カテゴリー別アーカイブ: 症例報告

線維筋痛症に対する指圧治療:作田 早苗

作田 早苗
りんでんマニピ指圧治療院

Shiatsu Treatment for Fibromyalgia: a Case Report

Sanae Sakuta

 

Abstract : This report examines the progress of subjective symptoms in the case of a 50-year-old female patient diagnosed with fibromyalgia. Following 163 shiatsu treatments between March 2015 and January 2017, the unbearable pain she had been experiencing throughout her body had been reduced to the extent that she sometimes forgot it was there. This suggests that the full body shiatsu therapy treatment resulted in increased muscle pliability and improved autonomic nervous function.

Keywords: shiatsu, fibromyalgia


I.はじめに

 線維筋痛症は発症年齢の多くが30~50代で、日本における男女比は男性16.8%:女性83.2%であり、いわゆる働き盛りの女性に多いのが特徴である。長期間にわたる激しい痛みの為、生活の質(QOL)が著しく低下し、社会的にも大きな問題を招いているにもかかわらず、進行例が多いことや、臨床像の複雑さもあり、原因がわからずドクターショッピングを繰り返している患者も多い1)。線維筋痛症は米国リウマチ学会(ACR)で1990年に定義が成立した歴史の浅い疾患であり2)、我が国においても厚生労働省により調査研究が開始されたのは2000年代に入ってからのことである3)
 症状としては、原因不明の全身の疼痛を主症状とし、不眠、うつ病などの精神神経症状、過敏性腸症候群、逆流性食道炎、過活動性膀胱などの自律性神経症状を随伴症状とする病気である。また、ドライマウス、ドライアイなどの粘膜等の障害が高頻度に合併することがわかってきている。疼痛は、腱付着部炎や筋肉、関節などに及び、四肢から身体全体に激しい疼痛が拡散する。この疼痛発生機序の一つには下行性疼痛覚制御経路障害があると考えられている1)
 発症要因は、外傷・手術・ウイルス感染などの外的要因や、離婚・死別・別居・解雇・経済的困窮などの生活環境のストレスに伴う内的要因に大別される。これらの要因により慢性ストレスが生じ、神経・内分泌・免疫系の異常が引き起こされることで、疼痛シグナル伝達制御のシステムが著しく撹乱され、さらに多様な精神症状、疼痛異常が招かれると考えられている1)
 今回、線維筋痛症と診断された患者に対する指圧治療を約2年間(計163回)続けたところ、自覚症状の安定と軽快がみられたので報告する。

Ⅱ.対象および方法

 場所  :当治療院

 期間  :平成27年3月~平成29年1月(表1)

 施術対象:50代女性

 現病歴 :線維筋痛症(平成15年に診断)
 平成29年2月の病院での受診では、臨床症状重症度分類1)のステージⅢと判定された(表2)。痛みが強いときには整体院で強い圧の施 術を受けることで、痛みをごまかすような対処をしてきた。

 既往歴 :バセドウ病、慢性膵炎

 自覚症状:身体の内側から痛みが出てくるような感じ。全身の痛みに耐えられない。便秘気味。

 他覚所見:全身の筋硬直。話しながら常に体をさすり、「痛い。痛い。」と言っている。

 服薬  :

  • デパス®(エチゾラム):精神安定薬
  • マグミット®錠(酸化マグネシウム錠):制酸・暖下薬
  • カモスタット®(カモスタットメシル酸塩):膵疾患治療薬
  • リパクレオン®(パンクレリパーゼ):膵疾患治療薬
  • ポラプレジンク:消化性潰瘍治療薬
  • ガスコン®(ジメチコン):腸疾患治療薬
  • ファモチジン:消化性潰瘍治療薬
 (12年前の診断当初、リリカ®[プレガバリン]:鎮痛薬などを処方されたが、効果が十分でなく現在服用していない)

 治療法 :刺激部位、手順は浪越式基本指圧の全身操作に従ったが、頭部・腹部は母指圧、頭部・腹部以外は掌圧にて施術した。日常生活では、調子が良いときは軽いストレッチをし、入浴などで体を温めることを指導した。

表1.各月ごとの施術回数
表1.各月ごとの施術回数

表2.線維筋痛症の重症度分類(厚生労働省特別研究班)
表2.線維筋痛症の重症度分類(厚生労働省特別研究班)

Ⅲ.結果

 治療開始当初は背部を母指で軽く押していたが、頸部の緊張が緩和すると背部の緊張が強まったり、あるいはその逆の経過もみられた。それを受け、背部刺激を掌圧に変えたのちは、それらの変化はみられなくなった。

 また、発作時の痛む部位と硬結部位は一致しておらず、むしろ痛みのある部位は緊張していなくて、刺激を加えるとこわばってくることすらあった。そういったときは頭部・顔面(眼の周囲)を軽く掌圧したり、腹部の施術を行うことで痛みが緩和する傾向にあった。

 VAS(Visual Analog Scale)値は初診のH27年3月が10だったが、H28年12月には調子が良いときで5.5になった(図1)。初回来院時は筋硬直とかなりの痛みが常にあり、発作がひどいときには痛みで二、三日は動けなくなり、寝たきりの状態になることもあった。しかし、治療を開始して2回目から、家に帰った後に身体が楽になっているのを自覚するようになった。

 現在は、調子が良いときには痛みを忘れていることもあり、また、発作時の痛みも、歩いて来院できる程度になっている。治療開始当初は同じ姿勢でいられるのは伏臥位では20分、仰臥位では5分が限度であったが、現在では仰臥位も20分位までなら耐えられるようになった。

 また、以前は湯船で体を温めても症状が緩和するということはなかったが、現在は入浴すると楽になるという。便秘にも改善がみられた。

 患者曰く、症状の強さについては日内変動が激しく、季節の変わり目、気圧の変化によってもかなり大きな影響を受けているが、全体を通しては改善の方向に向かっているという。

図1.施術期間中のVASの経過
図1.施術期間中のVASの経過

Ⅳ.考察

 患者は線維筋痛症の診断を受けて以降、今まで病院や整骨院などに通っていたが症状の改善がみられず、整体などで強い圧により施術される痛みで元々の痛みを誤魔化すようにしてきたため、筋硬直が慢性的に生じることで痛みの常態化を引き起こしていたものと推測される。今回、指圧の軽い圧により全身施術を続けることで、筋の柔軟性が出てきた4)5)6)ことに加え、自律神経機能も改善されて7)8)9)血行が良くなり、痛みが少しずつやわらいでいったと考えられる。

 線維筋痛症は我が国においては人口の1.7%、推定患者数200万人以上と他のリウマチ性疾患と比較しても頻度の高い疾患であるにも関わらず、病態解明ならびに診療体制の整備も遅れている。さらには医師をはじめ、医療従事者にも本疾患に対する正しい情報が著しく欠落しているのが実情である1)。治療については痛みへの対応はもとより、心身両面に現れている不定愁訴への対応が重要である。線維筋痛症の症状も軽症のうちは温熱療法、マッサージなどの理学的治療法が比較的奏効する時期があり10)、指圧により同様の効果を得ることも十分可能であると考えられる。また、慢性化・重症化した例では薬物治療のみでは十分な治療効果が得られず、精神的ストレス緩和やリラクゼーションを目的とした生活指導など、心理社会的要因に対するアプローチが有効となるケースも多い10)。指圧療法においては、坐位指圧により緊張、抑うつ、怒り、疲労、混乱などのネガティブな感情の緩和や、活気などのポジティブな感情が励起されることが報告されており11)、指圧の身体面に対する効果だけでなく、心理的な面からの効果も期待される。

Ⅴ.結語

 線維筋痛症患者に対する約2年間の指圧治療により、症状の緩和がみられた。

参考文献

1)日本線維筋痛症学会:線維筋痛症ガイドライン2013,日本医事新報社,東京,2013
2)Wolfe, F, et al:The American College of Rheumatology 1990 Criteria for the Classification of Fibromyalgia,Arthritis and Rheumatis 33(2); p.160-172,1990
3)松本美富士,前田伸治,玉腰暁子,西岡久寿樹:本邦線維筋痛症の臨床疫学像(全国疫学調査の結果から),臨床リウマチ18(1);p.87-92,2006
4)浅井宗一 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果,東洋療法学校協会学会誌25;p.125-129,2001
5)菅田直紀 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果(第2報),東洋療法学校協会学会誌26;p.35-39,2002
6)衞藤友親 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果(第3報),東洋療法学校協会学会誌27;p.97-100,2003
7)栗原耕二郎 他:腹部の指圧刺激が瞳孔直径に及ぼす効果,東洋療法学校協会学会誌34;p.129-132,2010
8)横田真弥 他:前頸部・下腿外側部の指圧刺激が瞳孔直径に及ぼす効果,東洋療法学校協会学会誌35;p.77-80,2011
9)渡辺貴之 他:仙骨部への指圧刺激が瞳孔直径・脈拍数・血圧に及ぼす効果,東洋療法学校協会学会誌36;p.15-19,2012
10)村上正人、武井正美、松川吉博、澤田滋正 他:線維筋痛症に対する心身医学的アプローチ,臨床リウマチ18;p.81-86,2006
11)Shinpei Oki, et al:Physical and Psychological Effects of the Shiatsu Stimulation in the Sitting Position,Health 9(8),2017


【要旨】

線維筋痛症に対する指圧治療
作田 早苗

 今回、平成15年に線維筋痛症の診断を受けた50代女性に対し、平成27年3月から平成29年1月にかけて計163回の指圧治療を施し、自覚症状の経過を追った。結果、全身の痛みに耐えられないほどであった状態が、痛みを忘れている時がある程度にまで軽快した。これは、指圧の全身施術により、筋の柔軟性が向上し、自律神経機能の改善が生じたためであると考えられる。

キーワード:指圧、線維筋痛症


腰椎椎間板ヘルニアに対する指圧療法の効果:佐々木良

佐々木 良
MTA指圧治療院

Effects of Shiatsu Therapy on Lumbar Disc Herniation

Ryo Sasaki

 

Abstract : With the exception of some cases that may require surgery due to severity of the symptoms, conservative medical treatment is the usual approach used for lumbar disc herniation. However, not many conservative medical treatments are evidence-based.

Here we report on a case of lumbar disc herniation with severe symptoms that was treated with prescription analgesics and shiatsu therapy. Treatment resulted in a major improvement as measured on the Visual Analogue Scale and contributed to improving the patient’s quality of life.

Shiatsu therapy may control factors that amplify the pain of lumbar disc herniation, including reflex muscle tonus, sympathetic nervous system agitation, and psychological stress, which are exacerbated by severe acute-stage pain. This case suggests that shiatsu therapy may be a valuable treatment option among conservative medical treatments.

Keywords: lumbar disc herniation, pain, numbness, shiatsu, acute-stage shiatsu, conservative medical treatment for herniation


I.はじめに

 腰椎椎間板ヘルニアは、女性に比べ男性患者が 2~ 3倍多く、好発年齢は 20~ 40歳代であり、発症直後は腰部、殿部、下肢に疼痛やしびれなどの症状が強く、安静時にもみられることが特徴である1)

 強い症状により手術を検討する場合を除いては、保存治療が基本であるがエビデンスを持つ保存治療は多くない。

 今回、腰椎椎間板ヘルニアの患者に対し、発症から手術までの期間、指圧治療を行い記録したので報告する。

Ⅱ.対象および方法

期間:2016年5月9日~7月 21日(計 12回)

[症例]

21歳男性 会社員 身長 175cm

[現病歴]

2016年4月、腰部に衝撃が加わり、強い腰痛を自覚するようになる。それ以降、右は殿部から股関節周囲部、大腿部の順にしびれを感じ、左は母趾にしびれを感じるようになり、同年5月6日整形外科を受診し、L3/4、L4/5の中心性(やや右より)の腰椎椎間板ヘルニアと診断を受ける(図1、2)。手術も考えられる状態ではあったが1ヶ月は経過観察するということで鎮痛薬(ロブ錠:ロキソプロフェンナトリウム)を処方される。その期間少しでも状態の改善、痛みの緩和ができればとの思いで受診するに至った。

図1.MRI診断画像
図1.MRI診断画像

図2.MRI診断画像
図2.MRI診断画像

[服用薬]

鎮痛薬:ロブ錠1回 60mgを 1日 3回(1回 60~120mg 1日最大180mg)2)

[既往歴]

 右足関節 三角骨障害の既往あり(17歳)

[治療法]

 全身の指圧を行う中で、その時の状態に合わせて疼痛部位や、関係する神経の走行に沿った指圧療法を取り入れた。疼痛、しびれは主にデルマトームL3,L4領域に出ていたが、中心性ヘルニアのためか L4以下の神経症状もみられた。(部位、筋では大腿筋膜張筋・大腿四頭筋・縫工筋・腸脛靭帯・膝蓋骨周囲部・前脛骨筋、神経では大腿神経・上殿神経・総腓骨神経・脛骨神経などの走行を考慮し指圧治療を行った。また、腰部の押圧方向は患者と相談しながら行った。)

 金子による下肢のしびれに対する指圧療法の効果3)や指圧療法学4)も参考に施術を行った。

[評価]

 問診での術前術後の所見、感覚の変化を聴取した(患者の表現をそのまま記述している)。

 目盛りの無い直線100mmのVisual Analogue Scale(VAS)を術前術後に記入してもらい疼痛、しびれを評価した。

Ⅲ.結果

5月9日(第 1回目)

[術前所見]

自覚所見

  • 自発痛あり
  • 股関節周囲部痛
  • 間欠破行あり(右足を引きずるように歩く)
  • 排便時痛(腹圧上昇時)
  • 排便リズムの乱れ
  • 大腿部前面の感覚異常
  • 左母趾しびれ 鈍い感覚
  • 今は鎮痛薬の効果で痛みは少ない

他覚所見

  • 背部筋群の隆起に差がある
  • 下肢筋過緊張(大腿四頭筋、ハムストリングス)
  • デルマトームL3,L4領域 圧痛あり
  • SLRテスト 左(-)右(-)殿部に違和感
  • ケンプテスト 左(-)右(+)

[術後所見]

  • 脚が軽い感じがする
  • VAS 34mm → 15mm

5月 16日(第2回)

[術前所見]

自覚所見

  • 鎮痛薬の効果が切れ始めている(服用5時間後)
  • 歩くスピードが早いと右スネに痛みのようなものを感じる
  • 排便リズムは改善した
  • 右 SLRテストでは殿部がつまっているような感じ

他覚所見

  • 腰部、下肢は疼痛による筋緊張が強い
  • 右大腿外側 強い圧痛

[術後所見]

  • 下肢がすっきりした。
  • VAS 61mm → 40mm

5月 23日(第3回)

[術前所見]

自覚所見

  • 症状に波がある
  • 腰を後ろに反るのがつらい
  • 鎮痛薬の効果が弱くなってきた気がする
  • 仕事後両足とも踏み込むと冷たい感覚
  • 右脛骨のしびれ(ここは鎮痛薬が効かない)
  • 5月21日は鎮痛薬が効かないほど不調だった
  • 鎮痛薬を飲まなくても痛みがおさまることがある
  • 右股関節動作時痛

他覚所見

  • ケンプテスト 左(弱+)右(+)
  • 両側殿部 ハムストリングスの過緊張
  • 左大腿外側部 強い圧痛(筋性防御)
  • 疼痛しびれの症状はデルマトームL3、L4領域が主

[術後所見]

  • 股関節周囲部 動きやすくなった
  • VAS 66mm→ 30mm

5月 30日(第4回)

[術前所見]

自覚所見

  • 右股関節周囲の痛み(動作時のしびれ)
  • 右下肢は全体的に触れられると鈍い感覚
  • 左母趾の鈍い感覚は改善してきている
  • 背中の張り 疲れ

他覚所見

  • 下肢筋の強い張り
  • 腰背部の緊張
  • 左骨盤前方上方回旋

[術後所見]

  • 全身の状態が良い
  • 右股関節周囲の違和感取れた
  • 左母趾の感覚戻ってきた
  • VAS 71mm → 26mm

6月2日(第5回)

[術前所見]

自覚所見

  • 背中の張り
  • 右下肢のしびれ、腰を反ると症状強くなる(L5領域)
  • 右殿部痛
  • 排便リズムが完全に戻った

他覚所見

  • ケンプテスト 左(-)右(+)
  • 左僧帽筋下部の凝り

[術後所見]

  • 身体がすっきりする
  • 背中の張り弱まった
  • VAS 70mm → 29mm

6月9日(第6回)

[術前所見]

自覚所見

  • 右大腿部股関節付近の痛み
  • 仕事後は右下肢全体がしびれる
  • 朝起き上がるのがつらい

他覚所見

  • 左殿部の張り
  • 大腿筋膜張筋の押圧で脛骨までしびれが生じる

[術後所見]

  • 痛みしびれはほとんどない
  • VAS 72mm → 24mm

6月 16日(第7回)

[術前所見]

自覚所見

  • 右すねのしびれ
  • 右母趾 底背屈で痛み
  • 股関節周囲の痛みなし(動作痛もなし)

他覚所見

  • 大腿筋膜張筋の過緊張
  • 下肢筋の張り

[術後所見]

  • 大腿部のしびれ取れる
  • 右すねのしびれは残る
  • 大腿筋膜張筋部ジーンとする
  • VAS 83mm → 37mm

6月 30日(第8回)

[術前所見]

自覚所見

  • 右大腿部前面のしびれ
  • ひどい時は右下肢全体しびれている
  • 最近、鎮痛薬の効きが悪い
  • うつ伏せになれない

他覚所見

  • 股関節動作時痛あり
  • 大腿四頭筋MMT3(FAIR)→ ×
  • 表情から痛みしびれの症状が強い様子

[術後所見]

  • 大腿部前面のしびれは取れる
  • 膝関節にしびれが残る
  • VAS 92mm → 42mm

7月7日(第9回)

[術前所見]

自覚所見

  • 自己判断で昼食後の鎮痛薬の服用を1錠(60mg)から 2錠(120mg)に増やした(寝る前や休みの日は飲まないこともある)。
  • 前脛骨筋部のしびれ
  • 左足底部の違和感
  • 鎮痛薬の量を増やしたためか いつもより状態良い

他覚所見

  • 右ハムストリングスの張り
  • 右背部の張り

[術後所見]

  • 右前脛骨筋部のしびれ減弱
  • 左足底の違和感消失
  • 背中がすっきりした
  • VAS 46mm→9mm

7月 11日(第 10回)

[術前所見]

自覚所見

  • 鎮痛薬を飲み忘れた
  • 腰、殿部(右側)の痛み
  • 前脛骨筋のしびれ
  • 体幹側屈に痛みがある

他覚所見

  • ケンプテスト 左(右下肢にしびれ)右(+)

[術後所見]

  • 腰、殿部の痛みは取れた
  • 股関節の弱い痛み
  • 前脛骨筋の違和感残る(術前より和らいだ)
  • VAS 85mm→ 39mm

7月 14日(第 11回)

[術前所見]

自覚所見

  • 昼食後に鎮痛薬2錠(120mg)飲んだ(7時間前)
  • 右前脛骨筋の痛み>しびれ
  • 右股関節周り 少し気になる

他覚所見

  • ケンプテスト 左(-)右(+)

[術後所見]

  • 全体的に楽になった
  • 右前脛骨筋チクチクした痛み
  • VAS 58mm → 17mm

7月 21日(第 12回)

[術前所見]

自覚所見

  • 鎮痛薬を飲んでから8時間経過しても以前のような強い痛みはなくなった。この時の服用は 1回1錠(60mg)
  • 状態は良い
  • 前脛骨筋のしびれ

他覚所見

  • ケンプテスト 左(-)右(弱+)
  • 体幹の前・後屈できる
  • 脊柱の回旋運動できる

[術後所見]

  • 前脛骨筋のしびれ消失
  • VAS 52mm→ 23mm
  • 73kg(2016年3月)→61kg(同年7月)

Ⅳ.考察

 腰椎椎間板ヘルニアを発症した場合、多くは自然軽快するために治療の基本は保存治療である。しかし6週以降も患者にとって強い疼痛や神経症状が継続する場合には、手術治療が選択されるべきである5)。今回の症例では病院で診断を受けた時点で手術が考慮されていたため、指圧療法では手術までの期間、急性期の激しい疼痛を緩和して患者の生活の質(QOL)を向上させることに目標を設定し治療を開始した。

 結果として手術を回避するには至らなかったが、術前・術後の VASの変化(図3)には非常に良い成果をあげることができた。激しい痛みを緩和することは患者にとって非常に有益であり、手術を受けるまでの期間、患者の QOLを向上させることに大きく貢献した。

 急性期に強い痛みを放置することは痛みを長期化させる可能性があり、激しい痛みが持続することによる心理的ストレス、反射性の筋緊張や軸索反射、交感神経反射など、痛みの慢性化メカニズム(図4)を促進することが考えられる6)

 このメカニズムに対し、指圧療法では筋の柔軟性に対する効果7)や交感神経の興奮を抑制し、副交感神経活動を優位にする効果8)9)が発表されている。今回、この指圧の効果によって、患者の反射性筋収縮や交感神経の興奮、心理的ストレスなどの悪循環の要因が緩和され、痛みの増幅を抑制できたと推察される。

 腰椎椎間板ヘルニアは予後を予測することが難しい疾患であり、強い症状により早期の手術を検討される場合を除いて、まずは保存治療から開始することが基本とされている。保存治療の目的には疼痛緩和、活動性維持などがあるが、エビデンスを持つ保存治療は多くない6)。今後、指圧療法による症例が増えることで、根拠に基づく医療(EBM)に基づいた指圧療法が増えていくと考える。

 腰椎椎間板ヘルニアを契機に慢性腰痛に悩まされる可能性10)や遺残疼痛、再発予防など保存治療の領域は広く、患者を快方に導くことで保存治療における指圧療法の立場や可能性が、広がっていくものと確信している。

図3.術前・術後のVAS 変化
図3.術前・術後のVAS 変化

図4:痛みの慢性化メカニズム
図4:痛みの慢性化メカニズム

腰椎椎間板ヘルニアにより1次求心性ニューロン(神経根・馬尾神経)が興奮し、脊髄後角へと痛み情報を伝える。痛み情報が脳に伝わることにより、痛みとして知覚される。痛み刺激により交感神経の興奮、軸索反射、反射性筋収縮などを引き起こし、さらなる痛みの増幅が起こる。また、痛みが継続することによる心理的ストレスが、痛みの抑制系である下行性抑制系を抑制する結果となる。このようなメカニズムにより、患者の痛みが継続していること自体が痛みの増幅・悪循環につながる可能性がある6)

Ⅴ.結論

 腰椎椎間板ヘルニアの患者に対し指圧療法は、疼痛部位、筋、神経を判断し治療にあたることで、痛みを緩和することができた。腰椎椎間板ヘルニアと診断された急性期でも保存治療に指圧療法を加えることによって痛みの増幅を抑え、患者の QOLを上げることができると考える。

VI.参考文献

1) 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会,腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン策定委員会:腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン改訂第2版,南江堂,東京,2011
2) 高久史麿 他:治療薬ハンドブック 2016薬剤選択と処方のポイント,株式会社じほう,p.1115-1116
3) 金子泰隆:下肢のしびれに対する指圧療法の効果,日本指圧学会誌 第3号,p.23-27,2014
4) 石塚寛:指圧療法学 改訂第1版,国際医学出版,東京,2008
5) 波呂浩孝:腰椎椎間板ヘルニアの診断と今後の治療体系,山梨医科学誌27(4);p.117-124,2013
6) 青木保親 他:保存療法でなおす運動器疾患・腰椎椎間板ヘルニア,Orthopaedics 28(10);p.52-60, 2015
7) 浅井宗一 他:指圧刺激が筋の柔軟性に対する効果,東洋療法学校協会学会誌 25号;p.125-129,2001
8) 加藤良 他:前頸部指圧刺激が自律神経機能に及ぼす効果,東洋療法学校協会学会誌 32号;p.75-79, 2008
9) 渡辺貴之 他:仙骨部への指圧刺激が瞳孔直径・脈拍数・血圧に及ぼす効果,東洋療法学校協会学会誌 36号;p.15-19,2012
10) 大鳥精司 他:慢性疼痛疾患(神経障害性疼痛):腰椎椎間板ヘルニアの疼痛発生機序,Bone Joint Nerve 2;p.325-331,2012


【要旨】

腰椎椎間板ヘルニアに対する指圧療法の効果
佐々木 良

 腰椎椎間板ヘルニアは強い症状により手術を検討する場合を除いては保存治療が基本とされているが、エビデンスを持つ保存治療は多くない。

 今回、腰椎椎間板ヘルニアと診断され、強い症状を訴える患者に対し、処方された鎮痛薬と併せて指圧治療を行った。VASの評価で大きな改善がみられ、患者の QOLの向上に大きく貢献した。

 指圧療法は腰椎椎間板ヘルニア急性期の激しい痛みによる反射性筋緊張、交感神経の興奮、心理的ストレスを緩和し、痛みの増幅を抑制できると考えられるため、数ある保存治療の中で指圧療法を試みる価値は充分あると考える。

キーワード:腰椎椎間板ヘルニア、痛み、しびれ、指圧、急性期指圧、ヘルニア保存療法

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大後頭神経痛と推測される症例に対する指圧治療:大木慎平

大木 慎平
日本指圧専門学校専任教員

Shiatsu Therapy for a Patient with Inferred Greater Occipital Neuralgia

Shinpei Oki

 

Abstract : This report examines the case of a patient who received shiatsu treatments for inferred greater occipital neuralgia, complaining of pain across the left occipital, parietal, and frontal areas of his head. Following 18 shiatsu treatments focusing mainly on the cervical and upper extremity regions, the symptoms were relieved. This result is significant considering the expected increase in patients suffering from greater occipital neuralgia.

Keywords: shiatsu, greater occipital neuralgia


Ⅰ.はじめに

 本症例は左後頭部から前頭部にかけての疼痛を訴えて来院した患者である。頭痛の性質、疼痛発生部位、所見から大後頭神経痛であると推測した。この症例に対し、主に頸部、上肢を対象とした指圧治療を行うことで症状の緩和を認めたのでここに報告する。

Ⅱ.対象および方法

対  象:50代女性、会社員

期  間:2015年 2月 18日~ 2015年 7月

22日(全 18回)

治療方法:

  1. 上腕内側筋間中隔、三角筋を対象に指圧。
  2. 前腕前面と後面、手掌から手指にかけて指圧
  3. 手関節を離開する。
  4. 頸部の筋緊張がみられる箇所に持続圧を施す
  5. 頸椎棘突起の両傍にある硬結に持続圧を施す
  6. 頭半棘筋停止部(風池穴相当部位)の硬結に対し、患者の同側の眼球方向へ向けた持続圧を施す

Ⅲ.結果

[主訴]

 左後頭部から頭頂部、前頭部にかけての疼痛

[現病歴]

 仕事で PC機器を使用することが多いため、以前より頸、肩こりを自覚していた。疲労が蓄積してくると頸、肩の運動に違和感を感じ、それに伴い、ときたま左の後頭部から頭頂部の皮膚表面に痺れるような痛みが出現し、ピリッと電気が走るような瞬間的な痛みも出る。当該の症状に関して受診歴はなし。

 頸椎については主治医からストレートネックと言われており、慢性的につらさを感じる。

[既往歴]

・乳がん…保存療法として放射線治療を継続中。それに伴う痛みのためか、左肩の上げづらさを感じる

[家族歴]

 特記すべき事項なし。

[初診時所見]

  • 血圧:134/67mmHg 脈拍:85回 /分
  • 頭部皮膚感覚異常はなし。頭痛の性状は拍動性でも締め付けるような痛みでもなく、皮膚領域に限局した痛みである
  • 意識は清明で悪心、嘔吐、閃輝暗点はなし。バレー徴候陰性でろれつは正常。日常生活動作や頭部を振ることによる頭痛の増悪はなし
  • ジャクソンテスト、スパーリングテスト共に陰性
  • 頸の運動範囲に疼痛制限あり
     回旋は右 50°左 40°、側屈は右 45°左 30°で左右どちらに運動しても左後頸部に突っ張った痛みがある。 前屈は 50°で痛みはないが、後屈は 25°で後頸部にひっかかるような痛みがある。
  • 第2頸椎左回旋。頸椎前弯の減少がみられる。顎が前方に出る頭部前方位姿勢(Forward Head Posture)で、第7頸椎を通る垂線と外後頭隆起の間におよそ 3cm距離がある
  • 頭板状筋、前中後斜角筋、僧帽筋上部線維の緊張が強い。左の頭半棘筋停止部(風池穴相当部位)に著明な硬結があり、圧迫すると患者の主訴と一致する部位に放散痛が出現する。
  • 利き眼は右である

[病態予測]

 患者の訴えによると頭痛に発作はなく、痛みは片側性だが非拍動性で日常生活に支障をきたすほどではない。これらのことは片頭痛、緊張型頭痛のいずれの診断基準1)も満たすものでないため、両疾患の可能性は低いものと判断した。疼痛は皮膚表層に限局し、左頭半棘筋停止部の圧迫で再現することから筋や結合組織による神経絞扼性のものと判断し、また、後頭部から頭頂部にかけての疼痛発生領域から大後頭神経痛であると推測した。

[治療第 1回(2015年 2月 18日)]

  • 頸部可動域の改善がみられ(左回旋 40°⇒50°、後屈 25° ⇒40°)、左後頸部の突っ張ったような痛みが軽減した

[治療第 2回(2015年 2月 25日)]

  • 治療後一週間は痛みの軽減がみられた
  • 触診では右上腕三頭筋、棘下筋の緊張が高度だった
  • 前述の治療に加え、側臥位にて三角筋、上腕三頭筋、回旋筋腱板に対して指圧を行った

[治療第 5回(2015年 4月 8日)]

  • 治療後、頸の調子は良いが、1週間経つと元に戻るとの訴えあり
  • 昨日、一昨日は左後頭部に刺すような痛みがあった
  • 頸左回旋で僧帽筋上部線維前縁(肩井穴相当部位)に疼痛がある
  • 斜角筋、頸板状筋に硬結を確認。胸鎖乳突筋停止部前縁(翳風穴相当部位)に圧痛
  • 頸部後屈に可動域制限(後屈10°)
  • 前述の治療に加え、僧帽筋前縁、翳風穴に指圧。仰臥位にて四指圧で頸椎前弯を誘導する
  • 治療後、頸部後屈は 35°に改善した

[治療第 8回(2015年 5月 13日)]

  • 本日は頭部の症状はないが、仕事が忙しくなると出てくるとの訴えあり
  • 左右どちらに回旋しても左肩井相当部位が痛む。頸部回旋は右50°、左 40°
  • 前述の治療に加え、天柱~風池~寛骨のラインに入念な持続圧を施す

[治療第 12回(2015年 6月 10日)]

  • 頸部の肩こりはかなり感じるが、頭部の痛みの症状はない
  • 右頭板状筋、斜角筋群の緊張が強く、下項線に著明な硬結がある
  • 頭部前方位姿勢が強調されており、C7棘突起を通る垂線と外後頭隆起間の距離は 3cmほどだった
  • 前述の治療に加え、天柱~風池~寛骨ラインの硬結に対して持続圧を施す
  • 術後、頭部前方位姿勢はほぼ改善した

[治療第 18回(2015年 7月 22日)]

  • 治療後の頸の調子はすこぶる良い。仕事が忙しくなると頸の運動がしづらくなるが、頭部の症状を自覚することは減ってきた
     第18回の治療以降、頭部の疼痛が主訴となることはほぼみられなくなった。

Ⅳ.考察

 大後頭神経は第2頸髄神経後枝から分枝し、後頭下筋群、頭板状筋や僧帽筋、後頭筋膜を貫いて後頭部の皮下に達する2)。本症例においては、大後頭神経貫通部(風池穴相当部位)に著明な硬結が認められ、また、その硬結の押圧により再現する疼痛発生部位がデルマトーム上のC2領域と一致することからも、大後頭神経痛の典型例であると推察される。

 本患者の頸・肩こりの主たる原因は PC操作などの VDT作業によるものであると推察されるが、本患者においてはモニターを見る際、効き目である右眼を前方に偏位させるため、頭部をやや左回旋させた姿勢をとることが考えられる。その際、頸椎と後頭骨に大後頭神経が挟まれることに加え、左の頭半棘筋や後頭下筋群が収縮を続けることで血行不良により硬結が生じ、大後頭神経が絞扼されることで疼痛が発生したと推測される。また、本患者は基本姿勢で頸椎前弯が減少しているストレートネックであり、顎を前方に突き出す頭部前方位姿勢が常態化していたために、頸椎と後頭骨による大後頭神経の圧迫がより強まったものと考えられる。

 大後頭神経痛の症例としては、松本3)が鍼灸による治療例を報告している。松本は後頭下筋群、その他頸部の筋肉、後頭筋膜の緊張緩和を目的に天柱へ直刺、上天柱へ斜刺を行い 10分間の置鍼を加え、症状の緩和を認めたことを報告している。松本の症例は治療目的、施術箇所の点において本症例とほぼ同一であり、今回の治療の妥当性を支持するものであると考えられる。

 また、中川ら4)は眼精疲労を訴える患者のうち、大後頭神経出口部(風池)に圧痛を認めたものを対象に、風池に 15分間の置鍼を加えることで眼精疲労の症状が消失あるいは軽快したことを報告しており、眼精疲労と大後頭神経痛には密接な関係があることを示唆している。現代のデスクワークはほぼ PCを使用することに加え、携帯ゲームやスマートフォンの普及により、液晶モニターを凝視する時間も増加しつつある。そのことにより、眼精疲労を訴える患者も今後ますます増加し、それに随伴して大後頭神経痛の患者の増加が予想される。そのため、指圧のような手技療法により、大後頭神経痛と思われる症例の改善が示唆されたことは、今後予想される治療機会の増加において意義深いものであると考える。

Ⅴ.結論

 大後頭神経痛と思われる患者に対し、主に頸部と上肢を対象とした指圧治療を施すことで、症状の改善がみとめられた。

参考文献

1)日本頭痛学会:慢性頭痛の診療ガイドライン, 79-82,192-193,医学書院,東京,2013
2)坂井建雄 ,河田光博:プロメテウス解剖学アトラス 頭部 /神経解剖 第 1版,94-95,医学書院,東京, 2009
3)松本弘巳:大後頭神経痛及び緊張型頭痛への鍼灸治療,医道の日本68(6);29-33,2009
4)中川成美,竹田眞:大後頭神経痛による眼精疲労に対するハリ治療,臨床眼科42(10);1130-1132, 1988


【要旨】

大後頭神経痛と推測される症例に対する指圧治療
大木 慎平

 本症例では、左後頭部から頭頂部、前頭部にかけての疼痛を主訴とした、大後頭神経痛と推測される患者に対して指圧治療を行った。頸部と上肢を中心とした施術を全 18回行った結果、症状の緩和が認められた。指圧治療により大後頭神経痛と推測される症例の改善が示唆されたことは、今後予想される治療機会の増加においても意義深いものと考える。

キーワード:指圧、大後頭神経痛


2型糖尿病患者に対する基本指圧―全身操作の効果について―:本多剛

本多 剛
日本指圧専門学校専任教員

Shiatsu on a Patient with Type 2 Diabetes―Effect of Namikoshi Standard Full Body―

Tsuyoshi Honda

 

Abstract : Type 2 diabetes is classified as a lifestyle-related disease, and the number of diabetic and pre-diabetic patients has been increasing in recent years. This report examines the case of a patient diagnosed with type 2 diabetes seven years previously, who received ongoing Namikoshistandard full body shiatsu treatments. After 20 treatments, the patient’s hemoglobin A1c level (National Glycohemoglobin Standardization Program) decreased by 0.5 percent compared to the first treatment. Further shiatsu treatment and monitoring is required for this case.

Keywords: Type 2 diabetes, hemoglobin A1c (National Glycohemoglobin Standardization Program), Namikoshi standard full body shiatsu


Ⅰ.はじめに

 糖尿病患者数は、厚生労働省の平成 26年患者調査によると 317万人となり1)、前回(平成 23年)調査の 270万から 47万人増えて、過去最高となっている。また、生活習慣病患者数で比較すると、高血圧性疾患が 1,011万人と圧倒的だが、糖尿病はそれに次ぐ多さである。一方、厚生労働省の平成 26年国民健康・栄養調査によると、糖尿病患者予備群を含めた糖尿病有病率は男性で15.5%、女性で 9.8%であり2)、このデータから 3,000万人以上の国民が糖尿病患者、あるいはその予備群であると推計される。この国民病とも言える糖尿病を指圧治療で改善できれば、国民の健康の保持・増進に大きく貢献できることになる。また、鍼灸治療が糖尿病患者にもたらす効果についての報告はあるが、指圧治療の効果に関するものはない。そこで今回、浪越式基本指圧の全身操作が、糖尿病患者に対しどの様な効果を与えるか、実際の患者の血液検査値を用い、その推移を考察した。

Ⅱ.対象

[症例]

対 象:40歳 男性

初 診:平成28年4月13日

主 訴:頸と肩がこる、頭痛がする

[現病歴]

 7年前に会社の健康診断を受診し、血糖値が高かったことから再検査となる。O病院にて精密検査を受けたところ、2型糖尿病と診断され、3週間の入院治療を受ける。退院後は、O病院より糖尿病の専門外来医療機関のTクリニックを紹介され、月1回の診察を受け、処方された薬を 1日 1回服用し、経過を観察しながら現在に至る。尚、現在の HbA1c(NGSP)は概ね 8以下であり、糖尿病に由来する合併症の出現はない。職業は衛生関連の建設作業管理で、設計図面を作成することが多く、慢性的に頸と肩がこり、頭痛を伴うことがある。仕事柄、竣工前の繁忙期では週に1度も帰宅できないということもあり、そのため食事時間が不規則で、外食中心、接待も多い。また、多忙によるストレスから暴飲暴食に走ることもある。定期的に運動する時間的・精神的余裕はない。

[服用薬]

  • テネリア錠20mg(テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物錠・糖尿病治療薬)
  • リバロOD錠 1mg(ピタバスタチンカルシウム水和物・高コレステロール血症治療薬)
  • メトグルコ錠 250mg(メトホルミン塩酸塩錠・糖尿病治療薬)

[既往歴]

 13年前、下腿外傷で入院治療を受ける。

[家族歴]

 実母が胆石症による胆嚢摘出術を受ける(2~3年前)。

[初診時所見]

自覚所見

 頸と肩がこる、頭痛がする。

他覚所見

 右側頸部、右背部、右下腿前面に強い筋緊張がある。全身にむくみ感がある。

Ⅲ.方法

 対象に浪越式基本指圧の全身操作3)を行い、施術前後の自覚症状の変化を VAS(VisualAnalogueScale)で評価した。また、対象が通院しているTクリニックで概ね月1回採取した血液検査の結果のうち、HbA1c(NGSP)の推移を評価した。

Ⅳ.結果

治療期間

平成28年4月13日から同8月30日 (全20回)

主要経過

第2回 平成 28年4月20日

  • 全身のむくみ感が軽減した。
  • 週に1度もないことがあった便通が週 1.5回程度になった。

第3回 平成 28年4月29日

  • 便通が週2回程度になった。
  • 体調も良く、久しぶりにスポーツジムで軽く運動をした。

第5回 平成 28年5月11日

  • 体調の良さに伴い食欲が亢進して体重が増加した。
  • 便通は週2回程度で安定している。

第6回 平成 28年5月18日

  • 体調が良いことから、増加した体重をコントロールしてみようと思うようになる。

第11回 平成 28年6月22日

  • 体調が良く、食欲の亢進をなかなか抑えることができない。

第14回 平成 28年7月20日

  • 胃の痛みを感じ医療機関を受診。ピロリ菌の感染が確認され薬物治療を受ける。

第15回 平成 28年7月 27日

  • 胃の痛みが改善する。

第16回 平成 28年8月4日

  • 花粉症 (ブタクサ)を発症して医療機関を受診。薬物治療を受ける。
  • 第 19回 平成 28年8月24日

    • 仕事による疲労が蓄積しており、頸部に強い筋緊張がみられる。

    ①VAS

     自覚症状で多かったのは頸と肩の筋緊張による頭痛と右足つけ根の痛みである。VASの術前と術後の変化から、浪越式基本指圧の全身操作により自覚症状の改善がみられた。(表1)

    表1.施術前後のVAS 値
    表1.施術前後のVAS 値

    ②HbA1c(NGSP)

     HbA1c(NGSP)は過去1~2ヶ月の血糖の推移を反映したものである4)。対象の初診日が平成 28年4月 13日であることから、基準となる値を平成 28年 5月7日の数値とし、平成28年9月7日までの数値の変化を評価したところ、0.5%の減少がみられた。(図1)

    図1.HbA1c(NGSP)の経過
    図1.HbA1c(NGSP)の経過

    Ⅴ. 考 察

     施術前と比較して、施術後の VASの値が大きく減少していることから、浪越式基本指圧の全身操作が対象の自覚症状と体調の改善に寄与したと考えられる。

     衞藤 他の報告によると5)、浪越式基本指圧の前頸部施術を受けた者に呼吸商の優位な低下がみられており、絹田 他の症例報告によると6)、薬物治療を中止した2型糖尿病患者のHbA1c(NGSP)を鍼灸治療によって安定させたという事例がある。このことから、浪越式基本指圧の全身操作により対象の代謝量が増加し、糖利用が促進されたと考えられる。また、副交感神経の興奮は、膵臓のランゲルハンス島B細胞からのインスリンの分泌を亢進する7)。横田 他は8)前頸部および下腿外側部で、渡辺 他は9)仙骨部で、田高 他は10)頭部での浪越式基本指圧で、それぞれ縮瞳反応が生じることを報告しており、この反応は指圧により被験者に交感神経の抑制、あるいは副交感神経の興奮がみられたために起きたものであると示唆される。前に述べたが、インスリンの分泌亢進は副交感神経の興奮により起こる。このことから、浪越式基本指圧の全身操作により副交感神経の興奮がみられた結果、膵臓からのインスリン分泌が亢進し、糖利用の促進がなされたと考えられる。更に、定期的に指圧治療を行うことで、不規則な対象の生活に一定のリズムが生じ、睡眠時間の確保や運動習慣の意識づけがなされたことも関与していると考えられる。以上のことから、浪越式基本指圧の全身操作が、HbA1c(NGSP)の改善に寄与したと考えられる。

     主要経過で述べたが、平成 28年5月中旬から同6月にかけて対象の食欲が亢進し、体重も増加している。これが平成 28年8月9日のHbA1c(NGSP)の前回値より 0.2%上昇に関与していると考えられる。体重は初診時から増加傾向のままであるが、平成 28年9月7日の検査では HbA1c(NGSP)が前回値より0.6%減少した。この結果については対象の主治医も明確な理由を明らかにできていない。また、対象はインスリンの分泌を促進する薬を服用しており、6月以降、当該薬物の投与量増加もはかられている。このことから、指圧治療単独の効果と言える確証を得るには至っていないが、更に指圧治療を継続し、糖尿病治療薬の投与量とHbA1c(NGSP)の持続的な減少をみることができれば指圧治療の効果の確証につながるものと考えられる。

     日本糖尿病学会の糖尿病診療ガイドライン2016によると11)、合併症予防のための目標としてHbA1c(NGSP)を 7.0%未満と定めている(図2)。対象の健康管理の観点から鑑みると、この目標を達成することが当面の課題である。今後も指圧治療を継続し、経過を観察していきたい。

    図2.日本糖尿病学会の血糖コントロール目標
    図2.日本糖尿病学会の血糖コントロール目標

    Ⅵ. 結 語

     対象に全 20回の浪越式基本指圧の全身操作を行い、以下の結果を得た。

    • 自覚症状が大幅に軽減した。
    • HbA1c(NGSP)が0.5%減少した。

    参考文献

    1)厚生労働統計協会:国民衛生の動向2016/2017,p.94,厚生労働統計協会,東京,2016
    2)厚生労働統計協会:国民衛生の動向2016/2017,p.94-95,厚生労働統計協会 ,東京,2016
    3)石塚寛:指圧療法学 -改定第1版 -,p.77-126,国際医学出版 ,東京,2010
    4)奈良信雄 他:臨床医学各論 -第2版 -,p.113,医歯薬出版,東京,2013
    5)衞藤友親,桑森真介:前頚部指圧による呼吸商の変化 ,日本指圧学会誌(1);p.11-13,2012
    6)絹田章,中村弘典 他:糖尿病に対する鍼治療の一症例 ,全日本鍼灸学会雑誌 49巻(2);p.299-304, 1999
    7)本郷利憲 他:標準生理学 -第6版-,p.935,医学書院,東京,2005
    8)横田真弥 他:前頸部および下腿外側部の指圧刺激が瞳孔直径に及ぼす効果 ,東洋療法学校協会学会誌(35);p.77-80,2011
    9)渡辺貴之 他:仙骨部への指圧刺激が瞳孔直径・脈拍数・血圧に及ぼす効果 ,東洋療法学校協会学会誌 (36);p.15-19,2012
    10)田高隼 他:頭部への指圧刺激が瞳孔直径・脈拍数・血圧に及ぼす効果 ,東洋療法学校協会学会誌 (37);p.154-158,2013
    11)日本糖尿病学会:糖尿病診療ガイドライン2016,p.27,南江堂,東京,2016


    【要旨】

    2型糖尿病患者に対する基本指圧―全身操作の効果について―
    本多 剛

     生活習慣病に含まれる2型糖尿病の患者は、その予備軍も合わせて近年増加している。今回、2型糖尿病を発症して7年間経過した患者に対して指圧治療を施す機会を得た。指圧治療法は浪越式基本 指圧の全身操作とし、全 20回の治療を行ったところ、患者のHbA1c(NGSP)値が指圧治療開始時と比較して 0.5%の減少をみた。今後も指圧治療を継続し、経過を観察していきたい。

    キーワード:2型糖尿病、HbA1c(NGSP)、浪越式基本指圧全身操作


    乳がんに対する左乳房切除術(全摘手術)後の疼痛とそれに伴う肩関節可動域の制限に対する指圧治療の一例報告:宮下雅俊

    宮下 雅俊
    株式会社日本指圧研究所世田谷指圧治療院てのひら 院長

    Shiatsu Therapy for a Patient with Post-mastectomy Pain and Limited Shoulder Joint Range of Motion Caused by Total Mastectomy

    Masatoshi Miyashita

     

    Abstract : This report examines the case of a patient who received shiatsu treatments following total mastectomy of the left breast in the treatment of breast cancer. Following treatment, relief of postsurgical pain and improvement in the shoulder joint’s range of motion were observed. Pain was treated using standard Namikoshi shiatsu techniques such as fluid pressure and suction pressure applied to the skin, and the shoulder joint was treated using a combination of pressure applications and mobilizations. We conclude that in this patient, these shiatsu techniques helped to relieve postsurgical pain and improve the shoulder joint’s range of motion.

    Keywords: breast cancer, skin, scar, shoulder joint range of motion, mastectomy, post-mastectomy neurogenic pain, shiatsu, mobilization


    Ⅰ.はじめに

     国立がん研究センターの「2015年のがん罹患数、死亡数予測」の統計データによると1)、わが国では女性の癌の中で一番患者数が多いのが乳がんである。乳がんの患者は年々増加傾向にあり、罹患数が増加するのに比例して死亡数も増加しているのが現状である。

     今回、乳がんに対する左乳房切除術(全摘手術)後の左胸部の疼痛と、処置部位の瘢痕拘縮が原因と考えられる肩関節可動域の制限が現れている患者に対し、まず左胸部の指圧は皮膚の柔軟性、伸張性を改善することを重点において施術、それから全身指圧を施した。

     指圧療法は、世間一般的には、筋肉にアプローチするものとイメージされていることが多い。しかし、指圧は筋肉、神経、血管、骨、腱、内臓、皮下組織など、身体のあらゆる箇所を対象に、皮膚の上から押圧または運動操作を施し、人体のあらゆる反射を利用する手技療法と言える。

     皮膚は身体の全表面を覆い、内部の諸器官を外部からの刺激、衝撃から保護するとともに、独自の生理機能を持って身体全体の調和に関係している器官である。皮膚は薄いながらも表面積が広いので、その重さは体重の約8%にもあたり、内臓の中で最も重い肝臓の約3倍になる。いわば、皮膚は身体の最大の器官ということができる2)

     マイスナー小体やパチニ小体といった、皮膚の感覚受容器に働きかける指圧療法は、皮膚とは密接な関係にあるが、皮膚の柔軟性、伸張性に着目した指圧の症例報告は少ないので、この度は、乳房切除術後の患者に対し、特に胸部、腹部、肩周囲の皮膚の柔軟性、伸張性を改善するよう指圧してから全身の指圧施術をし、その前後で写真撮影を行い、肩関節前方挙上(肩関節屈曲)可動域の変化を確認したのでここに報告する。

    Ⅱ .対象

    施術対象:44歳 女性 個人事業主

    場  所:世田谷指圧治療院てのひら

    期  間:平成 27年9月 11日

    主  訴:乳がんに対する左乳房切除術(全摘手術)後の左胸部瘢痕(図1)の疼痛と左上肢の動作痛、またそれに伴う関節可動域の制限

    治 療 法:基本指圧を応用し、仰臥位で瘢痕の創傷部離解が起きないように、瘢痕に直接片手掌圧を加えて皮膚移動を抑えながら、もう片方の手で瘢痕の周りを片手掌圧し、瘢痕を中心とした八方の遠位方向に、流動圧法を加える二点圧を使用した。左胸部の瘢痕への指圧は、瘢痕周辺の皮膚の柔軟性、伸張性を向上させることを目的に指圧を行った。

     その後、全身の調整として、仰臥位にて、胸部、腹部、肩周囲部、上肢帯、頸部、頭部の指圧を行った。

     横臥位にて、頸部、肩上部、肩甲間部、肩甲下部、上肢帯への指圧と肩関節、肘関節の運動操作を行った。

     伏臥位にて、仙骨部掌圧・股関節伸展操作による骨盤調整を行い、臀部、大腿後側部、下腿後側部、足底部の指圧を行った。

     圧法の種類は、通常圧法、持続圧法、吸引圧法、流動圧法、振動圧法を適宜に使い分けた3)

    図1 患者の乳がん乳房切除術後の瘢痕
    図1 患者の乳がん乳房切除術後の瘢痕

    Ⅲ .結果

    [現病歴]

     平成 27年8月 19日、乳がんにより左乳房切除(全摘手術)を行ってから、左胸部の疼痛と動作痛が現れた。それに伴い、肩関節前方挙上(肩関節屈曲)可動域の制限も現れた。

    [既往歴]

    27歳 局所性左乳がん発症 ステージⅠ

    温存手術 +化学療法 +放射線治療を受けた

    [家族歴]

    なし

    [術前所見]

    自覚所見

    • 乳房切除術後からある肩こり
    • 乳房切除術後からある背中の張り
    • 乳房切除術後の左胸部(瘢痕)の疼痛
    • 乳房切除術後からある左胸部(瘢痕)の上肢の動作痛
    • 乳房切除術後からある肩関節の前方挙上(肩関節屈曲)可動域の制限
    • 乳房切除術後からある胸部の皮膚の突っ張り感(瘢痕拘縮と考えられる)
    • 便秘
    • 倦怠感

    他覚所見

    • 発汗
    • 両上肢の周径に顕著な左右差は見られない
    • 肩関節の前方挙上(肩関節屈曲)の可動域の制限あり(図2)
    • 触診により胸部の皮膚の柔軟性、伸張性の低下を感じる
    • 仰臥位時に肩関節の自動運動、他動運動をすると左胸部(瘢痕)に痛みを訴える
    • 瘢痕に直接片手掌圧を加え、瘢痕の移動を抑えながら肩関節の他動運動、自動運動をすると痛みが減少することを確認した

    [術後所見]

    自覚所見

    • 肩こりが軽減した
    • 背中の張りが軽減した
    • 術後の瘢痕の疼痛が軽減した
    • 術後からある瘢痕部の上肢動作痛が軽減した
    • 術後からある肩関節前方挙上(肩関節屈曲)の可動域が向上した
    • 胸部の皮膚の突っ張り感が軽減した(瘢痕拘縮と考えられる)

    他覚所見

    • 肩関節前方挙上(肩関節屈曲)の可動域が向上した(図3)
    • 触診により胸部の皮膚の柔軟性、伸張性が向上した
    • 肩関節の運動痛が軽減した

    図2 指圧施術前
    図2 指圧施術前

    図3 指圧施術後
    図3 指圧施術後

    Ⅳ .考察

     本症例の施術前後の画像(図2、3)を比較したところ、指圧による押圧操作と運動操作により、肩関節前方挙上(肩関節屈曲)の関節可動域が改善したのを確認できた。これは、福井4)が提唱する皮膚運動の5つの原則と照らし合わせると、瘢痕の影響により肩関節挙上運動に生じていた制限が、指圧による瘢痕周囲の皮膚の柔軟性、伸張性の向上により改善され、肩関節の可動域に変化が起きたためと考えられる。

     また、今回治療で使用した、流動圧法、吸引圧法、また基本指圧にもある撫で下ろしなどの圧法は、筆者の臨床上の経験から、皮膚を誘導する方法として非常に効果の高い手技であると考えている。福井4)は、皮膚を適切な方向に誘導することで関節運動が楽に行えるように感じるのは、浅筋膜で隔てられた浅層部と深層部が、互いに反対方向に移動する滑走状態を作り上げているからではないかと推測しており、上記の手技はこれと同じ効果を出しているとも考えられる。

     もちろん、指圧刺激が筋の柔軟性に及ぼす効果についての報告が複数存在する5~7)ことからも、皮膚、筋、両方の相乗効果とも推察できる。また、指圧施術後に、胸部の皮膚の突っ張り感の軽減と、瘢痕の疼痛が軽減したとの患者の報告から、左乳房切除術後の神経障害性疼痛と思われる症状にも効果があったと推察される。

     乳癌術後の症例として真っ先に頭に浮かぶのはリンパ浮腫であろう。2006年日本乳癌学会研究班の北村らによるリンパ浮腫の発症率の調査によれば、1379例の一側性乳癌術後のうち、平均術後観察年数は 3.9年、全体のリンパ浮腫発症率は50.9%、うち重症が 46.6%と報告されている8)

     本症例では、左乳房切除術後 23日後に指圧治療を行った。その際の所見では、両上肢の周径に大きな左右差は見られなかったが、術後から左胸部の疼痛、皮膚の突っ張り感があり、術後の左胸部は感覚低下があるとのことだった。また、左上肢を自動・他動運動で動かすと痛みが増強し、肩関節の可動域制限もみられ、QOLの低下を訴えていた。これらの症状は、日本緩和医療学会が発表している、がん疼痛の薬物療法のガイドライン 2010年版9)の乳房切除後疼痛症候群(post-mastectomy pain syndrome:PMPS)の特徴である。『上腕後面、腋窩や前胸壁部などにおける、感覚低下を伴う締め付け感や灼熱感などが多い』、『術後痛の強さや腋窩郭清が発現率に関連する』、『しばしば上肢運動によって痛みが増強するため、有痛性肩拘縮症となる』、『術直後~半年までに発症することが多い』と重なる部分が多く、本患者は乳房切除後疼痛症候群を発症していたのではないかと考えられる。乳房切除後疼痛症候群は、手術、放射線療法、化学療法による肋間上腕神経障害が関与すると言われており10)、約 20%の患者は術後 10年経過しても症状が残存するとの報告もある11)。今回は一症例のみの紹介であるが、本症例における症状の改善は、指圧治療が乳房切除後疼痛症候群に有効である可能性を示唆するものと考える。

     日本リハビリテーション医学会の発行する、がんのリハビリテーションガイドラインでは、肩関節可動域の改善、上肢機能の改善、リンパ浮腫の発症リスクを減少させるなどの目的で、包括的リハビリテーションを行うように強くすすめられている12)

     しかしながら、根岸ら13)が近年、乳がん術後の入院日数が短縮傾向にあり、リハビリテーションとその指導が十分に行われないままに退院する患者が増加していることを挙げており、指圧師が包括的なリハビリテーションの知識と、それに対応しうる施術技術を持つことで、医療機関を退院した乳がん術後の患者に対してその役割を十分果たせると考えられる。

     今回疼痛の程度を評価していなかったため、今後の課題としてNRS(Numerical Rating Scale)や、VAS(Visual Analogue Scale)などの評価スケールを用いた、乳房切除術後の痛みの程度の変化も評価検討したい。

    Ⅴ .結論

     指圧治療により、乳がんに対する乳房切除術(全摘手術)後の患者に対し、指圧の押圧操作と運動操作を併用することで、肩関節可動域の制限が改善できる可能性がある。また、乳がんに対する乳房切除術(全摘手術)後の疼痛を緩和させ、上肢の動作痛も軽減される可能性がある。しかし、今回は1例のみの報告であるため、さらに症例を重ね検討したいと考えている。

    参考文献

    1)国立がん研究センター:2015年のがん罹患数、死亡数予測,http://www.ncc.go.jp/jp/information/ press_release_20150428.html
    2)朝田康夫:美容皮膚科学事典 ,中央書院,p.4, 2002
    3)浪越徹:完全図解指圧療法,日貿出版社,p.58-59, 1979
    4)福井勉:皮膚運動学 ,三和書店,2010
    5)浅井宗一 他:指圧刺激による筋の柔軟性に体する効果,(社)東洋療法学校協会学会誌(25);p.125-129,2001
    6)菅田直紀 他:指圧刺激による筋の柔軟性に体する効果(第2報),(社)東洋療法学校協会学会誌(26);p.35-39,2002
    7)衛藤友親 他:指圧刺激による筋の柔軟性に体する効果(第3報),(社)東洋療法学校協会学会誌(27);p.97-100,2001
    8)北村薫 他:乳癌術後のリンパ浮腫に関する他施設実態調査と今後の課題 ,日本脈管学会機関誌50;P.715-720,2010
    9)日本緩和医療学会:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2010年版,http://www.jspm.ne.jp/ guidelines/pain/2010/chapter02/02_01_03. php#top
    10)Vecht CJ et al: Post-axillary dissection pain in breast cancer due to a lesion of the intercostobrachial nerve, Pain 38(2) ; p.171-176, 1989
    11)Macdonald L et al: Long-term follow-up of breast cancer survivors with post-mastectomy pain syndrome, Br J Cancer 92(2); p.225-230, 2005
    12)日本リハビリテーション医学会:がんのリハビリテーションガイドライン,金原出版,p.54-75, 2013
    13)根岸智美 他:乳癌術後リハビリテーションにおける肩関節可動域運動の開始時期の検討,理学療法学第 13巻第1号,p.18-21,2016


    【要旨】

    乳がんに対する左乳房切除術(全摘手術)後の疼痛とそれに伴う肩関節可動域の制限に対する指圧治療の一例報告
    宮下 雅俊

     本症例では、乳がんに対する左乳房切除術(全摘手術)後の左胸部疼痛と、肩関節可動域の制限がある患者に対し、指圧治療を行い、疼痛の緩和、肩関節可動域の改善が見られた。疼痛に対するアプローチとしては、皮膚に対して流動圧法、吸引圧法などの基本指圧の応用操作を行い、肩関節に対しては押圧操作と運動操作を併用して治療することで、効果を得られたものと推察する。

    キーワード:乳がん、皮膚、瘢痕、肩関節可動域、乳房切除術、乳房切除後神経性疼痛、指圧、運動操作


    20代女性の側弯症に対する指圧治療によるCobb角の変化:作田早苗

    作田 早苗
    りんでんマニピ指圧治療院

    Effects of Shiatsu Therapy on the Cobb Angle of a Female Patient in Her Twenties with Scoliosis

    Sanae Sakuta

     

    Abstract : This report examines the case of a female patient in her twenties diagnosed with lumbar idiopathic levoscoliosis who received 93 shiatsu treatments between 2013 and 2016. Following treatment, the Cobb angle was improved from 69.6. to 62.3.Relief of subjective symptoms such as back pain and severe menstrual cramps was also observed. We concluded that reducing muscle tension with shiatsu treatment resulted in improved spinal mobility leading to correction of leg length difference, asymmetric pelvis, tilted ribs, and unaligned spine.

    Keywords: shiatsu, scoliosis, Cobb angle, spine


    Ⅰ.はじめに

     側弯症とは、脊柱がねじれを伴って左右に曲がってしまう症状であり、それに伴い胸郭の変形、肩甲骨の出っ張りに加え、前屈時の高さ、肩の高さ、骨盤の高さの左右差などが生じる。また、肺などの臓器の圧迫や位置のズレに伴う背腰部痛、生理痛、胃腸障害が生じたり、好きな服が着られない、水着になれないなどの外見上の問題による精神的ストレスを受けるなど、心身ともに影響が及ぼされるといわれる1)

     側弯症の分類はおおまかに機能性側弯症と構築性側弯症があり、構築性側弯症に分類される特発性側弯症が側弯症全体の 70~ 80%を占める2)。特発性側弯症の原因はわかっておらず、思春期側弯症が最も多く、症例の 85%が女性と言われている3)。予防法は未だ確立されていないが、早期発見が手術適用のリスクを軽減するため、現在は学校での検診が行われている1)

     側弯の程度を表すための方法としては、立位でのレントゲン写真から測定する Cobb法 (脊柱の前後から見て、最も傾いた椎体間の角度を計測する方法 )が用いられている2)(図1)。

     日本側弯症学会によると、側弯症に対する手技療法では、痛みの緩和はあっても症状の改善には効果がないとされてきた1)。しかし、今回、指圧施術により患者の Cobb角に改善がみられた症例が得られたので、ここに報告する。

    図1.Cobb角の計測法
    図1.Cobb角の計測法
    X線において、脊柱カーブの上下端で水平面に対して最も傾いている頭側終椎の上縁と、尾側終椎の下縁を結ぶ線のなす角度を Cobb角とする。

    Ⅱ.対象および方法

    日時及び回数:

    2013年2月 28日~ 2016年3月 24日 全93回(表1)

    対象:20歳 女性 身長 162.8cm

    現病歴:11歳の時に歯ぎしりがひどく、顎関節を治すために行った整体院で脊柱の側弯を指摘された。その時点では自覚症状はなかったが、その後 13歳のときから背腰部痛が発生するようになり、15歳で側弯症専門の整形外科を受診し腰部左凸の特発性側弯症と診断される。手術を勧められたが、なるべく手術はしたくないという考えもあり体操や装具などで改善を図りつつ、現在に至る。装具は着けているのが辛く、ほとんど使用していない。

    自覚所見:

    • 背腰部痛…痛みのため、椅子に座っていることができず、在宅時は寝転びながら勉強をする
    • 生理痛…重症時は痛み止めを服用する。痛みのため学校を休むことも多い
    • 軟便傾向である
    • 開口時、顎関節がズレる

    他覚所見:

    • 視診
       静止時の姿勢では、反り腰、体幹の右回旋、腰部の左回旋がみられる。右肋骨は張り出し、左肩が上がった状態である。右の肩甲骨は挙上し、内縁は胸郭から浮いている。下肢長は右のほうが長い。
    • 触診
       右肩甲骨周り、右鼠径部、左背腰部に顕著な硬結がみられる。右腸腰筋の短縮が認められる。両下肢外側に張りがある。右腰部は筋量が少ない。

    施術方法:

     石塚4)、田之倉5)を参考に、以下のような施術を行った。

    • 2013年~ 2014年
       顔面部・頭部・背部・腰部・殿部・腹部・下肢への指圧
    • 2015年~
       顔面部・頭部・頸部・背部・腹部・殿部・腹部・下肢への指圧・棘突起調整・座骨掌圧・背部調整・下肢長の調整・肋間筋への指圧

    Ⅲ.結果

    ・Cobb角について

     整形外科で撮影されたレントゲン写真からTh10~ L3の Cobb角を計測した。2012年Cobb角は 69.6°だったが、2016年には 62.3°まで改善された(表2)。

    ・自覚症状について

     2013.3.7 腰の痛みが緩和した。

     4.24 座っていても、背腰部が痛くなくなってきた。

     6.23 生理痛はあったが、寝込むほどではなくなった。

     10.13 開口時の顎関節のズレが改善した。

     12.16 生理痛があり、薬を飲むほど痛かった。

     2015.5 生理痛が緩和した。これ以降、本人の自覚症状の訴えは出ていない。

    表1.各月ごとの施術回数
    表1.各月ごとの施術回数

    表2.施術期間中のTh10 ~ L3 のCobb 角
    表2.施術期間中のTh10 ~ L3 のCobb 角

    Ⅳ.考察

     本患者の診察所見では、右腰部の筋量低下がみられたため、立位において左腰部筋力とのアンバランスが生じ、側弯が増強されていたと考えられる。藤川6)は手技療法による Cobb角の改善を成人で4例報告しており、脊椎アライメントの調整と筋硬直の解消の重要性を示唆している。田附ら7)、宮地ら8)は指圧により脊柱可動性が向上することを報告しており、本症例において Cobb角の改善がみられたのは、指圧により筋硬直が改善し脊柱の可動性が高まり、それに伴い下肢長、骨盤、肋骨の高さ、脊柱のアライメントが矯正されたことによるものと推察する。今後は今の可動性を保ちながら、筋肉を増強させることが更なる改善に重要であると考える。また、2013~ 2014年にかけて Cobb角の変化に停滞がみられたが、これは患者の受験期間などと重なることで、施術頻度がやや減少したことに起因すると推察される。また、受験等のストレスにより筋の柔軟性が低下し、脊柱のアライメントの不整につながった可能性も考えられる。大木9)は定期的な指圧施術で患者の精神的ストレスが改善された症例を報告しており、なるべく間隔をあけず定期的に施術を行うことが治療において重要であると考える。

     日本側弯症学会1)によると、手技療法は側弯に伴う痛みなどの緩和には効果が期待されても、改善、進行を防ぐ効果はないとされ、経過観察、運動療法、装具着用、手術が推奨されており、16歳以降の側弯の改善は難しいとされてきた。しかし、本症例により、成人における指圧療法による改善の可能性が示唆されたと考える。また、医療関係者と連携し、装具療法や運動療法を併用して治療を始め、早期から姿勢、筋バランスを整えることがより良い治療効果を得るために重要であると考える。

    Ⅴ.結語

     側弯症患者に対する全 93回の指圧治療により、Cobb角の改善がみられた。

    参考文献

    1)日本側弯症学会:知っておきたい脊柱側弯症,p.1-63,インテルナ出版,東京,2003
    2)奈良信雄 他:臨床医学各論 第 2版,p.151-154,医歯薬出版株式会社,東京,2004
    3)国分正一,鳥巣岳彦:標準整形外科学 第 10版,医学書院,東京,2008
    4)石塚寛:指圧療法学 改訂第1版,国際医学出版,東京,2008
    5)田野倉快泉:無薬医術指圧療法復刻,p.50,八幡書店,東京 ,2002
    6)藤川勝正:脊柱側弯症の保存療法,整形外科と災害外科39(1);p.349-358,1990
    7)田附正光 他:指圧刺激による脊柱の可動性及び筋の硬さに対する効果,東洋療法学校協会学会誌(28);p.29-32,2005
    8)宮地愛美 他:腹部指圧刺激による脊柱の可動性に対する効果,東洋療法学校協会学会誌(29);p.60-64,2006
    9)大木慎平:全身指圧による心理的影響を測定した一例,日本指圧学会誌(4);p.7-10,2015


    【要旨】

    20代女性の側弯症に対する指圧治療によるCobb角の変化
    作田 早苗

     今回、専門医により腰部左凸の特発性側弯症と診断された 20代女性に対し、2013年~ 2016年まで計 93回の指圧治療を行った。その結果、初診時点では69.6°であった Cobb角が、62.3°まで改善した。また、背腰部痛や重い生理痛などの自覚症状にも改善がみられた。本症例の改善は、指圧により筋硬直が解消して脊柱可動性が向上し、下肢長、骨盤、肋骨の高さ、脊柱のアライメントが矯正されたことにより生じたと推察する。

    キーワード:指圧、側弯症、Cobb角、脊柱


    Measurement of the Psychological Effect of Full Body Shiatsu Therapy: a Case Report

    Shinpei Oki
    Representative, Nekonote Shiatsu

    Abstract : This report examines the case of a female patient in her 20s who received three full body shiatsu treatments between May 24 and June 7 2015, with the objective of reducing psychological stress. The psychological effect was evaluated using the Profile of Mood States (POMS) index. Following treatment, improvements in the t-scores of all six POMS factors were observed. This suggests that full body shiatsu therapy has a stress-relief effect, which may be verified through further studies.

    Keywords: shiatsu, stress, POMS


    I.Introduction

     So many people are feeling the effects of psychological stress in modern society that stress can be considered endemic 1. In Japan, many people look to alternative therapies, including anma, massage, and shiatsu, for treatment of stress.

     Multiple studies have been conducted into the effects of manual therapy on stress relief 2~5, confirming its effectiveness. Research has also been conducted into the use of shiatsu for treating stress 6, but insufficient data exists on the effects of general shiatsu carried out by a therapist on a patient. In this paper, we report on a case in which full body shiatsu used to alleviate stress with psychological stress measured using a mood profile, which will serve as a springboard for future investigation.

    Ⅱ.Methods

    Test subject

     Female office worker in her 20s

    Period

     May 24 to June 7, 2015 (3 sessions)

    Location

     Patient’s home

    Treatment method

     Namikoshi-style full body shiatsu, starting in lateral position

    Evaluation method

     In order to evaluate psychological effects, a Japanese-language POMS™ test (Kaneko Shobo) was administered immediately before and after treatment. POMS is a mood profile test developed by McNair et al in the U.S., which employs answers to 65 questions to enable simultaneous measurement of six factors: tension-anxiety, depression, anger-hostility, vigor, fatigue, and confusion 7. The POMS results for this report were converted from raw data to t-scores and totaled. POMS has been implemented on large groups of healthy adult males and females and standardized, with t-scores calculated for mean value and standard deviation by age and sex. The t-score is calculated as 50 + 10 x (raw score – average score) / standard deviation. If the raw score is equal to the average score, the t-score will be 50. The lower the t-score, the lower the tension-anxiety, depression, anger-hostility, vigor, fatigue, or confusion. Thus, for vigor, a higher t-score indicates a more favorable condition 7.

     The goal and measurement procedure for POMS was fully explained to the patient and her consent obtained.

    Ⅲ.Results

    History of present illness

     The patient was transferred to a new department at work in April 2015 and, still unaccustomed to the new workplace and job responsibilities, was experiencing high daily stress levels. Work mainly involved VDT (video display terminal) operation, with over 7 hours per day spent engaging in computer input.

    Medical history

     Inguinal hernia (surgery completed in 2013)

    Family history

     No relevant items

    Subjective findings

    • Sleep disorder
      On some days, the patient had difficulty getting to sleep because she was unable to relax emotionally. The harder she tried to sleep, the more difficult it would become.
    • Neck, shoulder, and lumbar pain
      The patient experienced chronic neck and shoulder stiffness. Perhaps because she assumed the same posture for extended periods, she experienced a grinding pain when she extended her back.

    Examination findings

    • Observation
      The patient’s complexion was poor, with bags under her eyes and numerous pimples around her jaw. Head-forward poster with exaggerated lumbar kyphosis was observed.
    • Palpation
      Cervical region: Hypertonus was confirmed in anterior and middle scalenus, splenius capitis, rectus capitis posterior major and minor, and semispinalis capitis. Misalignment of the lower cervical vertebrae was also observed.
      Shoulder, dorsal, and lumbar regions: Hypertonus was confirmed in the upper trapezius, levator scapulae, and quadratus lumborum.
      Abdomen: The lower abdomen was flaccid and induration was observed in the descending colon region (left umbilical region).

    Treatment #1 (May 24, 2015)

    • Rigidity in the dorsal region was alleviated.
    • Post-treatment, the patient reported fullbody relaxation and mild drowsiness.

    Treatment #2 (May 30, 2015)

    • Patient reported that she slept well after the previous treatment and that she awoke the next morning with no feelings of lethargy.
    • She also stated that her neck and shoulders felt lighter than usual.

    Treatment #3 (June 7, 2015)

    • Patient reported that she slept well for several days after treatment and that she felt comparatively fresh on waking.
    • She still felt stiffness in the neck and shoulders, but it was not severe. Her lumbar region was still slightly stiff, but not painfully so.
    • She felt that her stress level was lower as well.

     Table 1 shows the POMS t-scores measured before and after all three treatments. Aside from the anxiety factor on May 24 and the vigor factor on May 30, the values for all factors showed improvement posttreatment, with a general trend toward improvement as the treatments progressed (Fig. 1).

    Table 1. T-scores for six POMS factors
    Table 1. T-scores for six POMS factors

    Fig. 1. Changes in t-scores for six POMS factors
    Fig. 1. Changes in t-scores for six POMS factors

    Ⅳ.Discussion

     In the case presented in this report, the patient showed improvement in all six POMS factors over the course of three treatments. Kamohara et al and Asai et al demonstrated the possibility for suppression of sympathetic nervous system activity using shiatsu to the abdominal region and the dorsal region, respectively 8-9. Also, Yokota, Watanabe, and Tadaka et al reported miotic (pupil contraction) response to shiatsu to the anterior cervical, lower leg, sacral, and head regions, respectively, possibly due to either suppression of the sympathetic nervous system or stimulation of the parasympathetic nervous system 10~12. The patient in this case report received full body shiatsu, including comprehensive shiatsu stimulation to all of the above-mentioned regions, so it is probable that a relaxation effect was achieved due to both suppression of the sympathetic nervous system and stimulation of the parasympathetic nervous system. In addition, Kato reported that, in restraint-stressed rats, acupuncture electrostimulation lead to normalization of secretion of monamines including dopamine and serotonin in all areas of the brain 13, so one might consider the possibility that a similar mechanism occurs with shiatsu stimulation as well.

     A single case such as this is insufficient evidence to argue for the effectiveness of shiatsu therapy for treatment of stress. Verification of the effectiveness of shiatsu as a means of stress alleviation will require a study employing statistical methodology, which I hope to pursue as a research topic in the future.

    Ⅴ.Conclusion

     Improvement was observed in all six POMS factors over the course of three full body shiatsu treatments.

    References

    1. Govt. of Japan Cabinet Office website: Heisei 20 nendo-ban kokumin seikatsu akusho, 2008 (in Japanese)
    2. Kober A, Scheck T, et al: Auricular acupressure as a treatment for anxiety i prehospital transport setting. Anesthesiology 98: 1328-1332, 2003
    3. Sato T: Kenko na seijin josei ni okeru hando massaji no jiritsu shinkei katsudo oyobi kibun he no eikyo. Yamanashi daigaku kango gakkaishi 4(2): 25-32, 2006(in Japanese)
    4. Fujita K: Haibu massaji ni yoru seijin dansei no shintaiteki • sinnriteki eikyo. Ube furontia diagaku kangogaku janaru 4(1): 37-43, 2011 (in Japanese)
    5. Sakai K et al: Kenko na josei ni taisuru takutiru kea no seiriteki • shinriteki koka. Nippon kango kenkyu gakkaishi 35(1): 145-152, 2012 (in Japanese)
    6. Honda Y et al: Serufu keiraku shiatsu ga kibun ni oyobosu kyusei koka to sono yuzabiriti ni kan suru kenkyu. Kenko Shien 15(1): 49-54, 2013 (in Japanese)
    7. Yokoyama K: Nihongoban POMS tebiki, 1-7. Kaneko Shobo, Tokyo, 1994 (in Japanese)
    8. Kamohara H et al: Effects of Shiatsu Stimulation on Peripheral Circulation. Toyo ryoho gakko kyokaishi(24): 51-56, 2002 (in Japanese)
    9. Asai S et al: Effects of Shiatsu StimuIation on Muscle PIiability. Toyo ryoho gakko kyokaishi (25): 125-129, 2001 (in Japanese)
    10. Yokota M et al: Effect on Pupil Diameter of Shiatsu Stimulation to the Anterior Cervical and Lateral Crural Regions. Toyo ryoho gakko kyokaishi (35): 77-80, 2011 (in Japanese)
    11. Watanabe T et al: Effect on Pupil Diameter,Pulse Rate, and Blood Pressure of Shiatsu Stimulation to the Sacral Region. Toyo ryoho gakko kyokaishi (36): 15-19, 2012 (in Japanese)
    12. Tadaka S et al: Tobu he no shiatsu shigeki ga doko chokkei • myakuhakusu• ketsuatsu ni oyobosu koka. Toyo ryoho gakko kyokaishi (37): 154-158, 2013 (in Japanese)
    13. Kato M: Kosoku sutoresu ratto he no hari tsuden shigeki no nonai monoamin ni oyobosu eikyo. Meiji shinkyu igaku (27): 27-45, 2000 (in Japanese)


    Shiatsu Therapy for a Patient with Suspected Peripheral Neuropathy while Diagnosed with Traumatic Cervical Spinal Cord Injury

    Ichiro Maruyama
    Graduated Japan Shiatsu College in 2012

    Abstract : This report examines the case of a patient diagnosed with traumatic cervical spinal cord injury and suspected peripheral neuropathy (flaccid paralysis of the lower extremities) who was treated with shiatsu therapy for the alleviation of dorsal muscle tension. After 29 treatments, lower-limb motor function recovered. This suggests that hypertonicity in paraspinal muscles was significantly related to the motor dysfunction due to peripheral neuropathy. Considering other reports on the effect of shiatsu stimulation in improvement of muscle pliability, we conclude that in this patient the decrease in muscle hypertonicity due to shiatsu therapy resulted in improved blood circulation and increased spinal range of motion, leading to a recovery of motor function.

    Keywords: flaccid paralysis of the lower extremities, shiatsu therapy, dorsal muscle tension


    I.Introduction

     Spinal cord injury refers to injury of the spinal cord where it is protected within the spinal canal. Depending on the level of the spinal cord injury, symptoms presented may include motor, respiratory, circulatory, urinary, digestive, or other dysfunctions. Treatment is divided between initial phase treatment and chronic phase treatment, with initial phase treatment including pharmacotherapy, localized rest, cranial traction, and surgery, while chronic phase treatment centers on rehabilitation. Here, we report on a case in which the symptoms of a patient diagnosed with traumatic cervical spinal cord injury virtually disappeared following therapy.

    Ⅱ.Methods

    Location

     Patient’s home

    Period

     August 25 to December 1, 2014 (Number of treatments: 29)

    Test subject

     82 year old female

    History of present illness

     The patient sustained a traumatic cervical spinal cord injury 46 years previously. Rehabilitation restored motor function in the upper limbs, but paralysis (paraplegia) of the lower limbs remained and she had been confined to a wheelchair ever since. Six years previously she sustained a fracture to her right humerus, and later required amputation of the arm due to pyogenic osteomyelitis. Two years previously she was diagnosed with tuberculosis and admitted to a tuberculosis ward, after which she became bedridden. After discharge from the hospital, she developed pain in her upper limb and dorsal regions, and it was arranged for her to received homecare massage for alleviation of the pain.

    Medical history

     Paraplegia (circulatory organ, urinary, and digestive organ dysfunction) due to spinal cord injury; gallbladder cancer; pancreatic cancer; tuberculosis; amputation of right arm due to pyogenic osteomyelitis

    Treatment

    • Shiatsu to cervical, dorsal, sacral, and gluteal regions in lateral position
    • Shiatsu to left upper limb and lower limbs in supine position (emphasis on treatment of lower limbs)

    Evaluation

    • Pain evaluated using 10-step VAS
    • Manual muscle testing (MMT)

    III.Results

    August 25 (Treatment #1)
    Pre-treatment findings
     Subjective findings

    • Motor paralysis and sensory dysfunction inferior to lumbar region
    • Numbness below knees
    • Bladder and rectal dysfunction
    • Pain in upper limb and dorsal regions
    • Hot and cold flashes (excessive sweating from neck up)

     Objective findings

    • Limited range of motion in left shoulder joint
    • Flaccid paralysis and sensory dysfunction of lower limbs
    • Pain in dorsal and gluteal regions

     Post-treatment findings

    • Hot and cold flashes alleviated due to improved circulation
    • Pain reduced

    September 4 (Treatment #4)
     Post-treatment findings

    • Dorsal region muscle tension reduced (thoracolumbar junction)
    • Pain in medial femoral region absent
    • Slight return of sensory function in femoral region (femoral nerve, obturator nerve)
    • Muscle contraction observed in femoralregion (adductor muscles)

    September 8 (Treatment #5)
     Post-treatment findings

    • Plantar pain absent
    • Patient found shiatsu to sacral region pleasurable

    September 18 (Treatment #8)
     Post-treatment findings

    • Patient felt urinary and bowel sensations (improvement of bladder and rectal dysfunction)
    • Return of sensory function to femoral region

    October 2 (Treatment #12)
     Post-treatment findings

    • Muscle contraction observed in femoral region (femoral nerve, obturator nerve)

    October 30 (Treatment #20)
     Post-treatment findings

    • Muscle contraction observed in femoral region (sciatic nerve)

    November 6 (Treatment #22)
     Post-treatment findings

    • Movement observed in hip joint (flexion, extension, external rotation, internal rotation)
    • Movement observed in knee joint (flexion, extension)
    • Left shoulder joint more stable; pain absent
    • Changed sensation distal to knee

    November 17 (Treatment #25)
     Post-treatment findings

    • Movement observed in ankle joint and toes (flexion, extension) with patient lying in lateral position
    • Patient able to form slight bridge (elevation of gluteal region)

    December 1 (Treatment #29)
     Post-treatment findings

     Subjective findings

    • Patient experiences numbness in calcaneal region
    • Pain eliminated

     Objective findings

    • Return of motor function inferior to lumbar region
    • Improvement to bladder and rectal dysfunction

    Table 1. 10-step VAS pain scale values (post-treatment)
    Table 1. 10-step VAS pain scale values (post-treatment)

    Table 2. Manual muscle testing (MMT) of lower limbs
    Table 2. Manual muscle testing (MMT) of lower limbs

    IV.Discussion

     In most cases of spinal cord injury, the vertebrae undergo dislocation fracture due to an external force, with concomitant damage to the spinal cord. Characteristics vary depending on the level and degree of spinal cord injury (complete or incomplete paralysis), but immediately after the injury spinal shock occurs and autonomy is lost in the spinal cord inferior to the injury. Specifically, flaccid paralysis occurs, with loss of all motor, sensory, and deep tendon reflex function, while at the same time autonomic nervous function is also impaired. Following the recovery period, reflex functions in the spinal cord inferior to the injury are recovered, resulting in spastic paralysis, characterized by hyperreflexia of the deep tendon reflexes 1.
     In this case, since the patient exhibited flaccid paralysis from post-injury to the present, it is likely that this was a case not of spinal cord injury, but rather of spinal cord compression. In other words, assuming lower motor neuron damage and comparing spinal cord injury level with ADL levels, since T1 ADLs (upper limbs normal, full wheelchair mobility) were possible and T6 functions (circulatory organ stability) were unstable, it was determined that there was an irregularity in the upper thoracic vertebrae. Clinical findings indicated that the thoracic spine was straight, with almost no curve in the thoracic vertebrae. We may hypothesize that this caused hypertonus in the dorsal musculature, causing lower motor neuron damage, pain, and motor dysfunction.
     Based on the above determination of peripheral neuropathy due to spinal cord compression, shiatsu therapy was carried out with the objective of alleviating pain and restoring motor function in the patient. As a result, after 29 treatments, decrease in VAS values as an indicator of pain (Table 1) and recovery of muscle strength as determined by manual muscle testing (Table 2) were observed, although numbness remained in the calcaneal region. If this were a case of spinal cord injury, such rapid return of function would be unlikely 2-3. It is therefore reasonable to assume that recovery was due to shiatsu treatment of peripheral neuropathy caused by nerve entrapment due to hypertonic muscles.
     At the very least, in this case it is highly likely that hypertonicity in paraspinal muscles was significantly related to the motor dysfunction due to peripheral neuropathy. Considering other reports on the effect of shiatsu stimulation in improvement of muscle pliability 4~6, we conclude that in this patient the decrease in muscle hypertonicity due to shiatsu therapy resulted in improved blood circulation and increased spinal range of motion, leading to a recovery of motor function.

    V.Conclusion

     Even in patients afflicted by long-term peripheral neuropathy (pain and motor dysfunction), recovery through shiatsu therapy is possible.

    VI.References

    1. Nara N et al: Toyo ryoho gakko kyokai rinsho igakukakuron (dai 2 han) sekizui sonsho. Ishiyaku shuppan KK: 171-173, 2010 (in Japanese)
    2. Shinno Y: Massho shinkei shogai no rihabiriteshon. Nihon rihabiriteshon igakukaishi 28 (6): 453-458 (in Japanese)
    3. Nishiwaki K et al: Massho shinkei sonshogo no shinkeisaisei to rihabiriteshon. Nihon rihabiriteshon igakukaishi 39 (5): 257-266, 2002 (in Japanese)
    4. Asai S et al: Effects of Shiatsu Stimulation on Muscle Pliability. Toyo ryoho gakko kyokai gakkaishi (25): 125-129, 2001 (in Japanese)
    5. Sugata N et al: Effects of Shiatsu Stimulation on Muscle Pliability(Part2). Toyo ryoho gakko kyokai gakkaishi (26): 35-39, 2002 (in Japanese)
    6. Eto T et al: Effects of Shiatsu Stimulation on Muscle Pliability(Part3). Toyo ryoho gakko kyokai gakkaishi (27): 97-100, 2003 (in Japanese)


    A Case of Posture Correction with a Combination of Pressure Application and Mobilization

    Genta Niikura
    Clinic Director, Genta Chiryoin

    Abstract : In clinical practice, one encounters many patients presenting subjective symptoms of shoulder stiffness or back pain. Here we examine a case in which symptoms were alleviated through posture and joint correction, in addition to using shiatsu therapy to reduce muscle tension. By combining the pressure applications of shiatsu therapy with mobilization, it was possible to achieve an effect on both muscles and joints.

    Keywords: shiatsu therapy, pressure application, exercise therapy, posture correction


    I.Introduction

     In clinical practice, one often encounters patients for whom, even though muscle tension is alleviated through shiatsu therapy consisting of pressure application to muscles and soft tissues, similar symptoms return after several days or weeks.

     It was our opinion that these symptoms could be more effectively treated with a combination of shiatsu therapy and ongoing posture correction and joint adjustment.

     Here, we report on a case in which significant therapeutic effect was achieved through joint adjustment and posture correction via the use of pressure applications combined with mobilization.

    Ⅱ.Methods

    Subject

     Female child care worker in her 30s

    Location

     This clinic (Genta Chiroin)

    Period

     March 30 to April 12, 2014

    Primary complaint

     Work involves frequent crouching, leading to lumbar pain, stooped posture, and severe shoulder stiffness; patient told by coworkers that she has poor posture

    Treatment method

     Full body shiatsu 1 combined with mobilization for shoulder, hip, and sacroiliac joints

    • For rounded back:
      Prone position: Palmar pressure to spine, spinous process adjustment
    • For internal rotation of shoulder joints:
      Lateral position:
      Pressure applications to superior angle of scapula, sub-clavicular region, and coracoid process, plus adjustment procedure to scapula
    • For Lumbar kyphosis:
      Supine position: Palmar pressure to abdomen and inguinal region
      Prone position: Adjustment of hip and sacroiliac joints
    • For posterior pelvic tilt:
      Supine position: Palmar pressure to abdomen and inguinal region
      Prone position: Adjustment of hip and sacroiliac joints

    III.Results

    Treatment #1 (March 30, 2014)
    Pre-treatment findings
     Subjective findings

    • Work involves frequent crouching, leading to lumbar pain, stooped posture, and severe shoulder stiffness; patient told by coworkers that she has poor posture Objective findings
    • Exaggerated posterior pelvic tilt, rounded back, exaggerated internal rotation of shoulders (Fig. 1)

    Post-treatment findings
     Subjective findings

    • Reduced sensations of shoulder stiffness and lumbar pain; reduced discomfort at work, even after maintaining same posture for a prolonged period

     Objective findings

    • Tension in lumbar musculature reduced due to creation of anterior pelvic tilt and lumbar lordotic curve; reduced internal rotation of shoulders due to improved shoulder posture (Fig. 2)

    treatment #1

    Treatment #2 (April 12, 2014)
    Pre-treatment findings
     Subjective findings

    • Patient told by those around her that her posture had improved; alleviation of lumber pain

     Objective findings

    • Anterior pelvic tilt maintained; exaggerated internal rotation of shoulders observed (Fig. 3)

    Post-treatment findings
     Subjective findings

    • Alleviation of symptoms of shoulder stiffness and lumbar pain; reduced discomfort, even after maintaining same posture for a prolonged period

     Objective findings

    • Improvement of exaggerated internal rotation of shoulders (Fig. 4); alleviation of muscle tension due to adjustment of joint position

    treatment #2

    IV.Discussion

     According to the Comprehensive Survey of Living Conditions by the Japanese Ministry of Health, Labour and Welfare 2, the two most common symptoms experienced by both men and women in Japan are, in order, stiff shoulders and lumbar pain. Little has changed in this situation, and a comparatively large number of patients visiting our clinic list stiff shoulders or lumbar pain as their primary complaint.

     It is my experience in a clinical setting that, in order to alleviate shoulder stiffness or lumbar pain, effects are longer lasting if reduction of excess muscle tension is used in combination with joint adjustment.

     The reason is that, as humans are bipedal, they must continually maintain posture in opposition to gravity. The extensors, trunk muscles, and other antigravity muscles must maintain contraction in order to resist gravity and maintain proper posture, which when disrupted is corrected by postural reflexes 3. It follows that a greater load is placed on these muscles when proper posture and skeletal alignment are regularly disrupted during routine daily activities. For this reason, correction of chronically disrupted postural and skeletal alignment should help alleviate symptoms of shoulder stiffness and lumbar pain.

     In this case, initial examination revealed marked postural disruption from the line of gravity (Fig. 1), indicating probable hypertonus in the pectoralis major and other shoulder internal rotator muscles along with reduced tonus of the antigravity muscles. Also, hypertension in the gluteus maximus and hamstring muscles were likely responsible for the posterior pelvic tilt.

     In the initial treatment, hypertonus in the gluteus maximus and hamstrings was improved, along with overextension of the quadratus lumborum and erector spinae muscles, as was evidenced by the reductions in posterior pelvic tilt and lumbar kyphosis. Also, concerning the shoulder joints, changes to the position of the scapula were likely due to reduced hypertonus in the internal rotators, including the pectoralis major, latissimus dorsi, and subscapularis (Fig. 2).

     Prior to treatment #2, a slight internal rotation of the shoulder joints was observed, though no major postural disruption from the line of gravity compared to post-treatment #1 was apparent (Figs. 2, 3). In treatment #2, further improvements to pliability in hypertoned muscles improved balance with over-extended muscles, causing positional changes to the shoulder joint and humerus that likely resulted in reduced tension in the trapezius, sternocleidomastoid, and other neck muscles that led to improvements in head position.

     It is difficult to determine whether disrupted posture due to routine daily activities led to muscular hypertonus and hypotonus or whether the problem was due to irregularities in joint alignment, but since multiple reports have shown that shiatsu stimulation effectively increases muscle pliability 4-6, in this case it is likely that pressure application relaxed hypertoned muscles that were the cause of postural disruption while mobilization improved joint positioning, resulting in alleviation of symptoms.

    V.Conclusions

     When the pressure applications of shiatsu therapy are combined with mobilization, there is a tendency for symptoms of stiff shoulders and lumbar pain to be alleviated due to elimination of muscle hypertension and improved joint positioning. However, because this report only contains one example, it will be necessary to study a larger number of cases.

    VI.References

    1. Ishizuka H: Shiatsu ryohogaku, first revised edition, International Medical Publishers, Ltd. Tokyo, 2008 (in Japanese)
    2) 2. Japanese Ministry of Health, Labour and Welfare: Kokumin seikatsu kiso chosa. 2013, http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html (in Japanese)
    3. Toyo ryoho gakko kyokai: Seirigaku. Ishiyaku shuppan KK, 1990 (in Japanese)
    4. Asai S et al: Effects of Shiatsu Stimulation on Muscle Pliability. Toyo ryoho gakko kyokai gakkaishi (25): 125-129, 2001 (in Japanese)
    5. Sugata N et al: Effects of Shiatsu Stimulation on Muscle Pliability(Part2). Toyo ryoho gakko kyokai gakkaishi (26): 35-39, 2002 (in Japanese)
    6. Eto T et al: Effects of Shiatsu Stimulation on Muscle Pliability(Part3). Toyo ryoho gakko kyokai gakkaishi (27): 97-100, 2003 (in Japanese)


    五十肩に対する指圧治療:宮下雅俊

    宮下雅俊
    てのひら指圧治療院 院長

    Shiatsu Therapy for Frozen Shoulder

    Masatoshi Miyashita

     

    Abstract : With a view to relieving pain around the left shoulder joint and improving range of the left shoulder motion, a sixty year old female patient with frozen shoulder was treated by shiatsu. The treatment of twelve sessions resulted in removing the pain and improving the range of the joint motion. As for the range of motion, the difference between the left and right shoulders was eliminated. Increasing muscle flexibility by shiatsu therapy may have potential to ease pain and to improve range of joint motion.


    I.はじめに

     五十肩は肩関節周囲炎と呼ばれる疾患の一つである。整形外科での五十肩を含めた肩関節周囲炎の治療のガイドラインによると、急性期と慢性期では治療方針が異なり、急性期では疼痛緩和の為の貼付剤や消炎鎮痛剤、筋弛緩剤などの薬が処方される。慢性期ではマイクロウェーブやホットマグナーといった温熱療法やコッドマン体操などの運動療法が取り入れられている。

     今回、整形外科医による五十肩の診断を受けた患者に対して指圧治療を行い、関節可動域の改善がみられた症例を報告する。

    Ⅱ.対象および方法

    場 所: 都内患者宅
    期 間: 2012年11月16日〜2013年9月13日の合計12回の指圧施術
    施術対象:60歳女性
    家族歴: 特筆事項無し
    既往歴: 卵巣嚢腫
    現病歴: 2011年11月頃より左肩周辺に痛みが出はじめるものの、そのうち良くなるとの判断により約1年間放置していた。しかし疼痛が増大し、関節可動域の制限が強くなった。 2012年10月、整形外科にてX線の画像診断による石灰の沈着などが診られない等の理由から五十肩との診断を受ける。薬(ノイロトロピン)の処方と理学療法室での治療を進められたが、事情により毎日の通院が難しいため往診による指圧治療を受けることとなった。

    [検査所見]

    • ヤーガーソンテスト陰性
    • スピードテスト陰性
    • ペインフルアークサイン陰性
    • アップレイスクラッチテスト陽性
    • ダウバーン兆候陰性
    • ドロップアームサイン陰性
    • 棘上筋、三角筋後部線維に圧痛有り
    • 左上肢前方挙上に関節可動域制限と運動痛有り

    [診察所見]

    •  軽度円背を認める。
    • 伏臥位では左下肢が右下肢に比べ短い。 (内果を基準)
    • 腰椎の前弯が強く現れている。

    [治療方針]

     検査所見から棘上筋、三角筋を中心に肩関節の周辺を重点的に行う指圧1)と、全身の指圧施術を行う。

     

    III.結果

     左肩関節周囲の疼痛が改善してからは、三角筋後部線維を中心に肩関節の周辺を重点的に行う指圧と、胸椎の可動域を広げる目的で背部脊柱起立筋の両側に対する押圧法による衝圧法2)と全身の指圧施術を行った。

    第1回 2012年11月16日

    • 棘上筋、三角筋を中心に肩関節周囲の指圧施術と全身に対する指圧操作を行う。
    • 棘上筋、三角筋、上腕三頭筋に押圧操作を施しながらの、肩関節挙上、外転の他動運動による運動操作を行う。
    • 左上肢前方挙上の関節可動域の改善が見られた。
      (図1と図2の指圧治療の施術前、施術後の比較)

    第2回 2012年12月7日 

    • 棘上筋、三角筋を中心に肩関節周囲の指圧施術と全身に対する指圧操作を行う。
    • 棘上筋、三角筋、上腕三頭筋に押圧操作を施しながらの、肩関節挙上、外転の他動運動の運動操作を行う。
    • 自覚症状として前回の施術時に比べ、棘上筋よりも、三角筋後部線維の運動痛と圧痛が強く感じられる。

    第3回 2012年12月21日

    • 指圧施術前に、健側の右肩関節の可動域が前回よりも低下していることを画像で確認した。
    • 三角筋後部線維、前鋸筋を中心に肩関節周囲の指圧施術と全身に対する指圧操作を行う。
    • 腹臥位にて、背部脊柱両側に衝圧法を行う。
    • 三角筋後部線維、上腕三頭筋に押圧操作を施しながらの、肩関節挙上、外転の他動運動の運動操作を行う。
    • 左肩関節周囲の疼痛は改善したが、運動痛、圧痛は残っており、初回施術後の様な顕著な他覚的な変化がないため、施術期間を2週間に一度の治療ペースから、ひと月に一度の治療ペースに移行した。

    第4回 2013年1月25日

    • 前回と同様の施術内容。
    • 施術後、肩周辺の筋肉の緊張は和らぐが、上肢前方挙上に左右差が見られる。

    第5回 2013年2月15日

    • 前回同様の施術内容。
    • 施術後、肩周辺の筋肉の緊張は和らぐが、上肢前方挙上に左右差が見られる。 第6回 

    2013年3月15日

    • 前回同様の施術内容。
    • 施術後、肩周辺の筋肉の緊張は和らぐが、上肢前方挙上に左右差が見られる。 第7回 

    2013年4月12日

    • 前回同様の施術内容。
    • 三角筋後部線維の圧痛が和らいできている。
    • 施術後、肩周辺の筋肉の緊張は和らぐが、上肢前方挙上に左右差が見られる。

    第8回 2013年5月10日

    • 前回同様の施術内容。
    • 三角筋後部線維の圧痛、運動痛が和らいできている。
    • 施術後、肩周辺の筋肉の緊張は和らぎ、上肢前方挙上に左右差の減少。

    第9回 2013年6月14日

    • 前回同様の施術内容。
    • 三角筋後部線維の圧痛、運動痛が和らいできている。
    • 施術後、肩周辺の筋肉の緊張は和らぎ、上肢前方挙上に左右差の減少。

    第10回 2013年7月12日

    • 前回同様の施術内容
    • 三角筋後部線維の圧痛、運動痛が和らいできている。
    • 施術後、肩周辺の筋肉の緊張は和らぎ、上肢前方挙上に左右差が前回に比べ更に減少。

    第11回 2013年8月9日

    • 左右肩関節前方挙上の左右差がほとんど見られることはなく、左肩関節の関節可動域が改善した。
    • 左肩関節の疼痛の消失、運動痛の消失、圧痛の減少が確認できた。

    第12回 2013年9月13日

    • 前回同様、左右上肢の前方挙上の左右差がほとんど見られることはなく、左肩関節の関節可動域が改善した。
    • 左肩関節の疼痛の消失、運動痛の消失、圧痛の消失が確認できた為、五十肩に対する指圧治療は12回目をもって終了した。

     図1. 左右上肢前方挙上の肩関節可動域図1. 左右上肢前方挙上の肩関節可動域

    IV.考察

     五十肩は多様な症状を示すため、腱板断裂などの疾患が五十肩と診断され保存的治療が漫然と行われている場合も少なくない3)。今回は整形外科医による五十肩という診断後に指圧治療を開始したことが、患者が安心して指圧治療を受けることができた一番の要因であった。

     図1と図2の比較により、第1回指圧施術で左肩関節の前方挙上動作の改善が見られ、左肩関節の関節可動域の向上の確認と同時に、健側であるはずの右肩関節の可動域改善も確認できた。

     しかしながら図3の第3回指圧治療前では、改善していたはずの右肩関節の可動域が低下しているのが確認された。

     図4にあるように、第12回指圧施術で左右上肢前方挙上による肩関節可動域の左右差がほとんど見られない程度に改善し、両肩関節とも前方挙上の正常可動域のほぼ180度近くまで拡大していることが確認できた。

     これらの考察は正確なROM測定を行っていないので動きのメカニズムのどこに作用したかは断定できない。他方、肩関節の前方挙上運動は、上腕骨や肩甲骨の運動のみではなく、体幹(特に胸椎の伸展運動)の動きが連動して起こるとされている4)。  本症例における関節可動域改善のメカニズムを今回の結果から断定的に論じることはできないが、指圧刺激が筋の柔軟性を向上させる5)ことから、本症例へ施した肩甲間部、肩甲下部への指圧や背部への衝圧法により周辺の筋緊張が緩和され、上記の肩関節上方挙上運動機構のいずれかあるいは複数を改善させることにより、関節可動域が改善したと推察する。

    V.結論

     指圧療法は、五十肩における肩関節の可動域の改善に対して効果が確認できた。

    VI.参考文献

    1) 浪越徹著:普及版 完全図解指圧療法,p.224-225,日貿出版社,東京,2001
    2) 社団法人東洋療法学校協会 教科書執筆小委員会著:あん摩マッサージ指圧理論,p.17,p.27,株式会社医道の日本社,東京,2003
    3) 森岡健他:五十肩として治療されていた腱板断裂例の治療成績,p.283-290,日本リウマチ・関節外科学会雑誌vol.12,NO3,1993,
    4) 上田泰之他:若年者と高齢者における上肢挙上時の体幹アライメントの違い,体力科學,57(4),p.485-490,2008
    5) 浅井宗一他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果,p.125-129,東洋療法学校協会学会誌,(25),2001


    【要旨】

    五十肩に対する指圧治療
    宮下雅俊

     60歳女性の五十肩に対して、左肩関節周囲の疼痛の緩和、左肩関節の関節可動域の向上を目的として指圧療法を行った。その結果、全12回の指圧治療により左肩関節の疼痛の消失、関節可動域の改善が見られ、左右の肩関節の可動域に左右差が見られなくなった。指圧療法により、筋の柔軟性を高めることで、五十肩による疼痛改善、関節可動域の改善をみた。

    キーワード:五十肩、肩関節周囲炎、関節可動域、指圧