。

    第4回目(2013.8.28,9:30)
    施術前:以前よりも頚部が軟らかい。乳様突起周囲部に硬さを感じる。
    施術後:全体的に軽くなったような気がする。しかし、聴覚で変化があるようにあまり感じない。

    第6回目(2013.9.1,9:35)
    施術前:熱帯夜で眠りが浅く、疲れを感じる。気温が暑すぎて、体がだるい。肌がとても汗ばんでいる。
    施術後:疲労感が少し軽減した。

    第7回目(2013.9.3,9:30)
    施術前:肩部と乳様突起周囲部の硬さが強い。
    施術後:少しだけ、音が聞こえ易くなったように感じる。

    第9回目(2013.9.7,11:15)
    施術前:今日は調子の悪いところはないと感じる。頚部の硬さが強い。
    施術後:外出での気疲れが軽減し、落ち着いた。

    第10回目(2013.9.9,9:15)
    施術前:昨日の庭仕事で疲れが残っている。右頚部が特に硬い。
    施術後:以前よりも解れ易くなっている。体温計や血圧計の電子音が以前よりも聞こえ易い気がする。

    図1.施術前・施術後の血圧の変化図1.施術前・施術後の血圧の変化

    図2.施術前・施術後の脈拍数の変化図2.施術前・施術後の脈拍数の変化

    vol3aizawa_fig03c図3.施術前・施術後の体温の変化

    vol3aizawa_fig04c図4.施術前・施術後のVAS値の変化

    IV.考察

     老人性難聴では、年齢と共に生理的に聴力低下が生ずる。一般に20歳代以降、軽度に高音域の聴力が低下し、特に40歳代よりそれが明瞭になってくる。その低下の程度は個人差があり、長い年月の間の栄養状態・騒音曝露・薬物投与・疾患・その他種々の因子がこれに関与している。治療としては、ビタミンB1やATPや血流改善薬などの投与が試みられるが、改善がほとんど期待できない2)。そのため、対症療法として、補聴器を使って聴力を補うというのが、老人性難聴に対しては有効な方法とされている。

     音は、外耳道を通って鼓膜を振動させる。鼓膜の振動は、これに連なる耳小骨によって内耳に伝えられる。内耳には聴覚受容器のある蝸牛がある。蝸牛の中にある基底膜の上に、コルチ器官があり、コルチ器官の中には有毛細胞が並んでいる。鼓膜に起こった振動は、外リンパや内リンパに伝えられ、有毛細胞を刺激する。その刺激を電気信号に変えてラセン神経節を通り蝸牛神経に伝えている。

     有毛細胞やラセン神経節は、蝸牛内にある血管条で作られる栄養を受けている。蝸牛の栄養を補う動脈は、椎骨動脈→脳底動脈→前下小脳動脈→迷路動脈→内耳動脈→総蝸牛動脈→前庭蝸牛動脈→固有蝸牛動脈と流れ、血管条へと繋がっていく。血管条は栄養を作るために豊富な血流を必要とするので、血管条への血流が阻害されると内耳障害を起こす可能性が高くなると思われる。

     老人性難聴では、蝸牛の有毛細胞、蝸牛ラセン神経節細胞、蝸牛管血管条、蝸牛管基底板に起きた変性が聴力喪失の病理学的理由と考えられている3)。老化とともに有毛細胞などが徐々に変性していき、徐々に聞こえが悪くなっていく。

     今回、患者は老人性難聴を発症してから3年以上経過しており、聴力が回復することを患者本人は全く期待していなかった。しかし、なるべく現在の聴力を維持したいとの希望があった。そこで、残存している有毛細胞と耳の他の機能を維持・活性させるため、首から内耳・蝸牛に向かう動脈の血流を改善することで、血管条の血流を増やし、有毛細胞などへの栄養を補給することを図った。 

     指圧手技において治療する場合、側臥位・伏臥位・仰臥位にて施術を行うことが正しい操作である。しかし、患者が短時間での施術を希望したため、坐位にて浪越式基本指圧の頚部(側頚部、延髄部、後頚部)と頭部(側頭部)を操作する4)こととした。

     また、その施術範囲に存在する経穴「耳門、聴宮、聴会、翳風、瘈脈、完骨、風池」を指圧することとした。これらの経穴は、鍼灸療法において、難聴の治療に用いられるとされる経穴である5)6)7)。これらの経穴の場所には、以下の神経と動脈が通っている8)。

    耳門、聴宮、聴会…下顎神経、浅側頭動脈
    翳風、瘈脈…大耳介神経、後耳介動脈
    完骨…小後頭神経、後頭動脈
    風池…頚神経後枝、後頭動脈、椎骨動脈

     血圧・体温・脈拍数で特徴ある箇所を挙げると、第6回で血圧が施術後に上昇、第9回に体温が施術後に下降が見られる。第6回の血圧の上昇については、患者が暑さを訴えたので施術途中に冷房を入れ、急激に冷気にあたったため、血管収縮が起きたと考えられる。第9回目に関しては、外出後に計測・施術をしたことが影響したのではないかと推測される。通常は朝食後1時間ほどの休憩をとった後に計測・施術を行っていた。しかし、第9回目の日は、患者が外出から帰宅してすぐに計測・施術を行ったため、体温が通常と異なる変化を示したのだと考えられる。

     全体として、施術前に比べ施術後は、収縮期血圧(P=0.035)に有意な低下が見られ、体温(P=0.017)に有意な上昇が認められた。 VAS値においては、施術前VAS値に対して施術後VAS値が全て低下傾向を示しているのだが、有意な減少は認められなかった。(P=0.063)

     施術前VAS値が前回に比べて、上昇傾向である。これは、猛暑や作業による疲労が、施術前のVAS値に影響したものと思われる。特に第10回では、前日に庭木の剪定作業を長時間していたため、頚部の筋肉に柔軟性が乏しかった。これにより、斜角筋群や後頭下筋群の筋緊張により、頚部の血流が阻害されたと考えることができる。

     施術前VAS値が上昇している中でも、電子体温計や電子血圧計の測定終了時に発される電子音への反応がよくなっていった。第1~3回目は、施術者から電子音が鳴ったことを指摘しないと計測が終了したことに気付かなかった。これは、左耳の聞こえが悪い患者にとって、左腋窩の電子体温計と左手首に電子血圧計からの音が聞こえにくかったためである。それが、第7回目以降は患者自ら電子音が鳴ったことに気付き、計測終了を告げるようになった。患者本人も「電子音の聞こえがよくなった気がする」と話しており、施術によって聞こえの改善に影響したものと考えられる。

     栗原ら、横田ら、渡辺らが、腹部・前頚部・仙骨部の指圧刺激が瞳孔直径を縮小させること9)10)11)などの報告がある。これらは、指圧刺激が交感神経の抑制、副交感神経の亢進に働くことを示唆するものであると考えられる。そのような点を踏まえると、指圧療法を行うことで、自律神経系活動の調和により血流が改善され、その結果、聞こえの改善に影響したと考えることができる。

     なお、患者は、2013年9月10日に人間ドッグを受診し、1000Hzと4000Hzの聴力検査を行った。しかし、改善は見られなかった。とはいえ、健康診断の聴力検査は、難聴、中耳炎、耳下腺炎などの疾患を早期発見することが目的の検査であり、精密な聴力や難聴の程度を調べるものではない。ゆえに、今後このような症例を検証する場合は、耳鼻科にて標準純音聴力検査を行いオージオグラムの記録をとって、聴力の状態の把握を行ったほうがよいだろう。今後更なる研究を進めていき、老人性難聴に対する指圧療法の可能性を探りたい。

    V.結論

     今回の計測において、施術後VAS値に有意な反応はみられなかった。しかし、施術後VAS値が低下傾向を示したことや、電子音への反応の改善を見られたことから、指圧療法が老人性難聴の治療に貢献できる可能性があると考える。

    VI.参考文献

    1) 石塚寛:指圧療法学 改訂第1版,国際医学出版,東京,p.179-184,2008
    2) 鈴木純一他:標準耳鼻咽喉科・頭頚部外科学 第3版,医学書院,東京,p.35-36,2008
    3) アンダーソン病理学カラーアトラス 第1版,メディカル・サイエンス・インターナショナル,東京,p.457,2001
    4) 石塚寛:指圧療法学 改訂第1版,国際医学出版,東京,p.71-73,2008
    5) 木下晴都:最新 鍼灸治療学 上巻第3版,医道の日本社,神奈川,p.320,1992
    6) 日本鍼灸医学 経絡治療・臨床編 第1版,経絡治療学会,p.175,2001
    7) 中村辰三:お灸入門,医歯薬出版,東京,p.135,2009
    8) 新版経絡経穴概論 第1版,医道の日本社,神奈川,2009
    9) 栗原耕二郎他:腹部の指圧刺激が瞳孔直径に及ぼす効果,東洋療法学校協会学会誌(34),p.129-132,2010
    10) 横田真弥他:前頚部・下腿外側部の指圧刺激が瞳孔直径に及ぼす効果,東洋療法学校協会学会誌(35),p.77-80,2011
    11) 渡辺貴之他:仙骨部への指圧刺激が瞳孔直径・脈拍数・血圧に及ぼす効果,東洋療法学校協会学会誌(36),p.15-19,2012


    【要旨】

    老人性難聴に対する指圧療法
    相澤 真有美

     指圧では頭痛やめまいに対する治療法があり、内耳や脳の循環改善や血流の改善を治療方針としている。内耳や脳に影響があるというならば、聴力にも何らかの作用があるのではないかと思い、指圧施術がどう影響するのか関心があった。そこで、老人性難聴患者に指圧を行い、血圧・脈拍数・体温・聞こえのVAS値がどう変化するかを観察した。その結果、収縮期血圧に有意な低下が見られ、体温に有意な上昇が認められたが、VAS値には有意な減少は認められなかった。しかし、施術後VAS値が低下傾向を示したことや、電子音への反応の改善を見られたことから、指圧療法が老人性難聴の治療に貢献できる可能性があると考える。

    キーワード:五十肩、肩関節周囲炎、関節可動域、指圧


    全身指圧による心理的影響を測定した一例:大木慎平

    大木 慎平
    ねこのて指圧 代表

    Measurement of the Psychological Influence of Full Body Shiatsu Therapy: a Case Report

    Shinpei Oki

    Abstract : With the aim of reducing psychological stress, a female patient in her twenties had three sessions of full body shiatsu therapy between 5/24/2015 and 6/7/2015. The psychological influence of the full body shiatsu therapy was measured using the Profile of Mood States (POMS). After the course of the full body shiatsu therapy, all the T-scores of the six factors improved. This suggests that the full body shiatsu therapy has a stress-relief effect, and further studies are required to verify this.

    Keywords: shiatsu, stress, POMS


    I.はじめに

     現代社会はストレス社会ともいわれるように、多くの人が精神的ストレスにさらされながら生活している1)。我が国においては、ストレスケアを目的として代替医療が用いられるケースも多く、あん摩、マッサージ、指圧などの手技療法もその選択肢に含まれる。

     ストレス緩和を目的とした手技療法の研究は多数行われており2〜5)、有用な効果を得ていることを確認出来る。ストレスに対する指圧治療の研究も行われてはいる6)が、施術者が患者に対して行う一般的な指圧治療の効果に関しては、検討が十分になされているとは言い難い。そこで今回、精神的ストレスを感情・気分尺度の面から評価し、全身指圧がストレス緩和に効果をあらわした症例を得られたので、将来的な調査に先駆け報告する。

    Ⅱ.対象および方法

    対象

     20代女性、事務職

    期間

     2015年5月24日~6月7日 (計3回)

    場所

     患者自宅

    治療方法

     横臥位に始まる浪越式全身指圧操作法

    評価方法

     心理的影響の評価として各治療日の施術開始直前と、施術終了直後に日本語版POMSTM(金子書房)を実施した。POMSはMcNairらにより米国で開発された気分プロフィール検査で、気分の状態に関する65の質問項目に回答することで、緊張-不安(Tension-Anxiety)、抑うつ(Depression)、怒り-敵意(Anger-Hostility)、活気(Vigor)、疲労(Fatigue)、混乱(Confusion)の6つの因子を同時に測定することが可能である7)。今回得られたPOMSの結果は、粗得点をT得点に換算し集計した。POMSは健康成人男女を対象に大規模な集団で実施され、標準化されており、年齢、性別ごとの平均値、標準偏差からT得点が算出される。T得点は50+10×(粗得点-平均点)/ 標準偏差で算出され、粗得点が平均であればT得点は50になる。T得点が低いほど、緊張-不安、抑うつ、怒り-敵意、活気、疲労、混乱の状態が低いことが示される。つまり、活気についてはT得点が高いほど良い状態を示すということになる7)

     患者に対しては、POMSの趣旨と計測方法を十分に説明し、研究への協力に同意を得た。

    Ⅲ.結果

    [現病歴]

     2015年4月に部署の異動があり、まだ新しい職場や仕事に馴染めず、日々強いストレスを感じている。仕事はほぼVDT(Visual Display Terminals)作業で、1日7時間以上PC入力作業を行っている。

    [既往歴]

     鼡径ヘルニア(2013年に手術済み)

    [家族歴]

     特記すべき事項なし

    [自覚所見]

    • 睡眠障害
      精神をリラックスできずに、寝つきが悪い日がある。寝ようと意識すればするほど眠れなくなる。
    • 頸、肩こり、腰痛
      慢性的に頸、肩はこり固まった感じがする。同じ姿勢をとり続けることが多いためか、腰を反らすとぎしぎしと痛む。

    [診察所見]

    • 視診
      顔色は血色悪く、クマも見られる。顎周囲に多数のニキビを確認した。姿勢はforward head postureで腰椎後弯の増強がみられる。
    • 触診
      頸部…前・中斜角筋、頭板状筋、小・大後頭直筋、頭半棘筋に硬結を確認。下位頸椎のアライメント不整もみられる。
      肩背腰部…僧帽筋上部線維、肩甲挙筋、腰方形筋に硬結を確認。
      腹部…下腹部に力がなく、下行結腸部(臍左部)に硬結を確認。

    [治療第1回(2015年5月24日)]

    • 背部のこわばりが緩和された。
    • 施術直後は全身の力が抜けた感じがして、少し眠気がある。

    [治療第2回(2015年5月30日)]

    • 前回施術後の夜はよく眠れ、翌朝も起床時の身体の重だるさを感じなかった。
    • 普段より頸、肩のこりは軽度な気がする。

    [治療第3回(2015年6月7日)]

    • 施術後しばらくはよく眠れる。起床時も比較的すっきりとしている。
    • 頸、肩のこりは感じるが、ひどくはない。腰もややこわばった感じがあるが、痛むほどではない。
    • 自覚としてもストレスの軽減を感じる。

     全3回の治療前後で計測したPOMSのT得点を示す(表1)。5月24日の不安、5月30日の活気の項目を除き、いずれの項目も治療直後は数値の改善を示し、治療回数を重ねるごとに概ね改善の傾向を示した(図1)。

    表1.POMS 6項目のT得点表1.POMS 6項目のT得点

    図1.POMS 6項目のT得点の変化図1.POMS 6項目のT得点の変化

    Ⅳ.考察

     今回の患者に対しては、全3回の治療を経て6項目の全てで改善が確認された。蒲原らは腹部の指圧、浅井らは腰背部の指圧により交感神経活動が抑制される可能性を示している8〜9)。また、横田、渡辺、田高らはそれぞれ前頸部、下腿、仙骨部、頭部の指圧で縮瞳反応が生じることを報告しており、交感神経活動の抑制、もしくは副交感神経活動の亢進が生じる可能性が示されている10〜12)。今回患者に対し行ったのは全身指圧であり、前述の部位に対しては網羅的に指圧刺激が施されているため、同様の作用で交感神経活動の抑制、ならびに副交感神経活動の亢進が生じることにより、リラクゼーション効果が得られた可能性がある。また、加藤は拘束ストレスラットに対する鍼通電刺激により、脳各部位のドーパミンやセロトニンなどのモノアミン分泌が正常化に向かうことを報告しており13)、指圧刺激でも同様の機序が生じる可能性が考えられる。

     今回のような一症例だけでは、ストレスに対する指圧の効果を論じるには不十分である。ストレス緩和の手段としての指圧の有効性を検証するためにも、統計学的手法に基づいた調査が求められるため、今後の研究課題としたい。

    Ⅴ.結論

     全3回の全身指圧治療で、POMSの6項目全てで改善がみられた。

    参考文献

    1) 内閣府HP:平成20年度版国民生活白書,2008
    2) Kober, A., Scheck,T.他:Auricular acupressure as a treatment for anxiety in prehospital transport setting,Anesthesiology 98,p.1328-1332,2003
    3) 佐藤都也子:健康な成人女性におけるハンドマッサージの自律神経活動および気分への影響,山梨大学看護学会誌 4(2),p.25-32,2006
    4) 藤田佳子:背部マッサージによる成人男性の身体的・心理的影響,宇部フロンティア大学看護学ジャーナル 4(1),p.37-43,2011
    5) 坂井桂子 他:健康な女性に対するタクティールケアの生理的・心理的効果,日本看護研究学会雑誌 35(1),p.145-152,2012
    6) 本田泰弘 他:セルフ経絡指圧が気分に及ぼす急性効果とそのユーザビリティーに関する研究,健康支援 15(1),p.49-54,2013
    7) 横山和仁:日本語版POMS手引,1-7,金子書房,東京,1994
    8) 蒲原秀明 他:末梢循環に及ぼす指圧刺激の効果,東洋療法学校協会学会誌 (24),p.51-56,2002
    9) 浅井宗一 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果,東洋療法学校協会学会誌 (25),p.125-129,2001
    10) 横田真弥 他:前頚部および下腿外側部の指圧刺激が瞳孔直径に及ぼす効果,東洋療法学校協会学会誌 (35),p.77-80,2011
    11) 渡辺貴之 他:仙骨部への指圧刺激が瞳孔直径・脈拍数・血圧に及ぼす効果,東洋療法学校協会学会誌 (36),p.15-19,2012
    12) 田高隼 他:頭部への指圧刺激が瞳孔直径・脈拍数・血圧に及ぼす効果,東洋療法学校協会学会誌 (37),p.154-158,2013
    13) 加藤麦:拘束ストレスラットへの鍼通電刺激の脳内モノアミンに及ぼす影響,明治鍼灸医学 (27),p.27-45,2000


    【要旨】

    全身指圧による心理的影響を測定した一例
    大木 慎平

     本症例では、20代女性に2015年5月24日~6月7日にかけて心理的ストレス改善を目的として計3回の全身指圧を施し、それによる心理的影響をPOMS(Profile of Mood States)を指標として計測した。施術の結果、POMSにおける6項目すべてのT得点に改善がみられた。以上のことから、ストレス緩和に対する全身指圧の有効性を検証するのは意義のあるものと推測する。

    キーワード:指圧、ストレス、POMS


    頸部外傷性脊髄損傷の診断を受けたが末梢神経障害であったと思われる患者に対する指圧療法:丸山一郎

    丸山一郎
    日本指圧専門学校 53期卒業生

    Shiatsu Therapy for a Patient with Suspected Peripheral Neuropathy
    while Diagnosed with Traumatic Cervical Spinal Cord Injury

    Ichiro Maruyama

     

    Abstract : A patient with traumatic cervical spinal cord injury and suspected peripheral neuropathy (flaccid paralysis of the lower extremities) was treated with shiatsu therapy with the aim of releasing dorsal muscle tension. After a course of 29 sessions of shiatsu therapy, the lower-limb motor function recovered. This suggested the presence of significant muscle hypertonicity alongside the spine was significantly related to the motor dysfunction caused by the peripheral neuropathy. Considering other reports on the improvement of muscle flexibility with shiatsu therapy, we conclude that in our patient, the release of muscle tension by the shiatsu therapy improved blood circulation and the range of motion of the spine, leading to recovery in motor function.

    Keywords: flaccid paralysis of the lower extremities, shiatsu therapy, dorsal muscle tension


    I.はじめに

     脊髄損傷とは脊柱管の中に保護されている脊髄の損傷である。脊髄損傷レベルにより運動障害・呼吸障害・循環器障害・排尿障害・消化器障害などの症状を呈する。治療は初期治療と慢性期治療に分け、初期治療では薬物療法・局所安静・頭蓋牽引・手術、慢性期治療ではリハビリテーションが中心となる。今回、頸部外傷性脊髄損傷の診断を受けた患者に施術を行い症状がほぼ消失したので報告する。

    Ⅱ.対象および方法

    場所

     患者宅

    期間

     平成26年8月25日~12月1日 (治療回数29回)

    施術対象

     82歳女性

    現病歴

     46年前に頸部外傷性脊髄損傷を発症、リハビリにより上肢の運動機能は回復するが、下肢は麻痺(対麻痺)が残存、それ以来車椅子となる。6年くらい前に右上腕骨骨折、その後、化膿性骨髄炎による右腕切断。2年くらい前に結核と診断され結核病棟に入院、その後寝たきりとなる。退院後、上肢・背部の疼痛があらわれ、疼痛緩和の目的で訪問マッサージを受けることとなった。

    既往歴

     脊髄損傷による対麻痺(循環器障害・排尿障害・消化器障害)胆嚢癌・膵臓癌・結核・化膿性骨髄炎による右腕切断

    治療法

    • 横臥位における頸部・背部・仙骨部・臀部指圧
    • 仰臥位における左上肢・下肢指圧(両下肢に重点を置く)

    評価

    • 10段階のVASを用いて疼痛の評価を行った。
    • 徒手筋力テスト(MMT)

    III.結果

    8月25日(第1回)
     [術前所見]
     自覚所見

    • 腰部から下の運動麻痺と感覚障害。
    • 膝から下の痺れ感あり。
    • 膀胱直腸障害あり。
    • 上肢・背部の疼痛。
    • 冷えのぼせ(頸部より上の多汗)

     他覚所見

    •  左肩関節可動域制限。
    • 下肢弛緩性麻痺と感覚障害。
    • 背部から臀部にかけての疼痛。

     [術後所見]

    • 血流改善により冷えのぼせ感が軽くなった。
    • 疼痛が軽減された。

    9月4日(第4回)
     [術後所見]

    • 背部の筋緊張が和らぐ。(胸腰移行部)
    • 大腿内側の疼痛がとれる。
    • 大腿部の感覚が戻りはじめる。(大腿神経・閉鎖神経)
    • 大腿部の筋収縮がみられる。(内転筋)

    9月8日(第5回)
     [術後所見]

    • 足底の疼痛がとれる。
    • 仙骨部の指圧が気持ち良かった。

    9月18日(第8回)
     [術後所見]

    • 尿意、便意を感じる。(膀胱直腸障害の改善)
    • 大腿部の感覚が戻る。

    10月2日(第12回)
     [術後所見]

    • 大腿部の筋収縮がみられる。(大腿神経・閉鎖神経)

    10月30日(第20回)
     [術後所見]

    • 大腿部の筋収縮がみられる。(坐骨神経)

    11月6日(第22回)
     [術後所見]

    • 股関節の動きがみられる。(屈曲・伸展・外旋・内旋)
    • 膝関節の動きがみられる。(屈曲・伸展)
    • 左肩関節が安定し疼痛がとれる。
    • 膝下の感覚が変わった。

    11月17日(第25回)
     [術後所見]

    • 足関節と足指の動きがみられる。〈屈曲・伸展)横臥位
    • 軽度ブリッジが出来る。(臀部挙上)

    12月1日(第29回)
     [術後所見]

     自覚所見

    • 踵骨部の痺れ感がある。
    • 疼痛の発生がなくなった。

     他覚所見

    • 腰から下の運動機能回復。
    • 膀胱直腸障害改善

    表1.疼痛に対するVAS値10段階(術後)表1.疼痛に対するVAS値10段階(術後)

    表2.下肢の徒手筋力テスト(MMT)表2.下肢の徒手筋力テスト(MMT)

    IV.考察

     脊髄損傷の多くは外力によって脊椎の脱臼骨折が起こり、それに伴って脊髄が損傷されるものである。脊髄損傷の発生したレベルと程度(完全麻痺か不完全麻痺)によって特色があるが、損傷発生直後には脊髄ショックに陥り、損傷レベルから下位の脊髄は自律性を失う。すなわち運動、知覚、深部腱反射等すべてが消失した弛緩性麻痺となり、同時に自律神経機能も低下する。回復期を過ぎると損傷脊髄以下の反射機能は回復して痙性麻痺となり、深部腱反射は亢進してくる1)
     本症例は、受傷後から現在に至るまで弛緩性麻痺の状態だったことから脊髄損傷までは考えられず、脊髄圧迫であったと考えることができる。すなわち下位運動ニューロン障害が考えられ、脊髄損傷レベルとADLレベルで照らし合わせると、T1(上肢は正常、自由な車椅子動作可能)は可能、T6(循環系の安定)は安定しないので上位胸髄での異常があると判断した。診察所見として胸椎弯曲がほとんどなくストレートであった。その為に背部筋緊張が亢進し下位運動ニューロン障害を引き起こし、疼痛および運動機能障害が起きている推測することができる。
     上記より脊髄圧迫による末梢神経障害との判断のもと、本症例に対し疼痛の緩和と運動機能回復を目的として、指圧施術を行った。その結果、29回の施術により踵骨部の感覚障害は一部残るものの、疼痛を指標としたVAS値が減少し(表1)、徒手筋力テストにおける筋力の回復がみられた(表2)。仮に本症例が脊髄損傷であった場合、今回のような短期的な機能回復は考えづらい2〜3)。よって本症例については、筋緊張の亢進による神経絞扼が原因でおこった末梢神経障害が指圧療法により回復したと考えるのが妥当である。
     本症例の末梢神経障害による運動機能障害には、脊髄側の筋緊張亢進が少なからず関与していると考えられる。指圧刺激により筋の柔軟性が向上する報告がある4〜6)ことから、筋緊張緩和・血行促進・脊柱可動域の改善がされ、運動機能の回復に至ったと考える。

    V.結論

     長年の末梢神経障害(疼痛と運動機能障害)を患っても、指圧療法での回復の可能性がある。

    VI.参考文献

    1) 奈良信雄 他:(社)東洋療法学校協会臨床医学各論(第2版)脊髄損傷,医歯薬出版株式会社,p.171-173,2010
    2) 眞野行生:末梢神経障害のリハビリテーション(社)日本リハビリテーション医学会誌28(6),p.453-458
    3) 西脇香織 他:末梢神経損傷後の神経再生とリハビリテーション(社),日本リハビリテーション医学会誌39(5),p.257-266,2002
    4) 浅井宗一 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果(社),東洋療法学校協会学会誌(25),p.125-129,2001
    5) 菅田直記 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果(第2報),(社)東洋療法学校協会学会誌(26)p.35-39,2002
    6) 衛藤友親 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果(第3報),(社)東洋療法学校協会学会誌(27)p.97-100,2003


    【要旨】

    頸部外傷性脊髄損傷の診断を受けたが末梢神経障害であったと思われる患者に対する指圧療法
    丸山 一郎

      今回、頸部外傷性脊髄損傷との診断を受けたが、末梢神経障害(下肢弛緩性麻痺)であったと思われる患者に指圧療法を行った。背部筋緊張の緩和を目的に施術を行った結果、29回の施術で下肢運動機能の回復に至った。末梢神経障害による運動機能障害には、脊髄側の筋緊張亢進が少なからず関与していると考えられる。指圧刺激による筋の柔軟性が向上する報告などもあることから、指圧によって筋緊張緩和したことにより血行促進・脊柱可動域の改善がされ、運動機能の回復に至ったと考える。

    キーワード:下肢弛緩性麻痺、指圧療法、背部の筋緊張