カテゴリー別アーカイブ: 調査・報告

礫川マラソン指圧ボランティアアンケート報告:小松京介

小松 京介
日本指圧専門学校 指圧科
本多 剛
指導教員(日本指圧専門学校 専任教員)
金子 泰隆
指導教員(日本指圧専門学校 専任教員)
大木 慎平
指導教員(日本指圧専門学校 専任教員)

Volunteer Shiatsu at Rekisen Marathon : Survey Report

Kyosuke Komatsu / Tsuyoshi Honda, Yasutaka Kaneko, Shinpei Oki

 

Abstract :  The Forty-First Rekisen Marathon was held on November 29th, 2015 at Koishikawa, Bunkyo Ward. We participated as volunteer shiatsu therapists and surveyed 31 runners (24 males and 7 females) before and after treatment. The runners were asked to describe their level of fatigue and pain on a 100mm Visual Analog Scale (VAS) and circle the areas on abody diagram where they felt fatigue or pain. Volunteers from Japan Shiatsu College treated the runners with Namikoshi Standard Shiatsu for between 15 and 30 minutes depending on their chief complaint. All runners showed post-treatment improvement as measured by the Visual Analog Scale. Concerning the body area that the runners felt fatigue or pain, the top reply was the posterior region of the left thigh, and the second was the posterior region of the left lower leg. VAS improvement may have been due to increased muscle flexibility following shiatsu treatment.

Keywords: marathon, runner, survey, Visual Analog Scale, shiatsu


I.はじめに

 平成 27年 11月 29日に文京区青少年対策礫川地区委員会主催、第 41回礫川マラソンが文京区小石川において開催された。この催しには、本校も礫川地域に根づいた学校として協賛し、ランナーにレース後、指圧を受けていただくボランティアを毎年行っている。そこで今回、ランナーがレース後、身体のどの部位に痛みを生じるのか、また、その症状は指圧によってどの程度改善されたのかなどを調査するためのアンケートを併せて行った。その結果を集計したので報告する。

II. 対象および方法

日  時:2015年 11月 29日(日)

場  所:学校法人浪越学園日本指圧専門学校第3実技室

対  象:第 41回 礫川マラソン参加者中、指圧を受けかつアンケートで有効回答が得られた 10代~50代の男女(男性 23名、女性 7名)

評価方法:

 使用したアンケート用紙は、衞藤ら1)が第13回東京夢舞いマラソンボランティアアンケート報告で使用したものを用いた(図1、図競技終了後2)。A4版両面印刷のアンケート用紙を用い、施術前と施術後の疲労および痛みの度合いを 100mm(= 100ポイント)の長さの VAS(visual analogue scale)にて計測した。また、疲労を感じる部位並びに痛みを感じる部位を、身体イラストに丸印を記入するよう指示した。

施術方法:

 指圧は日本指圧専門学校学生有志が、ランナーの主訴に応じて 15~30分の間で浪越式基本指圧2)を行った。

図1.施術前アンケート用紙
図1.施術前アンケート用紙

図2.施術後アンケート用紙
図2.施術後アンケート用紙

III. 結果

 アンケートを集計した結果、VASにて疲労および痛みの度合いが減少したのは 30名中 30名(100%)であった。疲労および痛みの度合いが減少した平均ポイントは 40.9ポイントで、男性では 39.8ポイント、女性では 44.6ポイントであった。疲労および痛む部位でもっとも多かった回答は左大腿後面、次いで左下腿後面であった。尚、部位の回答は複数回答可のため、延べ 144箇所であった(表1)。

表1.左右の部位別主訴の件数
表1.左右の部位別主訴の件数

IV. 考察

 今回の疲労を感じる部位並びに痛みを感じる部位の結果は、衞藤ら1)の報告同様、右側と比較して左側に多かった。浅見ら3)は中・長距離の選手の脚力はほとんど左右差が認められないことを報告しており、加えて村田ら4)は、下肢では明らかな一側優位性が認められず、評価や治療の際、下肢の利き足を考慮する必要性が少ないことを示唆している。このことから、今回、左側の痛みを訴える件数が多かったのは、脚力の左右差や利き足の影響に由来するものとは考えづらい。しかし、本大会のマラソンコースは左回りであったことなど、左足に負荷をかける要素が見受けられたこともあり、それにより右側に比べて左側に疲労や痛みが多く出現した可能性が考えられる。

 また、今回すべての対象の自覚症状において改善が認められた。浅井ら5)の報告では、指圧により筋柔軟性の向上が認められており、15~ 30分の施術においても同様の効果が得られたと推察される。

 今回のボランティアにおいて、アンケート調査の重要性を再認識した。今後もさまざまな活動を通じて、アンケート調査を実施していきたい。また、アンケートの内容については今後、指圧学会において共通して使用できるものの作成を検討してはどうかと考える。

V. 結語

 第 41回礫川マラソン出場ランナーの 30名に対して指圧施術を行い、30名全てで疲労及び痛みの VASに改善が見られた。アンケートの結果、疲労及び痛みを感じる部位は左大腿後面が最も多かった。

参考文献

1)衞藤友親 他:東京夢舞いマラソン指圧ボランティア報告 ,日本指圧学会誌(1);p.31-34,2012
2)石塚寛:指圧療法学,p.78-126,国際医学出版,東京, 2008
3)浅見高明 他:スポーツ選手の一側優位性(左右差)の比較検討,筑波大学体育科学系紀要(4);p.99-109,1981
4)村田伸 他:上下肢の一側優位性に関する研究,西九州リハビリテーション研究(1);p.11-14, 2008
5)浅井宗一 他:指圧刺激による筋の柔軟性に対する効果,東洋療法学校協会学会誌(25);p.125-129, 2001


【要旨】

礫川マラソン指圧ボランティアアンケート報告
小松 京介/本多 剛,金子 泰隆,大木 慎平

  平成 27年 11月 29日に文京区小石川で第 41回礫川マラソンが開催された。我々は本大会において、出場した 31名 (男性 24名、女性7名)のランナーに対しボランティアとして指圧施術をし、施術前後にアンケートを実施した。アンケートの内容は、疲労及び痛みの度合い を 100mmの長さの VASに記入し、疲労及び痛みを感じる部位に身体イラスト上で印をつける形式で設定した。施術方法は日本指圧専門学校学生有志がランナーの主訴に応じて 15〜 30分の間で浪越式基本指圧を行った。その結果、全てのランナーにおいて、疲労及び痛みの度合いを示す VASが施術後に改善した。また、疲労及び痛みを感じる部位で最も多かった回答は左大腿後面、次いで左下腿後面だった。VASの改善は、指圧による筋柔軟性の向上によるものであると推察される。

キーワード:マラソン、ランナー、アンケート、VAS、指圧


指圧治療の患者立脚型評価法について:大木慎平

大木 慎平
日本指圧専門学校専任教員

Patient-based Assessment for Shiatsu Treatment

Shinpei Oki

 

Abstract : Patient-based assessment, which evaluates subjective complaints in daily life, is useful for evaluating the effects of shiatsu treatment. Various organizations and associations are offering such evaluation tools, an d this report examines practical evaluation tools for clinical practice among the free resources available.

Keywords: shiatsu, subjective evaluation, patient-based assessment


I.はじめに

 日々の臨床で行われる治療効果の評価法としては、画像による姿勢などの評価や、関節可動域の測定1)など様々であるが、患者の自覚症状を評価する方法として患者立脚型評価法が挙げられる。患者の自覚症状の評価法としてはVisual Analog Scale(以下 VAS)がよく知られている。これは左端を「全くなし」、右端を「想像できる最高の程度」と設定した長さ 10cmの線上に、患者がどの程度の痛みや不快度を抱えているかを示してもらうという評価法である。また、VASに類似したものとして Numerical Rating Scale(NRS)というものもあり、こちらは症状の程度を0~ 10の 11段階で回答してもらう手法をとる2)。患者立脚型評価法はこれらの評価法を応用したもので、患者の自覚症状について回答してもらうという点で共通であるが、主に日常生活に関する質問項目で構成されているのが特徴である。  今回、実際の臨床で遭遇するケースが多いと思われる症例について適用可能な評価票を、簡略な解説・ダウンロード方法と併せて紹介していく。今回取り上げる評価票については、運用の利便性を考え無料で使用できるものに限った。これにより、本学会への症例報告のきっかけが生じれば幸いである。  なお、監修団体により「評価表」「評価法」などの表記の異同があるが、各団体 HPの表記に従った。

Ⅱ.方法

Ⅰ.運動器系評価尺度

A.患者立脚上肢障害評価表

DL:日本手外科学会HP(http://www.jssh.or.jp/)⇒医療関係者の皆様⇒出版物・お知らせ⇒患者立脚型機能評価質問表

 日本手外科学会監修の、上肢(腕、肩、手)の ADLにおける不自由度と疼痛の評価票である。「ビンのフタを開ける」「背中を洗う」などの ADLや、「腕・肩・手に痛みがある」「腕・肩・手にこわばり感がある」などの疼痛・機能に関する質問の 30項目からなり、追加項目にスポーツ・演奏など芸術活動に関する質問もある。短縮版に Quick-DASHもあり、そちらは11項目の質問で構成される。

B.患者立脚手関節評価表(PRWE-J)

DL:日本手外科学会 HP⇒医療関係者の皆様⇒出版物・お知らせ⇒患者立脚型機能評価質問表

 日本手外科学会監修の、手関節の痛み、機能、ADLなどに関する評価票である。「休んでいる時の痛み」「重いものを持ち上げる時の痛み」などの痛みに関する質問や、「ワイシャツのボタンをかける」などの機能・「ドアの取手を回す」動作に関する質問の全 15項目からなる。

C.患者立脚肘関節評価法(PREE-J)

DL:日本肘関節学会HP(http://www.elbow-jp.org/)⇒機能評価⇒患者立脚肘関節評価法のご案内

 MacDermid JCが開発した Patient-Rated Elbow Evaluation(PREE)3)を基に、日本肘関節学会・機能評価委員会が日本語版として作成した、肘の 痛み、機能、ADLに関する評価表である。質問項目は 20項目で PRWE-Jと共通のものも多いが、機能の項目に「重いものを引っ張る」「テニスボールのような小さなものを投げる」などが追加されている。

D.患者立脚肩関節評価法(Shoulder 36)

DL:日本肩関節学会 HP(http://www.j-shoulder-s.jp/)⇒各種機能評価法ダウンロード

日本整形外科学会及び日本肩関節学会監修の、肩関節の評価票である。「エプロンのひもを後ろで結ぶ」「患側の手でバスや電車のつり革につかまる」などの ADLを主とした 36項目の質問で構成され、肩関節の疼痛、可動域、筋力、健康感、ADL、スポーツ能力という6因子を評価できる。

E.日本整形外科学会股関節疾患質問票(JHEQ)

DL:日本股関節学会HP(http://hip-society.jp/)⇒ JHEQ日本整形外科学会股関節疾患評価質問票

 日本整形外科学会監修4)の股関節の評価表である。股関節機能の不満度、痛みに関するVASに加え、「椅子に座っている時に股関節に痛みがある」「動き出すときに股関節に痛みがある」などの疼痛誘発動作や、「浴槽の出入りが困難である」「靴下をはくことが困難である」などの ADLの困難度、さらに「股関節の病気のために、イライラしたり、神経質になることがある」「自分の健康状態に股関節は深く関与していると感じる」などの精神面に関する質問の全 20項目で構成される。

F.変形性膝関節症患者機能評価尺度(JKOM)

DL:日本運動器科学会HP(http://www.jsmr.org/)⇒関連情報⇒ JKOM質問紙

 日本整形外科学会、日本運動器リハビリテーション学会、日本臨床整形外科学会が開発した膝関節の評価票である5)。変形性膝関節症患者の膝の痛みに関する VASに加え、「朝起きて動き出すとき膝がこわばりますか」「日用品の買い物はどの程度困難ですか」などの ADLに関する質問や、「膝の痛みのため、普段のお稽古ごとや友達付き合いを控えましたか」「ご自分の健康状態は人並に良いと思いますか」といった社会参加への不安感、精神面に関する質問の全 25項目で構成される。

G.患者立脚型慢性腰痛症患者機能評価尺度(JLEQ)

DL:日本運動器科学会 HP ⇒関連情報⇒ JLEQ質問紙

 日本運動器科学会、日本整形外科学会、日本臨床整形外科学会が開発した評価票である6)。腰痛症患者の腰の痛みに関する VASに加え、「あお向けで寝ているとき腰が痛みますか」「前かがみになるとき腰が痛みますか」などの増悪動作や、「寝返りはどの程度困難ですか」「椅子や洋式トイレからの立ち上がりはどの程度困難ですか」などの ADLの障害度に加え、「この数日間、腰痛のため横になって休みたいと思いましたか」「腰痛はあなたの精神状態に悪く影響していると思いますか」などの精神面に関する質問の全 30項目で構成される。

H.ロコモ25、ロコモ5

DL:日本運動器科学会 HP⇒関連情報⇒ロコモ判定ツール「ロコモ25」「ロコモ5」長寿科学総合研究事業により策定された、ロコモティブシンドローム診断ツールである。

 「背中・腰・おしりのどこかに痛みがありますか」「下肢のどこかに痛みがありますか」といった身体の疼痛や、「家の中を歩くのはどの程度困難ですか」「シャツを着たり脱いだりするのはどの程度困難ですか」などの ADLの困難度、「親しい人や友人とのおつき合いを控えていますか」「先行き歩けなくなるのではないかと不安ですか」などの社会参加への精神的な不安に関する質問の全 25項目の質問で構成される。

 患者立脚型評価法は患者自身による回答が原則だが、ロコモ 25は質問表の特性上、対象が高齢者に限られるため、25問の回答が完遂できないケースも考えられる。そのため、質問項目を5問まで絞った簡易版としてロコモ5が用意されている。

Ⅱ.不定愁訴系評価尺度

A.自覚症しらべ

DL:産業疲労研究会HP(http://square.umin.ac.jp/of/)⇒調査票ダウンロード⇒自覚症しらべ

 産業疲労研究会監修の疲労状況の測定指標である7)。質問内容は非常に簡素で、「ねむい」「あくびが出る」などのねむけ感、「不安な感じがする」といった不安定感、「考えがまとまらない」「頭がおもい」「気分が悪い」などの不快感、「腕がだるい」「足がだるい」などのだるさ感、「目がしょぼつく」「目がかわく」などのぼやけ感の計5因子が測定できる全 25項目で構成される。

B.起床時睡眠感調査票(OSA-MA)

DL:日本睡眠改善協議会HP(http://www.jobs.gr.jp/)⇒インフォメーション⇒ OSA睡眠調査票 MA版

 睡眠改善協議会監修の起床時の睡眠内省を評価する心理尺度である8)。「集中力がある」「頭がはっきりしている」などの起床時眠気、「寝付きがよかった」「睡眠中に目が覚めなかった」などの入眠と睡眠維持、「悪夢が多かった」「しょっちゅう夢を見た」などの夢み、「疲れが残っている」「身体がだるい」などの疲労回復に加え、睡眠時間の5因子が測定できる全 16項目の質問で構成される。スコアの算出には付属の睡眠内省特典変換用 MS-Excelシートを使用する。

C.ドライアイ QOL問診票(DEQS)

DL:ドライアイ研究会HP(http://www.dryeye.ne.jp/)⇒医師・医療従事者の方⇒研究⇒ドライアイ QOL問診票

 ドライアイ研究会と参天製薬株式会社により共同開発された質問票である9)。「目がゴロゴロする(異物感)」「目を開けているのがつらい」「目の症状のため気分が晴れない」など全 15項目の質問で構成され、ドライアイの症状、日常生活への影響、精神面を含めた QOLが評価可能である。

D.日本語版便秘評価尺度(CAS)

 様式はダウンロード出来る形式にないので、引用文献を参考にしていただきたい。

 これは、McMillanらが開発した便秘評価尺度10)をもとに、日本語版として深井らが作成した便秘評価尺度である11)。腹部膨満感、排ガス量、排便痛、便の量など8つの質問に0~2点の3段階で回答する形式になっており、16点満点で、点数が高いほど便秘傾向が強いことを示す。

Ⅲ.結語

 今回は入手が容易なものに限定して紹介したため、対象疾患によっては上述の評価票以外のものも無数に存在する。また、今回紹介した評価票は学術目的の使用は基本的に無料だが、制作者の許諾や引用文献の記載が必要となる場合もあるので、使用に際しては必ず手引や説明書を参照されたい。

 理学療法診療ガイドライン12)によると、運動器系の疾患では患者立脚型評価は高い推奨グレードが示されており、疼痛評価や健康関連QOLの指標として有効であることが示されている。日々の臨床では他覚的評価と自覚的評価の変動は必ずしも相関するとは限らず、角度計を用いた機能検査や、画像を用いたアライメント検査などの他覚的評価では拾いきれない、疼痛性状や ADLなど患者の自覚的評価の改善を認知できる患者立脚型評価法は、非常に有用であると考える。

 また、治療データを数値化して残しておくことができ、症状の変化が視覚的にわかりやすくなるのも大きな利点である。私見ではあるが、臨床で蓄積したデータを元に、一人でも多くの指圧師が症例報告を発表していけるようになればと願うばかりである。

参考文献

1)黒澤一弘:フリーウェアを用いた姿勢分析並びに関節可動域測定 ,日本指圧学会誌(1);14-20,2012
2)日本ペインクリニック学会HP:痛みの評価法 http://www.jspc.gr.jp/gakusei/gakusei_rank.html
3) MacDermid JC:Outcome evaluation in patients with elbow pathology: Issues in instrument development and evaluation, J Hand Ther(14), p.105-114, 2001
4) Tadami Matsumoto, Ayumi Kaneuji, Yoshimitsu Hiejima, etal:Japanese Orthopaedic Association Hip -Disease Evaluation Questionnaire(JHEQ): a patient-based evaluation tool for hip-joint disease. The Subcommittee on Hip Disease Evaluation of the Clinical Outcome Committee of the Japanese Orthopaedic Association, J Orthop Sci 17(1), p.25-38, 2012
5)赤居正美、岩谷力、黒澤尚 他:疾患特異的・患者立脚型変形性膝関節症患者機能評価尺度:JKOM(Japanese Knee Osteoarthritis Measure),日本整形外科学会誌(80),p.307-315,2006
6)白土修,土肥徳秀,赤居正美 他:疾患特異的・患者立脚型慢性腰痛症患者機能評価尺度;JLEQ(Japan Low back pain Evaluation Questionnaire),日本腰痛会13,p.225-235, 2007
7)酒井一博:日本産業衛生学会産業疲労研究会撰「自覚症しらべ」の改訂作業2002,労働の科学(57),p.295-298,2002
8)山本由華吏, 田中秀樹 , 高瀬美紀 他 :中高年・高齢者を対象とした OSA睡眠感調査票(MA版)の開発と標準化 ,脳と精神の医学(10),p.401-409, 1999
9) Yuri Sakane, Masahiko Yamaguchi, Norihiko Yokoi, et al:JAMA Ophthalmol,131(10), p.1331-1338, 2013
10)McMillan, et al:Validity and reliability of the constipation assessment scale, Cancer Nursing, 12(3),p.183-188, 1989
11)深井喜代子 他:日本語版便秘評価尺度の検討 ,看護研究28(3),p.209-216,199512)日本理学療法士協会:理学療法診療ガイドライン第1版(2011),p.38-45,p.296-298  http://jspt.japanpt.or.jp/upload/jspt/obj/files/ guideline/00_ver_all.pdf


【要旨】

指圧治療の患者立脚型評価法について
大木 慎平

 治療効果の評価法として、日常生活上での自覚症状を評価する患者立脚型評価法がある。評価に用いる尺度は様々な団体から提供されているが、ここでは無料で使用できるものに限定し、日々の臨床に応用可能と思われるものを紹介する。

キーワード:指圧、自覚的評価、患者立脚型評価法


Applied Abdominal Shiatsu

Michiko Kuroda
Japan Shiatsu CollegeShiatsu instructor

Report on Shiatsu Overseas

In order to promote the international spread of shiatsu, a therapy developed in Japan, the Namikoshi Academy • Japan Shiatsu College sends instructors to Vancouver, Canada once a year to provide practical guidance. In 2015, Japan Shiatsu College instructor Michiko Kuroda delivered a presentation to instructors of the Canadian College of Shiatsu Therapy and therapists at the Japan Shiatsu Clinic on the theme of applied abdominal shiatsu. Below is the report submitted by Ms. Kuroda on her presentation.


 On September 26, 2015 I delivered a lecture to the staff of the Japan Shiatsu Clinic. At the Japan Shiatsu Clinic, operated by Japan Shiatsu College graduate Kiyoshi Ikenaga, many students of different nationalities engage in study of anatomy, physiology, and the fundamentals of Namikoshi shiatsu. Although I attended as an instructor, I myself learned much from the experience. Following is the content of the lecture I delivered.

1.Introduction

 The abdomen is a region for which significant therapeutic effect can be expected from shiatsu, but which can be challenging to treat.

 Here, using standard Namikoshi abdominal shiatsu as a base, I would like to examine the topic from the perspective of both Western and Eastern medicine, with the hope of encouraging you to more actively employ abdominal shiatsu in your treatments.

2.Standard Namikoshi abdominal shiatsu

 Research by the Shiatsu Therapy Research Lab at the Namikoshi Institute has shown that abdominal shiatsu, a distinguishing characteristic of Namikoshi shiatsu, affects the autonomic nervous system to slow cardiac pulse, lower blood pressure, increase muscular blood flow, stimulate gastrointestinal peristalsis, and reduce pupil diameter, as well as having an effect on the musculoskeletal system (Fig. 1).

 In addition, the rectus abdominis and iliopsoas muscles can also be treated, making the abdominal region an extremely important area for treating lumbar pain.

Fig 1. Standard order of abdominal shiatsu
Fig 1. Standard order of abdominal shiatsu

Fig. 2. Effect of rectus abdominis and iliopsoas hypertonus on pelvic angle and lumbar spinal curvature
Fig. 2. Effect of rectus abdominis and iliopsoas hypertonus on pelvic angle and lumbar spinal curvature

3.Western medical perspective: an anatomical approach

 As mentioned previously, abdominal shiatsu can be highly effective for both regulating the autonomic nervous system and treating lumbar pain. Now let’s examine the effect of tension in the abdominal muscles on posture.

 As shown in Fig. 2, hypertonus in the rectus abdominis and iliopsoas has a significant effect on pelvic angle and lumbar spinal curvature.

 Next, I would like to consider how to approach the psoas major from the abdominal region. Whereas the rectus abdominis is a superficial muscle, the psoas major is deep. Therefore the key to treating the psoas major muscle is to have a clear image of its origin, insertion, and path.

Iliopsoas (Fig. 3)


Origin:
 Vertebral bodies and intervertebral discs, Th12-L5 (superficial head)
 Transverse processes of all lumbar vertebrae (deep head)
Insertion:Lesser trochanter of the femur
Innervation: Femoral nerve (L1~L4)
Actions: flexion of hip joint; anterior pelvic tilt
Test: Thomas test (flexion contracture of hip joint)

Fig. 3. Iliopsoas
Fig. 3. Iliopsoas

Actions of the iliopsoas (Fig. 4)

(1) When pelvis and lumbar vertebrae are fixed
 → Flexion of hip joint
(2) When femur is fixed
 → Lumbar lordosis; anterior pelvic tilt

Fig. 4. Actions of the iliopsoas
Fig. 4. Actions of the iliopsoas

Illustration of rectus abdominis and iliopsoas

Illustration of rectus abdominis and iliopsoas

Factors to consider during pressure application
(1) Recipient’s posture

  • Recipient’s hip and knee joints should be flexed, with thoracic breathing
  • (2) Have a clear objective

  • Apply shiatsu to 20 points and small intestine points using 2-thumb pressure
  • Have clear image of location of targeted muscles and adjust depth of pressure accordingly
  • 4.Eastern medical perspective: abdominal diagnosis

    What is abdominal diagnosis?
    Abdominal diagnosis involves assessing the patient’s physical condition through palpation of the abdomen to detect stiffness or tension in the abdominal wall, resistance or pain when pressure is applied, watery sounds in the organs, and so on.
    In Western medicine, the main objective of abdominal palpation is to determine the condition of the organs from outside the abdominal wall; but in Eastern medicine, abdominal diagnosis is used to determine the quantity of healthy ki, which provides resistance to disease, along with the qualities of ki, blood, and body fluids, based on tension, stiffness, and indurations in the abdominal skin and muscles.

    In abdominal diagnosis, responses specific to each area are examined

    In abdominal diagnosis, responses specific to each area are examined

    Typical responses

    Typical responses

    Incorporating abdominal diagnosis into abdominal shiatsu
    (1) Recipient’s posture

  • Recipient’s lower limbs should be extended, with abdominal breathing
  • (2) Objective

  • Perform abdominal diagnosis and treatment during the palm pressure series
  • Perform treatment and observe reactions while treating 20 points and small intestine points
  • 5.Conclusion

     For this lecture, my motivation for addressing abdominal shiatsu was to focus on treatment of lumbar pain via shiatsu to the rectus abdominis and psoas major muscles and also to introduce abdominal diagnosis. Of course, when treating an actual patient, it is necessary to evaluate not just the abdominal region, but the quadriceps femoris, hamstrings, and other muscles as well, and conduct a thorough diagnosis that includes listening, observation, and interview techniques in addition to abdominal diagnosis.
     It is my hope that you will keep these techniques in mind as another perspective from which you can assess your patients and as a means of understanding their condition.

    References

    1. Collected Reports of The Shiatsu Therapy Research Lab 1998-2012, Japan Shiatsu College (in Japanese)
    2. Purometeus kaibogaku atorasu kaibogaku soron undokikei. Igaku shoin (in Japanese)
    3. Toyoigaku kihonto shikumi. Seitosha (in Japanese)


    応用腹部指圧:黒田美稚子

    黒田美稚子
    日本指圧専門学校専任教員

    海外指圧レポート 

    学校法人浪越学園 日本指圧専門学校では、日本発祥の指圧療法を海外へ普及すべく、年に一度カナダ(バンクーバー)へ教員を派遣し、技術指導を行っている。  平成27年度は、日本指圧専門学校 常勤教員 黒田美稚子先生が派遣され「応用腹部指圧」というテーマでCanadian College of Shiatsu TherapyのインストラクターおよびJapan Shiatsu Clinicのセラピストに対して指導に当たった。  以下講師を務められた黒田美稚子先生よりご提出いただいたレポートを掲載する。


    1.はじめに

     腹部指圧は高い治療効果が期待できる一方で難易度の高い部位でもある。今回は、浪越式腹部基本指圧をベースに西洋医学、東洋医学それぞれにおけるひとつの視点を提示し、腹部指圧を積極的に治療に取り入れていただくきっかけを作ることができたら幸いである。

    2.浪越式腹部基本指圧

     浪越式指圧の特徴である腹部指圧は、自律神経への作用として心拍数の減少、血圧の低下、筋血流量の増加、消化管蠕動運動の促進、瞳孔直径の縮小、また、筋骨格への影響としては仙骨傾斜角度の増加が浪越学園指圧研究会の研究により明らかにされている(図1)。

     さらに、腹直筋および大腰筋へのアプローチも可能であることから腰痛治療に非常に効果の高い部位でもある。

    図1.腹部指圧基本手順図1.腹部指圧基本手順

    3.西洋医学的視点から結果
     ~解剖学的アプローチ~

     前述したように、腹部指圧は自律神経調整、また腰痛治療に高い効果が期待できる。そこで今回は腹部の筋緊張が姿勢に与える影響を考えたい。
    図2のように、腹直筋、腸腰筋の過緊張が骨盤の傾斜および腰椎の弯曲に与える影響は大きい。

    図2.腹直筋、腸腰筋の過緊張が骨盤の傾斜および腰椎の弯曲に与える影響図2.腹直筋、腸腰筋の過緊張が骨盤の傾斜および腰椎の弯曲に与える影響

     そこで次に、腹部からの大腰筋へのアプローチの仕方を考えたい。腹直筋が浅層にあるのに対し大腰筋は深部に存在する。そのため、起始停止や走行のイメージを明確に持って押圧することが大腰筋へのアプローチの鍵となる。

     腸腰筋(図3)

    vol4_07fig3図3.腸腰筋


    [起  始] (浅頭)Th12~L5の椎体ならびに椎間板
          (深頭)すべての腰椎の肋骨突起
    [停  止] 大腿骨小転子
    [支配神経] 大腿神経(L1〜L4)
    [作  用] 股関節の屈曲、骨盤の前頚
    [検  査] トーマステスト(股関節屈曲拘縮)

    腸腰筋の作用(図4)

    図4.腸腰筋の作用図4.腸腰筋の作用

    ①骨盤・腰椎を固定した時
     →股関節屈曲
    ②大腿骨を固定した時
     →腰椎前弯、骨盤前傾

    腹直筋および腸腰筋のイメージ

    vol4_07fig5図 5.腹直筋および腸腰筋のイメージ

    押圧時の注意点
    ①受け手の姿勢
     股関節膝関節を屈曲した仰臥位で胸式呼吸
    ②目的を明確にする
     ・ 腹部20点圧および小腸部において両母指圧で押圧する。
     ・ ターゲットとする筋を明確にし、それに応じた深さで圧を加える。

    4.東洋医学的視点から  ~腹診~

    腹診とは
    お腹を触って、腹壁の硬さや張り具合、押さえた時の抵抗や圧痛、内臓の水の音などの特徴を探って体の状態を調べる診断法。
    西洋医学では、腹壁の上から腹部の内臓の様子を探るのが主な目的だが、東洋医学の腹診では、腹部の皮膚や腹筋の張り、硬さ、しこりの有無などから、病気への抵抗力である正気の充実度や気・血・津液の状態を把握し、五臓の不調を推察することを目的とする。

    腹診では各部位特有の反応を診る

    vol4_07fig6図6.腹診では各部位特有の反応を診る

    代表的な反応

    vol4_07fig7図7.腹部の代表的な反応

    腹診を腹部指圧に取り入れる
    ①受け手の姿勢
    下肢を伸ばした仰臥位で胸式呼吸
    ②目的をもつ
    ・ 「の」の字型掌圧時に腹診及び治療
    ・ 腹部20点圧および小腸部において治療及び反応観察

    5.結論

     今回、腹部指圧を用いるきっかけとして腹直筋および腸腰筋への指圧による腰痛治療、また腹診の紹介をしたが、実際患者を診るにはもちろん腹部だけでなく大腿四頭筋やハムストリングスの評価、腹診のほかに聞診、望診、問診を行い総合的に診断する必要がある。
     身体を診るひとつの視点として頭の片隅に置いていただき、患者の状態を把握するための一つの手段にしてほしい。

    参考文献

    1) 指圧研究会論文集Ⅱ1998-2012,日本指圧専門学校
    2) プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系,医学書院
    3) 東洋医学 基本としくみ,西東社


    ロコモティブシンドローム予防のために〜 運動実践へ向けたトランスセオレティカルモデル(TTM)の活用 〜:黒澤一弘

    黒澤一弘
    日本指圧専門学校専任教員

    Prevention of Locomotive Syndrome
    – Trance Theoretical Model (TTM) for Physical Activity in Practice –

    Kazuhiro Kurosawa

    Abstract : Regular exercise is the most effective way to prevent locomotive syndrome. Here we discuss basic knowledge about locomotive syndrome and a psychological approach which encourages patients to exercise regularly.


    I.健康寿命をのばすには

    -関節・運動器疾患の予防の重要性-

     2012年の日本人の平均寿命は男女ともに前年より延び、女性は0.51歳延びて86.41歳、男性は0.50歳延びて79.94歳となった(図1)1)。女性は2年ぶりに世界1位の座に返り咲き、男性も過去最高を記録した。

    図1.日本人の平均寿命の推移図1.日本人の平均寿命の推移1)

     しかし、日常生活を健康的に制限なく生活できる健康寿命は女性で73.62歳、男性で70.42歳2)であり、平均寿命と健康寿命の差は女性では約12年、男性では約9年以上となっている(図2)。この期間は日常生活に制限のある「不健康な期間」であり、要支援や要介護を必要とする期間が含まれる。

    図2.平均寿命と健康寿命の差(2010年)図2.平均寿命と健康寿命の差(2010年)

     また、要支援・要介護となる原因をみた場合、 要介護ではに脳卒中の割合が24.1%と最も多いが、要支援では関節疾患と骨折・転倒を合わせた運動器疾患が32.1%と最も多くなっている。(図3)3)。従って、要支援状態となることを防ぐには運動器疾患の予防が重要となる。

    図3.要支援・要介護の原因における 運動器疾患の割合(2010年)図3. 要支援・要介護の原因における運動器疾患の割合(2010年)

    Ⅱ.ロコモティブシンドロームの基礎知識

    II-1.ロコモティブシンドロームとは

     ロコモティブシンドローム(ロコモ)は運動器症候群とも言われ、加齢に伴う筋力の低下や関節疾患、骨粗鬆症などにより、運動器の機能が低下して、要介護や寝たきりとなるリスクが高い状態を示している4)。予防医学を促進する観点から、2007年に日本整形外科学会が提唱した症候群で、厚生労働省の施策のもと予防啓発が行われている。

    II-2.ロコチェックとロコトレ

     ロコモティブシンドロームが提唱された主要コンセプトは、高齢者自らによるセルフチェックとセルフトレーニングである。一般の方々が簡便に日常生活の状況から運動機能を自己評価し、予防・改善の対策をたてるという目的で7つの質問からなる「ロコモーションチェック(ロコチェック)」が設定された5)。ロコチェックの7つの項目すべてが運動器の機能低下を示しており、少なくともひとつ当てはまる項目があった場合に「ロコモ」である可能性がある5)。

    図 4. ロコチェック図 4. ロコチェック

     運動機能の低下が認められる高齢者では、下肢筋力が弱く、片足立ち時間が短いという特徴がある。よってロコチェックで陽性となった対象者が行うセルフトレーニングとして片足起立訓練とスクワットを中心とした「ロコモーショントレーニング(ロコトレ)」が推奨されている5)。ロコモパンフレットでは、「ロコトレはたった2つの運動です。毎日続けましょう!」と記載されている。安全性の高い簡便な方法で、高齢者が毎日続けられることを目的としたトレーニングである。

    図5.ロコトレ図5.ロコトレ

    II-3.ロコモ度テスト

     「(7つの)ロコチェック」は、ロコモの危険性に気付く簡便な自己チェックのツールとして広く活用されてきたが、一方で国民全体の運動器の健康を目指すために、より幅広い年齢層に対して、現在または将来のロコモの危険性を判定するための指針が必要とされ、日本整形外科学会は2013年に新たに20代から70代までの世代ごとのロコモの危険性を判定する方法として、「ロコモ度テスト」5)を策定した。

     ロコモ度テストは、①立ち上がりテスト(下肢筋力)、②2ステップテスト(歩幅)、③ロコモ25(身体状態・生活状況の評価)の3つのテストを行い、その結果を年齢平均値と比較することにより、年齢相応の移動能力を維持しているかを判定する。もし年齢相応の移動能力に達していない場合、将来ロコモになる危険性が高いと考えられる。

    ①立ち上がりテスト

     片脚または両脚で立ち上がる脚力を測定。

    ■立ち上がりテストの測定方法

    図6.立ち上がりテスト図6.立ち上がりテスト

    1. 10、20、30、40cmの台を用意する。まず40cmの台に両腕を組んで腰かける。このとき両脚は肩幅くらいに広げ、床に対して脛(すね)がおよそ70度(40cmの台の場合)になるようにして、反動をつけずに立ち上がり、そのまま3秒保持する。
    2. 40cmの台から両脚で立ち上がれたら、片脚でテストをする。(1)の姿勢に戻り、左右どちらかの脚を上げる。このとき上げたほうの脚の膝は軽く曲げる。反動をつけずに立ち上がり、そのまま3秒保持する。
    3. (2)で左右ともに片脚で立ち上がることができれば、成功とみなす。
    4. (2)で左右どちらかの脚で立ち上がることができない場合、失敗とみなす。10cmずつ低い台に移り、両脚で立ち上がれるかを測る。

    ※無理をしないように気をつける。
    ※膝に痛みが起きそうな場合は中止する。
    ※反動をつけると、後方に転倒する恐れがある。

    ■立ち上がりテストの判定方法 

     測定結果を各年代での立ち上がれる台の高さの目安(表1)と比較し、同等もしくはそれより良い場合は年代相応の脚力を維持していると判定する。また立ち上がり能力によるスポーツレベルを図8に示した6)。

    表1.各年代での立ち上がれる台の高さの目安表1.各年代での立ち上がれる台の高さの目安

    図7.各年代での立ち上がれた台の高さの割合図7.各年代での立ち上がれた台の高さの割合

    図8.立ち上がり能力によるスポーツレベル図8.立ち上がり能力によるスポーツレベル

    ②2ステップテスト 

     歩幅を測定することで、歩行能力を判定する。歩幅は歩行速度に密接に関係しているため、歩幅の現象は歩行速度の低下を意味する。

    ■2ステップテストの測定方法 

    1. スタートラインを決め、両足のつま先を合わせる。
    2. できる限り大股で2歩歩き、両脚を揃える。(バランスをくずした場合は失敗とする。)
    3. 2歩分の歩幅(最初に立ったラインから、着地点のつま先まで)を測る。
    4. 2回行って、良いほうの記録を採用する。
    5. 以下の計算値で2ステップ値を算出する。2歩幅(cm)÷身長(cm)=2ステップ値

    ※介助者のもとで行う。
    ※滑りにくい床で行う。
    ※準備運動をしてから行う。
    ※バランスを崩さない範囲で行う。
    ※ジャンプしてはならない。

    図9. 2ステップテスト図9. 2ステップテスト

    ■2ステップテストの判定方法 

     2ステップ値が世代別平均値(表2)の範囲内かそれより良い場合は年代相応の歩幅を維持しているが、平均値より低下している場合は年齢相応の歩行能力が保たれていない可能性が高い。

    表2.2ステップテスト値の世代別平均値表2.2ステップテスト値の世代別平均値

    ■2ステップテストと日常生活自立度の関係 

     障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準(表3)を以下に示す7)。

    表3.障害高齢者の日常生活自立度判定基準表3.障害高齢者の日常生活自立度判定基準

     村永ら8)によれば、2ステップ値と日常生活自立度の関係で、公共交通機関を自立して利用できるJ-1群では2ステップ値は1.26±0.20(n=166)、隣近所の歩行自立のJ-2群では0.76±0.23(n=21)、さらに外出に介助を要するA-1群では0.52±0.20(n=16)となり、2ステップ値の低下が日常生活自立度の低下と有意に結びついていることが示されている。

    図10.2ステップ値と日常生活自立度の関係図10.2ステップ値と日常生活自立度の関係

     また2ステップテストの値は10m歩行速度や6分間歩行距離とも有意な正の相関が示されており8)、診療室や在宅といった狭い空間でも歩行能力を簡便に推定できることが確認されている。この評価を用いることで、自立した生活を維持するための指導に役立てることができる。

    ③ロコモ25 

     ロコモ25は1ヶ月間の間の身体の痛みや日常生活で困難なことを聞く25問よりなる自記式質問表で、原則として本人が記入する。また、普段行っていない事項については、仮に行うとすればどうであるかで回答してもらう。たとえば、電車やバスを全く使用していない場合には、使用した場合を想定した回答を記入してもらうことで、回答の欠損がないように留意する。

    図11.ロコモ25図11.ロコモ25

    ■ロコモ25の判定方法 

     各回答の左端から0点、1点、2点、3点、4点とし、25問の回答結果を単純加算する。障害なし0点−最重症100点となる。ロコモ25の合計点が各年代の平均値(図12)の値に入っている場合、及びそれより良い場合、年代相応の身体の状態、生活状況であると判定する。

     また、16点以上はロコモと判定できるカットオフ値である。このロコモ25の結果は統計解析に使用でき、介入研究の効果判定ツールとしても使用できる。

    図12.ロコモ25の年代別平均値図12.ロコモ25の年代別平均値

     以上の3つのロコモ度テストの結果で、1つでも年代相応の平均に達しない場合は、将来ロコモとなる可能性が高いと考えられる。

    ■ロコモ度テストの参考WEBサイト 

     ①立ち上がりテストや、②2ステップテストの動画や資料などはロコモチャレンジ!推進協議会のサイトで閲覧できる。また③ロコモ25の質問がブラウザでオンラインでチェックでき、すぐに判定できるので簡便に利用できる。

    ロコモ25|ロコモチャレンジ! 
    https://locomo-joa.jp/check/test/

     また、日本運動器科学会のサイトでは、ロコモ25の質問紙をダウンロードでき、またエクセルによる点数計算表も公開されている。

    日本運動器科学会 
    http://www.jsmr.org/news.html

    III.健康日本21(第二次)と身体活動基準2013に基づいた運動指導について

    III-1.健康日本21とは

     厚生労働省は2000年に「21世紀の我が国を、すべての国民が健やかで心豊かに生活できる活力ある社会とする」ことを目的に「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」を作成した。これには「栄養・食生活」、「身体活動・運動」、「休養・こころの健康づくり」、「たばこ」、「アルコール」、「歯の健康」、「糖尿病」、「循環器病」、「がん」について70項目にわたる具体的な数値目標を設定されている。さらに健康日本21を推進していくための法的整備として2002年に「健康増進法」が制定された。この健康日本21の2010年までの成果を評価した上で、厚生労働省は次期健康づくり運動である「健康日本21(第二次)」を2013年4月にスタートさせた。ロコモティブシンドロームの予防の重要性が認知されれば、個々人の行動変容が期待でき、国民全体としての運動器の健康が保たれ、介護が必要となる国民の割合を減少させることが期待できるという観念から、ロコモティブシンドロームを認知している国民の割合を増加させることが「健康日本21(第二次)」の具体的な数値目標として設定された10)。

     また、この「健康日本21(第二次)」を達成するためのツールとして、厚生労働省から2013年3月に「健康づくりのための身体活動基準2013」および「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」が発表された11)。身体活動基準2013では身体活動の増加でリスクを低減できるものとして、従来の糖尿病・循環器疾患に加えて、がんやロコモティブシンドローム・認知症が含まれることが明確化されている。また、子供から高齢者までの身体活動の基準が検討され、保健指導で運動指導を安全に推進するために具体的な判断・対応の手順が示されている。

    表4.身体活動基準2013の概要表4.身体活動基準2013の概要

    III-2.健康づくりのための身体活動基準2013

     将来、生活習慣病や運動器の不調のリスクを低減させるために、個人にとって達成することが望ましい身体活動の基準が定められている(表4)。以下、年齢別にこの数値の具体的な根拠などについて記す12)。

    ■18〜64歳の基準 

    ①身体活動量の基準(日常生活で体を動かす量の考え方)

    『強度が3メッツ以上の身体活動を23メッツ・時/週行う。 具体的には、歩行又はそれと同等以上の強度の身体活動を毎日60分行う。』

     日本人の身体活動量の平均は概ね15〜20メッツ・時/週であるが、この身体活動量では生活習慣病および生活機能低下のリスク低減の効果は統計学的に確認できなかった。一方、身体活動量が22.5メッツ・時/週より多い者では、生活習慣病および生活機能のリスクが有意に低かった12)。

    図14.生活活動のメッツ表図14.生活活動のメッツ表

    ②運動量の基準(スポーツや体力づくり運動で体を動かす量の考え方)

    『強度が3メッツ以上の運動を4メッツ・時/週行う。具体的には、息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分行う。』

     少なくとも2.9メッツ・時/週の運動量があれば、ほぼ運動習慣のない集団と比較して、生活習慣病および生活機能低下のリスクは12%低かった。また10.6メッツ・時/週の運動量ではリスクは14%低下し、31.3メッツ・時/週の運動量ではリスクは18%低下することが示されている12)。

    図13.運動のメッツ表図13.運動のメッツ表

    ③体力(うち全身持久力)の基準

    『下表に示す強度での運動を約3分継続できた場合、基準を満たすと評価できる。』

    体力(うち全身持久力)の基準表中の()内は酸素摂取量(VO2)を示す

     生活習慣病および生活機能低下のリスクの低減効果を高めるには、身体活動量を増やすだけでなく、適切な運動習慣を確立させ体力を向上させる取り組みが必要である。

     この全身持久力に関する基準値により現在の体力の評価を行うことができる。10.0メッツの強度の運動(ランニングなら10km/時)の速度で3分間以上継続できるのであれば、「少なくとも40〜59歳男性の基準値に相当する全身持久力がある」とい判断できる。

     また、また全身持久力を増加させるためには、基準値の50〜75%の強度の運動を習慣的に(1回30分以上、週2日以上)行うことが効率適である。この基準値を用いることで至適なトレーニング強度の設定が容易となる。例えば、50歳の男性の場合、5メッツ(10.0メッツの50%)を推奨することができる。

    ※ 最大酸素摂取量(VO2max):全身持久力の体力指標となり、単位時間あたりに生体が酸素を取り込むことができる最大量。この値が大きいほど「全身持久力が優れている」と評価され、単位時間あたり体重1kg当たりの酸素摂取量で評価する。最大酸素摂取量(VO2max)はトレッドミルなどを利用して負荷を上げていき、計測するが。3分程度全力で継続して疲労困ぱいになるような運動中に最大酸素摂取量が観察されることが多いが、あくまで測定上の指標であり、望ましい運動量の目標値でないことに注意する。

    ※ メッツは安静時における酸素摂取量(3.5ml/kg/分)を1メッツとし、この2倍を2メッツ、3倍を3メッツとする。

    ■65歳以上の基準

    『強度を問わず、身体活動を10メッツ・時/週行う。具体的には横になったままや座ったままにならなければ、どんな動きでもよいので、身体活動を毎日40分行う。』

     65歳以上を対象とした調査で、3メッツ未満も含めて身体活動量が10メッツ・時/週の群では、最も身体活動量の少ない群と比較して、リスクが21%低かった。高齢者がより長く自立した生活を送るためには、運動器の機能を維持する必要がある。高齢者は骨粗鬆症による易骨折性と変形性関節症による関節の障害が合併しやすく、またロコモティブシンドロームやサルコペニア(加齢に伴う筋量・筋力の減少)により要介護状態となるリスクが高まることが指摘されている。これらは加齢を基盤に、身体活動不足が寄与していることから、高齢者においては特に、身体活動不足に至らないように注意する基準が必要として作成された12)。

     なお、本基準は高齢者の身体活動不足を予防することを主眼において設定されたものであるが、可能であれば高齢者においても3メッツ以上の運動を含めた身体活動に取り組み、身体活動量の維持向上を目指すことが望ましい。

    3メッツ未満の生活活動・運動の例

    • 皿洗いをする(1.8メッツ)
    • 洗濯をする(2.0メッツ)
    • 立って食事の支度をする(2.0メッツ)
    • こどもと軽く遊ぶ(2.2メッツ)
    • 時々立ち止まりながら買い物や散歩をする(2.0〜3.0メッツ)
    • ストレッチングをする(2.3メッツ)
    • ガーデニングや水やりをする(2.3メッツ)
    • 動物の世話をする(2.3メッツ)
    • 座ってラジオ体操をする(2.8メッツ)
    • ゆっくりと平地を歩く(2.8メッツ)

    ■全ての世代に共通する方向性 

    ①身体活動の方向性

    『現在の身体活動量を、少しでも増やす。例えば、今より毎日10分ずつ長く歩くようにする。』

     身体活動量と生活習慣病および生活機能低下のリスクとの量反応関係を解析した結果によると、身体活動量が1メッツ・時/週増加するごとに、リスクが0.8%減少することが示唆された。これは1日の身体活動量の2〜3分の増加により0.8%、10分で3.2%のリスク軽減が期待できる。

     身体活動量は個人差が大きく、現在の身体活動量が少ない人に対して、直ちに身体活動量23メッツ・時/週という基準を達成することを求めるのは現実的ではなく、むしろ身体活動に対する消極性を強めてしまう可能性も考えられる。よって科学的根拠に基づく量反応関係を基準として、個人差に配慮し当項目が設定された。特に歩数は日常的に測定評価できる身体活動量の客観的指標であり、歩数の増加が健康日本21(第二次)の目標項目として設定されていることも踏まえ、「今より毎日10分ずつ歩くようにする」と表現された。

    ②運動の方向性

    『運動習慣をもつようにする。具体的には、30分以上の運動を週2回以上行う。』

     運動習慣をもつことで、生活習慣病や生活機能低下のリスク低減効果が高まるのみならず、全身持久力や体力の維持向上、また高齢者においてはロコモティブシンドロームや軽度認知障害の改善が期待できるとの科学的根拠を踏まえて、全ての世代において運動習慣を有することが望ましい。また他の運動実践者を見かける機会が多いと、自らの運動の実践にもつながりやすく、運動習慣を有する者が家族や職場の同僚などを運動の実践に誘うという好ましい影響もある。

    III-3.運動指導の可否を判断する際の留意事項

     心臓疾患や脳卒中、腎臓疾患等の重篤な合併症がある患者では、メリットよりもリスクが大きくなる可能性がある。具体的なリスクとしては、過度な血圧上昇、不整脈、低血糖、血糖コントロールの悪化に加え、心不全、脳卒中等の生命に関わる心血管事故が挙げられる12)。

     したがって、生活習慣病患者が積極的に身体活動を行う際には、かかりつけの医師などに相談し、生活習慣の改善に取り組みつつ、必要に応じて薬物療法を受ける必要がある。  ここでは、血糖・血圧・脂質のいずれかについて保健指導判定値以上であったが、すぐには受診を要しないレベル(保健指導レベル)の対象者に対して運動指導を行う際に留意すべき事項とその判断の手順を示す。

    【手順1】

     対象者が現在、定期的に医療機関を受診しているかどうかを確認する。受診している場合には、身体活動(生活活動・運動)に際しての注意や望ましい強度などについて、かかりつけの医師に相談するよう促す。

    【手順2】

     定期的に受診している医療機関が無い場合、対象者に「身体活動のリスクに関するスクリーニングシート」(図15)に回答してもらい、身体活動に伴うリスクを確認する。対象者がこれらの項目に1項目でも該当した場合は、得られる効果よりも身体活動に伴うリスクが上回る可能性があることを伝え、積極的に身体活動に取り組む前に医療機関を受診するよう促す。

    【手順3】

     手順2でスクリーニング項目のどの項目にも該当しない場合、対象者に「運動開始前のセルフチェックシート」(図16)について説明する。

    【手順4】

     対象者が注意事項の内容を十分に理解したことを確認できれば、運動指導の実施を決定する。

    図15.身体活動のリスクに関するスクリーニングシート図15.身体活動のリスクに関するスクリーニングシート

    図16.運動開始前のセルフチェックシート図16.運動開始前のセルフチェックシート

    III-4.身体活動を安全に取り組むために

     身体活動は、その取り組み方が適切でなかった場合、様々な傷害を発生したり疾病を発生したりする可能性がある。ここで身体活動を安全に取り組むための留意事項を挙げる。 

    ①服装や靴の選択

     暑さや寒さは、熱中症などに代表される身体活動に伴う事故の要因となるため、温度調節がしやすい服装が適している。また、動きにくい服装は転倒しかけたときに回避しにくいため適切でない。また膝痛や腰痛を予防するために、緩衝機能にすぐれ、身体活動に適した靴を履くことが望ましい。 

    ②前後の準備・整理運動の実施方法の指導

     身体活動の特性や、対象者の特性を考慮して計画された準備運動はスポーツ等の運動による傷害や心血管事故の発生を予防する効果がある。また、運動後の整理運動は、疲労を軽減し、蓄積を防ぐ効果などがある。 

    ③種類・種目や強度の選択

     身体活動の内容は、血圧上昇が小さく、エネルギー消費量が大きく、かつ傷害や事故の危険性が低い有酸素運動が望ましい。また運動器の機能向上を目的とする場合は、筋や骨により強い抵抗や刺激を与えるストレッチングや筋力トレーニングを組み合わせることが望ましい。 

     高齢者や生活習慣病患者などに対して身体活動の取り組みを支援する場合には、3メッツ(散歩)程度で開始する。 

     強度の決定はメッツ値だけでなく、対象者本人にとっての「きつさ」の感覚、すなわち自覚的運動強度(Borg指数)も有用である。高齢者や生活習慣病患者では、「楽である」〜「ややきつい」と感じる程度の強さの身体活動が適切であり、「きつい」と感じるような身体活動は避けたほうが良い。また、Borg指数は年代別の脈拍数で定量化できるので、脈拍数の簡便な測り方とともに、対象者にあらかじめ解説しておくと有用である。ただし年齢別の脈拍数は個人差があること、薬剤によって修飾を受けている可能性があることに留意する。 

    表5.Borg指数と脈拍数の目安表5.Borg指数と脈拍数の目安

     

    ④正しいフォームの指導 

     身体活動は正しいフォームで実践しないと、思わぬ傷害や事故を引き起こす可能性がある。指導者は基本的なフォームを見せたり、留意点を確認させたりする実技を通して指導することが望ましい。 

    ⑤足腰に痛みがある場合の配慮 

     平成22年の国民生活基礎調査によると「腰痛」と「手足の関節の痛み」は65歳以上の高齢者で男女とも有訴者率の上位3位以内にある。また肥満等によって30〜50歳代からこうした自覚症状を有していることも少なくない。このような対象者に対しては、水中歩行や自転車運動など、体重の負荷が下肢にかかりすぎない身体活動から取り組むと良い。また身体活動によって実際に下肢や腰の痛みを感じた歳の適切な対応(速やかに患部を冷やす等)についても習得した上で、身体活動に取り組めるよう支援する。 

     また痛みのある部位やその周囲を中心にストレッチングや筋力トレーニングを行うことで、痛みが改善することが期待されるため、そうした情報提供を含めて支援することが重要である。 

    ⑥身体活動中の体調管理 

     身体活動の実施中は「無理をしない。異常を感じたら運動を中止し、周囲に助けを求める」ことを対象者に徹底する。支援者が身体活動の場に立ちあう場合は、身体活動中の対象者の様子や表情などをこまめに観察することが望ましい。 

    ⑦救急時のための準備 

     支援者は運動指導の現場における身体活動の際の障害や事故の発生に備えて、救急処置のスキルを高めておく必要がある。 

    ■もしも運動中に人が倒れたら 

     BLSはBasicLifeSupport(一次救命処置)の略称で、急に倒れたり、窒息を起こした人に対して、その場に居合わせた人が、救急隊や医師に引き継ぐまでの間に行う応急手当のこと。脳には酸素を蓄える能力がなく、心臓が止まってから短時間で不可逆的な障害となる。BLSは脳への酸素供給維持を目的としている。2分以内に心肺蘇生が開始された場合の救命率は90%程度あるが、4分では50%、5分では25%程度に減少する。  素早く質の高い応急処置は予後を向上させる。また救命の連鎖(通報、心肺蘇生、除細動、病院で二次救命処置)がつながることが重要である。

    図17.BLS(一次救命処置)の手順 特定保健指導における運動指導の安全対策より図17.BLS(一次救命処置)の手順 特定保健指導における運動指導の安全対策より

     

    III-5.アクティブガイド(健康づくりのための身体活動指針)

     科学的な研究成果をもとに策定された「健康づくりのための身体活動基準2013」の内容を広く国民に伝えるために、厚生労働省が公表したガイドラインとしてアクティブガイド(健康づくりのための身体活動指針)がある。必要な身体活動量の目標をわかりやすく示すとともに、その達成と普及のために、「今より10分多く、毎日からだを動かす:+10(プラス・テン)する」ことを呼びかけている13)。

    図18.+10から始めよう図18.+10から始めよう

     健康づくりのための身体活動基準2013における全ての世代に向けた「現在の身体活動量を、少しでも増やす。例えば、今より毎日10分ずつ長く歩くようにする。」という指針を基本として、各年代での身体活動基準値が分かりやすく表記されている。  また、「あなたは大丈夫?健康のための身体活動チェック」は、アセスメントベース特定健診の標準的質問表をもとに、個々人の状況に合わせたアドバイスがなされている。 

     「健康のための一歩を踏み出そう!1.気づく!2.始める!3.達成する!4.つながる!」の部分は、行動変容理論やソーシャル/キャピタルの考え方を元にしている。

     紙面全体を通して、大変親しみやすい構成となっているので、ロコモティブシンドローム予防のための介入を行う場合に、大変有用であると思われる。

    図19.アクティブガイド(健康づくりのための身体活動指針)図19.アクティブガイド(健康づくりのための身体活動指針)図19.アクティブガイド(健康づくりのための身体活動指針)

    IV.運動嫌いな人に運動をしてもらうにはどうしたらいいか
    -行動変容を促す効果的な心理学的介入についての考察-

     ロコモティブシンドロームの予防、改善には運動をしてもらうことが最も効果的な対策である。では、ロコモ予防のために「運動をしてください」、「さぁ、今すぐやってみましょう」と言っても、ほとんどの人は、行動を変えようとしない。時にクライアントから「そんなこと言われなくても解っている。うるさい。」などと思われることもありうる。 

     すべての人は、現在の行動を変えるにあたって、レディネス(準備性)の水準が異なっている。人々のレディネスの水準を考慮しながら、適切なアドバイスをしていくことが効果的であると思われる。 

    IV-1.行動変容のトランスセオレティカル・モデル(TTM)とは

     Prochaskaらにより開発された行動変容のトランスセオレティカルモデル(Transtheoreticalmodel:以下TTM)は変化に対する個人のレディネス(準備性)を評価し、その人に適した介入プログラムを提供する。TTMは行動変容の5つのステージに対して、10の変容プロセス(介入)を用いて働きかけ、意思決定のバランスやセルフエフィカシー(自己効力感)を変化させることで行動変容を起こさせる。そしてそれを持続させるための方法として広く知られている。 

    ①5つの変容ステージ 

     変容ステージ(表6)はTTMの中心的な構成要素である。これは過去および現在における実際の行動とその行動に対する準備性(レディネス)を合わせ持った概念である16)。

    表6.変容ステージ表6.変容ステージ

    1.無関心期

    『私は現在、運動をしていない。またこれから先(6ヶ月以内)もするつもりはない。』

    • 「無関心期」は、近い将来に行動を変容する意図がない段階である。この段階の人々は、運動不足に対する長期的な結果を認識していないか、考えないようにしていることが多い。 
    • 運動を行うことは不要、あるいは運動を行うことは不可能と感じている場合が多いため、非常に安定的で変容しにくい段階である。

    2.関心期

    『私は現在、運動をしていない。しかし、これから先(6ヶ月以内)に始めようとは思っている。』

    • 「関心期」の特徴としては、運動をすることの恩恵は気づいているが、運動に伴う負担も大きく感じていることが多い。すなわち、運動を行うことが望ましいと感じているものの、これまでの習慣も捨てがたく躊躇している状態で、実際に運動を始めるかどうかで迷っている段階ととらえられる。 
    • このステージの人は、運動を始めることで自分に起こりえるであろう短期的、および長期的結果について質問し始める傾向が強い。

    3.準備期

    『私は現在、運動をしている。 しかし、定期的ではない。』

    • 「準備期」は、今すぐ(1ヶ月以内)にも運動を始めようと意図している段階、もしくは、徐々に運動を始めた段階である。 
    • この段階の人々は、運動や身体活動に関する情報を得ようと積極的に努力したり、健康関連のイベントに実際に参加してみようと試みたりするのが特徴である。 
    • しかしながら、健康面での恩恵を得られる水準に達していないため、必ずしも運動に伴う肯定的な結果が得られていない場合も多い。

    4.実行期

    『私は現在、定期的に運動をしている。 しかし、始めてからまだ間もない(6ヶ月以内)。』

    「実行期」では、健康への恩恵を得る水準で運動を行い始めたが、まだ6ヶ月経っていない段階である。この段階では、運動を行うことでの恩恵が負担を上回り、運動に伴う効果を確認しているものの、様々な障害に直面した場合に、運動習慣を中断したり、逆戻りしてしまうことが多い。 

    5.維持期

    『私は現在、定期的に運動をしている。 また、長期(6ヶ月以上)にわたって継続している。』

    • 「維持期」では、運動を行うことが、個人のライフスタイルの一部として習慣化しているために、健康に対する信念が高くなっている。 
    • 運動を維持していくための様々な障害を克服しており、運動をつづけることができるという自信が高く、運動習慣を中断することが比較的低い。 
    • しかし、まだ逆戻りの危険性はあるので、注意が必要である。 

    ②10の変容プロセス 

     変容プロセスは、「認知的プロセス」と「行動的プロセス」に大別される(表7)。行動変容のステージに沿った変容プロセスの過程を理解することで、より具体的かつ効果的なアドバイスを提案できる。また、クライアントが現在、どの変容プロセスを重視しているかを得点化する変容プロセス尺度を表8に示した。 

    表7.変容プロセス表7.変容プロセス

    表8.変容プロセス尺度表8.変容プロセス尺度

     

    -認知的プロセス- 

    1.意識の高揚

    「知識を増やすこと」…ははーん
    具体的には、健康行動について新しい情報を探そうと努力したり、より深く理解することに興味を持つこと。

     この変容プロセスを使用している人は、それぞれの行動が、自己と他者に与える影響力をよりよく理解するために、現在の行動についての情報を得ることに興味を示す。その目標は、運動不足が続くと、将来どのようなことが起こるかということについての気づきを増加させることである。例えば、ロコモについて不安を抱いている人は、アクティブガイドに興味を示すだろう。

    2.ドラマティックリリーフ 

    「リスクを予告すること」…どきり!
    行動変容の動機づけとなるような、様々な情動的反応。感情の経験。

     このプロセスは、その人が変化させようとしている行動に対する直接的な情動的反応を通して、変化を行ないやすくするプロセスである。 運動不足が続くと健康に悪いという警告が心に影響を与えて、時に運動不足による弊害の劇的な描写により感情的な反応を示す。例えば、日頃運動不足を感じ、そろそろ運動を何か始めようと思っている人の同僚が運動不足が一つの要因となり心筋梗塞を起こしたことを知るような場合である。このような情動的経験は、定期的な運動習慣を採択しやすくする。 

    3.自己再評価 

    「恩恵を理解すること」… 自分のイメージ
    行動を変容することで、自分にどのような影響が起こり、生活がどのように変化するのか考えること。

     人は、このプロセスを使用して、その行動の影響力について、認知的、あるいは情動的評価を通して変化を起こしていく。例えば、運動を行なっていない人が、運動不足が自分の生命にどのような影響を与え、運動を習慣とした場合に、自分の身体や生活がどのように変化するのかを考え始めるなどである。 

    4.環境的再評価 

    「他者にとっての重要性へ気づくこと」… 周りはどうなるか?
    行動変容を始めることにより、周囲にどのような影響を及ぼすかについて考えること。

     このプロセスは自己再評価と似ているが、その行動について、自分自身ではなく、自分の周りの環境に与える影響を評価し始める。例えば、運動不足が要因となり要介護になった場合に家族に与える影響などを考慮することなどがある。

    5. 社会的解放

    「健康的な機会を増やすこと」… どこでなにがあるか
    行動変容の促進のために、社会がどのように進んでいるのか理解したり、利用について考えること。

     このプロセスは、社会の風潮が、運動不足の影響をなくすように、より健康的なライフスタイルを促進させるように動いていることを認識することである。例えば、国が推進している健康日本21などである。そしてこの変容プロセスを使用する人は、社会の風潮にそった行動変容を行なう理由や利得を理解するであろう。

    -行動的プロセス-

    6. 反対条件づけ

    「代わりを選択すること」… かわりに
    不健康な行動や考え方をより健康的なものに置き換えること。

     この変容プロセスを使用している人は、現在の運動不足に代えて、健康的な行動を行なう方法を積極的に模索している。例えば、エレベーターを使う代わりに、階段を使うなどがあげられる。

    7. 援助関係

    「社会的支援を獲得すること」… 応援して!
    行動変容を行っている最中に、気づかってくれる他者のサポートを利用する。

     援助関係は、友人や愛する人、家族、医師、セラピストなどからの気遣いや援助を受け取ることである。

    8. 強化マネジメント

    「自分自身へ報酬を与えること」… ご褒美
    健康行動を促進、あるいは維持するための報酬を利用する。

     強化マネジメントを使用する人は、運動習慣を継続的に強化し、運動不足を減少させる方法を模索する。例えば、1ヶ月運動を続けたら、自分の好きな寿司を食べに行くなどである。自分にとっての報酬により運動に対する動機付けがより強化する。

    9. 自己解放

    「自分自身へのコミットメントを強める」… 宣言
    行動変容させるために行う、その人の選択や言質のことで、誰もが変化できるという信念を含む。

     このプロセスは、運動するということを他人に対して宣言することによって実行できる。この方法により、運動をやめてしまう事に対しての抑止力として役に立つ。

    10. 刺激コントロール

    「自分自身に思い出させること」… きっかけ
    健康行動を変容、維持することを連想させるものを身近に置くこと。

     このプロセスは、反対条件づけと類似しているが、個人の考えや行動よりも、運動習慣に適した環境をが整えられて、運動のためのきっかけを与えることによる。例えば、家の中ですぐに使えるところに運動器具を置いたりすることである。

    ③意思決定のバランス
    ~恩恵(プロズ)と負担(コンズ)~

     変容ステージが低い段階にある人は、運動を行なうことに対しての恩恵(プロズ)を低くみており、運動にかかる時間や手間、金銭などの負担(コンズ)を高く考えている。行動変容を起こすためには、この意思のバランスが変化していくことが必要で、運動をすることの価値を感じることが重要である。また意思決定のバランス尺度(表10)を以下に示した。

    恩恵 (プロズ)  −  負担 (コンズ)  =  意思のバランス

    表9.プロズとコンズの構成要素表9.プロズとコンズの構成要素

    表10.意思決定のバランス尺度表10.意思決定のバランス尺度

    ④セルフエフィカシー(自己効力感)
    ~自分にもできるという見込み感~

     セルフエフィカシー(自己効力感)はBandura(1977)の社会的認知理論によって提唱された概念で、「ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまく行うことができるかという個人の確信」を差す17)。運動セルフエフィカシー尺度(表11)を以下に示した。運動を続ける為には、自分にもできるという自信が必要であり、セルフエフィカシーは、個人の選択や思考、情動的反応、行動パフォーマンスに影響を及ぼす。セルフエフィカシーは主に以下の4つの源泉から向上する。

    表11.運動セルフエフィカシー尺度表11.運動セルフエフィカシー尺度

    IV-2.TTMを用いた身体活動増加を目的とした介入の例

    1. 無関心期の人へのアプローチ

     無関心期に属する人は、問題が存在するという事実に抵抗をしめしたり、否認したりするという特徴を持つ。また自身の行動を合理化する傾向があり、時に運動を行なわない原因を他人や環境にのせいにしてしまうこともある。一方的で理屈っぽい知識の提供は逆効果となりがちなので注意が必要。クライアントが知っていそうなことから話を始めて、運動と健康の関係を徐々に知らせていくと良い。

     無関心期の人は、運動不足についての一般的情報を得ること(意識の高揚)、親しい友人、家族やセラピストからの激励を受けること(援助関係)、運動不足に起因する社会的な問題や、運動習慣を促進させるために社会的風潮の流れを知ること(社会的解放)から多くの恩恵を受けとる。

    具体的アドバイス:

    自分の将来の健康状態をイメージしてみませんか?

    • 身体を動かすことについて、その負担ばかり目を向けていませんか?まずはわかりやすい効果をイメージしてみてください。病気になりにくい、体重が減る、階段を上がっても息が切れない、などの効果です。(意識の高揚、自己再評価)
    • このまま身体活動量が低い状態が続くと、あなたの身体は将来どうなるのでしょうか。その時、周囲の人に与える影響はどのようなものか想像してみましょう。今、わずかに何かを行なうことで、あなたの将来は今よりずっと良くなっていきます。活発に身体を動かし、元気になったあなたを想像してみましょう。(環境的再評価、意識の高揚)
    • メタボの次はロコモとここ近年よく耳にします。運動不足などにより筋肉や関節などが衰えて、将来的に介護状態となる危険性が高い状態をロコモといいます。要介護状態となる人々を減らすために国が推進している運動です。(社会的解放)
    • 運動が嫌い、不得意、行う自信がない、時間がないという場合でも、階段を使う、近場には歩いていくなどの生活の場に運動を取り入れることでも効果があります。(反対条件づけ)

    何もやらないよりは、わずかでも身体を動かしましょう。まずはできることから。

    • まずは、目の前のできることから始めましょう。何もやらないよりは、わずかなことでもできることから何かをやったほうがいいです。まずは、普段着でもできるストレッチや散歩、階段上りにチャレンジしてみましょう。(反対条件づけ)
    • あなたに合った運動の仕方や生活活動の増やし方について、私と一緒に考えていきませんか。きっとよいアドバイスができると思います。(援助関係)

    2. 関心期の人へのアプローチ

     関心期に属する人は、運動の恩恵と負担の知覚を特に強化すべきである。いま現在のライフスタイルの批判は避けるべきである。関心期にいる人たちは、準備期に移るために、意識の高揚、自己再評価、およびドラマティックリリーフをより多く使用する傾向がある。そのため、クライアントにその運動不足が人々の生命に影響を与えている過程をより深く気づかせようとする気づきの技術が有効である。また、運動を始めたいと思っている意思を積極的に支援して、温かい言葉をかけることも大切である。

    具体的アドバイス:

    生活活動量を増やすことから始めましょう。

    • あなたは、近々なにか運動を始めたいと思っています。これは素晴らしいことです。まずは、実現に向かって一歩を踏み出しましょう。(セルフエフィカシーの増加)
    • 心筋梗塞や脳卒中などは動脈硬化が主な原因です。運動は、脂肪を燃焼させ、コレステロール、血糖値、血圧全てを改善の方向に導きます。(意識の高揚)
    • 最近あなたの周りで運動不足のために糖尿病や心疾患を患った人、体力がおちて調子の悪い人はいませんか。(ドラマティックリリーフ)
    • 日々の生活のなかに、楽しく運動を取り入れることにより、ストレス解消にもなり、生活習慣病の予防にもなります。さらに身体も元気になり、活力もでてきます。(自己再評価)
    • 運動でなくても、日常生活で活発に身体を動かすことによって健康の維持、増進は可能です。健康づくりのためにあなたにお勧めする1日の生活活動量は、歩数にして、8,000歩から10,000歩程度です。いきなり、このような歩数を目標としなくても、まずはわずかでもできる範囲の量を増やすことから始めましょう。(反対条件づけ)
    • まずは、1,000歩だけ増やして、慣れてきたら徐々に歩数を増やしていくといった方法はどうでしょうか。10分歩くと約1,000歩になります。(反対条件づけ)
    • 歩数にこだわらなくても、散歩、通勤による歩行、床掃除、庭仕事、洗車、子供と遊ぶことなどの活動を毎日60分程度行うことを目指しましょう。特別に時間をとらなくても、家事を行いながらの「ながら」体操も実施できます。(反対条件づけ)

    行ってみた感想はどうですか?

    • 生活活動を増やすためにこの程度ならできるというものが意外に多いことに気づくことでしょう。きっとできますよ。自信を持ちましょう。(自己再評価、セルフエフィカシーの増加)
    • 一日の歩数を増やすことができたなら、次はわずかな運動、例えば週末に1回程度、30分くらいでかまいません。まずは、新しくチャレンジできそうな運動をわずかでも行ってみましょう。(セルフエフィカシーの増加)

    3. 準備期の人へのアプローチ

     準備期の人へのアプローチは介入の効果が最も大きい。このステージの人へのアプローチは、主にセルフエフィカシーを強化することに焦点を当てるべきである。クライアントは、このステージで変化を起こす準備ができている。このステーシでは、引き続き自己再評価を行い続けさせること、また、援助を求め続けさせることが、この行動変容プロセスの援助としてよい方略である。自己解放の時期は手近にある。また定期的な活動を達成した場合に自分に報酬を与えるような強化マネジメントのスキルを学習させることが効果的だと考えられる。

    具体的アドバイス:

    週1回程度の運動から始め、継続できる楽しみをみつけましょう。

    • あなたは、今まで、たとえ「時々」にしても、生活活動を増やしたり、運動を行おうと心がけてこられました。これは素晴らしいことです。なかなかできることではありません。自分に自信をもってください。今後行うべきあなたの課題は、「時々」を「定期的」に変えて行くことです。(セルフエフィカシーの増加)
    • 最近、ウォーキングをしたり、意識して階段をあがったりする人が増えています。一駅分歩く「一駅族」など、そういう人があなたの周りにいるかどうか観察してみてください。(社会的解放)
    • 健康づくりのために、あなたにおすすめする活動は、週1回1時間程度の運動です。楽しく続けられるものが良いと思います。速歩、自転車、ダンス、エアロビクス、水泳、テニスなども良いですし、私のお勧めは太極拳です。とてもいいですよ。

    継続させるための工夫を行いましょう。

    • 冷蔵庫に目標とする運動内容(例えば歩数)を貼っておく、玄関の目立つ所にウォーキングシューズをおく、部屋にトレーニングウェアを飾るなど、実践のためのきっかけや合図になるものを身の回りにちりばめましょう。(刺激コントロール)
    • ある期間を継続できたら、良くがんばった自分にご褒美をあげましょう。ご褒美の内容は、旅行に行く、おいしい料理を食べるなどはどうでしょう。(強化マネジメント)
    • 具体的で実行可能な小目標をたてていくとい効果的です。現在の活動状況を把握して、いつ、どこで、どれくらい運動をできるのかの計画をたててみるとよいと思います。
    • 家族やお友達の方に応援してもらったり、一緒に運動を行えるように頼んでみましょう。彼らの前で「運動するぞ!」と宣言してみるのもいいです。(援助関係、自己解放)

    4. 実行期の人へのアプローチ

     実行期の人へのアプローチは、周囲の人の理解とサポートををうまく利用できるように働きかけ、活動的なライフスタイルが習慣として根付くようにさせるとよい。しばしば運動の中止などの逆戻りがみられるので、運動を妨げる要因についての克服法について共に話し合っておくと良い。実行期の人は、運動を始めたがまだ6ヶ月以内であり、もとの生活に戻ってしまう危険性が高い。まずはクライアントが運動を行っているということを評価し、セルフエフィカシーの増加を図る言葉かけが大切である。また、運動習慣を維持するための、自己解放、刺激コントロール、強化マネジメント、および反対条件づけは有効な変容プロセスである。

    素晴らしいことです。このまま現在の習慣をキープできる工夫をしましょう。

    具体的アドバイス:

    • あなたは今まで生活活動を増やし、運動を実践してこられました。なんてすばらしいことでしょう。今後は、どのようにその習慣をキープするのかを考えましょう。(セルフエフィカシーの増加)
    • 振り返ってみましょう。今までに途中でやめたくなる気持ちが起こる事もしばしば、また残業や家族の世話で継続できない状況に対して、あなたはうまく打ち勝ってきました。続けてきた、そのことに自信をもってください。(セルフエフィカシーの増加)

    身体の調子はいかがですか。

    • 疲れにくくなった、楽に階段が上がれるようになった、ウエストサイズが減少して服が着やすくなった、肩こりがなくなったなど、生活の中で感じる効果も自覚できていることと思います。もう一度、それらの効果を確認してみましょう。(自己再評価)
    • 現在の習慣を妨げる要因にうまく対処しましょう。例えば悪天候で運動できない日には、なにか室内で行う代わりの活動を考えておく。突然の仕事が入ったら、他の日に少し多めに行って1週間単位での目標運動量を確保する、倦怠感が生じたら、運動内容を変えてみるのもよい方法です。(反対条件づけ)
    • 手帳やカレンダーに運動を行う日をあらかじめ記入するようにしましょう。(刺激コントロール)
    • 運動したくないと感じる時が必ずあります。そういうときは、とりあえず運動する場所に行ってみる、先に着替えを行ってしまうなどの対策が有効です。(反対条件づけ)
    • 運動を始めたことを家族やお友達の方にお話してみましたか。是非話してみてください。(自己解放)
    • もしかしたら同じように運動を始めたいと思っている人もいるかもしれません。ぜひ運動仲間を見つけてみてください。(援助関係)
    • きっと運動を始めてから、日常生活にも活力がでてきたのではないでしょうか。ご家族の方々もきっと喜んでいると思います。(環境的再評価)
    • 運動を行うにあたっての疑問点や、身体の調子、使い方など相談がありましたら、いつでもいらしてください。(援助関係)

    5. 維持期の人へのアプローチ

     このステージに属する人は、少なくとも6ヶ月以上の間、活動的なライフスタイルを継続している。運動にともなう恩恵や、家族や知人への影響を再評価させ、援助関係で得た信頼を保ち続けることが大切である。このステージの人へは積極的に地域の活動に参加するように促すと良い。運動を休みたいという誘惑はいまだ存在するものの、行動変容を上手く行ってきた時間が増加してきたので、概して誘惑は弱く、発生頻度も少ない。維持期にいる期間が増えていくにつれ、運動習慣が定着し、刺激コントロール、強化マネジメント、反対条件づけのプロセスの必要性は減少していく。

    継続できたことに自信を持ちましょう。 家族や友人も誘ってあげてください。

    • 幾多の誘惑、困難にもかかわらず、継続されてきたことはなんてすばらしいことでしょうか。自分を褒めてあげて下さい。(セルフエフィカシーの増加)
    • 疲れにくくなった、楽に階段が上がれるようになった、ウエストサイズが減少して服が着やすくなった、肩こりがなくなったなど、生活の中で感じる効果を再認識しましょう。(自己再評価)
    • きっと運動を継続してきたおかげで、身体の調子もよくなり、心の活力もでてきたのではないでしょうか。日常生活にも自信が沸き、笑顔でいられる時間も増えたと思います。ぜひご家族も一緒に運動できるように勧めてあげてください。(環境的再評価、援助関係)

    IV-3.TTMを用いた身体活動増加を目的とした介入の例

     クライアントの変容ステージに応じた身体活動増加を目的とした介入の例をあげたが、これはあくまでも例にしか過ぎないので、実際の事例においてはそれぞれの事例に応じて柔軟に変容プロセスを組み合わせて適応させていくことが望ましい。以下に岡らによる行動変容のトランスセオレティカル・ モデルに基づく運動アドヒレンス研究の動向 17)より行動変容の TTM に基づく身体活動促進のための介入を行う際に必要な情報のまとめを載せた。

    表12.行動変容のTTMに基づく身体活動促進のための介入を行う際に必要な情報17)表12.行動変容のTTMに基づく身体活動促進のための介入を行う際に必要な情報17)

    V. 結語

     ロコモティブシンドロームの基礎知識から初めて、各世代の運動指導の目安と注意点、そして行動変容のトランスセオレティカル・モデルを用いた心理学的介入について検討を行った。僭越ながら、最後に伝えたいことは、理論より大切なことは治療家として患者さんが心と身体の調和がとれた生活を送れるよう心より応援する姿勢であると思う。知識・技術・人間性の全てを磨いていくことが患者さんからの信頼を得るために必要であり、信頼関係が無ければTTMにおける介入の効果も低くなる。我々あん摩マッサージ指圧師は治療を行いながら患者さんとじっくり話ができる時間がある。ただ漫然と施術するのではなく、一人一人の患者さんの真の健康を願い、そのために自分は何ができるのかを熟考していくことが大切だと思う。

     ロコモ25の質問紙や、変容プロセス尺度、意思決定のバランス尺度、運動セルフエフィカシー尺度などは科学的根拠に基づいたもので、数値化したデータを蓄積していくことで、学術的な症例報告論文にも応用できる。医師はもちろんのこと、鍼灸師や理学療法士などは多くの学術論文を世に発表し、科学的根拠を積み重ねていっているが、指圧師の世界では論文の蓄積はまだ少数である。今回多くの情報を書物とインターネットより検索した学術論文より得てこの資料を作成した。Googleの学術論文専門の検索システムであるGoogle Scholarで調べると、たくさんの世に発表された学術論文を読むことができる。指圧が医療の世界でより認められて国民に貢献していくために、一人でも多くの指圧師が学術論文を読み、そして論文を発表していくことを願っている。

     この情報がきっかけとなり、一人でも多くの指圧師とその患者さんの人生に少しでも良い影響を与えることができたら、なによりの喜びである。

     

    VI.参考文献

    1) 厚生労働省:日本人の平均余命 平成21年簡易生命表: http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life09/sankou02.html
    2) 平均寿命と健康寿命をみる|厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/chiiki-gyousei_03_02.pdf
    3) 平成22年国民生活基礎調査の概況|厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa10/4-2.html
    4) 佐悦男:ロコモティブシンドローム:運動器疾患を取り囲む新たな概念―ロコモ予防とリハビリテーション―,リハビリテーション医学(50),p.48-54,2013
    5) ロコモチャレンジ!推進協議会:ロコモパンフレット2014年度版
    https://locomo-joa.jp/check/pdf/locomo_pf2014.pdf
    6) 山本利春:測定と評価(改訂・増補版),p.142,ブックハウス・エイチディ,2004
    7) 「障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準」作成検討会報告書 http://www.ipss.go.jp/publication/j/shiryou/no.13/data/shiryou/syakaifukushi/429.pdf
    8) 村永信吾:2ステップテストを用いた簡便な歩行能力推定法の開発,昭和医学会誌63(3),p.301-308,2003
    9) 「ロコモ25」「ロコモ5」の使い方|日本運動器学会 http://www.jsmr.org/documents/locomo_25.pdf
    10) 厚生労働省:健康日本21(第二次)の推進に関する参考資料 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkounippon21_02.pdf
    11) 澤田亨他:健康日本21(第二次)・身体活動基準2013およびアクティブガイド,日本食生活学会誌24(3),p.139-142,2013
    12) 運動施策の推進健康づくりのための身体活動基準2013|厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/undou/index.html
    13) 「健康づくりのための身体活動基準2013」及び「健康づくりのための身体活動指針」について|厚生労働省
    http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple.html
    14) 事故事例から学ぶ特定保健指導における運動指導の安全対策 http://www.ahv.pref.aichi.jp/ct/other000001700/undo_anzentaisaku.pdf
    15) 宮地元彦:新しい身体活動基準2013身体活動指に基づいた保健指導 http://www.niph.go.jp/soshiki/jinzai/koroshoshiryo/
    tokutei25/keikaku/program/K2-2.pdf
    16) PartriciaM.Brubank著,竹中晃二約:高齢者の運動と行動変容-トランスセオレティカル・モデルを用いた介入,ブックハウス・エイチディ,2005
    17) 岡 浩一郎:行動変容のトランスセオレティカル・モデルに基づく運動アドヒレンス研究の動向,体育学研究45,p.543-561,2000


    【要旨】

    ロコモティブシンドローム予防のために
    〜 運動実践へ向けたトランスセオレティカルモデル(TTM)の活用 〜
    黒澤一弘

     ロコモティブシンドロームの最も効果的な予防法は定期的な運動である。ここではロコモの基礎知識を正しく知り、患者が定期的な運動を実践していくための心理的なアプローチ法について考察する。

    キーワード:ロコモティブシンドローム、行動変容、TTM


    東京夢舞いマラソン 指圧ボランティアアンケート報告(第2報):衛藤友親、永井努、石塚洋之

    衛藤 友親
    明治大学 体力トレーナー
    永井 努
    永井指圧治療院 院長
    石塚 洋之
    日本指圧専門学校 専任教員


    Survey by questionnaire about volunteer Shiatsu at Tokyo Yumemai Marathon
     (The second report) : a survey report

    Tomochika Etou, Tsutomu Nagai, Hiroyuki Ishizuka

    Abstract : Following the survey report of the 12th Tokyo Yumemai Marathon, we conducted a survey in the form of a questionnaire at the Kagurazaka Station of the 13th Tokyo Yumemai Marathon using VAS (Visual Analogue Scale). About 97% of the respondents answered that the degree of fatigue or pain were reduced after the shiatsu treatment. Although there were some different conditions such as the weather and the number of questionnaires collected, the percentage was almost same as the last report. The number of cases with fatigue and / or pain in left leg was, however, lower than the last. It is necessary to discuss efficacy and effectiveness of shiatsu in sports fields by reviewing a format of the questionnaire and its implementation methods.


    I.はじめに

     健康の保持・増進や体力の向上のみならず、ランニングを通じた人間関係を楽しむためにジョギングやマラソンを行う人は多い。

     マラソン大会に参加した市民ランナーに対し指圧を施した場合、ほとんどの人の痛みや疲労の自覚症状が改善されたのは既報の通りである。

     今回も同じ場所、同じ手法を用いてアンケート調査を実施したのでここに報告する。

    II.日時

     2012年10月7日(日)

    III.場所及び対象

     第13回東京夢舞いマラソン参加者中、神楽坂エイドステーション(スタートから33.892km地点)にて指圧を受け且つアンケートに回答した一般成人88名(男性57名、女性31名)。

    IV.方法

     A4版両面印刷のアンケート用紙(図1,2)を用い、施術前と施術後の疲労および痛みの度合いを100mm(=100ポイント)の長さのVAS(visual analogue scale)にて、また、疲労を感じる部位並びに痛みを感じる部位を、身体イラストに丸印を記入する形式で回答して戴いた。

     尚、指圧はランナーの主訴に応じて5〜15分の間で浪越式基本指圧を中心に行った。

    アンケート用紙

    図1. 施術前アンケート用紙

    図1. 施術前アンケート用紙

    図2. 施術後アンケート用紙

    図2. 施術後アンケート用紙

    III.結果

     VASにて疲労および痛みの度合いが減少したのは88名中85名(97%)、増加したのは3名(3%)、変化がなかったのは0名(0%)であった。

     疲労および痛みの度合いが減少した例の平均ポイントは37ポイント、増加した例の平均ポイントは4ポイントであった。

     疲労および痛む部位でもっとも多かった回答は下腿後側左、次いで下腿後側右であった。尚、部位の回答は複数回答可のため、延べ434個所だった。

     

    表1. 部位別主訴件数の左右差

    表1. 部位別主訴件数の左右差

    VI.考察

     今回の結果は前回の結果と比べ、主訴の多い順位や割合に大きな変化はなかったが、主訴件数の左右差は左が多かった部位が15部位から10部位に減少した。

     この原因は当日の天候が雨天だったため、より熱心なランナーが参加し、比較的ライトなランナーが不参加だったためではないかと推察する。

     根拠として、熱心なランナーほどコースの取り方やピッチによって下肢への負担が変わってくる1)ことを熟知している場合が多く、雨天のためにそのような障害予防の意識の高いランナーがスクリーニングされていた可能性が高いことが挙げられる。

     このような参加者自身の資質が結果に反映される可能性を考慮して、今後は回答用紙に競技年数の項目を追加するなど調査用紙の工夫が必要である。

     他方、天候やアンケート回収数が違うにもかかわらず、VASによる疲労および痛みの度合いが減少した例の割合とその平均ポイントは前報2)とほぼ変わっていない。

     これは指圧が対象や天候に関係なく一定の効果を出せることを示唆しており、そのメカニズムを含め今後更なる精査を進めていきたい。

    VII.おわりに

     今後はより規模の大きな大会での調査を目指すべく、これまでの反省も踏まえて準備をしたい。また、施術地点や実施方法の抜本的な見直しも視野に入れ、スポーツ場面における指圧の有効性を模索したい。

    VIII.参考文献

    1) 川島敏生著, 栗山節郎監修:ぜんぶわかる筋肉・関節の動きとしくみ事典, p. 153, 成美堂,東京, 2012
    2) 衞藤友親他:東京夢舞いマラソン指圧ボランティア報告, 日本指圧学会誌(1), p.33, 2012


    【要旨】

    東京夢舞いマラソン指圧ボランティアアンケート報告(第2報)
    衛藤 友親, 永井 努, 石塚 洋之

     第13回東京夢舞いマラソン神楽坂エイドステーションにてVASを用いたアンケート調査を前回(第12回)に続き実施した。天候・アンケート回収数等の違いがあったが、VASにて疲労および痛みの度合いが減少した割合は前回同様およそ97%であった。しかし左側に疲労・痛みを訴えた件数は前回より減少した。調査用紙や実施方法を見直し、スポーツ場面における指圧の有効性を模索する必要がある。

    キーワード:疲労軽減、スポーツ指圧、左右差



    フリーウェアを用いた姿勢分析並びに関節可動域測定:黒澤一弘

    黒澤 一弘
    日本指圧専門学校教員

    Discussion about postural analysis and measurement of joint motion utilizing free software

    Kazuhiro Kurosawa

    Abstract : For the development of Shiatsu in medicine, accumulation of evidences is crucial. Assessing the clinical condition of a patient objectively and accurately as much as possible, keeping track of its progress, and recording it are important. Solely the patient’s satisfaction and the fact of a cure are incomplete. Among the needs for Shiatsu treatment, locomotory problems make up relatively large number of complaints. Maintaining poor posture adds extra stress and strain to joints and muscles, and it may result in pain or discomfort. Accurate analysis of the patient’s posture allows a therapist to presume his/her muscle balance – which muscles are stretched/shortened. Taking this opportunity, I would like to discuss postural analysis utilizing digital camera and GIMP (GNU Image Manipulation Program).


    I.はじめに

     医療における指圧が発展していくには、エビデンスの蓄積が必要である。それは単に患者の満足や治ったという事実で終わらせるのではなく、患者の病態を可能な限り客観的かつ正確に評価し、それを記録し経過を追っていくことが重要である。

     今日コンピュータやデジタルカメラ、スマートフォンなどの機器が普及し、多くの人がそれらを活用している。ここでは、それらの機器を用い、フリーウェア※1 ,※2 を活用して姿勢分析や関節可動域測定を行い、それを記録していくための方法を紹介する。

    ※1 フリーウェア:オンラインソフトの中で、無料で提供されるソフトウェア。

    ※2 ソフトウェアの選定基準として、Mac、Windows双方で同じソフトウェアが提供されていることを条件とした。

    II.デジタルカメラとGIMPを用いた姿勢分析

    II-1. GIMPについて

     指圧療法への要求のなかでも、運動器系の愁訴は多い。不良な姿勢がつづくことにより、関節や筋に持続的な緊張が加わり痛みや不快感の原因となりうるが、姿勢を正確に分析することにより、どの筋が伸長し、どの筋が短縮しているかという筋バランスを推測することができる。

     GIMP※3はMac、Windows、Linuxで使える汎用の画像加工・編集ツールである。無料でありながら他の有料画像編集ソフトウェアと比べても遜色のない機能を備えている。GIMPの機能は非常に多岐にわたるが、ここでは姿勢分析のための鉛直線に沿うように画像を回転させ水平をとり、グリッド(マス目)を被せることにより姿勢分析に応用する方法を述べる。

    ※3 GIMPのライセンスはGPL(General Public License)に属し、GIMP本体のプログラムを改変し販売することは認められないが、使用に関しては誰もが無料で使用できる。

    II-2 GIMPのインストール

     ソフトウェア「GIMP」をダウンロードするために http://www.gimp.org/ にアクセスする。表示された画面の「Download」をクリックする。

    図1. GIMPホームページ

    図1. GIMPホームページ
    downloadをクリックする

     ダウンロードしたファイルを実行し、GIMPをインストールする。尚、インストール画面までは英語表記であるが、プログラム本体は多言語対応で、インストール後に日本語表記となる。

    II-3 GIMPを使い写真の水平垂直を合わせる

     写真から姿勢分析を行うのに重要なことは、水平垂直が正確にとれていることである。そこで、天井などから錘を垂らし、鉛直線を1本つくる。

    ※ 鉛直線は釣具店などで鉛の重石を購入し、丈夫な紐に括り付ければ安価に作成できる。

     下の写真は三脚を用いず、カメラを手持ちで撮影した。見た目にやや前傾姿勢に見えるが、この写真は正確な水平がとれていない。そこで、この写真をサンプルとして鉛直線を基準に画像を回転させ、水平垂直を合わせる。

    図2. サンプル画像

    図2. サンプル画像
    水平がとれていない

    ① 水平をとるための仮想グリッド[表示]-[グリッドを表示]を選択する。

    図3.  [表示]-[グリッドを表示]

    図3. [表示]-[グリッドを表示]

    ② 画面上にグリッドが引かれるが、マス目が細かすぎるので、グリッド幅を調節する。
    [画像]-[グリッドの設定]を選択する。
    間隔の数値をそれぞれ100※4 に変更する。

    図4. [画像]-[グリッドの設定]

    図4. [画像]-[グリッドの設定]

    ※4 幅と高さを100としたのは、後の画像を回転させ、水平垂直を合わせるために、見やすくするためであり、100以外でも可能である。デジタルカメラの画素数やPC環境により、最適な数値は異なる。

    ※5 鎖のマークは幅と高さの比率を固定とするか否かである。

    ③ グリッドの間隔が広がる。拡大して画像の傾きを確認する。
    ツールボックスより【ズーム】を選択 する。

    図5. ツールボックスより[ズーム]を選択

    図5. ツールボックスより[ズーム]を選択

    水平・垂直がずれているのが確認できる。

    図6. 鉛直線とグリッドのずれ

    図6. 鉛直線とグリッドのずれ

    画像を回転させ、グリッドと鉛直線を平行にする。ツールボックスより【回転】を選択。

    図7. ツールボックスより[ズーム]を選択

    図7. ツールボックスより[ズーム]を選択

    [回転]ツールを使い、鉛直線と縦グリッドを平行にあわせる

    図8. 鉛直線と縦グリッドを平行にあわせる

    図8. 鉛直線と縦グリッドを平行にあわせる

    ④ 水平垂直が正確となったが、表示されていたグリッドは画像編集のための仮想グリッドなので、保存してもグリッドは残らない。

    図9. 元画像と水平をあわせて保存した画像

    図9. 元画像と水平をあわせて保存した画像

    II-4 GIMPを使い写真にグリッドをひく

    ⑤ 水平がとれたならば、次は姿勢分析のために画像に上書きするグリッド線をひく。まずは再び[表示]-[グリッドを表示]を選択し、仮想グリッドを非表示にする。

    図10. 仮想グリッドを非表示

    図10. 仮想グリッドを非表示にする
    (チェックボックスの選択を解除する)

    ⑥ [フィルタ]-[下塗り] -[パターン] -[グリッド]   を選択し、グリッドを画像に被せる。

    図11. [フィルタ]-[下塗り] -[パターン] -[グリッド]

    図11. [フィルタ]-[下塗り] -[パターン] -[グリッド]を選択

    グリッドの間隔が細かすぎるので変更する。間隔の値を適切な値に設定する。ここでは水平、垂直を16から100に変更する。

    図12. グリッドの設定画面

    図12. グリッドの設定画面
    間隔の値を適切な値に設定

    画像に直接グリッドが描画される。この状態で保存すれば、グリッド有りで保存される。

    図13. グリッドが描画された写真

    図13. グリッドが描画された写真

    ⑦ 周囲の不要な部分を除き、トリミングする。ツールボックスより[切り抜き]を選び、残したい部分を囲む。

    図14. [切り抜き]設定画面

    図14. [切り抜き]設定画面

    範囲選択後、クリックまたはエンターキーで画像がトリミングされる。

    図15. トリミングされた写真(完成)

    図15. トリミングされた写真(完成)

     以上の手順を行うことにより、鉛直線を基準として、写真の水平・垂直を合わせ、姿勢分析に必要なグリッドを描画し、写真の大きさを調節することができる。この作業を前後左右で行うことにより、三次元的な姿勢のアンバランスを見分けることが容易となる。

    ※ 水平器のある三脚を用いて撮影すれば、画像の水平・垂直を合わせる処理は省略できるので、簡便となる。

    III.ImageJを用いた関節可動域・角度測定

    III-1. ImageJについて

     ImageJはアメリカ国立衛生研究所(NIH)で開発された画像処理ソフトウェアで、MacOS X、Windows、Linuxで動作する。パブリックドメインとして誰もが自由に無料で使用できる。ImageJの機能は多岐にわたる1)が、ここでは関節可動域の測定について述べる。

    III-2. ImageJのインストール

      ソフトウェア「ImageJ」をダウンロードするために http://rsb.info.nih.gov/ij/ にアクセスし、ダウンロードしインストールする。

    図16. ImageJ ホームページ

    図16. ImageJ ホームページ

    ※Windowsを使用している場合は、Javaが付属した32ビットバージョンで良いと思われる。(使用しているWindowsが64ビットの場合でも動作する)Macの場合は、32ビット版と64ビット版が同梱されている。

     III-3. ImageJを用いた関節可動域・角度測定

    ① 術前・術後などで関節の可動範囲をデジタルカメラなどで写真にとっておく。

    図17. サンプル写真(術前・術後)

    図17. サンプル写真(術前・術後)

    ② 角度測定はアングルツールを用いるが、事前に計測したい関節周囲を虫眼鏡ツールで拡大する。ズームインしたいときは、このツールで画像をクリックする。ズームアウトの時は、Alt +クリック、または右クリック。(Macの場合、option + クリック、または右クリック)

    図18. ImageJ 操作パレット

    図18. ImageJ 操作パレット
    ここではアングルツールと虫眼鏡ツールを用いる

    ③ アングルツールを用いて、角度測定を行う関節の基本軸と移動軸に合わせて線を引く。

    図19. 肩関節の移動軸と基本軸

    図19. アングルツールを用いて、角度測定を行う
    肩関節の移動軸と基本軸に線を引く

    ④ メニューより[Analyze]-[Measure]を選択すると角度測定結果が表示される。

    図20. [Analyze]-[Measure]を選択

    図20. [Analyze]-[Measure]を選択

    図21. 角度測定結果

    図21. 角度測定結果が表示される
    施術経過票に記録する

     以上の手順により、術前・術後などで関節可動域の変化を数値で表せる。

    IV.姿勢分析の一例

    図22. 姿勢分析の一例(前面・後面)

    図22. 姿勢分析の一例(前面・後面)

    図23. 姿勢分析の一例(左側面・右側面)

    図23. 姿勢分析の一例(左側面・右側面)

    • 眉間-オトガイのラインと指示基底面中心を通るラインがずれている。

    • 右肩上がり、左上肢が下がっている。

    • 側面図より、左上肢のほうが右上肢に比べ前にでていることから、体幹軸が左回旋していると考えられる。

    • 体幹の重心が左寄りになっている。

    • 右下肢軽度外旋位

    • 上肢が前にきていることにより、大胸筋, 小胸筋の過緊張が考えられる。※その結果として円背が引き起こされている可能性がある。

    • 胸椎後弯が目立つが、腰椎前弯はさほど強くないように思える。

    • 膝関節軽度屈曲
      ※股関節屈筋の緊張により、立位では膝屈曲が生じる。腰椎前弯を軽減させる目的で膝関節屈曲している可能性がある。2)

    V.結語

     GIMPやImageJを用いることにより、汎用のデジタルカメラを姿勢分析や関節可動域測定に利用できる。臨床の場では、角度計を用いた関節可動域測定は手間がかかることもあり、行われないことも多いと思われるが、デジタルカメラで術前、術後の写真を残しておけば、後から角度を測定し、記録していくことができる。

     また、グリッド線を引くことにより、短時間での肉眼観察では気がつきにくい、筋骨格のアンバランスを知ることができる。

     治療において、他覚的な所見を集め、その変化を記録し、観察していくことが重要だと思われる。クライエントに術前、術後の客観的変化を明示することにより、指圧の効果を具体的に示すことができ、それは施術者への信頼へとつながる。また、施術後に画像を解析することにより、考察を加え、次回の施術に活かしていくこともできる。そのプロセスの積み重ねが施術者の知識と技術の向上に大きく寄与すると考える。

     理学療法の分野では、ImageJを用いた症例報告や研究論文が多数発表され、エビデンスの蓄積が行われている。今回、日本指圧学会の創立にあたり、指圧療法のエビデンス蓄積並びに、指圧界全体の発展に寄与できればと思い、本稿を執筆した。

    VI.参考文献

    1) 小島清嗣 他:画像解析テキスト—NIH Image, Scion Image, ImageJ実践講座,羊土社, 東京, 2006
    2) ケンダル 他:筋 機能とテスト—姿勢と痛み,p.95, 西村書店, 東京, 2006


    【要旨】

    フリーウェアを用いた姿勢分析並びに関節可動域測定
    黒澤 一弘

     医療における指圧が発展していくには、エビデンスの蓄積が必要である。それは単に患者の満足や治ったという事実で終わらせるのではなく、患者の病態を可能な限り客観的かつ正確に評価し、それを記録し経過を追っていくことが重要である。指圧療法への要求のなかでも、運動器系の愁訴は比較的多いと思われる。不良な姿勢がつづくことにより、関節や筋にストレスや緊張が加わり痛みや不快感の原因となりうるが、姿勢を正確に分析することにより、どの筋が伸長し、どの筋が短縮しているかという筋バランスを推測することができる。今回は、デジタルカメラとGIMPを用いた姿勢分析について紹介する。

    キーワード:姿勢分析、関節可動域、フリーウェア、GIMP、ImageJ、指圧



    避難所での指圧救護と主訴:月足弘法

    日本指圧協会 東京指圧救護赤十字奉仕団
    月足 弘法
    五本木指圧研究所所長
    中盛祐貴子
    祐泉指圧治療院院長
    菅原 伸人
    日本指圧協会文京支部
    瀧本 光代
    瀧本指圧治療院 院長

    Shiatsu treatments and chief complaints at the evacuation center

    Hironori Tsukiashi, Yukiko Nakamori, Nobuto Sugawara, Mitsuyo Takimoto

    Abstract :After the Tohoku Earthquake, we supported evacuees with Shiatsu treatment at a primary evacuation center of Azuma Sports Park, Fukushima City, Fukushima Prefecture (the number of evacuees of the day; 633) for two days from May 11 to May 12, 2011. We conducted hearing survey of chief complaints from 181 evacuees and treated them with a twenty-minute session of Shiatsu therapy. Chief complaints of the 181 evacuees living there consisted of problems of shoulders; 78, lower back; 35, legs; 23, neck; 20, arms; 13, back; 6; and other problems including eyestrain, gastritis, and fatigue; 6. Contrary to our expectation that mainly their chief complaints would be about lower back and legs, the number of evacuees complaining about strains and stiffness of shoulders was actually more than double that of lower back. We also questioned them about the chief complaints after the Shiatsu treatments and confirmed that they were abated.


    I.はじめに

     2011年(平成23年)3月11日(金)14時46分18秒(日本時間)東日本大震災により被災された皆様に心から御見舞い申し上げます。

     日本指圧協会所属である東京指圧救護赤十字奉仕団(日本赤十字社東京都支部 特殊奉仕団)は、東日本大震災の一次避難所にて指圧救護を行った。

     医療活動として、避難所での指圧救護に対する検討および避難所における被災者の主訴を報告する。

    II.方 法

    1.対象

     1次避難所にて寝泊まりおよび食事をする避難者(当日の避難者数633人)の中で、指圧救護を受けた男性66人、女性115人の合計181人を対象とした。

     なお、指圧治療と主訴の記録使用について、十分に説明し同意を得た上で行った。

    2.期間

     平成23年5月11日(水)〜12日(木)の2日間(東日本大震災発生から2か月後)

    3.場所

     福島県あづま総合運動公園(福島市)一次避難所内、あづま総合体育館の救護施設および県営あづま球場の会議室。

    4.指圧方法

     パイプ椅子による座位指圧(図1)および組み立て式ベッドによる伏臥、仰臥、横臥(図2)による浪越式指圧1)にて1人当たり約20分の施術を行った。

    図1. パイプ椅子による座位指圧

    図1. パイプ椅子による座位指圧

    図2.組み立て式ベッドによる 伏臥、仰臥、横臥位での指圧

    図2.組み立て式ベッドによる伏臥、仰臥、横臥位での指圧

    5.問診方法

     主訴および症状をあん摩マッサージ指圧師21人(男性14人、女性7人)が、患者から直接問診し用紙に記録した。

    6.記録管理

     あん摩マッサージ指圧師の担当者2人が、記録した問診用紙を集計し確認した。

    III.結 果

    1.指圧救護

     東京指圧救護赤十字奉仕団は、新潟県中越地震の被災地や大島噴火災害、三宅島噴火災害の避難所などでの指圧救護活動の経験に基づき、東日本大震災および福島原子力発電所事故による被災者の長引く避難所生活での心身疲労を考慮し医療従事者として指圧治療した。

     また、避難所生活での健康に対するアドバイスや運動法を指導すると共に、エコノミークラス症候群対策の自己指圧プリントを避難者へ配布および避難所に掲示した。

    2.主 訴

     避難所に寝泊まりする被災者181人の主訴(図3)は、肩部78人、腰部35人、下肢23人、頸部20人、上肢13人、背部6人、その他6人(眼精疲労、胃炎、倦怠感など)であった。

     避難所生活ではエコノミークラス症候群2)の注意が必要であり下肢や腰部の主訴が多いと思われたが、肩の張りや凝りを訴える方が腰部の倍以上であった。

     また、指圧診療後の問診により手足や体が温まり3)凝りが取れたと、主訴の改善が確認できた。

    図3.避難所に寝泊まりする被災者181人の主訴

    図3.避難所に寝泊まりする被災者181人の主訴

    IV.結論

     避難所生活の初期段階では、エコノミークラス症候群を意識した指圧と共に指圧救護によるコミュニケーションが大切である。また、長期化するほど精神的な影響が身体へ影響してくる為、継続的な指圧療法が必要である。

     指圧救護の効果としては、特にプライバシーの少ない避難所生活における不眠症に対して有効であったと指圧を受けた被災者から多くの報告を頂いた。

     避難所での指圧治療と主訴について分析した情報を共有し、避難所と同様に仮設住宅においても長期的な医療活動が必要であるといえる。

    V.参考文献

    1) 石塚 寛:指圧療法学, 国際医学出版, 東京, 2008
    2) 榛沢和彦 他:新潟中越地震災害医療報告-下肢静脈エコー診療結果,新潟医学会雑誌, 120; pp.14-20, 2006
    3) 蒲原秀明 他:末梢循環に及ぼす指圧刺激の効果,東洋療法学校協会学会誌(24); p.51-56, 2000


    【要旨】

    避難所での指圧救護と主訴
    月足 弘法, 中盛祐貴子, 菅原 伸人, 瀧本 光代

     東日本大震災後の平成23年5月11日(水)〜12日(木)の2日間を福島県あづま総合運動公園(福島市)の一次避難所(当日の避難者数633人)にて指圧救護を行い、合計181人に対し主訴の聴取および20分の指圧施術を行った。避難所に寝泊まりする181人の主訴は、肩78人、腰35人、下肢23人、首20人、上肢13人、背部6人、その他(眼精疲労、胃炎、倦怠感など)6人であった。避難所生活では腰や下肢の主訴が多いと思われたが、肩の張りや凝りを訴える方が腰の倍以上であった。また、指圧診療後の問診により、主訴が改善されたことを確認できた。

    キーワード:指圧、ボランティア、東日本大震災、エコノミー症候群



    ビーチフットボール競技における指圧認知度調査報告:石塚洋之

    石塚 洋之
    日本指圧専門学校教員

    Recognition of Shiatsu in the field of beach football: a survey report

    Hiroyuki Ishizuka

    Abstract : Anma (Japanese traditional massage), massage, and Shiatsu are becoming widespread also in the field of sports these days. Such therapies are getting familiarized among not only top athletes but also general sports-loving people, and it indicates the growing demands in this field for Anma, massage, and Shiatsu. Through my experiences as practicing Shiatsu in the field of sports, I had become to wonder if few athletes recognized advantageous effects of Shiatsu such as pre-exercise conditioning and performance improvement. Therefore, we conducted a survey regarding the recognition about effects of pre-exercise Shiatsu over two years (in 2008 and 2009) taking opportunities of extracurricular volunteering activities of Japan Shiatsu College in the field of sports, specifically beach football, over the last four years. As a result, the recognition about effects of pre-exercise Shiatsu was low, and most of athletes had no experiences of Shiatsu before exercises. The results suggested that the wide range of effects from Anma, massage, and Shiatsu treatments were not well known in the field of sports, and it is necessary for licensed practitioners of Anma, massage, and Shiatsu to widen their appeal in this field and to spread the awareness of such effects. The more active they are, the more needs for Anma, massage, and Shiatsu are expected in the field of sports.


    I.はじめに

     現在、スポーツの分野でも幅広くあん摩マッサージ指圧が浸透しつつある。またそれはトップアスリートだけでなくスポーツ愛好家と呼ばれる、スポーツを楽しむ人々にとっても同じであると言える。しかし、私がスポーツの領域で指圧活動を行う中で感じたことは運動後の疲労回復としての効果のみが広く認識されているが、運動前のコンディショニングやパフォーマンス向上の効果を認識している競技者は少ないのではないか?という疑問を抱いたことである。私たちあん摩マッサージ指圧師は施術による疼痛の緩和・関節可動域の増大などの効果を経験的に知ってはいるが、その効果を競技者たちは知らないために、あん摩マッサージ指圧は運動後に受けるものと認識しているのではないかと考えられる。競技者によっては施術を運動前に受けると動けなくなると認識していて施術を受けようとしない者もいる。これにはスポーツ領域でのマッサージ行為に有資格者だけでない者の存在も多い。などの様々な課題があるが、先ずは競技者たちに対する正しいあん摩マッサージ指圧の効果の認識を広めていくというのも我々有資格者に求められる課題ではないかと強く感じる。

     そこで私は今回、日本指圧専門学校のスポーツ領域における課外ボランティア活動でビーチフットボール競技での過去4年間のうち平成20年と平成21年時の2年に渡り運動前の指圧効果認識調査を行ってきたのでその調査結果の報告を行う。

    II.方法

    1. 対象:

     IBFA(国際ビーチフットボール協会)主催。ビーチフットボールJAPAN TOUR全国大会出場選手のうち過去に指圧・マッサージを受けた経験のある者を対象とした。

    2. アンケート調査日:

     平成20年7月21日、平成21年7月25日 2年分計2回

    3. 調査方法:

     会場でボランティア指圧を行い、指圧を受けてもらった選手にアンケートを記入していただいた。

    4. アンケート調査の目的:

     「運動前の指圧・マッサージ効果」の認識度を把握する目的で行った。

    5.アンケート内容

    図1. アンケート内容(平成20年、平成21年)

    図1. アンケート内容(平成20年、平成21年)

     平成21年の活動では平成20年の成果があり、平成20年の活動時の指圧を受けた者の数値と混じることを防ぐため、平成20年度指圧を受けたものを除外したなかで運動前の指圧・マッサージ経験の有無を調査できるようにアンケート内容を改良した。

    III.結果

    1. 平成20年の結果は指圧経験者の内88%の者が「運動前の指圧・マッサージ効果」の認識がなかった。

    2. 平成21年の本大会以外での指圧経験者の内76%の者が「運動前の指圧・マッサージ効果」の認識がなかった。

    図2. アンケート集計表

    図2. アンケート集計表

    IV.現状分析

     このアンケートからスポーツ領域(ビーチフットボール競技)において、今までに指圧を受けた経験はあるが運動前に指圧を受けた経験はないという者が多いという結果がでた。私たち指圧師自身は指圧が関節可動域の増大や筋柔軟性向上に効果があることを経験的に認識している。そのためスポーツ分野にも有効であるということを認識してはいるが、競技者たちにはその認識がないということである。

    V.結論

     アンケート集計結果から疲労回復としての効果以外の運動前の指圧・マッサージ効果を競技者に認識させることは需要の増大とともに競技による障害予防やパフォーマンス向上にもつながると考えられる。ひいては競技者の安全と健康を守り、競技人生の延長、生涯スポーツの援助にもつながると考えられる。


    【要旨】

    ビーチフットボール競技における指圧認知度調査報告
    石塚 洋之

     現在、スポーツの分野でも幅広くあん摩マッサージ指圧が浸透しつつある。またそれはトップアスリートだけでなくスポーツ愛好家と呼ばれる、スポーツを楽しむ人々にとっても同じであり、このことはスポーツ界においても、あん摩マッサージ指圧の需要が高まっていると言える。しかし、私がスポーツの領域で指圧活動を行う中で感じたことは運動後の疲労回復としての効果のみが広く認識されているが、運動前のコンディショニングやパフォーマンス向上の効果を認識している競技者は少ないのではないか?という疑問を抱いた。

     そこで今回、日本指圧専門学校のスポーツ領域における課外ボランティア活動でビーチフットボール競技での過去4年間のうち平成20年と平成21年時の2年に渡り運動前の指圧効果認識調査を行った。結果、運動前の指圧効果の認識は低く、多くの競技者が運動前に指圧を受けた経験が無いという結果がでた。このことは、スポーツ界にあん摩マッサージ指圧の幅広い効果の認識がまだ不足していることが示唆され、今後もスポーツ界に資格を有したあん摩マッサージ指圧師が活躍し、その効果を広めていく必要性がある。これにより今後ますますスポーツ界における、あん摩マッサージ指圧の需要増大も期待される。

    キーワード:ビーチフットボール、ビーチラグビー、指圧トレーナー、運動前指圧、スポーツ指圧、コンディショニング指圧、パフォーマンス向上指圧



    東京夢舞いマラソン 指圧ボランティアアンケート報告:衛藤友親

    World Smile Project
    衛藤 友親
    明治大学体力トレーナー
    宮下 雅俊
    てのひら指圧治療院院長
    石塚 洋之
    日本指圧専門学校教員
    満留 伸行
    指圧マッサージ指愈院長

    Survey by questionnaire about volunteer Shiatsu at Tokyo Yumemai Marathon
    : a survey report

    Tomochika Etou, Masatoshi Miyashita, Hiroyuki Ishizuka, Nobuyuki Mitsudome

    Abstract : We conducted a survey in the form of a questionnaire inquiring degree of pain before and after Shiatsu treatment using VAS (Visual Analogue Scale), which was 100 mm (= 100 points) in length. The questionnaire was A4 size, double-sided printing, and answered at the Kagurazaka Station of 12th Tokyo Yumemai Marathon (at the point of 33.892 km). The respondents were also asked to mark up fatigued and/or painful areas on illustrations of the questionnaire. As a result, about the degree of fatigue or pain described in VAS, 133 answered “decreased”, three answered “increased”, and two answered “remain the same” out of the 138 respondents. The average VAS score of the cases “decreased” was 38 points and “increased” was 28 points. Regarding the fatigued and/or painful areas, the top answer was the posterior region of left lower leg, and the second was the posterior region of right lower leg.


    I.はじめに

     手軽に実行できるスポーツとして、また近年は観光名所をコースに設定した大会が催されるなど、ジョギング及びマラソンの人気には根強いものがある。競技人口が増加する一方、競技参加に伴う身体ダメージのケア及び市民ランナーの競技力向上のための指圧効果の科学的研究はほとんどなされていない現状がある。

     この事実から我々は、市民マラソン大会における参加ランナーの身体ダメージの状況調査と指圧治療の有効性検証を試みた。以下に結果と考察を記す。

    II.対象および方法

    1.日時

     2011年10月8日(日)

    2.場所及び対象

     第12回東京夢舞いマラソン参加者中、神楽坂エイドステーション(スタートから33.892km地点)にて指圧を受け且つアンケートに回答した一般成人138名(男性75名、女性55名、不明8名)。

    3.方法

     A4版両面印刷のアンケート用紙(図1,2)を用い、施術前と施術後の疲労および痛みの度合いを100mm(=100ポイント)の長さのVAS(visual analogue scale)にて、また、疲労を感じる部位並び痛みを感じる部位を、身体イラストに丸印を記入する形で回答していただいた。

    アンケート用紙

    図1. 施術前アンケート用紙

    図1. 施術前アンケート用紙

    図2. 施術後アンケート用紙

    図2. 施術後アンケート用紙

    III.結果

     VASにて疲労および痛みの度合いが減少したのは138名中133名(96%)、増加したのは3名(2%)、変化がなかったのは2名(2%)であった。

     疲労および痛みの度合いが減少した例の平均ポイントは38ポイント、増加した例の平均ポイントは28ポイントであった。

     疲労および痛む部位でもっとも多かった回答は下腿後側左、次いで下腿後側右であった。尚、部位の回答は複数回答可能なため総計571個所あった。

    表1. 部位別主訴件数の左右差

    表1. 部位別主訴件数の左右差

    IV.考察

     今回の結果で特徴的なのは、疲労および痛む部位が左側に多いと言うことであるが、左側主訴が多い部位は右側主訴でも他所と比して多い傾向にあるので、今後の精査課題としたい。

     現段階での因果関係は不明であるが、マラソンに限らず肉体労働等の負荷を一定時間身体にかけ続けた場合に今回の結果と同様に左側に疲労や痛みが多いと仮定した場合、浪越式基本指圧の施術順序と何らかの因果関係が見出されるのではないかと推測される。

     また、東京マラソン参加者のなかで自転車救護チームによって応急処置を受けたランナー約310名の64.7%が足の筋肉・関節の痛みを主訴としている1)ことと今回の結果を合わせて考えた時、スポーツ場面における指圧治療普及の有効性・可能性が示されていると考える。

    V.おわりに

     今後も可能な限り調査を継続し治療効果の解明に寄与したい。

     またその結果を元に、マラソンをはじめとするスポーツ愛好家に親しまれる指圧の推進普及に努めたい。

    VI.参考文献

    1) 伊藤静夫:マラソンにおける水分補給の重要性, 指導者のためのスポーツジャーナル,二〇一二年春号, p.44, 公益財団法人 日本体育協会, 東京, 2012


    【要旨】

    東京夢舞いマラソン指圧ボランティアアンケート報告
    衛藤 友親, 宮下 雅俊, 石塚 洋之, 満留 伸行

     第12回東京夢舞いマラソン神楽坂ステーション(33.892km地点)にてA4版両面印刷のアンケート用紙を用い、施術前と施術後の疲労および痛みの度合いを100mm(=100ポイント)の長さのVAS(visual analogue scale)にて回答いただいた。また疲労および痛みの部位をイラストに記入する形式で回答いただいた。その結果、VASにて疲労および痛みの度合いが減少したのは138名中133名、増加したのは3名、変化がなかったのは2名であった。疲労および痛みの度合いが減少した例の平均ポイントは38ポイント、増加した例の平均ポイントは28であった。疲労および痛む部位でもっとも多かった回答は下腿後側左、次いで下腿後側右であった。

    キーワード:疲労軽減、下腿後側、左右差、スポーツ指圧